9話
キラがモルゲンレーテでMSのパイロットに戦闘の指導をして数日が経った。
シミュレーション上位三人が女性だったのでキラは驚きを隠せなかった。
最初の頃は、キラが圧勝していたが、ここ最近は違っていた。
キラは三人の弱点、癖を紙に書き、エリカを通して三人に渡していた。
三人はすぐさまそこを改善し、戦いに応用していく。キラも三人のお陰で操縦技術が上がっていく。
「三人でうまく連携を取れば、ザフトレッドを倒せるかもしれない」
とシミュレーションが終えたキラは、エリカに率直な感想を言った。
「ザフトレッドってたしか、ザフトの士官学校での成績トップ3に与えられる新人兵の事かしら?」
「たしかザフトレッドはもう少し多かったような気がするが、そんな所だ…」
「どうせ戦場に入る前の成績でしょ? 当てになるのかしら?」
「例えが悪かったな…。それなら…」
キラは今まで戦った有名な相手を記憶の中から探した。
「サーペントテールの叢雲劾ですかね。一度戦った事があるんですが、その人となら三機で良い勝負ができると思います。ま、勝てないと思いますがね」
「貴方はいつ、サーペントテールと戦ったのかしら?」
エリカが興味津々にキラを見ている。キラは簡単な説明をエリカにした。
エリカの顔つきが突然変化した。
「貴方と戦った叢雲劾は本当に本人なの?」
キラはエリカの言っている意味が解らなかった。
「どういう意味ですか?」
「その日は、ここモルゲンレーテにサーペントテールはジャンク屋と一緒にいたのよ」
エリカの答えにキラは、驚く。
「そうですか…。どっちにいる叢雲劾が本物かわかりませんが、どっとも叢雲劾と名乗っても可笑しくないぐらい強いって事ですよ。今の三人はそのぐらい強いと思いますよ」
「でも一人なら、貴方にも負けるって事よね?」
エリカがキラを見る。突然キラは笑い出した。
「確かに一人なら僕にも勝てませんが、普通たった一人で戦場に行きますかね? 一緒に行動する仲間がいると思いますがね…」
とキラは自分で言いながら、今まで自分がやってきた事との矛盾がある事を感じていた。
「所詮、餅は餅屋か…。私とは分野が違うから、貴方が言いたい事半分は理解していないわ。
ま、これからもよろしく頼むわよ」
キラはその日の作業が終わり、ホテルへと戻った。
キラは毎日モルゲンレーテへと向かい、三人を指導するのだった。
しかしある日を境に、エリカからキラはお払い箱にされた。
キラはホテルで、ぐーたらな日々を送っていた。
時にはキラはシン達の元へ向かい、ある時はギルバート・デュランダルの元へと向かっていた。
シンやデュランダルが用事でいない時は、端末を操作し連合にハッキングし、極秘データを閲覧していた。キラは連合のデータの中で新型のMSを開発していることを知った。その三機はXナンバーを元に新たに進化させたものらしい。
「オーブにいるならそんなに関係ない事か…」
キラは連合の新型MSに殆ど関心を示さなかった。
さらに探っているとあるデータを発見した。
「エクステンデッド計画と大型MA開発計画?」
キラはこの二つが気になり、データを閲覧しようとした瞬間、端末が強制終了した。
端末を起動させようと、電源を入れるが全く反応しない。
「ウイルスか!してやられた」
などとキラがそんな毎日を過ごしていたある日、オーブは連合軍から宣戦布告を受けた。
ホテルで泊まっている人々は荷物を整え、オーブから出て行く。
人々も我先にと身支度を整え、オーブを後にしている。
キラはホテルでその事に関するオーブ代表による会見をテレビで見ていた。
テレビを見ていると、突然部屋の電話が鳴る。
電話の相手は、モルゲンレーテのエリカ・シモンズであった。
「どうかしたんですか?」
「テレビ見ていたわよね?」
エリカの問いにキラは肯定した。
「オーブのためにMSに乗って」
キラの顔の表情が変化した。
「何故僕が?」
「あなたしかいないのよ」
「…断ると言ったらどうします?」
「それならアークエンジェルの為にと言ったらどうかしら」
キラは受話器を落としそうになる。
「なぜここでアークエンジェルが?」
「今オーブにいるのよ。貴方はそれでいいのかしら? お友達が乗っているんでしょ?」
「……わかりました。今からそちらに向かいます。」
「ありがとう」
エリカからの電話が切れると、キラは急いでモルゲンレーテへと向かう準備をする。
