GUNDAM EXSEED_B_3

Last-modified: 2015-04-17 (金) 14:36:25

「ところで、ハルドさん。この船は、どこに向かっているんですか?」
体力が回復したセインがハルドに聞いた。するとハルドは何をいまさらと言った表情を浮かべ、こう言った。
「クランマイヤー王国だよ」
アッシュ、セイン、ミシィ、三人ともそんな国の名前は聞いたことが無かった。
「行けば分かる。最高に良いところさ」
ハルドはそれだけしか言わなかったし、コナーズも同じような答えしか寄越さなかった。
そして、しばらくの時が経ち、ハルドが皆に言った。
「ほら、見えてきたぞ。あれがクランマイヤー王国のコロニーだ」
そう言って指さされたのは旧式の筒形コロニーが4つ固まってある光景だった。
ハルド達の船は何事もなく、コロニーに入港した。そこでハルドとコナーズ以外の3人は不思議な状況に出くわした。宇宙港が混んでいないのだ。普通、宇宙港というのは宇宙船の行き来とそれに乗る人で混むものだが、このコロニーにはそれがなかった。
「田舎だからな」
ハルドはそう言って、済まし三人を宇宙港の外へ連れ出した。そして三人がもっと驚き、新鮮に感じたのは、コロニーの中だった。
「すごいな」
「うわぁ」
「これは、また」
3者とも言葉は別だが、驚嘆は一緒だった。
宇宙港を出た先、そこにあったのは中世ヨーロッパの農村を思わせる風景だった。
緑一面の草原に家畜が放牧され、レンガ造りの家や建築物が並び、畑や、果樹のなる木、そして森が見える。近代的な建築物等どこにも存在しなかった。ただ一つ、特異的なのは、ここがコロニーの中であり、それも筒形であるため、それらの光景が真上にも見えることだった。
「すごい、お伽噺の世界みたい」
ミシィがそう言うと、ハルドが同意した。
「確かにそうだな。実際に中世ヨーロッパを再現すると暗い部分も出てくるから、かなりファンタジー寄りに調整された農村て感じだ」
ハルドはそう言うと、乗り物を用意してきた。それを見て、3人は再び驚愕する。なんとハルドが引いてきたのは馬車であった。
「コナーズは船でもいいか?」
「大丈夫です、大将。どうぞ、ごゆっくり」
ハルドは馬車の御者の席に普通に座る。
「ここでは、車とかはイマイチでな、馬車とかの方が移動しやすい」
そう言うと、ハルドは3人を馬車の荷台に乗るように促した。
「じゃあ、行くぞ」
そう言って、ハルドは馬を走らせた。のんびりとした速度だった。アッシュ、セイン、ミシィは荷台に乗せられ、訳も分からず周囲を見回していた。周囲に人は確かにいて、のんびりと農作業をしている。
「グレンさん。お友達かい?」
途中、そんな風に呼びかけられることも多々あったし、驚いたのは呼び止められて林檎を渡されたことだった。
「アッシュがあまりにみすぼらしいからだそうだ」
ハルドはアッシュをからかいながら、皮ごと林檎にかぶりつく。他の3人はそんな食べ方をしたことは無かったが、ハルドの真似をして同じように食べてみた。

 
 

