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SRW-SEED_ビアンSEED氏_第44話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 21:55:49

ビアンSEED第四十四話静かなる狼達

 
 

鼻にかかった甘い声を零し、顔を真っ赤にしたテューディは、サイバスターのコックピットに辿り着いた時よりもはるかに速い速度でイスマイルのコックピットへと戻った。
プラーナ補充の為という大義名分があっても、直接口と口での接吻にはかなりの緊張を強いられ、実行には相当の勇気を振り絞ったものだったが、結果だけを見ればさらに深い行為が成された。
不意を突かれたテューディの脳裏は論理的な思考など出来ず、分けのわからぬままイスマイルを動かして、専用ハンガーへのオート帰還プログラムを走らせる。火が点いたように熱い頬を、冷たい両手で覆う。
マサキの唇と触れ合った自分の唇が、いやに熱い。震える指で、そっと、自分の唇をなぞった。自分の口の中をまさぐるマサキの舌の感覚が鮮明に残っていた。熱く、濡れ、情熱的に動いていた。
その感触が、また一度、テューディの頬を熱くした。驚きと恥じらいと……否定できぬ強い喜びを感じていた。
仮にも一度マサキ(CE世界のではない)を誘惑しようとした事のある人物と同一人物とは思えない反応だった。どちらかと言えば、良い変化と言えるだろう。多分。

 
 

一方、大地に膝を突いた風騎士の中で、当のマサキもただただ呆然としていた。自分のした事が信じられないのと、何をしたんだおれは!?という言葉ばかりが脳裏を占めている。
先程までの死闘の事など脳裏から消え果てている。この場に白と黒の毛並みを持った猫の使い魔でもいれば、その爪で頬の一つでも引搔いて目を覚まさせただろうが、あいにくとこのマサキにはそんな気の利いたモノはいないので、ただただ呆然とし続けているのである。
呆然とするばかりで何十分経った後か、サイバスターにグランゾンから通信が繋げられた。全く動きを見せない宿敵の写し身に、シュウが小さく疑問を抱いたらしい。

 

「何をぼうっとしているのです?」
「……お、おぉう。あんたか」
「そういえばテューディが泣いている様子でしたが、貴方が何かしたのですか?」
「なな、なんでもねえ!第一あんたにゃ関係ないだろう」
「それはそうですが、彼女には一応同郷のよしみ程度の認識はありますのでね。第一ご婦人に涙を流させるのは感心しませんよ」
「うるせえ!おれだって何が何だか分んねえんだ。いちいち突っかかるな!どうしてだかは分からねえが、あんたの事は信用できねえ。用がねえんならこれ以上おれに関わるな」
「やれやれ、折角の忠告に耳を傾ける度量もありませんか。何故サイフィスが貴方を選んだのか、ほとほと分りかねますね」

 

不意にシュウの口から出たサイフィスと言う言葉に、マサキがうん?と口に出した。つい数時間前に出会った青い長髪の少女の笑顔を思い出したからだ。無垢なあの少女の名前が、何故この青年の口から出るのか、マサキには理解できない。

 

「なんでサイフィスの名前を知っている?」
「おや、テューディから何も聞かされていないのですか?いえ、あの状況では無理もありませんが。しかしそれでは初めて乗った機動兵器がサイバスターであり、そのサイバスターをああまでも乗りこなす……。やはりサイフィスが選ぶだけの事はあるとみるべきなのでしょうか」
「答えになってねえ!」
「ああ、そうでしたね。そう大声を出さなくても聞こえていますよ。俄かには信じ難い話になりますが、貴方の乗っているサイバスターはただの機動兵器ではありません。
人々の良き意識の総意であり、森羅万象、万物に満ちる自然を司る霊的存在『精霊』と契約を結び、その加護を受けた霊的な力を持った特別な機体なのです。
サイフィスとは貴方の乗っている機体と契約を結んだ精霊の名です。風の高位精霊サイフィスと契約を結んだその機体は、風の魔装機神サイバスターと呼ばれています。そしてサイフィスの加護を受けたサイバスターは、サイフィスに認められモノしか操者足り得ない。
そういえば、どこからサイフィスの名を聞きましたか?」
「……サイフィス本人からだ。けどよ、妙な所にはいたけど普通の女の子だったぞ?」
「ほう、サイフィスと直接会っていたとは。精霊とは元来決まった姿を持った存在ではないのですよ。その時その世界、異なる霊的法則に則った姿を持って現れるものです。一つの姿ばかりではなく無数の姿形、名前を持っているもの。
この世界では貴方の出会った少女の姿を取ったと言う事でしょう」
「ふーん」

 
 

実に心のこもっていないマサキの返事であった。顔には、何言っているんだこいつ?とでかでかと書いてある。無論モノの例えなので、本当に書いてあるわけではない。
翼で嘴を隠したチカが、シュウの耳に告げ口をした。

 

(ご主人様、毛筋ほども信じていませんよ、こいつ)
「半分も理解できていませんね?」
「う、うるせえ!」
「さて、その様子ではどうやら気付いていないようですが、貴方が乗っているその機体はDCの重要な軍事機密の一つです。民間人が知って良いものではない。その事はどうするつもりです?」
「なに?けどよ、あんなわけのわからない連中に襲われている状況だったんだぜ。誰も止める奴もいなかったし」

 

シュウの言葉に身の危険を感じさせられたマサキが慌てて抗弁する。十五の少年には邪神云々よりも、軍隊に捕まる事の方がよほど身近に感じられる危機であったらしい。
慌てた様子のマサキを冷淡な視線で見つめ、シュウがさて、と口を濁した。シュウ自身あまり良い感情をマサキには抱いていない。その癖、妙に気に掛かるのもまた事実ではあった。鬱陶しいが、心のどこかで認めているような、そんな気がする。
失った記憶の中に、元いた世界のマサキについての情報があるのだろう。
動揺を露にするマサキに、シュウが今後の方針についていくつか示唆してやった。親切心ではなく、狼狽する様子に飽きたのかもしれない。

 

「ビアン博士はなかなか話の分かる方ですし、テューディも貴方の事が気に入っている様子。貴方の態度次第ではそう大事にはならないでしょう。最悪の場合は拘束や軟禁程度では済みませんがね」
「まじかよっ!?」
「嘘をついても仕方がありませんよ。貴方の慌てふためく姿位しか見れませんしね」
(こいつ、性格最悪だぜ。しかし、マルキオ導師やあいつらにはなんて言えばいい?)

