LOWE IF_vKFms9BQYk_第02話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 21:30:04

第2話

 キラは輸送機から飛び降り着地したデュエルを見つめた。
 キラの脳裏にデュエルがシャトルに向かってライフルのビームを放つ光景が浮かんだ。
 キラはその光景を思い出し、操縦桿をさらに強く握った。
 ダコスタから通信が入り模擬戦のルールが説明された。ダコスタの合図とともにデュエルがバクゥに向かって走り出した。そして拳をバクゥに向けて繰り出した。
 キラは操縦桿を操作し後方に下がりデュエルとの間合いを取った。
 拳を繰り出したデュエルは硬直していた。キラはその隙を狙いバクゥをデュエルに向かって進ませた。そしてバクゥはデュエルに突進した。
 デュエルはバクゥの突進をギリギリで交わした。避けられたと分かるとバクゥはすぐさま方向転換をしデュエルに向かって何度も突進をした。
「体が…もたない」
 とキラはコックピットの中で呟いた。キラの体はバクゥの急速旋回時に掛かるGの負荷に蝕われていた。
 体を酷使しながらもキラはバクゥを動かし、デュエルの周りを旋回し始めた。
 いきなりイザークが外部に向けて叫んだ。キラはその内容を聞きイザークが何をしたいのか理解した。キラの思惑通り、イザークはデュエルの頭部バルカンを使い、バクゥの足を止めにきたようだ。バクゥは一瞬だが動きを止めた。デュエルはその隙を使いパンチをしてき
た。キラはその事に気付き、その場から離れるように移動した。
 デュエルに何度か同じ攻撃すると見切ったように交わし始めた。必要最小限の動きでデュエルはバクゥの突進を交わし、拳を繰り出して始めた。
「先程との攻撃が違う!?」
 デュエルの動きが見違えるほど良くなった。キラはその動きに戸惑った。
 キラのバクゥはデュエルに追い詰められ始めた。キラの動きを冷静に読み突進を避けデュエルは攻撃を繰り出した。キラはバクゥを加速させデュエルの攻撃を避けた。
(今の状態なら相打ちに持っていけるが、それは負けと同じだ!)
キラ、イザークは二人そろって同じような気持ちになっていた。
二人の間で硬直時極力狙わないことが暗黙の了解になっているかのように攻撃をしない。
両方の攻撃は一向に当たる気配がない。限られた武器しかないのだから、至極当然のように
攻撃がパターン化しているようだ。だが確実に二機の反応速度等が上がっているようにダコスタは感じた。しかしバクゥの動きは速度が上がっていく度に他の何かが遅れ始めた。そして何も訓練をしていないコーディネータが耐えれるか分からない程のGが掛かっている時に、異変がおきた。バクゥがいきなり動くを停止したのだ。
コックピットにいるキラの口から血が滴り落ちた。操縦桿を握っているキラの手が震えているようだ。

 イザークはデュエルの拳がバクゥにあたる距離まで近づくと、そのままバクゥに向かって
拳を振り下ろした。しかしキラのバクゥは何も反応しなかった。コックピットでキラはGに
耐え切れずそのまま気絶してしまった。

 二人の戦いはあっけなく終わりを迎えた。

 キラが目を覚ますとそこは、ベットだった。カーテンで仕切っている様だ。
 キラはベットから降りると仕切ってあるカーテンを開けた。カーテンを開けると、イザー
クがいた。キラに気づくとすぐ側まで近寄ってきた。
「すまなかったな」
 イザークにいきなり謝られた。
 キラは目の前の少年がデュエルのパイロットと悟った。体中の血が煮えたぎり今にも殴りかかりそうな思いを、無理やりキラは押さえ込んだ。目の前の少年だって大事な人を戦争で
失っているかもしれないのに、その場の感情だけで行動しても意味がないとキラは思った。
「お前、体の調子が悪かったんだろう」
「はぁ…」
「しかも、ザフトの兵士ではないのだろう」
「オーブ出身です」
「その腕があったら赤服になれるのにな」
 キラの操縦の確かにザフトの赤服を着る事ができるぐらいの腕前だ。
「だが、問題点があるな…」
 イザークはキラに謝りに来たのに、キラとの先程の戦いの駄目だしへと話が変わっていっ
た。
 イザークとキラが話をしていると部屋にダコスタが入ってきた。
「親御さんがここまで迎えに来たようだ。今から案内する、後についてきてくれ」
 キラは言われた通りダコスタの後について行った。部屋から出るときイザークに呼び止め
られた。
「お前、ザフトに入る気はないのか?」
 わからないと首を左右に振る。
「もし入るなら、お前を俺の部下にしてやる」
 キラはその言葉を聞いて自然と笑みがこぼれた。キラはイザークの言葉に頷いた。
 そしてキラは部屋から出ると両親がいる所へと足を進めた。
「名前を聞き忘れた」
 イザークは駄目だしに集中していて、大事なことを聞いていなかったようだ。
 キラはダコスタの後について歩き始めた。
「あの…、ここは一体どこなんですか?」
 キラは最初にいた駐屯地と違う事に気が付いた。
「ここは、君のご両親のいるホテルだ。気絶した後、運んだんだよ。」
「どうしてホテルなんですか?」
「駐屯地に軍医に症状を見せたんだが、特に問題は無かったんでそのままホテルへ運ばせて
もらったよ」
「ご迷惑かけてすいません」
「こちらこそすまないと思っているよ。すべてこちらの不手際だからな」 
「あのどこに向かっているんですか?」
「レストランに向かっている所だよ」
「レストランに両親がいるんですか?」
 ダコスタは頷いた。
 レストランに入るとそこには懐かしい人物がいた。
「父さん、母さん」
 キラの両親だった。三人は抱擁をかわした。
「この後どうします?」
 三人の抱擁が終わるとダコスタが聞いてきた。
「オーブに戻ろうかと思います」
「それなら、空港までお送りいたします」
「いいのですか?」
「問題ありません」
 ダコスタの好意にキラの父親は甘えることにした。

