SEED-IF_30years_01

Last-modified: 2023-06-19 (月) 00:00:01

1部 曙光

 

 

「アスラン、おまえは今のプラントに必要だ。若造どもはブレイク・ザ・ワールドの苦労を知らない!
どっちを向いても教科書を丸暗記した馬鹿どもばかりだ。
ザフト中央が、中央が、ばかりで話にならん。
俺たちみたいな古だぬきが必要だ」
「どっちにしても野ウサギみたいな人材がないからな。プラントには」
「わかってる。貴様は黙ってろ。ディアッカ」
「はいはい。孫がいるお爺さんの言うセリフ買ってんだよ」
「なんかいったか?」
「別に」
「で、俺は何をすればいいんだ? 俺はお前たちみたいに縁者もない。地盤もない」

アスランは袈裟を脱ぎ棄て、漆黒の軍服に身を包んだ。

「お前、たしか義弟にシンって小僧っ子がいたよな。あの夫婦はどうした。あいつらに頼ればいい
特務隊だったろう。おまえの役に立つかもしれないぞ」
「あいつら、とっくに地球に帰ったよ。軍隊なんて嫌になったって」
「まだ若いのに惜しいことを……」
「お前が世話をしなかったせいだぞ。アスラン。
口ばかり一丁前で兄貴気取りのくせに、こういう肝心な時は役に立たんな。このボケが。
そういえばフリーダムは連絡取ってるのか?」

イザークは携帯電話をおもむろに取り出し、アスランに渡した。

「貴様の問題は、貴様で解決しろ」


国際情勢は大きく様変わりした。
メサイア要塞攻防戦でギルバート・デュランダルがその《息子》レイ・ザ・バレルと戦艦ミネルバのタリア・グラディス艦長と心中した後、
プラントの地球における立場はなくなった。

プラントの混乱の影響を受けたのは大洋州であった。混乱の中、親プラントの軍部左派がクーデターを起こし臨時政府ができた。
臨時政府はC.E.80年のクライン派の議会選挙無効化宣言により再編成され、オセアニア・コーミューンと改称し議会は空虚な笑劇と化した。
ただ、C.E.70年代前半のプラント本国のクライン派とは違い、思想こそ同じではあるが、シーゲルの愛娘、ラクスを盲従していなかった。
ラクスを《シーゲル・クライン思想の内部破壊者》として、その抹殺を公言してやまなかった。
コーミューンの面々は恐るべきことにほぼ半数が政治犯で、評議委員、閣僚の8割が高卒以下であった。
《ナチュラルの似非学問》の影響からどれだけ遠いことが重要視され、
合法的な議会政治、国家憲法、大統領、政治家、政党、宗教家が次々と追放された。

「ヨウラン、寒いな」
「ああ、オセアニアって南だから暖かいと思ったけど寒いなあ」
「ミネルバに乗ってた頃が楽しかったな」
「シー。特務隊に聞かれたらどうするんだ。俺達は《大砲の肉》にされるぞ」

―《大砲の肉》とは前線での使い捨てを意味する兵隊言葉であった―

「ま、それを考えればマスドライバー建設の方がラッキーだな」
「だけどよ、なんで重機じゃなくて俺たち人足をシコタマかき集めてるんだ」
「知らねえよ。なんでもMSは大西洋軍の監視が厳しくて持ち込めないらしい」
「でもよ、ジンとかザウートは?」
「みんな革命政府に貸しちまったじゃねえかよ」

―戦後、メサイア攻防戦に参加した艦艇の乗組員の扱いはひどかった。
評議会議員の子息や親族でない緑服や黒服の兵士達は悉く政治犯とのしての扱いを受けた。
軍服こそ着用は許されたが、大洋州に流刑同様の扱いになった―

「オーブでも助けに来てくれたらなあ」
「冗談でも、縁起でもねえこと言うなよ。
あんなナチュラルのサルの国なんかに誰が救いを求めるんだよ
そういや、おめえ、あのサル山の大将に食いかかったっけな」
「それはシンだろ」
「馬鹿!もう一回その名前を言ってみろ。俺達は後頭部に一発食うぜ」

ヴィーノはスコップを落とし、その場にへたり込んでしまった。


作業に当たらされている軍人の姿は、最早嘗ての栄光すらなかった。
その痩身と弊衣からは兵匪と間違わんばかりの姿であった。
穴だらけのつなぎ、薄汚れた顔、傷だらけのヘルメット、すり減った軍靴……
水がゆに、固いパン。温かい食事は無い。カップ数杯の紅茶……
広大な大地に柵や檻といったものはないが、逃げだせば、それは死を意味した。
列車で運ばれていく中、通り過ぎていく家々は皆窓がなくぼろきれや屑で詰めてあった。
至る所にゴミが溢れかえり、人々はそれを漁っていた。
恐ろしいほどの貧困……

(これが、大洋州か……俺が若いころ見たのとは違うな)

一介の都市労働者風の男は鉄板の入った窓をこっそりあけながら覗いていた。
その男の名は、ムウ・ラ・フラガであった。

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