 

世話になっている孤児院の主である、穏やかな導師の静かな笑みを思い出し、マサキは内心で唸った。それでも口に残る柔らかく暖かい感触は、余韻を残していた。

 
 

ディバイディングドライバーによる歪曲空間が正常に帰し、オノゴロとヤラファスにもたらされた被害の整理が始まった。
事前に一切予兆が無く行われた破壊神の蹂躙が、実情を明確にする事が暗澹たる気持ちになるほどの被害を齎した事は、破壊された街並みをみれば誰でも分る。
MSやパワードスーツも動員して破壊された街の整理をはじめ、シェルターに避難した住民たちや瓦礫の中に飲み込まれた人々の救出作業が休みなく行われ始める。同時に、この事態を連合・ザフト両軍に知られてはまずいと即座に隠蔽工作に関する指示も出される。
この時代、NJの影響や戦闘で発生した大量のデブリなどによって、軌道上の衛星による監視や索敵などは機能していない。空の目に関しては気にしなくても良いというべきか。
また、ヴォルクルス軍との戦いの中、オーブ洋上の艦隊やアメノミハシラに連絡がつかなかった事態から推察できるように、ルオゾールの施した魔術の影響で、あらゆる情報が外界から遮断されていた為、
DC宇宙軍が本拠地襲撃の報を知ったのは襲撃が終わり、ルオゾールが姿を消した後の事だった。
せめてもの救いは、ディバディングドライバーの投入によって民間・軍事施設に及んだ被害が最悪のレベルでは無かった事と、マスドライバーが無事であった事だろう。
システムダウンしたネオ・ヴァルシオンを地下ドックに戻し、休む間もなく襲撃による混乱の事態を収拾すべく各機関に指示を飛ばしたビアンは、ヤラファス島の執務庁の一室で今回の襲撃による被害の報告に目を通していた。
黒檀のデスクを挟み黒革張りのソファに身を沈めたミナが淡々と現時点での被害報告を読み上げていた。手元の携帯端末が空中に浮かび上げた3D画面に映る文字を冷たく輝く瞳が追い、朱の唇は感情を込めずに読み上げていた。
親しき者を天に見送る時に読み上げられる弔いの詩の様だ。

 

「迎撃に出たMSの内撃破は37、撃墜は42、パイロットの負傷者は100を超える。戦闘による直接的な戦死者は0だ。全員、死霊にされたからな」
「……そうか。まだ、増えるな。民間にはどれだけ被害が出た?」
「死傷者行方不明者を合わせれば数千のオーダーに昇る。今この瞬間にも増え続けているだろう。おそらく、万の単位に届くのも時間の問題かも知れん。
こればかりは、時間をかけてもそうそう補える数ではない。今回の事で難民の流入は減るかも知れんがな」

 
 

二人の語調は極めて事務的であったが、それは心の内に抱いた感情があまりに強すぎる為だ。タガが外れかねぬ感情を抑制しようとする結果、表面的には無感情とも言える態度に繋がる。
感情的な意味合い以外にも、実際戦争スケジュールに多大な影響を与えるほどの被害が出ている。
一機当千とはいかぬまでも一機当十位の戦闘能力がある新型がいくつかロールアウトしたとはいえ、それで補えるかどうかは又別の話だ。せめてもの救いは連合、ザフト共に決戦に向けてある程度の時間を掛けて準備を進めている事だろうか。
連合はNJCの生産とそれを搭載した核動力MSの開発、MAパイロット達や新兵達のMS適応訓練。ザフトは開発済みの高性能機の量産と地上から回収した熟練のパイロット達の宇宙戦闘と機種転換への適応訓練。
どちらも数か月を有する。もっとも、同じ時間がDCに与えられていても、できる事ははるかに限られているだろう。所詮、人力、国力共に両国と比べれば最弱の小国なのである。
重々しい溜息を口からは出さずに飲み込み、ビアンは目を通し終えた書類をデスクの上に置いた。ミナの方でも告げるべき事は告げたという態度の表れか、携帯端末の画面を切っていた。
時も止っているような沈痛な沈黙は、ミナが破った。

 

「これから、どうする?最終オペレーションの実行を見送るか変更するか?」
「アフリカと南米は現状を維持だな。強いて事を仕損じれば目も当てられん。時を見誤るわけには行かぬからな。だが、連合の動き次第ではすぐに発動できるようにしておくのが無難だろう。彼らは随分と待たせてはいるが、雌伏の時はいずれ終わる。
その為に、今は耐えるほかあるまい。耐えるだけでは済まさんがな」

 

最後の一言共に猛禽の如く吊りあげられたビアンの唇に、ミナが不敵に微笑み返した。こうでなくては、という思いが強かった。

 

「具体的には?ザフトとの共闘路線は変わるまい。連合が動くのを待つのか?」
「うむ。情報が確かならば、連合がNJCの数を揃えて動くまで、ざっと二ヶ月と言った所か。その時が、この戦争の天王山となるだろう。そして、あのルオゾールとやらが動くのもな」
「あの狂人か。殺すだけでは飽き足りん、もはや滅殺せねば我らの気が収まらん。シュウ・シラカワはどうした?あやつを狙っての事だったのだろう」
「既にここを発った。奴なりに責任を感じたのか、謝罪はしていったがな。今度会う時はルオゾールの滅びる時だろう。その為の手段は用意しておくと言っていた」
「ふん。疫病神と罵りたい気持ちもあるが、その言葉を実現できるならば情状酌量の余地もあるな」

 

ミナのシュウに対する評価を否定する事は出来なかった。シュウがいなければ、という考えは、今回の被害を目の当たりにすれば誰だって考えてしまうだろう。だが、それを考えても今のこの悲劇の結果が好転するわけがない事はビアン、ミナともに理解していた。
言っても栓無き事、とミナが自分の中で結論付けるのに時間はかからなかった。
ほどなくして、執務室に新たな入室者が姿を見せた。気まずい雰囲気を全開にしているマサキとテューディの二人である。事情を知らぬビアンとミナは、勝手にサイバスターに乗ったマサキをテューディが問い詰めたのか、程度にしか想像がつかない。
二人にソファを勧める。マサキとテューディは互いにそっぽを向きあったままだ。つい先ほどの濃厚な一時の行為が二人にこのような態度を取らせている。
とはいえ、オーブ政権を転覆させた張本人を前にして、流石にマサキも緊張した様子であった。いかんせん十五の少年なのだから無理もない。

 

「マサキ・アンドーといったか。初めまして、というべきか。私がDC総帥ビアン・ゾルダークだ」
「あ、ああ。よろしく」
「ふむ、サイバスターに乗ったのは不可抗力だと主張しているわけか。テューディ、お前はどう判断しているのだ?」

 

