LOWE IF_12_第02話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 23:12:45

      オーブ飛行艇内
 
 
 「カガリ。」
 いきなりのアスランからの呼びかけに、カガリは驚いた。
 なんせ、数日前に話したっきりだったのだ。
 引渡しの手続きが、上手く進まないので、数日かかっているのだ。
 「な、なんだ?」
 「俺は…、どうすればいいんだろうか?」
 「ど、どうするって?」
 「俺は、何か重大な過ちを犯してしまったらしい。
  それを…、どうすればいいんだろうか?」
 「え、えーと。…まあ清算するしかないんじゃないか?
  勇気をもって、さ。」
 「ゆう…き…?」
 「ああ、なにかを直すためには、自分を捨てる勇気が必要だからさ。」
 おもいつきで言ったので、アスランが上手く理解してくれる事を、
 カガリは祈った。
 「………例えば?」
 上手く理解してくれなかった。
 「迎えが到着した。」
 キサカが部屋に入って来た。 どうやらとりあえずは、凌げたらしい。
 「うん。アスラン。ほら、迎えだ。
  ザフトの軍人では、オーブには連れて行けないんだ。」
 アスランは立ち上がるが、ふらついて壁に手をついた。
 「お前、大丈夫か?」
 カガリが、アスランを支えた。
 「やっぱり…変な奴だな。ありがと、って言うのかな。よく解らないが…。」
 「…ちょっと待て。ハウメアの護り石だ。お前は危なっかしい。護ってもらえ。」
 カガリは、自分の首にかけていたネックレスを、アスランの首にかけた。
 「キラを殺したのにか。」
 友を殺した自分に、護ってもらう価値があるとは、アスランには思えなかった。
 「…もう、誰にも死んで欲しくない。」
 「………」

 「キシャマァ!どの面下げて帰って来た!」
 イザークが、帰ってきて早々罵声をあびせる。
 「ストライクは討ったぞ。」
 「ふっ。」

              アラスカ――JOSH-A
 
 
 「では是にて、当査問会は終了する。 長時間の質疑応答、御苦労だったな。
  アークエンジェルの次の任務は追って通達する。
  ムウ・ラ・フラガ少佐、ナタル・バジルール中尉、フレイ・アルスター二等兵以外の
  乗員は、これまで通り艦にて待機を命ずる。この3名には、転属命令が出ている。
  明0800。人事局へ出頭するように。以上だ。」
 「あの…アルスター二等兵も転属と言うのは?」
 「彼女の志願の時の言葉、聞いたのは君だろ? アルスター家の娘でもある彼女の言葉は、
  多くの人々の胸を打つだろう。 その、志願動機と共にな。」
 「うぅ。」
 「彼女の活躍の場は、前線でなくて良いのだよ。」
 こうして査問会は終了し、サザーランド大佐は艦を降りていった。
 
 今サザーランドは、墓の前にいた。
 墓に刻まれたその名は、デュエイン・ハルバートン中将。
 地球軍第八艦隊元司令官である。
 サザーランドは、眼を瞑り、手を合わせた。
 ハルバートンと、サザーランドの出会いは、今から数十年前の事だ。
 サザーランドがまだ一桁の年齢の頃に、彼は、コーディネイターからのいじめを受けた。
 罵声、蹴る、殴る。
 相手は一人であったが、年上のコーディネイターであったので、彼は一切抵抗できなかった。
 そんな時にたまたま通りすがり、サザーランドを助けてくれたのが、
 当時十代のハルバートンであった。
 ほぼ同年代のコーディネイターに、ハルバートンは喧嘩で勝った。
 それで、その日からハルバートンは、彼のヒーローとなったのだ。

 それからサザーランドは、ハルバートンの通ってきた道を通り、大西洋連合軍に入った。
 ブルーコスモスには、サザーランドが少佐の時に入った。
 サザーランドはハルバートンに入会を勧めたが、彼は入らなかった。
 しかし軍本部では、反コーディネイター思想が広まっていくので、ハルバートンは
 だんだん本部からないがしろにされていく。
 そんな時に、理事国とプラントのいざこざが大きくなり、戦争となった。
 どんなにコーディネイターが強かろうと、地球軍の数の前にプラントはひとたまりもない、と
 皆が思った。
 しかしその予想は大きくはずれ、ザフトのMSの前に地球軍は敗れていく。
 ハルバートンは、早急に我が方もMSを開発すべきと提言、
 オーブ等の力を借りたが、Xナンバーとその専用艦を完成させる。
 だがそれはザフトに襲撃され、Xナンバー五機の内、四機が強奪された。
 生き残ったアークエンジェルは、ハルバートン提督率いる第八艦隊の犠牲の末、地球に降りてきた。
 サザーランドは、ハルバートンが命を賭けて守ったその艦を助けたかったが、彼は
 アラスカ基地司令で、さらにストライクの戦闘データは回収されたため、本部から見たら
 アークエンジェルに価値はもうほとんど無かった。
 それでも、彼は今度艦隊司令に転属されるので、もし生き延びていたらアークエンジェルを
 艦隊に加えたいと思っていた。
 が、ストライクのパイロットが、コーディネイターとの事実。
 そして、丁度内通があったザフトの作戦とあわさって帰還してきたために、アークエンジェルは
 囮として、アラスカ守備隊に配属された。
 軍人としては、任務に私情をはさんではいけない。
 それによって、提督の死を無下にしてしまうのを、許してくれ。
 そう祈り、サザーランドは黙祷をやめ、その場から立ち去った。