「あ、美味しい」
ミシィが口に出して言った。アッシュとセインの二人も同じ感想だった。甘くみずみずしい。それに皮も硬すぎることはなく、嫌な食感を残さない。
「林檎はクランマイヤーの特産だからな、この質のは他のコロニーじゃ食えねぇよ。ましてや環境汚染が悪化した地球じゃなおさらだ」
ハルドは、そう言いながら、慣れた様子で馬車を御していた。
すると、次はオレンジを栽培する農家が、呼び止め、4個のオレンジをくれた。流石に馬車を御しながら、オレンジは食えないということで、ハルドはオレンジをセインに預けた。
貰ったオレンジは柑橘系の果物らしく爽やかな風味だった。酸味はあるが強すぎず、ちゃんと甘味もある。
「僕……オレはオレンジの方が好きかな」
セインが言った。
「いい加減、カッコつけてオレとかいうの止めなよ、恥ずかしいよ」
ミシィがセインの一人称について指摘した。
「言ってやるなよ、女の子。男の子はカッコをつけたくなる時期があるんだ」
御者台からハルドが言う。続くのはアッシュだった。
「セイン君。僕と言うのも悪くはないぞ。実際、僕はそのままだ」
言われてセインは顔を赤くする。それは林檎の皮のような色だった。
「言われて恥ずかしくなるうちはまだガキってことだ……おっと」
御者台のハルドが笑いながら言っていたが、その途中で急に馬車を停めた。
目の前をトラクターが横切って行く。トラクターの運転手の男性は
「ごめんよ」
というと、トラクターを運転し、去って行った。
「機械が無いわけじゃないんだな」
「そりゃあ、そうさ。今を何年だと思っている」
ハルドは皮肉のつもりでいったが、アッシュには効果が無い。
「スマンが、年月が分かる生活をしていなかったんで何年かわからん」
C.E.152だよ。とハルドは言うと再び、馬車を走らせた。
「まぁ、みんな好きで不便な生活をしているような感じがこのコロニー、というか国にはあるな」
御者台のハルドは説明する。
「実際、外見だけで中身は普通に近代化されてるさ。家の中にはテレビが当然あるよ」
そう言うと、ミシィは少し残念そうな表情を浮かべて言った。
「それって、ちょっと失望です。みんな古い生活をしていると思ったのに」
「そりゃ、外の意見だぜ。みんな便利な生活がしたいの。でも、このコロニーがこの雰囲気を保っているってことは、みんな何だかんだで、こういう雰囲気が好きなんだよ。それで許してやれ」
雰囲気だけじゃ……というような表情をミシィは浮かべるがそれ以上は何も言わなかった。
「普通の車とかで走っちゃダメなんですか?」
何となくセインは気になって、ハルドに聞いてみた。
「別に駄目じゃねぇよ。だけど、農道だし、トラクターや馬車が走ってるんだぜ。普通の車じゃ、逆に遅くなるよ」
そういうものかとセインが納得したところで、道が若干、変わってきた。土の道から石畳の道へという変化だった。
「そろそろ、このコロニーで一番偉い人に会えるぜ」
ハルドが、急にそんなことを言いだしたので3人は居住まいを正す羽目になったのだが、それはすぐに、空振りに終わった。

 
 

「ありゃ」
ハルドが間の抜けた声をあげた直後だった。
「アニキー!おかえりー!」
小さな子供の声がした。
3人は声がした方を見ると、中東系の顔立ちをした10歳に満たないような男の子がハルドに飛びつき、抱き付いていたのだ。
「おう、ヴィクトリオ、ただいま」
ハルドはそう言うと男の子を抱きしめ返した。そして少年に聞く。
「姫は?」
「リンゴ園の方で収穫」
そう言うとハルドは、ヴィクトリオと言う男の子の額を突く。
「お前は、なにやってんだ?」
ハルドが尋ねると男の子はえへへと笑いながら、
「サボり」
そう答えたのだった。

 

