LOWE IF_12_第03話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 23:13:08

 SEED――Superior Evolutionary Element Distend‐factor――
        優秀な   進化の  要素 を膨らます 因子  
 それは、人類の次のステップとして提唱された能力。
 これは先天的な能力であり、コーディネイターとは対極に位置する存在である。
 実例が無いので詳細は不明だが、優れた適応能力を持ち、強力な生存本能と
 ある分野に関してに特化する才能を示す。
 つまり、コーディネイター以上の才能と、宇宙に対する適応能力を持つ、ということだ。
 先に実例が無い、と記したが、我々はこの能力を持つであろう少女を見つけた。
 彼女は、コーディネイターだが、幼いころから無重力に慣れ、遺伝子にあるはずがない、
 先天的なとてつもない歌唱力を持つ。
 これがSEED能力ではないならば、なんなのか。
 彼女もまた、コーディネイターとナチュラルの確執を、解決せねばならないと思っている。
 あなたも賛同してはくれまいか、アンドリュー・バルトフェルド。
 もし賛同してくれるならば、いますぐプラントに戻ってきて欲しい。
 我等ならばきっとこの争いを終わらせられるだろうから。
 
 バルトフェルドは、手紙を読みきり、丸めて投げ捨てる。
 後ろ向きに投げても、ゴミ箱に見事入った。
 自分が生きているのが、知られたらしい。
 だがそれは、妙な考えを持つ組織にだ。
 ―馬鹿馬鹿しい、そんな三文小説にも出てこないような御伽話を本気で信じているのか。
 差出人は不明だが、その字には見覚えがあった。
 彼の元副官、ダコスタだ。
 あいつこんな宗教みたいのに入っていたのか、あいつの髪が後退気味だったのも、
 この考えのせいか? 変な宗教だ、仏教と並ぶハゲ宗教の称号を与えるか。
 彼は、そう失礼な事を考えながら、キラの部屋に向かった。
 悩めと言ってから数日。 彼はかなり悩み、悶々としている。
 あんまり考えすぎて、ダコスタの様な若ハゲにならなければいいが。
 まあ彼の髪は強そうだから、あんなハゲ宗教にでも入らない限り大丈夫だろう。
 彼は、フッと笑いながら部屋に入っていった。

             数日前―――プラント
 
 
 「オルバーニの譲歩案など、今更そんなものを持ち出してどうしようと言うのです。
  スピットブレイクは既に可決されたのです。」
 プラントの最高評議会では、議長の席に就いたパトリックがシーゲルの言葉を降ろしていた。
 「私とて無論、これをこのままと言うつもりはない。だが戦えば、必ず犠牲は出る。
  回避できるものなら、その方が良いではないか。」
 「そんな事はここにいる全員が思っている。だからと言って、こんな愚にも付かぬ講和条件が
  飲めるものか!彼らは、勝った気でいるようではないか!」 
 オルバーニの譲歩案とは、戦争初期に地球連合が出した、とても譲歩とはよべないないものだった。
 「はじめから突っぱねてしまっていては、講話への道などない!」
 そう叫ぶのは、今では数少ないクライン派の最高議員の一人、アイリーン・カナーバだ。
 「この時期にこんなもの!下手な時間稼ぎですよ。」
 そう反論したのはパトリック・ザラに最も近い人物、ヘルマン・グールドだ。
 「オルバーニとて、理事国側全ての意向を纏め上げている訳ではなかろう?
  話し合うと言っても、それではな!」
 そう言うのは、イザークの母親、エザリア・ジュールである。
 「では、我々は今後言葉は全て切り捨て、銃のみを執っていくと言うのかね?
  そのようなものか我々は!」
 「クライン前議長殿、それは極端過ぎますし、お言葉が過ぎるでしょう。 
  我々は総意で動いているのです。個人の感情のままの発言はお控えいただきたい。」
 「…失礼した。」
 その言葉を少しパトリックは意外に思った。
 もう少し噛み付いてくるかと思っていたが、まあ、ここにいる議員に反感を持たせたく
 は無かったのだろう。
 派閥は違えど、長い付き合いのパトリックには、それが簡単に解った。
 そしてそのまま会議は進み、結局和平の意見は出なかった。