マサキの顔をまともに見れずにいたテューディも、流石にビアンの声には反応して顔の向きを前に戻す。恥じらいやらなんやらを隠す為にあえて無表情を浮かべている辺りが初々しくビアンには見えた。中身はわりあい子供の様だ。

 

「……サイバスターは乗り手を選ぶ。マサキが乗らなかったら、今後も格納庫の奥で埃を被っていただろう。操者が見つかった事自体は僥倖だ。私としては、マサキに危害を加えるような真似は控えてもらいたいものだな。……折角の操者だ。それに……その……まぁ、その……」

 

言葉尻がやけに弱弱しくはなっていたが、とりあえずテューディはマサキの身の安全を保証する方に意見を持っている。所在なさげに俯き、両手の人差し指をくっつけてもじもじと動かしていた。

 
 

テューディがマサキの味方をするのは当然と言えば当然だろう。くくっ、と小さくミナが喉の奥で笑ったのを、ビアンだけが気付いた。
赤い髪の錬金術師の新たな一面が、ひどく可愛らしいものである事が可笑しくてたまらないらしい。ビアンも同じ意見だった。
テューディの新たな一面をのぞかせた張本人であるマサキは、何が何だか分からずに固まっている。大人達のやり取りについていけていないと言うべきなのか、テューディの反応に困ってしまったからなのか。
あまりこのままでも可哀そうかとビアンが思うのにそう時間は要らなかった。

 

「ふっ、そう気構え無くても良い、マサキ。君がサイバスターに乗った事自体は罪には問わん」
「本当に?」
「ああ。だが、サイバスターに今後君が乗ると言うのなら話は別だ。君にサイバスターに乗る意思はあるのかね?」
「そいつは……」

 

ごくりと、自分が生唾を飲み込む音が嫌に大きく聞こえた。鮮明に脳裏に思い浮かぶのは、つい先ほどまで業火に晒されていた街並みと、泣き叫ぶ人々の悲痛な顔ばかり。昨日までは戦争への不安こそあるものの、悲喜こもごもの日常が営なまれていた世界が、壊されてしまった。
それを成した者の邪悪、悪意。サイバスターを通じて肌と魂で感じ取ったソレに、マサキの中の善性が正しき怒りの炎を燃やしていた。テロによって失った両親の事も思い浮かべていた。理不尽な暴力によって大切な人の命を奪われる悲しみ、苦しみ、辛さ。
それを与えることを喜びとする様な奴らがいる。それはどうしようもなくマサキには許せない事であった。感情のままに答えを出していたならば、マサキはサイバスターに乗り続けることを選んでいただろう。
だが、サイバスターはDCの造り出した“兵器”なのだ。それに乗る事はDCに属する事を意味し、戦場に立ち同じ人間同士で争わなければならなくなるだろう。
邪悪と戦う事と戦場に出て人を殺す事を、同時に選択しうるほど、マサキの覚悟はできてはいなかった。今日の朝までただの学生だったのだ。
苦渋の色を顔いっぱいに浮かべるマサキに声をかけたのはビアンの傍らのミナだった。からかうわけでも諭すのでもなく、マサキの意志を代弁するように語る。

 

「場合によっては乗ってもいいが、戦争をするのはごめん。そんな顔だな?マサキ・アンドー」
「そう、だ。さっきのヴォルクルスとかいうやつらとだけ戦うんならおれはサイバスターに乗って闘うのを躊躇わねえ。でも、あんたらは戦争をしているんだろう?もしサイバスターに乗ったなら、あんたらと一緒に連合と戦えってんだろう?おれは、人を……殺したくねえ」
「好んで人を殺す者などそうはおらぬが、覚悟もなく兵でも軍人でもない者ならば当たり前だろう。マサキ・アンドー、お前は極めて健全だ。
だが、折角のサイバスターを無駄にするのは惜しい。しばし時間を与える。その間、ゆっくりと考えるが良い。今日の所は家へもどり家族を安心させる事だ。マルキオの所の者だったな」
「マルキオのおっさんの事、知ってるのか?」
「マルキオはあれでかなり顔の広い男で、連合やザフトでも知られている。オウカ・ナギサとククル、それにプレア・レヴェリーもお前の家族だな?」
「オウカ達がどこへ行ったのか知っているのか!?知っているんなら教えてくれ!チビ達もあいつらがいなくなって悲しんでるんだ。マルキオのおっさんはちっとも答えようとしねえし……」
「よかろう。別に代価を求めるような真似はせぬから、気にせずとも良い。お前の家族達は……」

 
 

鼻息荒く憤然と肩を怒らせて部屋を後にするマサキの背を見つめ、小さくミナが笑った。思った通りの反応だったからだ。いささか意地の悪いことをしたと思ってもいる。マサキの家族達が今どこに居るのか、それを教えたのだ。
テューディは外面は動じていない風を装っていたが、内心ではマサキの後を追うべきかどうか迷っていた。背中を押したのはビアンである。

 

「そう、迷わずに追えばよい。いやな顔はするまいよ」
「……ん、まあ。……そうさせてもらおう」

 

そそくさと立ち上がり、執務室を後にする。テューディと入れ違いでフェイルが顔を見せた。
DCの軍服にそでを通したその姿から、サイボーグである事を見つけ出すのは難しい。すれ違って部屋を出て言ったテューディの姿に何を見たのか、口元に小さな笑みが浮かんでいた。

 
 

「随分と初々しいものだな。テューディのあんな顔は初めて見たかな」
「そうか。身体の調子はどうだね?フェイルロード」
「そちらは問題ないようだ。デュラクシールの方もな。クリストフはもう?」
「ああ。よろしくと言っていた。従兄弟だから、ともな」
「クリストフがそんな事を?」
「うむ。ところで用件はサイバスターの事かね?兼ねてよりの約定の通り、風の魔装機神の操者が選ばれた時は、君に一任するが」
「いや、まだマサキの覚悟は決まっていないだろう。それでは、魔装機神操者の義務と権利に耐えられないだろう。今は、まだ会わなくても良いさ。それよりも、今はヴォルクルスとルオゾールの事だ」
「君らの世界の存在だったな」
「ああ。私としても少なからず因縁のある相手だ。彼らがこの世界で暗躍している以上、同じ世界から来た私も傍観を決め込むわけには行かない。同じ世界の者として、けじめをつけるつもりだ。その為に、貴方方に助力しよう」
「ふふ、我々の監視も兼ねてか。だが、正直に言わせてもらえば助かる。何しろ被害が被害だからな。失った分の戦力の立て直しは、当分見込みが立っていなくてな。
情けない話ではあるが、今は猫の手も借りたい。ルオゾールが姿を見せるであろう決戦まで、もう数か月もあるまいしな」
「ザフトと連合の決着か。物見高い奴の事だ。姿を見せるなら、その時だろう。そうなればクリストフも動くな。それまでに、マサキが決める事が出来るといいが」