 三人はダコスタの運転する車で空港まで送ってもらった。
「もしザフトに入るなら、これを」
 ダコスタは去り際、キラに封筒を手渡した。
「これは?」
「この中身は隊長の推薦文です」
 キラはお礼を言うと、ダコスタが視界から見えなくなるまで手を振り続けた。
 ダコスタが見えなくなるキラは中で待っている親の元へと向かった。
 三人はオーブへ向かう飛行機へと乗った。キラは今までの疲れがでたのか座るなりすぐさ
ま眠りに付いた。

 イザークはホテルから出ると駐屯地へと向かって歩き始めた。
 駐屯地に戻るとイザークは格納庫にいるディアッカの元に乗り込んだ。
 ディアッカはバスターのコックピットでなにやら作業をしていたようだ。
「ディアッカ、砂漠用の調整しているのか?」
「いつでも出撃できるようにな」
 バスターのコックピットからキーを叩く音がやんだ。
「イザーク」
「何だ?」
「お前が打ち込んだOSを参考にさせてくれ」
「分かったちょっと待っていろ」
 そういうとイザークはデュエルに向かい、プログラムを抽出しディアッカに渡した。
 ディアッカはイザークにお礼を言うとまた作業を始めた。
 ちょうどディアッカの作業が終わるころ一人の男が格納庫に入ってきた。
 二人はその男の所に近寄った。
「指揮官のアンドリュー・バルトフェルドだ」
 二人は背筋を伸ばし敬礼をした。
「そんなに硬くならなくていい。君達のことは報告書で聞いている。期待しているぞ」
「はい」
 二人は威勢良く返事をした。
「君達にも参加してもらうから、前回の戦闘を見るように」
 二人はある部屋に連れて行かれた。その部屋は暗く光が閉ざされていた。
 唐突に光が壁を照らす。映し出されたのはバルトフェルド隊とストライクとの戦闘の映像
だった。イザークとディアッカはその映像を見て驚きを表した。
「その戦闘をみての感想は?」
 いつのまにかいたバルトフェルドの声に二人は驚いた。
 バルトフェルドの横には女性が立っていた。
「バルトフェルド隊長」
「何だね」
 イザークがバルトフェルドに話しかけた。
「質問なんですが、短期間で操縦の巧さは格段と上達する事は可能なんでしょうか?」
「多少ならすると上達すると思うが、格段に上がるとなるとそれは何ともいえないな」
 バルトフェルドはイザークの質問の意図が分からなかった。
「あの子は何が言いたいのかしら?」
 バルトフェルドの横にいる女性がバルドフェルトに聞いた。
「宇宙で戦ったの時と確実にレベルが上がっています。あの時は1対1で戦っても何と
かなる状態でしたが、今は1対1で戦うのは死にに行くようなものです」
 イザークが悔しそうに言った。
「ならお前達は二人でストライクを潰しにかかれ。しかし無理はするなよ」
 バルトフェルドはイザークとディアッカを指差した。さらに言葉を続けた。
「明日、勝負を仕掛ける。準備を怠るな」
「はい」
バルトフェルドは二人の返事を聞くと満足そうに部屋から出て行った。