          プラントと同時系列―――カーペンタリア
 
 
 アスランは、ただただ外を眺めていた。
 外では、目前に迫った『オペレーション・スピットブレイク』の準備に追われている。
 しかし、その緑の瞳には何も映ってはいない。
 ノックの音がした、彼はドアの方を見やる。
 「クルーゼだ、入るぞ。」
 クルーゼが部屋に入ってきて、少ししてアスランは敬礼すべき事を思い出した。
 「はっ、隊長。」
 「そのままで良い。」
 クルーゼは、アスランの体の事を思い、それを制した。
 「…申し訳ありません。」
 ストライク一機を撃破するのに、ブリッツとニコルはやられ、バスターとディアッカの
 生死も不明、さらに自分はイージスを失ってこのザマだ。
 「いや、報告は聞いた。君はよくやってくれたよ。私こそ対応が遅れてすまなかったな。
  確かに犠牲も大きかったが、それもやむを得ん。それほどに強敵だったということだ、
  君の友人は。」
 アスランの体が、少し震えた。
 クルーゼは少し間をおき、続けた。
 「辛い戦いだったと思うが、ミゲル、ニコル、バルトフェルド隊、モラシム隊、
  他にも多くの兵が彼によって命を奪われたのだ。それを討った君の強さは、
  本国でも高く評価されているよ。君には、ネビュラ勲章が授与されるそうだ。」
 「え…」
 「私としては残念だが、本日付で国防委員会直属の、特務隊へ転属との通達も来ている。
  トップガンだな、アスラン。君は最新鋭機のパイロットとなる。
  その機体受領の為にも、即刻本国へ戻ってほしいそうだ。」
 つまりは、昇進、そして今自分は賞賛されていることに、アスランはやっと気付いた。
 友一人殺すのに大きな犠牲を払った自分が昇進、勲章―?
 「お父上が、評議会議長となられたのは、聞いたかね?」
 アスランの混乱も知らずクルーゼは続ける。
 「ザラ議長は、戦争の早期終結を切に願っておられる。本当に早く終わらせたいものだな、
  こんな戦争は。その為にも、君もまた力を尽くしてくれたまえ。」
 クルーゼはそう言い、部屋を出て行った。
 しかしアスランはそんな事にも気付かず、呆然と自分の手を見ていた。
 いや、顔を下に向けているだけでは、見ているとは呼べないだろう。
 たしかに友が殺し合う様な戦争は終わって欲しい。
 憎しみ合い、壊しあい、殺し合う、そんな戦争は。
 しかし終わってどうなる?
 憎しみは残り、戦火の傷は残り、命は戻らない。
 そしてまた戦争を始める。 終わりが無い。
 何故そんなことをする―?
 俺はどうしたら良い――?
 何故終わらない――――?
 ナゼ―――――――――?