 

かつての頼もしき戦友の姿を思い出し、フェイルはこの世界のマサキもまたそうであって欲しいと願わずにはいられなかった。それが自分勝手な期待と願望であると知りながら。

 
 

硬質の床をブーツが勢いよく踏みしめる音がいくつも重なっている。マサキが世話になっている孤児院の皆が避難し、仮住まいでもあるシェルターの中だ。見上げるほどに高い天井に、柔らかい白い照明が降り注ぎ直径100メートルほどのスペースがある。
マサキよりも小さな子供や、同い年位の者からボランティアの人たちもいる。つい先ほどまでの戦闘の恐怖が日に落とされた影の様に、全員の顔に張り付いていたが、それも戦闘の終了を告げられてからは薄いモノに変わっている。
自分の名を呼ぶ声を振り切る様に足早にマサキは人波をかき分け、シェルターの奥の一室に籠っている孤児院の院長の元へと一直線に向かう。あまりの怒りの形相に、ふだんは笑顔と共にすり寄ってくる子供達も二の足を踏んで泣き出しそうな顔を浮かべている。
今のマサキにはそれに気付く余裕さえ無かった。
扉の横に備え付けられたモニターフォンのスイッチをいれ、乱暴に部屋の主の名を呼んだ。

 

「マルキオのおっさん!おれだ。話がある!!」
「マサキ?どうしました、随分と声を荒げていますが」
「なんでもいい。それより早くこいつを開けてくれ」
「ロックはしてありませんよ。私が拒まねばならぬ者はここにはいませんから」

 

いつもの優しく静かな声が、かえってマサキには辛かった。何故そんな声が出せるのに、何故あんな事をしたのだと、やるせない怒りが湧いてくる。
マルキオの言葉通り、マサキが一歩踏み出すとしゅ、という小さな音と共に扉はスライドし、奥の椅子に腰かけちょうどマサキを振り返った初老の男性の、閉ざされた瞳を見た。
閉ざされた瞳は光を映さない。生来なのか、後天的な理由なのかはマサキには知らぬことであった。ゆったりとした長衣はどこか宗教的な、清廉な雰囲気を纏っている。そう言えば、昔は宗教家であったと聞いた事があっただろうか。
光は映さぬ瞳は代わりに色々なモノを映すらしく、マサキを振り返ったタイミングはマサキの足音や扉の開閉音、呼吸音だけで判断したタイミングでは無かった。人の心や命の色、熱が見えているのかもしれない。
精霊の加護を得たサイバスターとの接触により霊的にも物理的にも鋭敏化したマサキの感覚が、マルキオの持つ神秘性をより強く感じ取っていた。

 

「とりあえずお掛けなさい。今、お茶を淹れましょう」
「いらねえ。このままでいい」
「そう、ですか」

 

決意といえばよいだろうか。何を言われても退くつもりはない。聞きたい事を聞くまでは、引きさがるつもりはないと言外に告げるマサキの強く硬い声に、マルキオもそのままマサキの顔を見上げる。見えぬ筈の瞳は瞼の奥でしっかりとマサキの緑の瞳を見つめていた。
わずかにマルキオの顔に驚きの様なものが浮かんだ。マサキに何を見たか、それはマルキオにとっては目を見張るのと同じ感情の表現だった。

 
 

「マサキ……なにか変りましたね。今朝の貴方とは、そう、なにか眼には見えぬものが変わっているようです。なにか、貴方の周りに優しい雰囲気……風の様なものがあるように感じられます」
「……そうか」
「いえ、話を逸らしてしまいましたね。それで、私に話とは何です?無事なら無事と早く教えて欲しかったものですが」
「そいつは悪かったと思っている。それでも、おれにはそれ以上にあんたにどうしても聞かなきゃいけねえ事が出来た」
「なんです?」
「オウカとククル、それにプレアの事だ!どうしてあいつらがいなくなったのか、あんたはおれ達に教えてはくれなかった。それでもあんたの事だからあいつらの為になる事をしたんだろうと思っていた!
だけどな、オウカやククルを戦場に立たせただと!?あんたは一体何を考えてやがる!!」
「どこでオウカ達の事を……。いえ、それはこの際構うべきではありませんか。確かに、オウカやプレア達がいなくなった事には私が関与しています」
「あんた、自分が何言っているのか分っているのかよ!」
「皆がそれぞれの意思で選んだ道なのですよ、マサキ。私は彼らにより多くの道を示したにすぎません。プレアは定められた自らの命で成せる事を成す為に。オウカはその失った記憶の中の力で、多くの人々を守る事に使う為に。ククルはオウカの道を見守る為に」
「そんなの、詭弁じゃねえのか!あんたがオウカやククル達を戦場に送り出したのには変わりねえだろう!?なんであいつらにそんな事をさせる。あいつらはみんな、戦争して人を殺すの何ンか似合いやしねえやつらばっかじゃねえか」
「貴方の憤りも怒りもすべて正しいものです。ですが、彼らもまた彼らの考えの中で選び、進んだ道なのです。それを示す事が正しいと私が思った様に。マサキ、貴方が望むのなら彼らの今いる場所、選んだ道を貴方にも示しましょう。
そして確かめて来なさい。オウカやククル、プレア達が自分で選んだ道を」
「自分の目で見て、話を聞いて来いって事かよ。……分った。おっさんの言う通りにするぜ。そんであいつらを殴ってでも連れ帰ってくる。ちび達を何時までも泣かしちゃいられねえからな」
「彼らは今宇宙に居ます。そして、とある方と共に平和の道を探すべく戦っているのです。貴方はそこへまず向かうべきでしょう。そう望むのならば手配は私の方でしますが?」
「いや……そいつはいい。あんたの力を借りるのは寝覚めが悪いからな。居場所だけ教えてくれ」
「なにか、当てがあるのですか?」
「一つだけな。ついさっき出来た当てだけどよ」
「いいでしょう。オウカとククルは行動を共にしていますが、プレアは別に行動しています。今なら、おそらく……」

 

