CyberSphere☆Days!/フリーザーの恩返し

Last-modified: 2016-10-13 (木) 01:27:35

ミタマ「ソレイユ。どういう理屈か説明してくれませんかしら? 獣化できるのは、妖狐やガルーといった特定の種族のみのはずでは?」
わたくしがなぜソレイユに、姉さまたちにこのような質問をしているのかというと、実際にこの目で姉さまたちが人外となるところを見てしまったから。
異界の兄妹の兄・シグレが申し込んでいた七泊八日バレンヌ帝国観光ツアー出発直前、サイバースフィア内での出来事でしたわ。
オフェリア「落ち着いて聞いて。私たちは契約によって異界の聖獣と合一化した選ばれし少女――言うなればピュエラ・マギ・ポケモン・トライアングル! 聖獣達は私達と融合し、暗躍する悪の組織の手によって殺戮人形にされてしまったダークポケモンを救い出す力をもたらしてくれたのよ。でも、正体を見られてしまったからには仕方がないわ。ミタマ、あなたもピュエラ・マギ・ポケモン・トライアングルの協力者となりなさい」
ミタマ「ぴゅえら……ポケモン……とらいあんぐる? 失礼ですが、オフェリアの口から言われても説得力が無いですわ。」
オフェリア「ガーン!! 私、ちゃんと事実を言ったのに……。まぁ、確かにキラキラワードで盛ったりもしてるけど……」
ミタマ「そんなことよりわたくし、早くヤウダに着かないかと待ち遠しいんですの。聞けばヤウダは白夜王国と似た文化圏なんだとか」
この時は人間が他の生物に変わってしまうことがにわかに信じられなくてついつい尋問してしまいましたが、根本的にはそのことはどうでもよくて、そんなことよりも早くヤウダの俳句というものを知りたくてうずうずしていましたわ。むしろ、ヤウダの俳句への期待に獣化のことが霞んでしまいましたの。
それからツアーは進み……目的だった2日目のヤウダを堪能し、ロンギットに差し掛かった4日目。南側の方にあるトバという街は高級食材海燕の巣で有名で、そこで昼食を取る手はずだったのですけれど、『ツバメの巣がない』というハプニングが。そこでじゃんけん大会で負けたわたくしは罰ゲームとして自らがツバメの巣を取りに行く羽目となり、町の東にある断崖絶壁に赴いたのですが……
なんとか崖登りをしててっぺんまでたどり着くと、そこには雪をたたえたような、美しい羽毛を持った鳥の姿が。弱っているようでしたので、適当な祓串で適当に回復してあげましたわ。それで傷こそ癒えたようですが、依然として元気は無いようで。
調べたところ、どうやらこの鳥は氷タイプのポケモンのようで、ゆえに熱が苦手なようでしたので、早いところ涼しい場所に行きましたわ。そんなわけで、ガイドさんに無茶を言って、早めにナゼールに行きましたの。ナゼールは帝国領最南端、最も寒冷な地域なんですのよ(ちなみにバレンヌ帝国は南半球に存在するようですわ)。
そうしたら氷の鳥は元気を取り戻し、みるみるうちに回復。ガイドさんに取り繕ってもらって一足先にサイバースフィアに戻ってもらいましたの。
こうして何事も無く1週間のバレンヌ帝国ツアーを楽しみ、元の世界へと帰ってきたのですわ。