キラがホテルから出ようとすると、支配人が出てきた。
「お客さま、今から何処に行かれるのですか?」
「避難しようと思ってね」
キラの口から出た言葉はでまかせだ。そうでもしなければ、ホテルから出しては貰えなかっただろう。
「支配人さんはどうするんですか?」
とキラはホテルの支配人に聞いてみた。
「私は、このホテルに残ります。先代から受け継いだホテルなので、最後までここにいようかと……」
キラは支配人の言葉を聞き、ここから逃げるようにとは言えなかった。
気まずい思いになりながらも、キラはホテルを後にした。ホテルから出るとき、支配人の挨拶が耳に聞こえた。
キラがホテルの外に出ると、ホテルの前は人っ子一人いなかった。この付近にいる住民は殆ど非難しているようだ。キラがモルゲンレーテへ向かうため、ホテルにあるバイクを使わせてもらうことにした。
キラがバイクでモルゲンレーテへ向かっていると、道路の反対車線で見知った一団がいた。
それはシン達家族であった。
(今からならギリギリで出航する船に間に合うか……。何とか間に合ってくれよ)
キラはシン達家族や、ホテルの支配人等、今まで見知った人物ができるだけ死なない為に自分も力が役に立つなら、役に立てようと思うのであった。
モルゲンレーテへ近づくにつれ、連合とオーブの戦いが激しくなっていく。
走っているすぐ上を、爆発音が響く。
キラが上空を見上げると、M1アストレイが爆発し、その破片がキラ目掛けて落ちてくる。
キラはバイクを加速させ、その破片を避ける。しかし全てを避けきれずに小さな破片がバイクに直撃した。バイクは体勢を崩し、転倒する。キラはバイクから投げ出された。
キラはアスファルトには落下せず、地面に叩きつかれた。
何とかキラは立ち上がり、
「両親から特訓受けていたから、軽傷ですんだか。思い出すだけで泣けてくる。厳しい訓練だった。」
とキラは、昔の事を思い出しながらバイクの元へ向かう。
バイクは何とか動くようなので、キラはバイクに跨りモルゲンレーテへと向かう。
モルゲンレーテへ着いたキラは急いで、地下ドッグへと向かう。
そしてM1アストレイへ乗りこみ戦場へと駆け出した。
戦場はオーブが圧倒的な不利な状況であった。
キラがストライクダガーと交戦をしていると、突然通信回線が開く。
内容は、この先には市街地があるので、海岸線へと連合を追い詰めて欲しいとの事だ。
オーブ軍は市街地から、海岸線へと連合を追い詰め始めた。
「オーブのMSだけで連合を退けているのか?」
キラはオーブのMSの動きに感心した。
いやオーブ軍ではできなかっただろう。キラはオーブ軍の中にアークエンジェルの姿を発見した。
アークエンジェルから、ストライクが出撃する。続けてもう一機のMSが飛び出した。そのMSにキラは驚きを隠せなかった。
「あれはフリーダム!どうしてここに!?」
しかしキラはフリーダムにかまっては入られない。M1アストレイを動かしキラはアークエンジェルの甲板の上に着陸した。そしてアークエンジェルへ向かってくるミサイル、連合のMSを一機一機確実に落としていく。だがキラだけでは全ては撃墜できない。何発かは確実に、アークエンジェルへと向かってくる。
キラはアークエンジェルに向かうミサイルに向かってビームライフルを放つ。
だがしかしキラが放ったビームは一発もミサイルに当たらない。
「あたれ!あたれ!あたれぇぇぇ!」
キラは動揺しているのかライフルの照準がずれているのに気がつかない。
アークエンジェルに当たると思われたミサイルは、何者かによって撃墜された。
それはバスターの長距離ライフルであった。
バスターの援護射撃に、キラは気持ちが楽になっていくのを感じた。
「アークエンジェル、早く其処から離れるんだ!」
とバスターから通信が入る。
「バスターがアークエンジェルに?」
キラは今まで敵だったバスターが、アークエンジェルを援護している事に正直驚いた。
バスターがここにいるので安心だと思ったキラは、アークエンジェルから離れ海岸線へと向かう。海岸線へ向かう途中、キラは連合の襲撃を何度か受けた。だがキラはその襲撃をうまくやり過ごしていく。
「上から貴方を狙っている!」
突然の通信にキラは驚くが、その言葉を信じM1アストレイを加速させた。
先程までキラがいた場所に、一条の光が貫く。上空から攻撃のようだ。
