LOWE IF_58_第03話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 23:18:28

四人の赤服を目の前にしたキラは妖しい笑みを浮かべたまま彼らに近づいていく。そして、キラから一番近かったシンの前で歩みを止めた。

「初めまして、ザフト軍特務隊FAITH所属のキラ=ヤマトです。君がシン=アスカだね?君の活躍はよく耳にしてるよ、よろしくね」
「え……あ、こちらこそよろしくお願いします」

戸惑った表情のシンに対し、終始にこやかな顔でシンと話したキラは次にレイの所に向かった。

「久しぶりだね、レイ。まさか君と一緒に戦うことになるとはね……まぁ、君の実力はよく知ってるから期待してるよ」
「…………」

無言のまま手を差し出すレイ。その手を見て、キラは笑顔でレイの手を握った。そんなキラに対しレイは一瞬憎悪の篭った瞳で睨み、そして小さく口を開いた。レイの口の動きを見たキラは、レイに小さく微笑み返しただけだった。
レイとのやりとりを済ませたキラは、今度はルナマリアの前に立つ。

「は……初めまして!ザフト軍ミネルバ隊所属ルナマリア=ホークです!よ……」
「ハハハ、そんな緊張しなくてもいいのに。君は美人なのに赤服を着てるなんてすごいね」
「え、私が美人なんて……アハハハ」
「僕は本当に君は美人だと思うよ、ルナマリア……これからよろしくね」
「あ……はい、よろしくおねがいしま……す」

顔を赤らめるルナマリアに微笑み、その場を後にしたキラ。そして、ついに最後の一人の前に立った。

「キラ……お前、何故ここにいるんだ?」

キラが目の前に立ってすぐ、アスランは口を開いた。

「何故って、デュランダル議長の命を受けてこの艦に……」
「俺はそんな事を聞いてるんじゃない!お前がカガリをオーブから連れ出したんだろ?なのに、どうして……」
「あぁ、そういう意味か。アスラン、よく聞いてね……君は僕をどうやって殺そうとした?」

キラの突然の質問に対し、アスランは少々困惑気味だった。

「どうやってて、あの時俺は……」
「PSダウンを起こしたイージスで僕のストライクを鷲掴みにして自爆した、だよね」
「……あぁ」
「あの時の事、僕よく覚えていないんだけどさ……少なくても気がついた時は、身体中を押し潰されるような痛みと焼けるような熱さが襲ったんだ。僕あの時は……」
「やめてくれキラ!俺はそんな話……」
「聞きたくないだろうね。でも、最後まで聞いてもらうよ」
「やめろ、やめるんだキラ!大体今さら……」
「今さらって、何?……わかった。そんなに僕の話が聞きたくないんなら……見せてあげるよ、真実を」

キラの冷ややかな声に全員が一瞬震える。そしてその直後、キラは制服の上着を脱ぎだした。
「何やってんだよ、あんた?」
「シン、君も黙ってみてて……アスランは僕の話を聞きたくないみたいだから、こうするしかないんだ」
「おい、キラ!お前は何をやって……え、え?」

アスランは自分の目を疑った。上半身裸になったキラの身体は全身傷だらけで、所々縫い合わせた後が痛々しく残っていた。さらにキラの左腕から下は全て鉄で出来ていた。

「ここまで治るのに一年半はかかったんだよ。幸い、ヘルメットが丈夫だったおかげで顔に大きな傷が付く事はなかったけどさ……臓器移植したり、皮膚移植したり、義腕造ったり大変だったんだよ」
「そ……そんな……嘘だ!だってキラは!」
「ラクス=クラインに助けられ、その上フリーダムを受け渡され前大戦を終わらせるのに大きく貢献した、でしょ?……でも、それは本当に僕だったの?」
「何言ってんだ、お前……だってキラは……」

アスランは気が動転していた。そんなアスランを見て、キラは口元に笑みを作る。
(アスラン、君をこんなにいたぶるつもりはなかったんだけどね……楽しくなっちゃった)
キラはそんな事を考えながら、アスランにとどめをさしにかかった。

「君がイージスで殺したのが本物の僕だよ、アスラン……君と一緒に戦って戦争を止めた僕は僕じゃない。そいつはラクス=クラインが造った偽者なんだよ」

キラがアスランに言い放った言葉は、アスランに深い衝撃を与えていた。そしてその衝撃はアスランに混乱を生み出した。

「ラクスが造った?……キラを?」
「うん、僕も信じたくはないんだけど……オーブで見たんだ、ラクス=クラインと僕の偽者を」
「でも、そんなことは……」
「不可能ではないんだよ、アスラン。だって、ラウ=ル=クルーゼはアル=ダ=フラガのクローンなんだから」
「え……?」