 何故戦わなくてはならない?
 それは世界に戦争があるからだろう。
 ならばどうやって戦争を無くせばいい?
 …分からない。
 
 キラは考え続けていた。
 とりあえず当面は戦う事にしたが、その大儀がキラには無く、戦意を萎えさせていた。
 体はリハビリする程度には治ったので、大儀さえできれば今すぐにでもアラスカに行って、
 アークエンジェルに帰るのに。
 トールには、戦って少しでも犠牲を減らす事で、償うことにした。
 どう考えても、自分にはそれしか思いつかなかったから。
 「よう、いい答えは出そうかい?」
 バルトフェルドが部屋に入ってきた。
 リハビリのために、リビングまで行って食事をするので、最近はあまり来ない。
 「………。」
 キラの答えは沈黙。 やや場が気まずくなる。
 「まあ、あせる事はないよ。時間はたっぷりある。」
 バルトフェルドが部屋の片隅に置いてある機械を弄っている時、キラが話し掛けた。
 「バルトフェルドさん…。」
 「なんだい?相談にはのるよ。」
 「戦争って、どうやれば無くなると思いますか?」
 難しい質問だと思っていたので、少し待とうとキラは思ったが、
 「無理だね。」
 あっさりと否定された。
 「そんな…」
 「いいかい、キラ君。動物、いや生き物はなにかしら争っているんだ。
  生き物は、争うことによって成長するからね、本能に刻まれているんだ。
  この戦争が始まるまで百年間程、アフリカとイスラエルに小さな紛争があった以外は
  戦争が無かったのは、奇蹟に等しい。
  まあそのせいで地球軍の錬度が低くて、ここまで大きな戦争になっちゃた訳だけどね。
  戦争を無くすのは、人間が生き物を越すしかないんだよ。」
 「じゃあ………あきらめるしかないんですか。」
 キラがためらいがちに口を開く。
 バルトフェルドが言ったのは、かなり絶望的な事だったからだ。
 しかし…、
 「でもね、戦争を無くす事はできない、けど減らすことはできるよ。」
 「え…」
 「さっきも言ったけど、百年間も戦争が無かった事があったんだ、その期間を延ばす
  努力をすれば、ほとんど戦争は無くなるさ。」
 その考え方は無かった。 しかしそれも難しい事ではなかろうか。
 「百年でも奇蹟なのに、もっと延ばすなんて…」
 無理だろう。 その言葉は出なかった。
 バルトフェルドは一つ溜息をつき、また語りだす。
 「いいかい、奇蹟は起きるもんじゃない、起こすモンなんだ。
  一見偶然に見える出来事も、その前の下積みがあってこそ、さ。
  何もできないって言って、何もしなければ、もっと何も変わらないんだよ。」
 バルトフェルドの言葉は、キラの心の中のわかだまりを溶かした気がした。

 キラはがばっとベッドから起き上がり、バルトフェルドに晴れやかな顔を向けた。
 「バルトフェルドさん、いままでありがとうございました!」
 そう言い、ベッドから飛び出しドアに向かった。
 「おいおい、何処に行く気だね?」
 「アークエンジェルにです。」
 「そんなの無理…ん?」
 部屋の隅に置いてあった機械が、ピーピー鳴っている。
 バルトフェルドは、機械のディスプレイを見て唸った。
 「まさかここが…!?」
 
 
            アラスカ――JOSH-A
 
 
 「嫌よ!嫌です私!離して!うっ……艦長!なんで私だけ…。」
 移動命令に対し、フレイは激しく抵抗していた。
 今まで親しかった者と離れるのだ。 その気持ちはマリューにも解った。
 しかし、彼女のこれからの任務は、プロパガンダだろう。
 そう思うと、砲火に晒されるよりは幾分かましに思えた。
 「いい加減にしろ!これは本部からの命令だ。君は従わねばならない。」
 「そう言うことになってしまうわね。軍本部からの命令では…、
  私にはどうすることも出来ないの。ごめんなさい。異議があるのなら、
  一応人事局に申し立てをしてみることは出来るけど…」
 「取りあう訳ありません。では、艦長。」
 ナタルがマリューに敬礼し、マリューもそれに返す。
 「今までありがとう。バジルール中尉。」
 「………いえ。」
 さすがのナタルも少し弱い表情を垣間見せる。
 これまで何度も衝突してきた二人だが、いや、だからこそこの別れが悲しかった。
 二人は正反対故に、たびたび意見が衝突した。
 しかしそれは良い事だろう。
 軍人とて人間だ、足りない所もあるし、意見が違うこともある。
 だが、足りない所は補い合えばいいし、意見の違いはより洗練された考えを生むだろう。
 そういう意味ではこの二人は、よいパートナー同士だった。
 故にこの別れが惜しく、悲しい。
 「また、会えるといいわね…。戦場でないどこかで。」
 「終戦となれば、可能でしょう。」
 マリューは、軍人でない形で会う自分等を想像すると少し心が和らいだ。
 彼女は、軍務以外ではどんな事を話すのだろうか?
 「そうね。彼女をお願いね。」
 ナタルは、フレイを半分引きずる形で去って行った。
 「俺も、言うだけ言ってみっかな。人事局にさ。」
 次はムウだ。 彼にも移動命令が下されていた。
 「取りあう訳ないそうよ。」
 マリューはナタルの言葉を借り、ムウに返す。
 「しかし、何もこんな時に、カリフォルニアで教官やれはないでしょ。」
 「貴方が教えれば前線でのルーキーの損害率が下がるわ。」
 そう、なんといったってエンデュミオンの鷹なのだから。
 「ほら、遅れますわよ。」
 「あぁもう、くっそ!」
 ムウは、何かを言いたげに髪を掻きまわす。
 「今まで、ありがとうございました。」
 「…俺の方こそ、な。」
 そう言うとムウはハッチを出て行った。
 いろいろな言葉を飲み込んだまま―――。
 