キラはビームが飛んできた方向を見ると、そこには連合に新型カラミティがいた。
「あれは連合の新型……」
キラは先日見た連合のデータを思い出す。
キラの周りいつの間にか三機のM1アストレイがいた。
カラミティがキラ達の所に胸からのビーム、スキュラを放つ。
四機は散開し、ビームを避けた。キラは三機の操縦技術が他のオーブ軍より飛び抜けているのに気付き、三機のパイロットが誰なのか想像がついた。
キラは三機のM1アストレイに通信を開く。
「貴方達は、別の仲間の援護に行ってください」
「一体何を言っているのよ」
「貴方一人で何ができるのよ」
「死ぬ気?」
三者三様の言葉が返ってきた。
「シミュレーションで貴方達が圧勝していたら、その命令を聞こうと思えるんですがね」
キラの言葉にM1アストレイのパイロット達は、キラが一体誰なのか気付いたようだ。
「あなたはもしかして……私達の相手をくれた人? てっきり年上かと思っていたけど声からすると私達と同じぐらいみたいだけど」
「たしかに貴方なら何とかするかもね」
「死なないように……」
三人はキラを心配しながらも、その場を離れた。
M1アストレイとカラミティ一対一になった。
カラミティはM1アストレイに向かって突進してきた。
キラはカラミティの攻撃を避けきれず突進をまともに受けてしまった。
「ぐぅぅ」
キラはコックピットの操縦桿に頭を打ち付けた。頭を打ち付けたせいで意識が一瞬とんだ。
意識を取り戻し、モニターを見ると目前にカラミティが映る。キラは操縦桿を握り、M1アストレイを動かすが、カラミティの攻撃から逃れられない。突然カラミティが後方に飛んだ。
M1アストレイの前にフリーダムが降り立つ。
その時キラはカラミテの向こう側で、シン達家族を見た。その時、キラは自分の現在地を確認した。そこはオーブの港へと続く道が通る山の近くだった。
フリーダムはカラミティに向かってレールガンを使用した。
「やめろ、やめろ、やめろぉぉぉ」
キラは目の前のフリーダムに叫ぶ。
キラの言葉が聞こえないフリーダムは、カラミティに向かってレールガンを使用した。
カラミティはその攻撃を避けると、フリーダムに接近しビームサーベルを振り下ろす。
フリーダムはカラミティの攻撃を避けると、アークエンジェルがいる方向へと向かって加速し、その場を離れていく。
「貴方も其処から離れるんだ」
フリーダムの通信が聞こえてもキラはその場を動こうとしない。
キラはモニター越しに、シン達家族が戦闘に巻き込まれた場所を見ていた。
煙が晴れると其処には、マユが倒れていた。
キラはコックピットから飛び降りると、マユに駆けよる。
キラはマユに呼び掛けたが、ほとんど反応しない。
「お父さん……お母さん……お兄ちゃん」
マユは目の前の光景に耐え切れず意識を失った。
倒れたマユを抱き抱えると、キラはその場を離れアストレイに乗り込んだ。
キラはアストレイを市街地へと向かわせた。
市街地にアストレイを着陸させると、アストレイから降りキラはある家へと向かった。
キラはその家の扉を勢いよく開けた。開けるとキラの見知った人物がいた。
それはキラの母親だった。
「キラ……どうしたの?」
キラはコックピットにいるマユの事を話した。
マユの事を聞いたキラの母親は、キラにマユを家の中まで運ぶように言う。
マユをベッドに寝かせたキラは、リビングへと向かう。
「あの子の事お願いします」
とキラは両親に言うと家を出て、MSに乗りこむ。
そしてキラは戦場へと向かった。M1アストレイのモニターにフリーダムが映る。
フリーダムは連合の新型の相手をしているようだ。カラミティとフォビドゥン、レイダーだ。
三機は確実にフリーダムを追い詰めていく。レイダーがフリーダムにとどめの一撃と思われる破砕球ミョニルを振りまわした。だがしかしフリーダムを腕一本とスラスター一枚を犠牲にしつつもミョニルを避けた。フリーダムは体勢を崩し地面へと降り立つ。そこへ連合のストライクダガーがフリーダムにビームライフルを構える。だが一向にストライクダガーのビームはフリーダムを貫かない。いきなりビームライフルを構えていたストライクダガーが爆発した。真紅の機体がフリーダムを守るように上空から降りてきた。
「あれはジャスティス!?」
キラは、ジャスティスがこの戦場に乗り込んできた事に驚きを隠せなかった。