……と、ここまで駆け足であらすじを紹介してしまいましたが、もう少し踏み込んでおきたいことはこの後にあるからなんですの。


あれから、子世代全員でサイバースフィアに行くことはあまりなくなり、各々が思い思いにサイバースフィアや異世界に行くことが多くなってきた頃。
いつものように俳句を詠むわたくしの天幕に、突然の訪問者が現れたのです。それは、まるで氷のような長髪を持つ見目麗しい青年でしたの。
トオルさんだいたいこんな感じ.jpg
青年「あの……拙いことをお聞きいたしますが……ミタマさんって方を知りませんか? 私は彼女に用事があるのですが……」
ミタマ「ミタマ……? それはわたくしのことですが……」
青年「ミタマ……君が、ミタマ……!!」
そう答えると、青年は突然フランクな態度になりわたくしに抱きついてきたのです!
ミタマ「きゃあっ!? と、突然なんですの!?」
青年「あ、ごめん、自己紹介が遅れたね。僕はトオル。君を探してサイバースフィアからやってきたんだ」
ミタマ「トオル……? はて、わたくしはそんな名前に聞き覚えなどありませんが……」
トオル「実は……僕は君に恋をしてしまったらしい。平たく言えば一目惚れってところかな。」
一目惚れ。その言葉にわたくしが反応したのは言うまでもありませんわ。そんな、わたくしなんかに……!!
トオル「……ねえ、お願いだ。僕をこの軍の一員として迎え入れてくれないか?」
なんと、わたくしたちの軍に加わりたいと志願するトオル。確かにこの軍には一般兵もたくさんおりますし、非戦闘員も結構います。それに、ここはマイキャッスルと呼ばれる星界の小世界。一人増えたって平気ですわ。
ミタマ「構いませんけど……トオルは何か、武術や魔術などに長けているんですの?」
トオル「いや、僕はただの村人だ。君たちのように戦う力は持ち合わせていないさ。ただ、ちょっと機織りを嗜んでいてね。この軍に糸はないかな。もし糸を僕にくれれば、きっとすごい織物を作ってみせるよ」
ミタマ「糸でしたら……服飾に詳しいオボロさんのところに行けばきっとたくさんもらえますわ。難しい話ではありませんわね」
どうやら、トオルは機織りができるらしく、それで織物を織りたいので糸が必要なんだとか。彼の願いを叶えるべく、オボロさんのところに行って適当量の糸をもらってきてトオルにあげましたわ。
ミタマ「……どうでしょうか?」
トオル「うん、これくらいあれば大丈夫だ。それじゃあ今度は機織り機を貸してくれないかな。できれば完全個室に置いてもらいたいな」
機織り機。確かこれもオボロさんが持っておりましたわね。今日は彼女に頼りっぱなしですわ。でも、完全個室ですか。流石に交渉しなければいけませんわね。
ミタマ「わかりましたわ。なんとか持ちかけてみます。しばし、待っていてくださいな」


オボロ「え? 機織り機を個室に持って行きたいですって? 構わないけど……急にどうしたの? 機織りに興味を持ったのはともかく、どうして個室を望むのかしら?」
ミタマ「それは……えっと……機織りを独学で頑張ってみたいって思ったんですの」
トオルの存在は言えなかった。何だか……言ったら、彼が遠くに行ってしまいそうで怖くなったから。
オボロ「独学……ねぇ。そんなことしなくても私が手取り足取り教えてあげるのに」
ミタマ「いえ、お気持ちだけ受け取っておきますわ。では……ありがとうございます」
オボロさんから借りた機織り機は半日で完全個室に設営され、準備は整いましたわ。そして、トオルは機織り機のある個室に入っていき、機を織り始めたのです。
トオル「それじゃあ、僕は今から機を織る。でも、一つだけ守ってほしいことがあるんだ」
ミタマ「守ってほしいこと……?」
トオル「僕が機を織っている間は、絶対にこの部屋の襖を開けないで欲しい。決して、部屋を覗かないでくれ」
ふすまを閉めるとそれっきり、織物を完成させるまでトオルは部屋の外に出ることはなく、食事にも訪れることはなかったのです。


トオルが部屋の外に出たのはそれから5日後のことで、彼の手には氷のようなきらめきを宿した織物があったのです。
ミタマ「まあ、この織物、まさかトオルがずっと休まずに織っていましたの? まるでこの世のものとは思えないほど美しいですわ……。ここで一句。雪のよう いと美しき 反物よ」
トオル「そう言ってくれると嬉しいな。……そういえば、この世界はもうすぐ夏じゃないか。でも、この生地を使えば夏を乗り越えられる。着るだけで涼しくなれる快適素材なんだ」
ミタマ「まあ。では軍の資金もかなりの額となりますわね! 早速お母様に見せてきますわ!」
と、この生地のあまりの美しさに、ついついお母様に見せたくなってしまいましたわ。


カムイママ「何ですかこの美しい織物……何だか涼しいです。そうですね……これから夏がやってきますし、この生地で着物を作ればきっと快適に過ごせるはずです!」
ミタマ「まあ! お母様に喜んでいただけたようで何よりですわ! 実は先日、トオルという男が非戦闘員として仲間入りしたのですが、この織物は彼が作ったのです。」
カムイママ「そうですか。トオルさんはきっとさぞかし高い技量の持ち主なんでしょうね。もっと糸を用意しますので、軍のみんな用にもこの織物を織ってもらっていいですか?」
ミタマ「ええ。早速たくさんの糸を持ってきて、彼に生地を作ってもらいましょう!!」
お母様の発案により、もっとたくさんの『ひんやりする織物』をトオルに作ってもらうことになりました。さっそく彼に追加の依頼をしなければ!