オウカ達の居場所を聞き出したマサキは、挨拶もそこそこにマルキオの居室を後にした。一分一秒でも早くオウカ達を見つけ出して、何を考えて、どう行動したのかを問いただす気でいた。
となると、やはり利用すべきはディバイン・クルセイダーズ――ビアン・ゾルダークだろう。
どういうわけか後をついて来たテューディに仲介を頼んで、サイバスターに乗る事と引き換えにして、彼らの情報を提供させるか、宇宙に上がってから別行動を取るのが手っ取り早いか。
そんな風にやや短絡的な思考を行っていたマサキの視界に、子供達に囲まれて途方に暮れているテューディが映った。
一辺に脈絡なく話しかけたり服の裾を握ってくる子供達に対してどう対応してよいか分からず、希代の錬金術師の姉は、眉をひそめてあたふたとしていた。

 

「ねーねー、お姉ちゃんはマサキにーちゃんの恋人なのー?結婚するの?」
「い、いやそれは」
「こら!くだらねえこと言ってねえであっち行ってろ!!」
「うわ、マサキにーちゃんだ!逃げろーー」
「ったく」

 

マサキの怒鳴り声に蜘蛛の子を散らしたみたいに三々五々と散ってゆく子供達に溜息をつき、マサキが済まなそうにテューディを振り返った。マルキオに話を聞きに来る前よりは幾分落ち着いた様子だ。

 

「わりい、あいつらも悪気はないんだけどよ」
「いや、子供と言うのはああいうものなのだろう?私はあまり接した事が無いから良く分からんが。それに……………………恋人と言われて悪い気はしなかった」
「へ?」

 
 

「な、なんでもない」
「?まあいいや。テューディ、決めたぜ。おれはおれの目的の為にサイバスターに乗る。その代わり、条件があるけどな」
「本気か?人を殺す事もあるかも知れんぞ。安易に決めるのは賢いことではないな」
「分かっている。なるべくそんな事にならねえようにするつもりだけどよ。どうしてもやらなくちゃいけねえ事が出来ちまったからな」
「なんだ、そのやらなければいけない事とは?」
「大事な、そう、大事な家族を見つけることさ」

 

大事な家族の事を思い出したのだろう。どこか誇らしくそう告げるマサキの横顔を、テューディが羨ましげに見つめていた。

 
 

フェイルや招いた地上各地の魔術師たちと、地底世界ラ・ギアスのラングラン王国で用いられていた大規模破壊などを抑制する効果のある『調和の結界』を疑似的に再現する事で再度のヴォルクルスの侵攻を未然に防ごうと、
議論を重ねていたビアンの耳に、テューディからマサキがサイバスターの操者になる事を申し出たという報が届いたのは、間もなくのことだった。
北京、ウィーン、ロンドン、パリ、京都、新宿、プラハ、アーカムシティ、コダイ、ヴェネツィアなどと言った世界に名だたる魔都、妖都から招いた魔術師たちは、元々はサイバスター開発と、
ビアンが元いた世界でシュウがグランゾンに極秘裏に搭載させていたカバラ・プログラムとアストラル・エネルギーの研究を目的に集めた人材だ。
テューディがDCに来た事をきっかけに、第一次魔装機開発計画とデュラクシール及びイスマイルの復元などにも協力を仰ぎ、今は対邪神などの霊的生命に対する迎撃・防御手段の構築の為に滞在をこうている。
マサキがサイバスターの操者になる事を了承した一件はビアン、ミナ、フェイルがまず耳にした。もともと、DCでオリジナルサイバスターの腕を元にDC製サイバスターが開発されていた事を知ったフェイルが、ビアンに無理を言って頼みこんだ約定の為である。
前述した、サイバスターの操者が決まったならフェイルに一任する、という案件の事だ。シンの所属するクライ・ウルブズの他に創設が検討されていた特殊任務部隊の指揮官としてフェイルを運用する事と引き換えにした約定だ。
なお、ミナは別室である。

 

「フェイルロード、マサキ・アンドーがサイバスターの操者になっても良いと申し出たそうだ」
「!本当か?そうか、だが、まだ心底から覚悟を決めたわけではないのだろうな。……一度、話がしたいが」
「構わん。君に預けるサイレント・ウルブズのメンバーにも紹介しておきたまえ。ロールアウトした魔装機によって構成される特殊部隊だが、それ故にその性質は特殊極まるものだからな」
「今更言うのも何だが、相当に反対意見も出ただろう?サイレント・ウルブズに与えられる権限は、組織と言うものの根底に反するものだ」
「かつて、君の故国であるラングラン王国でも同様に定められた事だろう?第一、君自身私が力に溺れて、かつての君の様に暴走したならばこの首を取るつもりでいたのだろう。ならば、力はあるに越した事はあるまい?」
「まるで狂人の様だ。貴方は、敗れる為に戦争をしているのか?」
「さて、な。私を打ち倒す者達が現れたとして、その者達の心の在り方次第では、老兵は去りゆくのを甘受するほかあるまい」
「死は覚悟の上と?」
「もとより死した身。新たに得た生は、己れの思うように使うつもりだ。もっとも、ただ敗れるつもりはない。もしも、ナチュラルとコーディネイターという目に見えぬ枠を取り払う事が出来ず、
私を打ち倒す事が出来ぬと言うのなら、その時は我らDCがこの不毛なる争いの続く世界を支配するまでの事」
「……ひょっとしたら世界に混乱を齎す者は、本当は善人の方が多いのかもしれんな。貴方を見ていると、ふとそう思う」
「私は世界に新たな争乱を齎した極悪人に過ぎんよ。いずれにせよ、人殺しの謗りは免れん」
「謙遜は美徳とは限らない。ビアン総帥、願わくは貴方が手にした力で道を誤る事の無き事を精霊に祈る」
「気持ちはありがたく受け取っておこう」

 

過ちと知りながら過ちを犯し、そして望むままの結末を迎えた者同士の共感。それを最後に、フェイルは執務室を後にした。DC親衛隊ラストバタリオンに存在する特殊任務部隊ウルブズ。
その二つ目のウルブズ――サイレント・ウルブズが、この日その存在の始まりを迎えようとしていた。
サイバスターの件が一区切りを迎えた、と一応言えるだけの状態にはなったが、ビアンに休む間は無かった。ヴィガジ、アギーハ、シカログら三人の異星人達の扱いに関して、まだ決定が降されていなかったためだ。

 
 