 
 「アラスカ守備軍?」
 「アークエンジェルは宇宙艦だぜ?」
 アークエンジェルのアラスカ守備隊への転属命令を聞き、CIC要員がこぼす。
 普段ならこんな愚痴言わないのだが、やはりナタルが居なくなって緊張感が無くなった
 のだろうか。
 確かに、アークエンジェルは原子力発電のできるから、宇宙艦だろう。
 よく、完全に原子力発電が出来ないと思われるこの時代だが、広大な宇宙にはまだかなり
 ニュートロンジャマーの届かない範囲が存在する。
 戦闘中は、ザフト艦がNJを使うために核攻撃はできないが、それ以外の時は原子力発電に
 より、エネルギーの補給を行う。
 それによって、化石燃料を使い果たし、原子力発電の全くできない地球は持っている所がある。
 「それを受け、1400から貴艦への補給作業が行われる。以上だ。」
 どうやら命令はそれだけらしい。 意を決しマリューは尋ねた。
 「こちらには休暇、除隊を申請している者もおりますし、捕虜の扱いの件もまだ…」
 「こっちはもうパナマがカウントダウンのようで大変なんだよ。大佐には伝えておく。」
 そう言われては、マリューも何も言えない。
 伝令の将校は、そう言ってすぐに立ち去って行った。

 「状況は?」
 連合の高級将校が、サザーランドに尋ねる。
 「順調です。全て予定通りに始まり、予定通りに終わるでしょう。」
 
 
 
 「スピットブレイク、全軍の配置、完了しました。後はご命令いただくのみです。」
 クルーゼが上層部に伝える。
 
 
 
 「この作戦により、戦争が早期終結に向かわんことを切に願う。真の自由と、
  正義が示されんことを。オペレーション・スピットブレイク!開始せよ!」
 パトリックが叫ぶ。
 
 
 
 「スピットブレイク発動されました。目標はアラスカ、JOSH-A。」
 「ジョシュアだと!?」
 いろいろな艦でそのようなやりとりが行われる。
 
 
 
 「頭を潰した方が、戦いは早く終わるのでね。」
 クルーゼがにやりと笑みを浮かべる。
 
 
 オペレーション・スピットブレイク。それは、パナマへの攻撃とみせかけ、アラスカに
 総攻撃を仕掛けるというものだった。
 
 
 「まだパナマへ出る隊があるんでしょうか?君の搭乗艦は向こうだな。少佐はどちらですか?」
 グランド・ホローに着いたら、かなりの大所帯に驚いたナタルがフレイを誘導しつつ、ムウに尋ねる。
 「え?あー、俺はお嬢ちゃんと一緒だよ。」
 「そうですか、では頼みました。」
 「ここでお別れか、中尉も元気で。」
 そう言い、ムウはナタルと握手をし、潜水艦に向かう。