トオル「いいよ。ミタマがそう言うなら、僕はもっと機を織るよ」
ミタマ「お願いしますわ。私達が快適に夏を過ごすために、涼しい織物をたくさん作ってくださいな」
トオル「わかった。……重ねて言うけど、絶対に部屋を開けないで欲しい」
ミタマ「わかっておりますわ。出来上がるまで、私達には待つことしかできませんのね」
トオル「仕方がないんだ、わかってくれ」
するとトオルはたくさんの糸をもらい、機織り機の個室のふすまを閉じましたわ。


それから一週間と数日。トオルは依然として襖を開けることなく、飲まず食わずで機を織っているようでしたわ。
流石にこれ以上の不眠不休は支障をきたすのでは? わたくしでしたら絶対に真似などできません、どうあがいても寝てしまいますわ。
……トオルのことは心配ですが、わたくしも眠い……。ついつい、彼が機を織る部屋の前で眠ってしまいましたわ。


カラン、カラン、カラン……


敵襲を告げる鐘の音で目を覚ますわたくし。こ、こんな時に敵ですの!?
寝ぼけ眼のまま窓の外を見やると、相手はいつもの姿の見えない透魔王国の刺客――ではないようですわ。というか、人間でもない……?
でも、あの生き物は見たことがありますわ。オンバーン――確かあれもポケモンと呼ばれる異界の生命体ですわね。しかし、ポケモンが意図的に人間を狙って直接攻撃をするものなのでしょうか?
その疑問が脳裏に浮かびましたが、しかしその答えはすぐに出たのです。あのオンバーンは、普通に人間を攻撃し、しかもあまつさえ強いと。
軍の戦士たちの攻撃はびくともせず、人間以上のパワーで兵士たちをねじ伏せてしまいます。いったいどうすれば……