今は席をはずしていたミナが、彼ら三人の尋問に当たっている。彼ら三人の乗っていたガルガウ、ドルーキン、シルベルヴィントと言ったEOTそのものの機動兵器達が、そろってゾンビーMSやデモンゴーレム、ヴォルクルスとの戦闘によって
機能不全というか、壊れてしまった為に、三人を拘束する事はさほど難しくはなかった。
ソキウス達を護衛の代わりに連れたミナが尋問している部屋に、ビアンが顔を見せたのは、フェイルが退室してから間もなくのことだった。それぞれ別々に尋問を重ねていたが、今は一通り済んだのか一室に集めている。
本来用いられる尋問用の閉塞感の強い閑散とした部屋ではなく、高級ホテルの一室の様な部屋であった。用意された椅子には腰掛けず、立ったままの三人が、逆に優雅に腰を下ろし手ずから淹れた紅茶を口にしているミナに目線を集めていた。
ミナの背後と脇を固めるソキウス達は無手であるが、いざミナの身に危険が迫ったなら軍服の袖口に仕込んだトリックホルスターの小型拳銃や、襟に忍ばせた薄さ0.1ミリの特殊鋼のナイフが閃光の速さでその細い手に握られているだろう。
壁際に身を寄せたシカログは目を閉じ瞑想にふけいる高徳の僧の様な静謐を醸し出し、その傍らではアギーハが油断ならぬ様子でミナとソキウス達に視線を這わせている。このメンツの中では最も気の短そうなヴィガジは、意外に動揺した様子は見せずに黙って腕を組んでいた。
常人なら一分で息が詰まってしまうような雰囲気のままどれだけそうしていたか、ビアンがようやく姿を見せた。瞳を閉ざしていたシカログも、本命の登場に瞼を開き壁際から巨体を離す。
ミナなどは来るのが遅いぞ、と目線で伝えている。口元に浮かぶ微笑はどこか悪戯っぽい。

 

「待たせたようで済まんな。諸君らが、善意の協力者かね?」
「ビアン・ゾルダークか」

 

善意の協力者と言う、皮肉ともとれるビアンの言葉に応えて、唸る様にビアンの名を呟いたのはヴィガジだ。かつてゾヴォーグ――地球ではインスペクターと呼ばれた彼らが危険視していた地球人の一人が、今目の前に居るビアン・ゾルダークだった。
かねてより地球に干渉していた彼らインスペクターの存在に気付き、インスペクターの武力侵攻を予見しこれに対抗するためにディバイン・クルセイダーズを発足させ、異星からの侵攻に対抗できる戦力を鍛え上げようとした男。
結果的にはバルマー――エアロゲイターの方が先に地球に武力侵攻したとはいえ、ビアンがいなければ地球は異星人の侵攻に対して、少なくとも十分な対策を打てずにいただろう。
そう考えれば、楽観視できる相手では無かった。行動力、判断力共に大胆極まる厄介な手合いだ。
一方でビアンからすれば、既にエペソから得た銀河勢力のデータと今は北アフリカ共同体を率いているバン・バ・チュンからの情報で、ヴィガジらがいわゆるゾヴォーグと呼ばれる星間国家連合の一翼を担う勢力の一員であり、
かつて元いた新西暦の世界で侵攻を予見していた異星人であると言う目星を付けていた。
搭乗していた機体の状況から判断して、彼らもまたビアン同様に戦いに敗れ、失った命をこの世界で拾ったのだろうと言う事は容易に想像できた。
ではなぜ仮にも地球と呼ばれるこの星の住民たちを守る為に、満足に動かない機体で出撃し闘ったのか、という事に合点がいかない。
少なくとも、地球人を対等と見ている手合いではないはずなのだ。下手な小細工よりも、懐の切り込んだ方が、どうなるにせよ話は進む。ビアンはそう判断した。

 

「私の名を知っていてもらえて光栄だ。だが、私の名を知ったのはこの世界でかね?それとも君らの生前の世界でかな?インスペクターの諸君」
「あんた、なんでその事を知っているんだい?」
「よせ、アギーハ。ふん、どうやらおれ達の知るビアン・ゾルダークか、限りなく近い存在の様だな。DC内部におれ達の存在を知る者がいるのか?」
「まあ、そう言う事になる。地球人だけではなく異星人の死者もまたこの世界に存在していると言うのは、いささか興味深い話ではあるが……それよりも今は君らの今後の処遇について話し合わなければなるまい」
「ほう?まるで交渉の余地があるような言い方だな。野蛮人がもったいぶった言い回しをする」
「武力侵攻を行う君らもそう変わりあるまい。我らよりもはるかに優れた技術を持ちながら、メンタル的な面ではそう違いが無いように見受けるがね。さて、実のところ私が知りたいのは、君らが何故、市街を守る為に戦ったのかと言う事だ。
調べさせてもらったがどうやら諸君らは、偽造ではあるが戸籍を持ち、それぞれ市井に紛れて日常生活を送っていたようだが……情が湧いた、とでも?」

 
 

「…………」
「勘違いをするな、ビアン・ゾルダーク。我々文明監査官の使命はどこへ行こうとも変わらぬ。この地球も貴様がいた地球同様争いをやめる事を知らず、軍事技術の発展や闘争能力に突出した人類の支配する危険な星。
ましてや先程のわけのわからん化け物などが現れる始末。貴様らの種としての凶暴性以上に強大な力を付ける前に、我々の手である程度御せる連中の選別を行おうとしたまでの事よ」
「では、我々DCならばまだ、他の勢力よりはマシだと結論を出した為だと?連合やザフトの方がより君らにとって優秀な人類であったならば、彼らに与すると言う事と解釈させてもらうが?」

 

ヴィガジ自身は否定するだろうが、彼ら三人がヴォルクルスの分身達と闘ったのは、やはり愛着を持ってしまった地球の人々の為であった。アギーハやシカログらは既にある種の諦めと、
地球人類――というよりは旧オーブで過ごした日々の思い出がある為戦った事を自認しているものの、ヴィガジばかりはそれを断じて認めてはいなかった。
苦し紛れにビアンに告げた理由を大義名分にして、認めてはならないと信じている本心を欺き続けるつもりでいるのだ。

 

「好きに取るがいい。我々の行動原理は変わらん。我らゾヴォーグにとって望ましい勢力に力を貸し、文明監査官としての本分を全うするまでの事」
「しかし、補給も修理もままならぬのであろう?現にお前達の乗っていた機体は一つ残らず壊れた」

 

それまで黙って耳を傾けていたミナが、心の奥底を見透かすようにヴィガジの瞳を正面から見据えた。ミナの言う通り、ガルガウを始めとした三機の機動兵器は蓄積したダメージと今回の戦闘による破損の為に完全に沈黙し、今はオノゴロ島の施設で解析・修理が行われている。
口では何とでも言えるが行動に移す事はできないだろう?という意味を含めている。そればかりはどうしようもないのか、ヴィガジも口を噤む。実際問題、ガルガウを動かした時は後の事など頭にはこれっぽっちも無かったのである。
ただ、ヴィガジがこの世界で過ごした日常を破壊した化け物共が純粋に許せなかっただけなのだから。
ヴィガジやアギーハらの様子から、万分の一くらいの確率でそうかもしれないと口にした事が、途端に現実味を帯び、ビアンは小さくはない驚きに見舞われた。
この三人の異星人達は、本当に力無き人々が言われなき暴力に襲われた事に耐えられなかったのかもしれないのではあるまいか。
だとするならば、彼ら三人はどう扱うべきか……。