連合の三機は突然乱入してきたフリーダム、ジャスティスに攻撃を仕掛けた。
フリーダムとジャスティスは見事な連携で、三機の攻撃を避け、反撃を始める。
決着がつかず、数分たつと連合の新型三機突然戦線を離れた。
「あの三機が撤退しただと?」
キラはなぜあの三機が撤退したのか納得できなかった。
撤退したと同時に、連合の艦隊から信号弾が撃たれる。
「撤退をしていく?」
キラはアストレイの中から撤退していく連合軍を見つめる。
フリーダムとジャスティスが互いを見るように立っていた。
キラはモニターに映るフリーダム、ジャスティスに向かってビームライフルのトリガーを引いた。
フリーダムとジャスティスはM1アストレイのビームを何とか避けると、攻撃を仕掛けてきたM1アストレイに通信を入れた。
「一体何をしたいんですか!」
キラはフリーダムからの通信を無視し、フリーダムに加速した。
キラは加速している途中でも、ジャスティスをビームライフルで牽制する。
フリーダムの横にいたジャスティスは、M1アストレイの攻撃でフリーダムから離れた位置へとさせられていく。
フリーダムの姿がどんどん大きくなる。キラはビームライフルを捨てると、サーベルに持ち替え、フリーダムに襲い掛かった。
フリーダムはM1アストレイの攻撃を避けると、残っていた腕でサーベルを構える。
ジャスティスからM1アストレイに通信が入る。
「あれは敵じゃ……」
(黙れ!)
「攻撃をすぐに止めてください。あれは仲間です」
ジャスティスのパイロットの言葉が別の声で遮られた。
アークエンジェルからの通信だ。聞き覚えがある声だがキラはそれを無視した。
(黙れ!あれは、あれは、あれは!)
キラはフリーダムのコックピットに狙いをすまし、ビームサーベルを突き出した。
フリーダムはバーニアを吹かし後方に下がる。フリーダムが後方に下がったせいで、キラが操縦するM1アストレイのビームサーベルは空を切った。フリーダムはすぐさま反撃に移り、キラのM1アストレイの四肢を切断し蹴り飛ばした。
(目の前のあれに一矢報いる事もできないのか……)
キラはコックピットの中で蹴られた時の衝撃に耐える。四肢を切断されたM1アストレイは、木々にぶつかり、地面を数十m転がりやっとの思いで止まる。キラは衝撃、そして振動に耐えた。そしてコックピットから這い出るため、開口部に手を掛け、力を入れると腕に軽い痛みが走った。キラはその痛みに耐えコックピットから這い出ると山道を走り出す。
キラは山道を走りぬけると、そこは崖であった。キラはその場に崩れ落ちる。
「これ以上は走れないか……」
ふと崖下を見るとフリーダムとジャスティスが降り立つのが見えた。その後に続き、バスター、アークエンジェルが続く。アストレイの周りには連合のMSの影が一つも無かった。
キラは崖の上からその光景を眺める。
フリーダム、ジャスティス、アークエンジェルから人が出てきて何か話をしているようだ。
キラの所から何を言っているか聞こえない。キラが崖下の光景を見ていると、後ろで車のエンジン音がした。キラが後ろを向くとそこにはエリカ・シモンズが立っていた。
「どうしてくれるのよ? あれ」
とエリカはM1アストレイがある森を見た。
「中のパイロットが生きていたから良かったじゃないですか」
キラは当たり前のようにいった。
「モルゲンレーテに戻るわよ」
とエリカはキラを乗ってきた車に乗せ、モルゲンレーテへと向けて車を走らせた。
キラはモルゲンレーテにつくと、すぐさまM1アストレイへと乗り込み調整を開始した。
調整をしていると、外が騒がしくなった。
キラは外が気になり身を乗り出すと、視界にフリーダムとジャスティスが映った。
二機の足元を見ると、ザフトのパイロットスーツを着た少年が、連合のパイロットスーツを着た少年の頬を叩いていた。
「どうしてこんな事を? おまえはもう戦場に出なくて良かったんだぞ!あのままプラントにいても……ラクスの所にいて良かったのに。お前がこれを持っていったせいで、ラクスとラクスの父親は、父によって反逆の疑いがかかっているんだぞ」
とザフトの少年はフリーダムを見る。
ザフトの少年の言葉は震えていた。少年の声はキラがいるアストレイのコックピットまで聞こえるぐらいの大きさだ。
フリーダムのパイロットは反論した。