アスランの顔から血の気が引いていく。それと同時にレイの瞳からは憎しみの炎が滾っていく。そんな二人の様子を見ながらも、キラは尚も淡々と話を続ける

「それにね、MSのような大型かつ繊細な兵器が作れる現代において僕そっくりのロボットが作れないこともないだろうし、もしかしたら整形をして僕そっくりの顔にしたのかもしれない。それに……」
「それに……?」
「アスラン……君には言ってなかったけど、僕は究極を目指して作られた存在なんだよ。一部の人間の間では、スーパーコーディネーターと呼ばれてるらしいけど」
「……何だって?」
「デュランダル議長の話によるとね、僕はいくつもあった試験体の内のたった一つの成功作なんだって……失敗作と呼ばれる人達でもその能力は非常に高いらしくて、もしかしたらラクス=クラインはその中の一人と接触したのかもしれない」

キラの話にアスラン、シン、ルナマリアは絶句した。しかし、ただ一人レイだけは眉一つ動かさずキラを睨み続けていた。そんな中、アスランが一瞬にして床に崩れていってしまった。

「アスラン!?」
「おい、しっかりしろよ!おい!」
「アスランしっかりして!シン、この艦の医者を!ルナマリア、レイ、君たちはアスランを運ぶの手伝って!」

アスランに呼びかけながら、必死の表情で三人に指示を出すキラ。そんなキラに応えようと、シンもルナマリアもいつのまにか必死になっていた。しかし、キラの必死の表情が作り物だということをレイだけが見抜いていた。

アスランは医務室に運ばれ、すぐに軍医に診察をしてもらった。診察してすぐ精神面の問題だと理解した軍医は、すぐにアスランを基地内にある病院へと搬送させた。
そして、ミネルバ艦内が一瞬の内に騒がしくなってから既に二時間は経っていた。キラは自分の個室になる部屋でベッドに寝転び、天井を見つめていた。

「脆かったな、アスラン……あんな簡単に壊れてもらっちゃ困るのに」

キラは言いながら右手で顔を覆い、クスクスと笑っていた。そして、頭の中に浮かぶイメージを膨らませる。

「……こんな上手くいくわけないか。でも、やってみる価値はあるよね」

ベッドから起き上がったキラは、部屋に備え付けられているデスクに置いてあるノートパソコンを開く。そして、物凄いスピードでキーボードを打ち込んでいく。
その時キラの部屋のドアがトントン、とノックされる。来客者がわかっているキラはすぐにドアを開けた。開いたドアの前に立っていたのはレイだった。

「遅かったね、レイ。入りなよ」
「…………」
「用があるって言ったのは君でしょ、どうしたの?」

にこやかな表情で話すキラに対し、レイの表情は終始強張っていた。瞳を閉じて顔を下に向けたレイは、瞳を開くと同時に銃口をキラに向ける。

「ギルにとってお前が必要な存在だと言うのはわかっている……だが俺はお前をここで殺す」
「……随分と大きくでたね。そんなに君がクルーゼの事を想ってるとは思わなかったよ」
「黙れ!」
「冗談だよ、冗談……まぁ、でも僕をここで殺すことは君にとってもデメリットだと思うけど?」

突然真剣な表情を見せるキラに、レイは一瞬竦んだ。

「実はデュランダルの話によるとね、ちょうど僕の偽者が現れる少し前に君の仲間が行方を晦ましてるらしいんだ」
「……本当なのか?」
「多分デュランダルは君には刺激の強すぎる話だろうと思って伏せてたんだろうね……まぁ、これも数ある可能性の内の一つだけど」
「しかし、ラクス=クラインに……」
「彼女を常識で図っちゃいけないよ、あれは……怪物だから」

キラの脳裏にある場面が浮かぶ。それはキラとラクスが初めて出会った日、初めてキラが人間を心から怖れた日だった。

――『貴方も私も神に選ばれた人間なのです』

そう言って僕の舌先に君は絡み付いて来る。息をする間も与えぬ程、長く激しく。

『選ばれた人間は神の意志を成し遂げなければなりませんわ』

そう言いながら、君は僕の身体を支配する。僕はただ耐えるだけ。

『やがて私の意志は全世界の意志になります、だから貴方は私の意志には逆らえません。それが貴方の運命なのです』

僕の上で乱れながら言う君。君は恍惚とした表情だったけど、その言葉は僕を呪った。

『もう引き返すことは出来ませんわ、貴方と私は繋がってしまったのですから』

僕の隣で無邪気に微笑む君。でも、僕には君が悪魔にしか見えなかった。――

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!……はぁ……はぁ……はぁ……夢、か」

目覚めた瞬間、まず両隣を素早く見る。今まで見ていた物が現実ではない事を確認すると、今度は全身に嫌な汗が拡がっている事に気づく。すぐに着ていた衣服を全て脱ぎ捨て、シャワーへと向かう。
冷たいシャワーにしばらく打たれて、キラは自分が段々と落ち着いてきてることがわかった。

「久しぶりに見たな……レイに喋りすぎたみたいだね、いつ以来だったろう」

最後にこの夢を見た日など覚えてもいないのに小さく呟く。鏡に映る自分の顔が酷く醜く見えた。

「僕は復讐するんだ……怖れるな」

鏡の前でそっと誓う、それと同時にキラの心には黒い波紋が広がった。

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