 

「いいだろう。君らの考えは分った。では、君らの機体の修復と引き換えに、こちらの条件を聞いては貰えぬかな」
「取引に応じるとでも思っているのか?どうせ貴様らの駒と成れと言う程度の事だろう。貴様ら地球人の先兵となり、同族同士の殺し合いの手駒にされるつもりなど毛頭ない。捕虜の辱めを受けさせるなり、我らの命を奪うなり好きにするが良い!」
「…………」
「あたいも今回ばっかりはヴィガジに賛成だね。もちろん、ダーリンもさ。あたい達にも譲れない一線て言う奴はあるのさ。それくらいは分るだろう?ビアン・ゾルダーク」
「ふふ、それならば安心するがいい。君らに協力を願いたい部隊は、少しばかり、いや大いに特別でな」
「ビアン、こやつらをサイレント・ウルブズに組み込むつもりか?」

 

ひときわ冷たくなったミナの声音に危うい響きを聞き取り、ヴィガジらも否応なしにビアンの言葉に耳を傾けざるを得ない。

 

「もともと彼らの様なものが望ましい部隊と言えるだろう?第二のウルブズの特質を考えればな。そしてその特権を行使するためには、DC本隊に匹敵するかそれ以上の力もまた必要。彼らならば申し分ない」
「後世の歴史から愚か者、あるいは狂人のそしりは免れぬぞ?」
「歴史は、正しいか正しくないかを決めはせん。所詮、その時々によって相対的に変わる評価だからな。今を生きる我らに重要なのはまず『今』とそこから紡ぐ『未来』だ。その未来に災厄を齎すかもしれぬなら、それを防ぐ準備もしておかなければなるまい」
「貴様ら、一体何を話している?」
「サイレント・ウルブズに与えられる特権は特別でな。来たまえ、ちょうどサイレント・ウルブズの指揮官がいるのでな、彼と他のウルブズのメンバーの前でそれを説明しよう。我らに諸君らの力を貸すか否か、その後に結論を出しても遅くはあるまいよ」
「……」
「どうする、ヴィガジ?あたいとダーリンはそれでも構わないけどさ」
「ふん、確か、虎穴に入らずんば虎児を得ず、とかいう諺があったな。よかろう、貴様の思惑に乗ってくれる」
「ふふ、そうでなくてはな」

 
 

愉快気に笑うビアンの掌で踊っているようでどこか釈然としない気分だったが、なるようになれとばかりに、ヴィガジ達はビアンの後に続いた。

 
 

既にフェイルはテューディに連れられたマサキと会っていたが、その途中でビアンからの連絡が入り、サイバスターの操者となる事と引き換えに背負わなければならない義務と権利についてはまだ何も語ってはいなかった。
サイバスターとイスマイル、デュラクシール・レイ、ブローウェルカスタム専用の地下格納庫の一角である。50メートル級のデュラクシール・レイの整備も可能とする為に通常のMS用の格納庫よりも広大で、もともとは造船ドックか何かの設備だったようだ。
どこか親しみめいたものを感じさせるフェイルとの出会いに、最近はとみにデジャ・ヴュを感じるなと心の中でマサキは首を捻っていたが、本当の所では一刻も早くオウカ達を探しに行きたい衝動に駆られてもいた。
若干、テューディとの気まずさが残っているのも理由の一つだ。一方でテューディは初めて会ったとは思えない、長年の友人の様な二人のやり取りがどこか羨ましく、そう感じる自分がまるで子供の様で多少苛立ちを感じていた。
マサキ相手となると感情の制御がうまくいかないようだ。もともと感情を抑えるタイプではないのと、そういった学習を行う機会に恵まれなかったせいもある。前者は矯正の余地があるし、後者もこれからの人生次第であろう。
なんにしろ、一番テューディが変わるとしたら男に違いあるまい。
照明が落とされた格納庫の一角には、暗闇にまぎれた機体がいくつか存在しているようだ。サイバスターと同じ程度の全高からして、通常のMSとは異なる型のものだろう。シルエットはどれも直線的だ。
そのまま待つこと数分、オールトと共にビアン、ミナ、ヴィガジ、アギーハ、シカログ。そしてインスペクターの三人に対する警戒を緩めぬソキウス達が周囲を固めている。
フェイルが、ビアンの連れている異星人(地底世界出身のフェイルにはあまり実感の湧かない言葉だが)達の姿に、端正な眉をわずかに寄せる。だが、この場に彼らを連れて来た事が何を意味しているのかを理解した。
ここに連れてきたと言う事が意味するのは、サイレント・ウルブズの一員として彼らをスカウトするつもりなのだろう。
アギーハの顔を見つけたマサキは、なぜ彼らがここに居るのか、とこちらは分り易く不思議そうな顔をしている。もとの世界でさんざん煮え湯を飲まされた風の魔装機神の操者の姿に、ヴィガジの瞳が危険な角度に吊り上がるが、
事前にアギーハに別人である事は聞かされているからそれ以上の事は起きなかった。
この場に集まった面々を見回し、往年の大俳優の様に悠然と胸を張り口を開く。自然とその場にいる人々の注意を惹きつける天性の才能めいたものが感じられる仕草だった。天はいくつもの才能をこの男に与えたようである。

 

「さて、この場に諸君らを集めたのには、無論分けがある。現在我々ディバイン・クルセイダーズの親衛隊ラストバタリオンに属する特殊任務部隊ウルブズを新たに創設する事になった。アメノミハシラに上がったクライ・ウルブズに続く二つ目のウルブズ。
その名をサイレント・ウルブズ――静かなる狼達。そのメンバーとして君らを招集したのだ」

 

やはり、こうなったではないかと百面相みたいに表情を変えるヴィガジとマサキ。根っこの部分の単純さは似たものであるらしい。二人の反応を見てから、ビアンは悪戯を仕掛けた子供の様な、どこか次の反応を楽しみにしているような笑みを一瞬だけ口髭の奥に浮かべていた。

 

「ただし、サイレント・ウルブズにのみ特権と義務を与えるモノとする。フェイルロード」

 