アークエンジェルに戻ったキラは様子がおかしかった。
「キラどうしたの?」
 ミリアリアはカガリに聞いた。キラは今自室に閉じこもっていた。
「ちょっとな…。それはそうとお前はあれからどうしたんだ?」
「知り合いに偶然会ったのよ。二人についていかなくてごめんなさい」
「いや、ついてこなくて正解だったな」
「何か言った?」
 カガリの声が小さくてミリアリアは巧く聞き取れなかった。
「何でもない…」
 ミリアリアはカガリに聞き返したがカガリは答えようとしなかった。
 二人が話をしていると、トールが食事にトレイを持って何処かに向かっているようだ。
 ミリアリアはトールを呼び止めた。
「サイに食事を持っていくんだよ」
 トールの言葉に、ミリアリア、カガリは疑問に思った。
「どうしてサイに食事を?」
 とミリアリアが聞くとトールは、サイが起こした事件の事を二人に聞かした。
 勝手にストライクを動かし、艦の全員を危険な目にあわせたので懲罰として部屋に閉じ込
められたのだ。
「トール…。サイの食事私が持っていくわ」
 ミリアリアの声には強い意志が感じられた。トールは何かを感じたのミリアリアに食事の
トレイを渡した。
「おい大丈夫なのか?ここは女より男が行くべきなんじゃないのか?」
 カガリが心配してミリアリアを見た。
「この状態になったらもう無理だよ。キラや君みたいにね」
 トールは苦笑を交えながらカガリを見た。カガリは何か思い当たる節があるのか何も返し
てこなかった。
「トール、サイはどこにいるの」
「部屋の前までついていくよ」
「ついてこないでね」
 とミリアリアはカガリに笑顔を向けた。
 カガリはその笑顔に何かを感じ頷いた。
 ミリアリアとトールは二人でサイのいる部屋まで向かった。
 その場に取り残されたカガリは、格納庫へと向かい歩き出した。

 電気のついていない部屋の片隅でサイは座り込んでいた。
 ドアをノックする音が部屋に響いた。
「サイ、入るわね」
 ドアが開き部屋にミリアリアが入ってきた。手に持っていたトレイを近くのテーブルの上
においた。
「サイ、部屋の電気どこにあるの?」
 ミリアリアの言葉にサイは何も答えなかった。
「勝手に探すから」
 ミリアリアはドアの付近の壁をさわり始めた。
 部屋の電気がつくと、ミリアリアは部屋の片隅でうずくまっているサイを見つけた。
「話は聞いたわよ」
 ミリアリアの言葉にサイは体をすくみ上がった。ミリアリアはさらに言葉を続けた。
「サイ、人には得手不得手があるのよ」
 サイがミリアリアの方に顔を向けた。
「サイにはまだ無理って事なのよ」
「どうしてストライクを動かそうとしたのか聞かないのか?」
 サイが口を開いた。
「見当はついているから。それにサイがストライクに乗ったら、キラが何のためにアークエ
ンジェルに残ったのか分からないじゃない」
「残った理由!?」
 サイはキラが残った理由を考えてみた。
「私達を死なせないために残ったのよ。キラがストライクのパイロットなら格段とこの艦が
落ちる確率は下がるから。だから私はキラの負担を減らすために私も残ったのよ。あなたは
どうなのよ?」
 ミリアリアはサイに質問をした。
「フレイがここに残るっていったから、俺も残ろうと決心をしたんだ」
 ミリアリアは冷めた目でサイを見つめた。
「サイはどうしてそこで止めなかったの?」
 サイは一体何を止めなかったのか意味が分からなかった。
「フレイが軍に入るって事よ。一旦オーブに戻ってからでも良かったんじゃないのか私は思
うのよ。だってフレイ、目の前父親を殺されたのよ。たぶん復讐のために軍に入ったのよ。
そりゃ私だってもし両親や友達が殺されたら、フレイみたいな事するかもしれないけど、そ
のためのストッパーが生き残った身内や友なんじゃない」
 サイはミリアリアの言いたい事が薄々分かってきたようだ。
「そのフレイの思いを判ってやれなかった俺が、フレイに続き軍に入り、友を残して自分達
だけオーブに行くのは薄情だからって、キラ、トール、カズイが残ったという訳か…」
「多分そうだと思うわ。私の考えだから当てにはならないわよ」
 ミリアリアは笑いながら言った。
「それでこれからどうするの?」
 ミリアリアが真面目な顔でサイに聞いた。
「俺も、キラを死なせないためにも頑張る」
 ミリアリアはその言葉を聞いて笑顔になった。
「そのためにも体力をつけないとな…」
 先程ミリアリアが置いたトレイをサイは見た。トレイには何も残っていなかった。
「ミリアリア…、まさか食べたのか!?」
 サイの言葉にミリアリアはバツの悪そうな顔をした。
「キラといいミリアリアといい、そういうの直した方がいいぞ」
 サイは溜息をついた。
「ミリアリア、ありがとう。なんか心が落ち着いたよ」
 間を置いて、サイはミリアリアにお礼を言った。
 ミリアリアは牛乳が入ってある紙パックをトレイに戻し、どういたしましてとサイに言った。
 ミリアリアは何も残っていないトレイを持ち、部屋から出ようとするとサイに呼び止められた。
「食事は!?」
「今日の分はもうないわよ、明日持ってくるから」
 ミリアリアは冷淡に言い放つと部屋から出て行った。
「腹減った」
 サイの言葉と腹の音が部屋中響いた。


第2話完
第3話に続く

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