シノノメ「何だこいつ? 見たことのねぇバケモノだな」
ヒサメ「見たところ、竜のように見えますが……」
シャラ「竜であることに違いはないわね。こんな事もあろうかとポケモンずかん(紙の本)をサイバースフィアで買っておいて正解だったわ……」
マトイ「用意周到ね……」
グレイ「で、あれはどういうポケモンなんだ?」
シャラ「あれはオンバーン……飛行・ドラゴンタイプ。超音波の扱いに長ける好戦的で凶暴な音波ポケモンね……」
キサラギ「ひこうタイプ? なら、僕の弓に任せて。空を飛ぶモノは弓矢に弱いから!」
すると、キサラギが弓矢をつがえて駆け出す。彼のことですので、軽やかなフットワークで翻弄せんとする――でも……あのオンバーンは弱点である弓矢の攻撃を――キサラギの攻撃を軽くあしらっているようですわね。まるで、底知れぬ何かの力を与えられているような……
キヌ「あれれ? あれ、空飛んでる割に弓矢の攻撃があんまり有効じゃないっぽいよ?」
キサラギ「えっ!? それじゃあ僕の攻撃があんまり有効じゃなかったってこと!?」
ディーア「っていうか、普通の攻撃はあんまり効果がないんじゃね……?」
自分たちの攻撃があまり有効打にならず途方に暮れる仲間たち。そこに、ゾフィーが走り込んで来ましたの。
ゾフィー「待って、待ってー!! あたしならこいつを何とかできるかも!」
ヒサメ「ぞ、ゾフィー!?」
ゾフィー「お待たせ! あたしが来たからにはもう大丈夫だよ! たぶん、あたしの力なら――!!」
マトイ「力って? あなた、サイバースフィアでなんかに目覚めたの?」
ゾフィー「まぁね。 とりあえずみんなはそこで見てて。そして目の前で何が起こっても、それは現実って信じて!」
ディーア「は? それってどういう……」
目の前で何が起こっても現実? それってどういうことですの? ディーア同様、わたくしも首を傾げる。すると、ゾフィーが丸い石を手に、精神集中を始める。一体何を……?
ゾフィー「ビリジオン!シンクロナイズ・トランスファー!」
その言葉とともに、彼女が若草色の光に包まれる。その光は球状になり、うずくまった彼女を包んでいく。その中で、彼女の身体が変わっていく……? 光が素肌と一体化して、肩やお尻から葉っぱが伸びて……?
そして光の球体が弾けた頃には、ゾフィーの身体はもはや人間ではなくなり、若草色の身体を持つ獣人へと変身していたのです。
やっぱり、人間から獣人に変身して戦うというのは本当のことでしたのね。しかし、対抗戦力が現れたところで所詮は多勢に無勢……というか、一人で大丈夫なのでしょうか?
ゾフィー「えいやぁっ!! てぇいッ!!」
ゾフィーとダークオンバーンの一進一退の攻防が繰り広げられる、しかしゾフィーのほうがだんだん押されているようにも見えますが……
グレイ「ゾフィーが戦ってくれてるとはいえ、こいつ……強いぞ!?」
マトイ「そういえば、あのダークポケモン……オンバーンって言ったかしら? あれって飛行・ドラゴンタイプみたいよ」
ゾフィー「そう、飛行タイプ……ところで、飛行タイプってあたしの草タイプや格闘タイプと相性いいの?」
シャラ「いいえ、その逆よ……とくに、草・格闘タイプのビリジオンは飛行タイプから4倍弱点を食らうわ」
ゾフィー「」
・・・・・・・・・。
『相性最悪』あたかも、その言葉を聞いたゾフィーの時間が止まったようでした。
そんな中、放心して硬直する彼女にダークオンバーンの容赦のないダークウィングが炸裂、ビリジオンとしての弱点を突かれ……あっという間に満身創痍。
ゾフィー「相性悪いんなら早く言ってよーーーー!!! そしたらぎりぎりまで人間のまま戦って、ダメージ抑えられたのに!」
ディーア「おい、大丈夫か?」 つリライブの杖
大ダメージを受けたゾフィーに、ディーアが回復の杖を使う。なんとか自力で立てるまでには回復したようですけど……
ゾフィー「あいたたた……どうしよう? ダークポケモンを瞬時に浄化できるのは伝説のポケモンと融合した女の子だけみたいだけど、あたしじゃ滅茶苦茶相性悪いみたい……効果が抜群なエポニーヌはサイバースフィアで異界に行ってるし、どうすれば……」
シノノメ「エポニーヌっていうか、子世代の暗夜メンバーみんなサイバースフィアに行ってるんだっけか」
ゾフィー「うん……」*1
ヒサメ「というか、人間のまま戦ったって勝てませんよ。マイキャッスルで待機していた兵が束になってかかっても、あいつには太刀打ち出来ないのですから」
ゾフィー「ど、どうしよう……」
このままではマイキャッスルが……わたくしたちの根城が大変なことになってしまう。そうなったら満足に眠ることも、歌を詠むこともできない――!!
そんなこと、絶対に嫌ですわ。わたくしはこの状況を打破すべく、必死であの部屋に駆け込みました。そう、トオルが今もひんやりとした反物を織り続けている、あの機織り室です。
常識的に考えると、非戦闘員であるトオルにはあのダークオンバーンをどうすることもできないかもしれない。しかし、直感がそう告げていたのです。彼を頼れば、きっとなんとか出来るって。
そしてわたくしは、ついに開けてはいけないと忠告されていた機織り室の襖を開けてしまったのです。
ミタマ「トオル! 大変ですのよ、何者かに操られた感じのオンバーンが……ポケモンがマイキャッスルで暴れていますの! ――開けますわよ!」