ハルドはヴィクトリオを隣に座らせ、再び、馬車を走らせる。
「その子どもは?」
アッシュが尋ねると、ハルドは別段気にする様子もなく答える。
「ヴィクトリオ。3年くらい前に戦場で拾った。メシと寝床をやったら懐いてついてきたんで、それ以降の付き合いだ」
ヴィクトリオという男の子は人懐っこい様子で、アッシュたちにも笑いかけてくる。
「リンゴ園って、他に誰かついてんのか?」
ハルドはヴィクトリオに尋ねる。
「うん。大臣とメイが一緒」
じゃあ、屋敷が空じゃねぇか……ハルドの僅かなボヤキがアッシュの耳に届いたが、アッシュは無視してやることにした。
石畳の道は土の道に変わった。少し文明から離れたようにセインは感じていた。
「セイン見て、リンゴがなってる!」
ミシィは特に気にするような様子もなく上を見上げながらはしゃいでいた。
だが、かくいうセインもリンゴがなっている所を、直接見るのは初めてなので少し気持ちが高ぶった。
「こんどこそ、一番偉い人との謁見だ。少しは恰好を気にしろ」
ハルドはそう言うが、なんというかアッシュたち3人は、そんな気も無くなっていた。このコロニーの、のんびりした雰囲気にやられてしまったのだ。
そんな3人を見てもハルドは気にする様子もなく苦笑するだけで、
「まぁそれでいいさ」
というだけだった。
やがて、ハルドは何かを見つけたようで、馬車を停め。3人に降りるように言う。
「ほら、偉い人だ。ちゃんとしろ」
ハルドはそう言ったが、偉い人らしき人物の姿を3人は見つけられなかった。
3人が見つけたのは、髭の生えた執事のような老人と気難しい顔をしたメイドのような女性と、小さな女の子である。
「だれが偉い人?」
思わずミシィは聞いてしまった。
セインも聞きはしなかったが、そう思うばかりであった。
そしてアッシュに関しては、馬車に揺られ過ぎて体力を失っており、倒れる寸前だった。
3人がそれぞれの理由で困っていると、そこは流石に偉い人物だった。下々の苦しみを察し、自ら前へ出、そして名乗った。
「クランマイヤー王国、王女のアリッサ・クランマイヤーです」
そう名乗ったのは小さな女の子であった。

 
 

セインは王侯貴族というものに会うのは初めてであり、非常に緊張していた。そして、どう会話すれば良いのか分からなかった。
「普通にしてろセイン」
隣に座るハルドが言った。御者台には執事風の老人が座っており、馬車の運転に関して、ハルドはお役御免だった。
「いや、でもハルドさん……」
そう言った直後だった。セインの目の前に急にリンゴが現れた。当然、急にリンゴが現れるわけがない。目の前に座る姫が自分にリンゴを差し出したのだとセインにも分かった。
「いただきます」
セインはそう言うしかなかった。
そして、リンゴにかぶりつく。その味は――
「美味しいです」
美味だった。途中の農家で貰った物よりもさらにだ。おそらく、好みの差があるかもしれないとセインは思ったが、セインはこのリンゴの方が好きだった。
蜜が詰まりすぎて無くてあっさりとしているが、確かな甘さがある。そして皮が柔らかくかぶりつきやすい。きっと、甘味の強さやみずみずしさを好むなら最初にもらったリンゴの方が好きかもしれないが、自分はこのリンゴの方が好きだとセインは感じていた。
「すごく好きです」
思わず姫の方を見て言ってしまった。
「おまえなぁ」
「ロリコン」
隣に座るハルドとミシィはともに呆れた様子でセインを見ていた。ハルドに至ってはかなり細かいことを言いだし始める始末だった
「一応、これって下賜ってことになるんだから、お前……まぁ、いいや」
と言いだしては、勝手に諦める始末であった。
当の姫に関してはというと、笑顔で
「ありがとうございます」
とセインに言った。小さな女の子らしい可愛い笑顔だと思った。その瞬間だった。
ミシィに足を踏まれ、「ロリコン」と言われたのは。
そうこうしているうちに、馬車は再び、石畳の道に来ていた。そして、すぐに停車する。
「どうぞ、お降りください」
執事風の男性がそう言うと、ハルドは
「すいませんね」
と、丁寧に礼を言った。良く分からないがセインも真似をしてお礼を言っておりた。
ハルドは、その様子を見ていたらしく、「それで正解だぜ、セイン」と言った。
セインは良く分からなかったが、改めて周囲を見てみると、目の前にはそれなりに大きな屋敷があった。
とてもじゃないが、宮廷とは呼べないが大きなサイズの屋敷である。先頭を姫に、屋敷に入って行くのを見ると、セインは何となく察した。
「クランマイヤー城?」
そう呟くと、隣にいたハルドがバツの悪そうな表情で言いなおす。
「さすがに、城とは呼べないんで、色々呼び方は察してくれ」
「クランマイヤー邸?」
そう言うと、ハルドは何も言わず、姫の後を追って屋敷の中に入って行った。
「セイン!手伝って、アッシュさんが動けない!」
ミシィの声が聞こえて、そちらの方を見ると、アッシュさんがぐったりしていたので、セインはミシィと一緒にアッシュを抱えて、屋敷の中に入るのだった。

 
 

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