「戦争を早く終わらせる為に、僕ができる事をやろうと思って……」
ジャスティスのパイロットは、フリーダムのパイロットの胸倉を掴む。
「それで馬鹿げた事を……」
ジャスティスのパイロットは掴んでいた腕を放すと、踵を返しその場を後にした。
「馬鹿げた事だって……」
フリーダムのパイロットはアスランの方へと一歩足を踏み出した。
「馬鹿げた事だって!? ラクスは、ラクスはこの戦争を早く終わらすために、危険を犯してでも僕にこの剣を与えてくれたんだ。ラクスの行為を冒涜するの!?」
フリーダムのパイロットがジャスティスのパイロットに向かって走り出す。背後から殴りかかろうとしているようだ。
ジャスティスのパイロットは、振り向くとフリーダムのパイロットの拳を避け、鳩尾に拳を一発撃ち込んだ。相手の少年はその場に倒れこむ。少年を心配して仲間が少年を取り囲む。
キラは持っていた銃を、床に倒れこむ少年に向けて構える。
「それであたるのかしら」
とキラの後ろで女性の声がした。
「やって見ないとわかりませんけど」
「それなら撃つのかしら」
エリカの言葉にキラは銃のトリガーに指をかける。だがキラは一向にトリガーを引こうとしない。キラは引くのを止め、銃をアストレイの座席の下に置いた。
「あら撃たないの?」
エリカがキラに聞いてきた。
「今は乗り気ではないので、やめときます」
キラは笑顔で答えた。
「自分の手が汚すのが怖いのかしら……卑怯ね」
エリカの言葉にキラは反論しない。
「主任」
とエリカを呼ぶ声が聞こえた。
「呼んでいますよ」
「わかっているわよ」
エリカは、キラの元を離れた。
離れる際、エリカはキラに「次も期待しているから」そんな言葉を残した。
キラも追い込みをかけるがのごとき、アストレイの調整に勤しんだ。
キラは気分転換に地下ドッグから地上へと出た。その時キラは見知った人物を見たような気がした。だがキラは特に気にしなかった。
外に出るとキラはフェンスにもたれ掛かると、先程の戦闘の事を思い出していた。
シン達家族を守れなかった事にキラは、涙を流す。
「あの時、一人で行動しなかったらあんな事には、ならなかったかもしれないのに」
木の枝が折れる音がした。キラは音をした方向を見ると、そこにはキラの知っている人物がいた。
「ミリアリア、どうしてここに……」
キラは目の前の人物に驚いた。
「キラ……それはある人にキラの事を」
何かミリアリアはその理由を言い出せないでいた。
「まさか……」
キラはある人物の顔を思い浮かべた。キラはその人の特徴をミリアリアに伝えた。
ミリアリアはその人かもしれないと、首を縦に振った。
「泣いていたの?」
キラはミリアリアの言葉に首を横に振る。
「泣いていないさ」
キラは自分に嘘をついた。
「キラはもうアークエンジェルには戻らないの?」
とミリアリアが突然聞いてきた。
「戻るつもりはない。もうあそこには居場所が無いだろうから。あそこにはもう僕がいるのだから」
ミリアリアは何も答えない。
「一番最初に、あの砂漠の町で言った事だが、この戦争が終わったらまた会えるから……だからそんな顔をしないでくれよ」
ミリアリアは泣きそうな顔をしていた。
「大丈夫、必ず会いに行くから……」
キラはそう言うと、地下ドッグへと向かう。
アストレイのコックピットの戻ると一枚の紙が置いてあった。
その紙の書かれている内容を確認した。
――悲劇の王子様なんて似合わないわよ――
キラはその紙を握りつぶした。
(悲劇の王子様!? 一度もそんな事は思っていないさ)
地下ドッグにサイレンが響く。どうやら連合がまた攻撃を開始したらしい。
オーブは連合との二回目の戦いを開始した。
キラは整備の終わったM1アストレイに乗りこんだ。
モルゲンレーテの格納庫にウズミ・ナラ・アスハの声が響いた。
「今からオーブ軍の既存のMS、そしてそのパイロットは、アークエンジェル、クサナギに収納。そして宇宙へ向かってもらう」
ウズミは、モルゲンレーテを事実上廃棄するようだ。
キラが放送を聞いていると、エリカ・シモンズの姿が見えた。
「あなたはどうするの?」
エリカはキラがアークエンジェル、クサナギと共に宇宙へ上がるのかをどうかを確かめているようだ。
「地上に残って、連合と戦いますよ」
と言うとキラはM1アストレイのハッチを閉め、操縦桿を動かしクサナギへと向かう。