ビアンの声に応じ、フェイルが一歩前に踏み出した。かつてラングラン王国で魔装機神操者に課せられていた義務と権利。それがサイレント・ウルブズにも課せられている。

 
 

「私はフェイルロード=グラン=ビルセイア。サイレント・ウルブズの隊長を務める事になった。よろしく頼む。さて、細かい話は後でするとして、ビアン総帥の言う我々サイレント・ウルブズに与えられる義務と権利について話そう。
心して聞いてほしい。我々サイレント・ウルブズは基本的にDCの傘下にあるが、場合によってはその命令に従う必要はなく、独自の判断でもって戦う事を許されている。あらゆる勢力、世界の命令系統に属さず闘う事が出来る。
その代り、世界に対し災いが訪れた時、命も含めあらゆる全てを投げ打ってこれと対峙しなければならない。
仮に、DCが世界にとって害悪以外の何者で無いと判断したならばこれを討つ。その中にどれだけ親しい者がいようと。たとえそれが愛しいものであっても、家族であっても、友人であってもだ。
サイレント・ウルブズはいかなる勢力にも支配されぬ代りに、あらゆる全てを敵とする事もある、と言う事だ」
「ふざけた話だな。自分の喉笛に噛みついてくるかもしれぬモノを自らの懐に飼うつもりか、ビアン・ゾルダーク!?」
「諸君らの立場を考えれば都合の良い存在だろう?世界にとって危険分子と見なしたならば己の持てる全身全霊を持って私を討つがいい。
連合の存在が害悪であると考えたならば連合を、ザフトこそが平和の道への阻害であると判断したならばザフトを討て。
だが、何者にも支配されぬと言う事はいかなる権力の庇護をうけぬと言う事だ。言動の全てが己に責任となって返ってくる。世界に溢れる怨嗟を向けられるかもしれぬ。手を血で染めてなお足りぬほどに屍の山を気付かねばならぬかもしれぬ。
その全てを受け止める覚悟を持つ事がサイレント・ウルブズの隊員となる事の最低条件だ」

 

常識的にはあり得ぬ権限を与えられたサイレント・ウルブズの存在に、ヴィガジがビアンの正気を疑う。だが、それに答えるビアンの声音こそが、なによりもこの男が紛れもなく正気である事を証明していた。

 

「ふん、なるほどな。ただの手駒にしようと言うわけではないと言う事か。やはり危険な男だな。貴様は!」
「褒め言葉として受け取っておこう。それで、返事は今すぐ出るのかね?しばし時間をおいても構わぬが」
「いや、この場でさせてもらおう。いいだろう、貴様の口車に乗ってくれる。いつか、貴様らの存在が宇宙の秩序を脅かす危険なものだと分ったならば、そのそっ首を縊り落としてくれる。異存はないな、アギーハ、シカログ!」
「…………」
「何を勝手に決めてんのさ。って言いたい所だけど……。そうだねえ、店も吹き飛ばされちまったし、今日から一文なしになったわけだから、それでいいんじゃない?一応文明監査官としての名目もたつし……いや、立っちゃいないか?」
「そう言う事だそうだ、フェイルロード」
「ええ。頼もしいメンバーです。……さて、マサキ。お前の答えは、もう決まっているか?」

 

フェイルにとっては、最も返答が気になる相手であるマサキに矛を向けた。かつてサイバスターの操者となったマサキに課せられた義務。
あらゆる世界の危機に立ち向かわなければならない義務故に、ラ・ギアスの武力統一を目指したフェイルを討ったあの世界のマサキと同じ事が、この世界のマサキにできるだろうか?
いささかこちらの世界のマサキの方が幼い事を考えれば、返答は期待できないかもしれない。
マサキは、ビアンとフェイルが提示した己の運命の岐路に、戸惑っているようだった。風の精霊が導き、死人であるはずの二人――奇しくもそれぞれの世界のマサキがその命を奪った――に告げられたサイバスターの操者となる事の権利が、
重く、物理的な重さを持ってその肩にのしかかっているかの様に感じているのだろう。
テューディが、サイバスターに乗る事が戦いを招くと言った事の意味は、『これ』だったのだろう。サイバスターという強大な力が世界の秩序を乱さぬために負わなければならない義務。強大な力にはそれに等しい責任が課せられる。
そうして、世界のバランスは保たれていると言う事だろうか。
マルキオによって宇宙に上がったと言うオウカ達を探す為にサイバスターの操者になる事を引き受けるつもりでいたマサキには、予想外の事態であった。
やがて、粘つく唾を飲み込んで腹を括り、マサキは口を開いた。

 
 

「おれは……正直、そんな事を言われても良く分からねえ。格好着けても仕方ねえから白状するけどよ、今朝までただの学生だったんだ。戦争もテレビの向こうの出来事みたいに感じていた。
ただ、おれみたいにナチュラルだコーディネイターだっていがみ合っている奴らの所為で誰かが死ぬのは許せねえ。今日のヴォルクルスだかなんだか言う奴みたいに、人が死んだり、街が壊れるのを楽しんでいる様な奴はもっと許せねえ。
サイバスターに乗る事がそう言う奴らと戦うって言う事で、戦争なんかと関係ない人たちを守れるって言うんなら、おれは、戦えると思う。でも……人を殺せるかは、分からねえ。ただ、戦うって事の意味だけはこれからも考えるつもりだ」
「そうか。悪くない答えだ。迷いを抱えている間はまだ成長できる、あるいは変化できる証拠だ。お前が感じている迷いや悩みを否定する必要はない、それに対する答えを模索し続けれそれでいいと、私は思うよ。
まあ、堅苦しい話はこれまでにして、これからよろしく頼む、マサキ。私の事はフェイルで構わない」
「ああ、よろしく頼むぜ。フェイル」

 

差し出されたフェイルの手を、マサキの手がしっかりと握った。

 
 
 
 
 

マサキ・アンドーが仲間になりました。
テューディ=ラスム=イクナートが仲間になりました。
ケビン・オールトが仲間になりました。
ヴィガジが仲間になりました。
シカログが仲間になりました。
アギーハが仲間になりました。
テンペスト・ホーカーが仲間になりました。

 

サイバスター(CE版)を手に入れました。
イスマイルを手に入れました。
デュラクシール・レイを手に入れました。
ブローウェルカスタムを手に入れました。
ガルガウを手に入れました。でも壊れました。
ドルーキンを手に入れました。でも壊れました。
シルベルヴィントを手に入れました。でも壊れました。
ヴァルシオン改を手に入れました。
ネオ・ヴァルシオンを手に入れました。でも調整中です。

 

ディバイディングドライバーを手に入れました。
旧オーブ領に調和の結界が施される予定が立ちました。