 潜水艦の列に並んでいる最中、ムウはずっと思い悩んでいた。
 マリューの事だ。
 最後に言い残した一言、それを言わずにいいのかと。
 ムウは意を決した。
 「ここ、並んで。自分の番が来たら、それを見せて乗るんだ。いいな。
  俺、ちょっと忘れもん。」
 「ええー!?」
 驚くフレイを尻目に、ムウは走り去っていった。
 

 アールエンジェルは、突然鳴ったアラートに混乱していた。
 「統合作戦室より入電。」
 モニターの上官に、マリューは尋ねる。
 「サザーランド大佐!これは!」
 「してやられたよ、奴等は直前で目標をこのジョシュアへと変えたのだ。
  守備軍は直ちに発進!迎撃を開始せよ!」
 そう言うと、モニターは黒くなる。
 「艦載機も無いのにどうやって」
 「これで戦えと言うのも酷な話だけど、本部をやらせるわけにはいかないわ。
  総員第一戦闘配備。アークエンジェルは防衛任務の為、発進します!」
 そう言うと、アークエンジェルの機関が唸りをあげ、大天使はゆっくりと動き出していく。

 ザフトの艦からディンが飛び出し、まず対空施設が潰されていく。
 それを見計らい、宇宙から降りてきた降下ポッドからジンが弾け出てくる。
 「よーし。この戦争を終わらしてやるぜ!」
 「ザフトのために!」
 ジンは次々に施設を破壊していく。
 揚陸されたバクゥが、ザウートが砲撃を加えていく。
 海からはグーンが、ゾノがどんどんと基地内に入り込んでいく。
 地球軍も反撃していくが、絶対的に戦力不足であった。
 そんな中、一機のディンがトーチカを潰し、滝の中に入り込んでいく。
 この奥に内部に続く通路があるのだ。
 「ふ、アズラエルの情報は確かなようだな。」
 ディンのパイロット、クルーゼはその通路を進んで行った。

 ムウはアークエンジェルに向かっていた。
 だがその最中に警報を聞き、さらに、
 「この感じ!?ラウ・ル・クルーゼか!」
 いままで何度も感じてきた、敵の気配を見つけた。
 その気配のする部屋に入ると、銀の仮面をした男を見つけた。
 生身では初めて会うが、ムウはその男をクルーゼだと確信した。
 ムウは銃を構える、するとクルーゼも銃を構える。
 「ほぉ…。久しぶりだな、ムウ・ラ・フラガ。せっかく会えたのに残念だが、
  今は貴様に付き合っている時間がなくてね。ここに居ると言うことは、
  貴様も地球軍では既に用済みか。堕ちたものだな、エンディミオンの鷹も。」
 そう言い、クルーゼは発砲する。
 ムウも撃ち返すが、クルーゼには当たらず、クルーゼはすぐさまドアから飛び出ていく。
 しかし警備の兵がいないのはどうゆうことだろうか?
 「奴め、端末を弄っていたようだが……。これは!」
 ムウは、そのデータを見るなり走りだした。
 ――間に合ってくれ、アークエンジェル!
 ――手遅れになるまえに!
 
 
 
 一方フレイは、独りの怖さから列を抜け、アークエンジェルに向かっていた。
 向かっているというよりも、迷走している様だが。
 「アークエンジェルは?どこなの?私…。」
 いつもなら誰かが助けてくれる、けど今は独り。
 どうしてこんな事に――?
 そう思うと、目の前から白服を着た、ザフトの男が歩いて来た。
 「キャアアア!」
 どうしてここにザフトが?と、考える余裕すら、無かった。
 「おやおや、これはこれは。」
 どうやらその男―クルーゼは、フレイが怯える姿を見て呆れた様だ。
 「あぁ!パパ?」
 その声にフレイは反応する、父親の声に眼を開けて前を見る。
 しかしそこには、手に銃を持つザフト兵しかいない。
 「ん?パパが近くに居るのかね?」
 「違っ…、声…、パパに…、似て…。」
 目の前にいる敵に、フレイは完全にパニックに陥っていた。
 「ほう………。」
 クルーゼは、フレイに当て身をくらわせ、気を失ったフレイを抱えて
 ディンに戻って行った。