モルゲンレーテに残っているM1アストレイを収納したアークエンジェル、クサナギはマスドライバーへと向かった。マスドライバーに着いた、アークエンジェルとクサナギは大急ぎで大気圏離脱用パーツに換装し始める。
クサナギの格納庫では、三人のオーブ兵がM1アストレイに乗り込む準備をしていた。
それに気がついた女性パイロットが声を掛ける。
「それに乗り込んでどうするんだ?」
「アークエンジェルとクサナギが宇宙に出るまで、時間稼ぎをする」
「でもそんな事したら、お前達がここに取り残されるのだぞ?」
「だが誰かが出なければ確実に、宇宙には行けないだろう」
出撃準備しているパイロット達の決意は揺らがない。
確かに、フリーダム、ジャスティスだけでは、宇宙に飛び立つ前に終わってしまうかもしれない。物量戦でこられたら確実に負けるだろう。誰もが分かりきっていた事だが、今準備しているオーブ兵以外戦場に出ようとはしない。いや出られないのだ。殆どの者が充分な訓練を受けずに実践を迎えた。フリーダム、ジャスティス、ストライク、そしてアークエンジェルのお陰で彼らは死ななかったのである。もしここでウズミの言葉を無視し、数部隊が外に出れば、宇宙での戦いでMSが足りなく、今度はオーブが不利になるかもしれないのだ。
「それなら僕もついていきますよ」
壁にもたれ掛かっていた少年が話に割って入ってきた。
「たった一人加わったぐらいで……」
女性兵士が少年を選別するように見つめる。少年は女性兵士に近づく。少年はキラ・ヤマトであった。
「コーディネータだからあなた達より優秀だと思いますよ」
キラの言葉に、格納庫はどよめきが起こる。今クサナギにいるオーブ兵は、ナチュラルが大半だ。たしかに大きな戦力にはなる。
「上に報告はこっちでしておくわ」
女性兵士は諦めてその場から離れる。どうやら出撃を認めたらしい。
キラを加えた四人は、格納庫のハッチを開き外へと出て行った。
「坊主さっきどうしてあんな事を……」
アストレイのパイロットの一人がキラに話しかけてきた。
「コーディネータっていう事ですか?」
「そうだ。君のような少年には宇宙に行って、オーブの手助けをして貰いたかったんだが」
アストレイのパイロットは、コーディネータであるキラに何かを期待しているようだ。
「ここで遣り残したことがあったので、ここに残ったまでですよ」
二人が話をしていると海岸線に連合の軍勢が姿を現した。四機の上空をフリーダム、ジャスティスが通過する。
「こっちも始めますか」
キラの声で、アストレイのパイロット達も心身ともに気合を入れた。
フリーダム、ジャスティスがストライクダガーの群れに攻撃を仕掛ける。二機の功撃は連合の新型、カラミティ、フォビドゥン、レイダーによって阻止された。カラミティ達はフリーダム、ジャスティスをストライクダガーの群れに近づかせようとはしない。
何とか隙を作りフリーダムが群れの中のストライクダガーにレールガンを構えるが、フォビドゥンの曲がるビームフレスベルグがフリーダムを襲い、フリーダムはストライクダガーに攻撃できないでいた。フォビドゥンがフレスベルグを使用する溜めの間に、フォビドゥンを撃破しようとジャスティスがビームブーメランを投擲する。フォビドゥンはその攻撃を避けるために、ビームを撃つのを止め迫ってくるブーメランを弾き飛ばした。
フリーダムは、ジャスティスが作ってくれたわずかな時間を使いレールガンでストライクダガーに向かって発射した。フリーダムの攻撃を避けきれずに直撃したダガーは地面へと墜落していく。ストライクダガーの群れは一機減っても、隊列を崩さず、アークエンジェルへと向かっていく。
フリーダムが再度攻撃をしようとした時、何者かの邪魔が入った。それはレイダーであった。
一方でジャスティスがカラミティによってストライクダガーの軍勢に近寄れずにいる。
連合の新型三機を動かすパイロットは、どうやらフリーダムとジャスティスのパイロットと同じぐらいの操縦技術を持つ者だろう。確実にフリーダム、ジャスティスを追い詰めていく。フリーダム、ジャスティス動きが突然変化した。その動きは先程とは違い、動きに無駄がない洗練された攻撃になっていた。
アストレイのコックピットでキラは5機の攻防に魅せられていた。
キラもアークエンジェルを落とされまいと奮闘する。
「当ててみせる」