                  オーブ
 
 
 「よう、気分はどうだい?ほら、飯だ。」
 キラは、目覚めて一日たったいまでも、バルトフェルドの厄介になっていた。
 トールを守れなかった事に、負い目を感じているためだ。
 友達を、仲間を守れなかった。 それは昨日、キラの心に大きな悲しみとして、表われた。
 こんな思いをしたくないから、キラは今まで戦い続けてきた。
 しかしその思いは、昔の親友によって最悪の形で裏切られる。
 アスラン(この時点では、まだ飛行船内に居る。)は、多分生きているだろう。
 そして自分も生きていて、守るべき人はまだいる。
 つまり、またこんな事が起きるやも知れないのだ。
 ――いっそ死んでいた方が良かった、それならばあの世にいるトールにも顔を向けられた。
 だがこれはなんだ?自分はアスランの戦友、―おそらくニコルという人―を殺し、
 トールを殺され、アスランとの仲も、もう取り戻せない程だろう。
 それでも自分は生きている。
 友達一人守れない自分が、どんな顔をして皆(この時点では、査問会以前で、アラスカに居る。)
 に会える?
 ―――自分はいったいどうすればいい?―――
 「悩めばいい。」
 その声は、バルトフェルドから発せられた。
 おそらく暗い顔をしてなにもしない自分を、気遣ってくれているのだろう。
 「どんな問題も悩んでこそ答えが出る。昔、教官がボクに言ってくれた言葉だ。
  その傷も、完治するのは時間がかかる。外には出れないけど、頭は使えるから、
  悩んでごらん。行き詰まったときは、相談に乗ろう。」
 そう言い、バルトフェルドはご飯を残し、部屋から出て行った。
 ドアの閉まる音がした後は、静寂が残り、キラは上半身を起き上がらせ、ご飯を食べた。
 「悩んでみろ、か………。」
 そう呟き、キラは思考を巡らせていった。
 バルトフェルドは、悩めと言った。
 自分はこれからどうするか? それを悩もう。
 ……きっとある答えに向けて。

                 カーペンタリア
 
 
 一人の男が、暗い部屋で唯一の光源であるパソコンを操作していた。
 パトリック・ザラが、OPスピットブレイクの準備をしている画像を、地球軍に送る。
 その男は、自嘲気味に笑い、銀色の仮面を着け、アスラン達を迎えるために、外に出た。

   
                   オーブ
 
 
 日が落ちて、キラは悩み続けていた。
 やはりなかなか考え付けない。
 …そういえば、何をするのにもポジティブにいけ、と昔誰かがいっていた。
 自分は、後ろ向きに考えすぎていたのかもしれない。 だから八方塞がりなのだろう。
 嫌な事ばかり考えるのは、もうやめだ。
 そうキラが思っていたところに、バルトフェルドが入ってきた。
 「どうだい?」
 「うーん、やっぱり迷いますよ。戦い続けるのか、それとも皆と軍から身を引くか…。」
 とりあえず、キラの中で大きなモノを占めているのは、皆と軍だ。
 多分自分は、戦死扱いだろうが、皆は違う。辞めるならばそこをどうするか、そして…。
 「まあ、見つけたまえ、キミ自身の答えを。」
 そう言ってまたバルトフェルドは、ご飯を置いて出て行った。
 「この血で汚れた自分は、もう戦いから抜け出せるのだろうか…。」
 そこが問題だった。
 地球軍で、少しでも早く戦争を終わらせる努力をするか、それとも逃げるか。
 なんだかキラの中では、答えが決まりきっている気がした。
 それでも、やはり決心がつかない。
 それに、この戦争が早く終わったからといって、また戦争が起きない訳では、無い。
 世界を変えなければいけないだろう。
 それがキラに出来るとは、到底思えなかった。
 
 
 
 ―世界は、常に変わり続ける。それを、希望ととるか、絶望と取るかは、人しだいである―

【前】【戻る】【次】