 「まさかアラスカが攻められるとはな………。」
 バルトフェルドの見ている機械は、個人ジャンク屋ネットワークという物で、
 どこで戦闘が起こったか知らせてくれるのだ。
 「アラスカが………!?」
 それを聞いたキラは、真っ青になっている。
 それを見たバルトフェルドは、
 「アークエンジェルは、確かアラスカにいるはず、か………。」
 と、呟いた。そして、
 「キラ君!」
 呆けているキラを、大声で呼ぶ。
 「あ、はい?」
 「戦う覚悟はあるか?」
 「え?」
 アークエンジェルへの心配と、いきなりの問いかけに、キラは訳が分からなくなっていた。
 「今すぐ戦えるかってことだ。」
 その様子を見て、バルトフェルドは再度問い掛ける。
 「は、はい、ありますけど………。」
 そんな事を聞いて何を?キラは、疑問に思った。
 「戦うという事は、キミにとっては茨の道だ、これからますます戦いは激化し、
  仲間や敵の死を見なければならない。それでもか?」
 バルトフェルドの言葉に、キラは少し頭の中でいろいろな事が回った。
 また親友と戦い、コーディネイターと妬まれ、あの太平洋の事以上に………。
 でもキラは言う、自分の言葉で。
 「覚悟はある、僕は戦う。」
 そう。
 自分自身で考え、
 「どんなに辛くたって」
 自分自身で決めた、
 「僕は戦い抜く。」
 自分自身の答えだ。
 
 「わかった、付いて来い。」
 しばしキラの眼を見たバルトフェルドは、キラをモーターボートでとある島に連れていった。

 「ここは?」
 ここはオーブから離れた小さい島だ、その地下通路をキラ達は進んでいる。
 「着いたぞ。」
 バルトフェルドがハッチを開くと、そこには灰色のMSがあった。
 「ストライク…。」
 「そう、大破していたのを、キミのついでに拾ってきたんだ。」
 「でもっ、これだけじゃあアラスカには行けませんよ。」
 機動兵器が単体で赤道から真上の北極圏にいける訳がない。
 だがバルトフェルドには考えがあった。
 「いやー、実はここ、大昔のシャトル打ち上げ基地なんだ。どうやら何かの理由で
  放棄されていたらしくてね、機材もほとんど生きてている。」
 つまりシャトルでアラスカにまで行くらしい。
 「あとストライクの推進剤を取って、バッテリーにしておいたから。
  宇宙では使えなくなるが、活動時間がかなり延びている。」
 「ありがとうございます。じゃあ早速…」
 「ただGがかなりあるからね、体には気をつけろ。」
 「はい。」
 キラはストライクのコックピットに入り、計器を弄る。
 前と全く同じだ、ただバッテリーの最大値が延びていただけだ。
 『よーし打ち上げ準備だ。』
 どうやらシステムを弄くったのだろう、バルトフェルド一人でどんどん動いていく。
 ストライクにシャトルが取り付けられ、上のハッチが開く。
 『僕からのアドバイスだ、人生どうあっても辛いんだから、その分楽しんで生きろ。』
 「はい。」
 『よし、5秒前・4・3・2・1レディ・ゴー。』
 バルトフェルドの声と共に、爆音が鳴り響き、体に負担がかかっていく。
 そして煙を残し、シャトルは飛び立っていった。
 「俺の金全部使ったんだからな、どうゆう人生を送るか、俺を楽しませてくれよ。」
 そう言い残し、バルトフェルドは立ち去った。

           ―人生は辛い、だからこそ楽しい―

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