M1アストレイは、アークエンジェル、クサナギに近づく連合のストライクダガーをビームライフルで撃破していった。そんな中アークエンジェルとクサナギから通信が入る。どうやら発進スタンバイに入ったようだ。
フリーダムとジャスティスが通信が入ったと言うのに、まだ新型と戦っていた。
アストレイのパイロットが二機に通信を入れる。
「君達は、早くアークエンジェルに戻りたまえ」
「しかしあなた達が……」
ジャスティスのパイロットからの返答だ。
「俺たちは大丈夫だ。それに君達は希望なんだ!俺達を失望させないでくれ」
「……わかりました」
フリーダム、ジャスティスはアークエンジェルに取り付き一緒に宇宙へと登っていった。
アークエンジェルとクサナギが発進し、肉眼で見えなくなるのと同時にマスドライバーとモルゲンレーテが爆発を始めた。
二つの施設が爆発を始めると、連合の新型三機は、M1アストレイに興味がないのか戦線を離脱した。
「やばいな……」
キラは数機のストライクダガーに囲まているようだ。キラのアストレイは片腕が切り落とされ、持っていたビームライフルも使い物にならなくなっていた。後は接近戦しか残されていない。アストレイはサーベルを装備した。そしてキラが操縦桿を握り、ペダルを踏み込んでもM1アストレイは、キラが思った通りには反応しなかった。振り下ろした、ビームサーベルが簡単に回避される。どこかで不具合が起きたのか、動作がワンテンポ遅い。
敵のストライクダガーは、好機と思いアストレイに攻撃を仕掛けた。
「絶体絶命か」
そう思われた時、一機のM1アストレイがキラの窮地を救った。
「坊主、アストレイを捨てろ!そしてモルゲンレーテに行き、ジープに乗ってここから出るんだ!」
とキラの窮地を救ったパイロットから通信が入った。
パイロットの話によると、モルゲンレーテに車があるからそれに乗ってここから出ろという事らしい。
「でもそんな事したら、あなた達がどうなるか……それにまだ戦えます」
「はっきりいって、足手纏いなんだよ。俺たちでどうにかするから早くしやがれ!」
今のキラは、足手纏いにしかならない。そう感じたのかキラはM1アストレイから降りると、モルゲンレーテへと向かった。
ストライクダガーはキラの事に気づき、ビームライフルをキラに構える。だがビームライフルは使用されることはなかった。ストライクダガーがトリガーを手を掛けた瞬間、ビームライフルを持っている腕が何者かに切断される。それはもう一機のM1アストレイが振り上げたビームサーベルであった。
キラが爆発するモルゲンレーテについたと同時に、後方から爆発音が聞こえる。
後ろを振り向くと、キラを助けてくれた、M1アストレイがストライクダガーの攻撃を受け無残に爆発した。そして残っていた仲間もストライクの攻撃に散っていった。
「あ……あ……あ……」
その光景を見たキラは何も言葉を発せられなかった。
キラは悲しみを涙を堪え急いで車に乗り込むと、モルゲンレーテの門へと向かう。
「助けてもらってここで死ぬわけにはいかない」
キラは爆発するマスドライバーとモルゲンレーテを横目に見ながら、車を市街地へと走らせた。突然、モルゲンレーテの方から激しい爆発音がした。それは予想以上の爆発だった。
まるで、爆弾に引火したように次々にモルゲンレーテの至る所で爆発を始めた。
「まさか……」
キラは先程モルゲンレーテに進入したザフト隊を思い出した。
「情報収集とついでに破壊工作までしたのか」
馬鹿な思いを捨て去り泊まっているホテルへと向かう。
幸いホテルへの被害は殆どなく、やろうと思えばいつでも営業ができる状態だ。
「お帰りなさいませ」
キラがホテルに戻ると支配人がフロントで出迎えてくれた。
「本当に逃げなかったんですね」
「ええ、ここが私の家みたいなものですから。さしでがましい事だと思いますが、何かありましたか?」
支配人の言葉にキラは何も答えない。キラは動揺を隠し返答した。
「何もありませんよ。それではまたお世話になります」
キラは支配人に挨拶をすると、すぐさま部屋へと戻る。
部屋へと戻ったキラは、疲れが出たのか、すぐに寝てしまった。
目を覚ますと朝になっていた。枕に何かが乾いたような後があった。
キラはその日、マユの事が心配になり自宅へと向かう。
自宅に着くと、キラは玄関を開けた。開けると目の前にはキラの父親がいた。
