| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| 百花繚乱にいた頃の私は、いつも皆の視線を集めていた。 |
| 百鬼夜行の生徒 |
| ねえねえ、アヤメ。 |
| 百花繚乱の部員A |
| あの……アヤメ先輩……。 |
| 百花繚乱の部員B |
| アヤメ委員長だ! |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| 憧れと羨望に満ちた視線が、私を縛りつけていった。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| 「百花繚乱の委員長」の仮面を外せなくなっただけじゃない。その仮面が重いことも、私を傷つけ始めていることも、誰にも知られてはならなかった。 |
| 百鬼夜行の生徒A |
| 花々も羨むあの凛としたお姿……本当に素敵ですよね、アヤメ委員長。 |
| 百鬼夜行の生徒B |
| 容姿端麗で品行方正……。 |
| 百鬼夜行の生徒C |
| 百花繚乱のリーダーたるもの、あれくらい才色兼備な方でないと……。 |
| 百鬼夜行の生徒D |
| こ、これくらいのお願いで……。 |
| 百鬼夜行の生徒たち |
| ……気を悪くなんて、しないよね? |
| 百鬼夜行の生徒たち |
| 平気平気!だって、アヤメ委員長だよ? |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| うん、大丈夫!なんでも言ってね! |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| ――そんなの嘘。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| 張りついた笑顔の仮面は、私を苦しめ続けていた。みんなの声に応えれば応えるほど、期待と憧れの視線は増えていって……何度も、私の顔を作り変える。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| いつも笑っていて、眉根を寄せることなんてない。不機嫌になるなんてもってのほか。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| 困った時にはいつでも駆けつける。誰もが目を背けたくなるようなことだって、全部向き合って。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| それでも、疲れて立ち止まってしまう日はあった。そんな時は―― |
| 百花繚乱の部員A |
| 今日は委員長らしくないですね。 |
| 百花繚乱の部員B |
| 何かあったのですか? |
| 百花繚乱の部員C |
| 少し休めば、いつもの委員長に戻れますって! |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| ……いつの間にか、みんなは仮面を本当の私だと思うようになった。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| 私はどうしてこの仮面を着けたんだろう。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| みんな、どうしてこの仮面が私だと思ったんだろう。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| どうして、自分で解決できないんだろう……? |
| 百花繚乱の部員 百花繚乱紛争調停委員会 |
| 私、アヤメ委員長みたいに上手くできなくて……。 |
| 百花繚乱の部員 百花繚乱紛争調停委員会 |
| アヤメ委員長は、何でもできてすごいですっ! |
| 百花繚乱の部員 百花繚乱紛争調停委員会 |
| それができるのは、委員長だけですよ! |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| これが仮面なのか、本当の顔なのか……次第に分からなくなっていった。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| でも、闇の中で影と向き合った時に――百蓮の力を使えないことに気づいた。……気づいてしまった。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| 自分は、完璧なんかじゃない。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| それは委員長として許されることじゃない――なのに、胸をなで下ろす「私」もいた。 |
| 当然だよ。 |
| 仮面は、所詮仮面。 |
| 私じゃないんだから。 |
| この責任は―― |
| 私のものじゃないんだから。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| でも、クズノハ様なら……全部解決してくれるはず。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| うんざりするような頼み事も、みんなの視線も――クズノハ様なら、代わりに引き受けてくれるんだ。 |
| ナグサ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| もう帰ろうよ。 |
| ナグサ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| クズノハ様なんて、いない。ただの言い伝えで―― |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| あの子は、迷わずそう言った。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| 泣き虫のくせに。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| 一度も私に勝てなかったくせに。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| へばりつく視線から逃げられず、仮面も外せなかったくせに。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| …………。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| ……バカな女。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| だからいつまでも、そこから出られないんだよ。 |
| ??? |
| 何か心配事でも? |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| 少し、昔を思い出してたの。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| 私を頼った、みんなのこと。 |
| アザミ 花鳥風月部 |
| ふむ? |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| 私を求める……みんなの視線。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| 百鬼夜行の連中は相変わらずだね。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| みんな失敗や後悔を恐れて、誰かにやってもらおうとする。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| でも、いつまでも見守ることなんて……できない。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| 結局、みんなの視線に応えられなかったんだ……私は。 |
| アザミ 花鳥風月部 |
| 今のあなたならできるのでは? |
| アザミ 花鳥風月部 |
| 心に秘めし後悔と憎悪が、華やかに咲き誇る今の怪談に、できないことなど。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| ……そうだね。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| 応えるのは、もうおしまい。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| 今度は、みんなが私に見られる番。 |
| アザミ 花鳥風月部 |
| ああぁ……っ!美しい……。 |
| アザミ 花鳥風月部 |
| そう、これこそ私の求めていた光景……! |
| アザミ 花鳥風月部 |
| やはり私は、間違っていなかった。 |
| アザミ 花鳥風月部 |
| いかにおぞましい異形といえど、対峙しなければ所詮は他人事。恐怖を与える相手にも、限りがあります。 |
| アザミ 花鳥風月部 |
| ですが……この「稲亭物怪録」から生まれし百物語は、性質が違う。悍ましい絵画のように新鮮な恐怖を人々へと注いでくれるのですよ。 |
| アザミ 花鳥風月部 |
| どこへ逃げようと、へばりつく視線からは逃れられない。 |
| アザミ 花鳥風月部 |
| 嗚呼……この美しき百物語を何と呼びましょう。 |
| アザミ 花鳥風月部 |
| ――数多の目が咲き乱れる中、たどり着く先は唯一の恐怖。 |
| アザミ 花鳥風月部 |
| そう……「ヒトツメ」とでも呼びましょうか。 |
| アザミ 花鳥風月部 |
| アヤメ……いいえ、ヒトツメよ。 |
| アザミ 花鳥風月部 |
| 誰かに縋りつくことしかできず、あなたを縛りつけていた者たちに――その想いを味わわせる日がきた。 |
| アザミ 花鳥風月部 |
| 他人の視線に怯える者には、瞬きすら許されないということを教えてあげなさい。 |
| アヤメ 百花繚乱紛争調停委員会 |
| …………。 |