「キラ……ちょうど良かった」
「え、何が?」
父親はキラの腕を掴むと、突然居間へと連れて行った。
キラはそこでソファーに座っているマユの姿を見た。その横にはキラの母親がマユに何かを話しているようだ。
母親はキラに気がついたようだ。横にいるマユにキラがいる事を伝える。
マユがソファーから立ち上がった。そしてキラの所へと歩み寄る。
「キラさん。助けてくれてありがとうございます」
マユは先日の事でキラにお礼を述べた。
「私以外にはどうなったかわかりますか?」
キラは首を横に振った。
「あの時、マユちゃんしかいなかった。お兄ちゃんやご両親がどうなったか僕にもわからない。役に立たなくてすまない」
キラの言葉を聞いてマユは顔を伏せた。キラの母親はそんなマユを寝室へと連れて行く。
二人と入れ替わるようにキラの父親が居間へと入ってきた。
「あの子が心配になったのかい?」
キラの父親は寝室がある方向へと視線を向けた。
「そんな所かな」
「あの子と一緒に暮らそうと思っているんだが」
父親の突然の発言にキラは多少なりと驚いた。
「どうして?」
キラは自分が助けたマユの事が気になっていたようだ。
「あの子は身寄りが家族以外にいないからね」
「いいんですか?」
とマユの声がした。
マユは落ち着いたのか、寝室から居間に戻ってきていたようだ。
「孤児院とどっちがいいんだい? マユちゃんが決める事だよ」
「時間をください」
「構わないよ」
とキラの父親はゆっくりと考えるようにとマユに言った。
「僕はこの辺で」
「どこに行くんですか」
マユがキラに聞いてきた。
「ちょっと用事があってね」
「何時ぐらいに戻ってきますか?」
マユの問いにキラは何も答えられない。
意を決して答えようとした時、父親がかわりに口を開いた。
「この子は世界中を飛び回っている風来坊なんだよ」
父親の言葉にキラは、体中から冷や汗が流れた。父親はまだ続けた。
「だがらいつ戻ってくるかわからない。世界が戦争していてもお構いなしにどこかへ行ってしまうんだよ」
「そうなんですか……でも、たまには戻ってくるんですよね」
マユはキラを見た。
「そのつもりだけど」
キラは父親の話に合わせ、マユに嘘をついた。
「そろそろ船が出る時間だから、また」
キラは両親とマユに別れの挨拶をすると家を後にした。
振り返ると、マユが玄関で手を振っていた。キラも軽く手を振ると、もう一度正面を向きホテルの道を進み始めた。
家へ行くときは急いで、周りの景色を見ていなかったが、市街地の被害は思ったより少ないようだ。家を除いてみると、避難していない家族がいくつか見受けられた。
キラは帰り道、ギルバート・デュランダルに会いに行った。
デュランダルはどこかに出かけて、いないようだ。
ホテルに戻ると、支配人からキラに客が尋ねている事を知らされる。
その人物はギルバート・デュランダルであった。
「数日振りですね」
キラはデュランダルに挨拶すると、椅子に腰をかけた。
「先程、あなたに会いにいったんですよ」
「私の所に来たのかね」
「ええ」
キラはコーヒーを口にする。
「それで何か用ですか?」
「ザラ議長から頼まれ事があってね」
キラの眉がわずかに動く。
「ザラ議長から?」
「君をプラントに連れて帰るようにとね」
「理由は聞いてますか?」
デュランダルは、出されていコーヒーを手に取ると、話をさらに続けた。
「いや聞いていない。君と話がしたいので、連れてくるようにと」
「しかしどうしてあなたなんですか?」
「君の一番近くにいるのが私だからだろうね」
「災難でしたね。それでいつプラントに?」
「今からでも戻りたいのだがね」
「わかりました」
支配人を呼んだキラは、ホテルの宿泊代を精算し、荷物をまとめた。
「あの事だろうな……」
とキラは呟いた。
「何か心当たりがあるのかね?」
何処ともなく現れたデュランダルに、キラの小言が聞かれたようだ。
「たくさんありすぎて困りますよ」
キラは笑顔で答えた。
「私には関係ないことだろう。準備が出来たのかね?」
「はい」
そしてデュランダル達と共にキラは、プラントへ戻るシャトルがあるザフト基地へと向かうためオーブを離れた。
第9話完
第10話に続く
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