トオルの声「よせ、ミタマ。僕は不眠不休で機を織り続けている、何が起こっても、中断するわけには行かないんだ。僕のことは気にせず、どうか――」
ミタマ「いいえ、開けますわ。なにせ、今は四の五の言っている場合ではございません! トオ……ル……?」
襖を開けてしまった瞬間、わたくしは言葉を失いました。何故なら、ふすまの向こうで機を織っていたのはトオルではなく、フリーザーだったのですから……
見れば、彼は自らの翼を抜き、織物に混ぜ込んでいたのです。道理であの織物、布であるはずなのに妙にひんやりしていたはずですわ……!
フリーザー「……見られてしまったね」
ミタマ「まさか、トオルがフリーザーだったなんて……、もしかして、まさかあなたはあの時の……?」
フリーザー「……そうだよ。僕はあの時、君に助けてもらったフリーザーだ」
なんということでしょう。トオルは、わたくしに恩返しをすべく一時的に人間となった伝説のポケモン、フリーザーだったのです。
ミタマ「フリーザー……いえトオル。わたくしに恩返しをしたい気持ちは良くわかりました。そのために、こんな姿になるまで機を織り続けて……あなたの翼、抜けに抜けてもうぼろぼろじゃないですか! どうしてこんな状態になるまで……! それと、今は大規模な戦闘になりつつあるような緊急事態だったのです。少しばかり中断し、逃げても良かったんですのよ?」
フリーザー「…………」
彼は言葉を話さない。伝説のポケモンであるがゆえ、人語を話すことはできても、今はそのような状況ではないようでした。
ミタマ「……さて、結果的に覗いてしまいましたわね。正体を見られたからにはこの場所にはいられないのでしょう? さあ、どこへなりとも去るがいいですわ」
本当は、ずっと彼と一緒に居たかった。だけど、わたくしが、それを終わらせてしまった。緊急事態だったとはいえ、わたくしの責任――
彼が異界の空を飛び去っていくところを見届けようとしたその時、彼の方からその口を紡ぐ。
フリーザー「……待って! 君たち……ダークポケモンの襲撃を受けたんだろう?」
ミタマ「あら、知っていたのですね……」
フリーザー「当然だ。そして君の仲間たちが他の伝説のポケモンと融合して、ダークポケモンを瞬時に浄化する能力を得たことも。でも、今ここにいる同じ力を持ったその娘が力を借りているポケモンはダークオンバーンと相性がとても悪く、太刀打ち出来ないままだ。違うかい?」
……そうですわ。今も軍の仲間たちがダークオンバーンと戦い、しかし太刀打ちできずに劣勢の状況を強いられているはずですわ。
フリーザー「僕が人間と融合すれば、君たちの庭で暴れているあのオンバーンを何とかすることができる。問題は、力を貸してくれる人間だけど――」
人間とポケモンが融合? ダークポケモンの浄化? はて、どこかで聞いたことがあるような……
・・・・・・・・・!!
……まさか!? あの時、オフェリアの言っていたことは事実でしたのね……!(というかゾフィーも変身してましたし)
真実を知った今、わたくしは彼の話に乗ろうとしていた。彼ならあいつを止められる。わたくしはみんなを助けたい。お互いの利害は一致していますわ。それにフリーザーは……トオルは、わたくしのために人間に姿を変えこの星界の小世界にまで来てくださったのですから――彼なら、信じられますわ!
ミタマ「でしたら……わたくしに力を与えなさい。わたくしに、姉たちと同じダークポケモンに抗う力を――。聞けば、人間と伝説のポケモンの融合は思春期の少女のほうが効率が良いのでしょう? ならば、わたくしはこの身を貴方に捧げましょう。そしてそれが、あなたにとっても最高の恩返しとなるはずですわ! さあ!!」
フリーザー「……!! ミタマなら、そう言ってくれるって信じてたよ。……後戻りはできないけれど、それでもいい?」
ミタマ「ええ、覚悟はできております。さあわたくしを受け入れなさい。そして、わたくしもあなたを受け入れますから――」
互いに覚悟完了し、わたくしはフリーザーとその身体を重ねあわせる。
わたくしの身体が背中側から埋もれ、フリーザーのふんわりとした羽毛に包まれる。
その手を広げると、フリーザーの翼に埋もれながら次第に融合していく。
いつの間にか衣服は消えていて、また融合していくわたくしたちの身体は吹雪の結界に包まれていた。
生まれたての姿となったことで背中には彼の羽毛が素肌に直截触れる感覚がする。そして、その身体が彼の身体に埋もれていく。
彼と融合していく過程にある今のわたくしには、冷たいはずの吹雪のその温度を感じていなかった。むしろ、冷たいのが心地よいほどに。
膝下が重なり合い、わたくしの細い足が彼の鉤爪と絡まって溶け合っていく。脚の融合は終わりましたわ。
気付けばわたくしの身体は鳥女、暗夜王国の言葉で言えばハーピーのような形になっており、残るは顔だけになっていた。すると、フリーザーが後頭部に頭を押し込んでくる。同時に、首筋になにか硬いものが入り込んでくる感覚がした、おそらくは彼のくちばしが。
そして、素肌が残る部分が次第に氷の羽毛に包まれていき、顔全てが羽毛に包まれるとともに口元が硬質化し全体に広がり、鼻を取り込んだ。これは……くちばしでしょうか?
ミタマ「んんっ……!!」
程なくして、全身が引き締められる感覚に見舞われる。わたくしを包み込んでいたフリーザーの体格が、わたくしのそれに合わせた少女体型になっていく。
わたくしの素肌と彼の体内が融け合い、一つになっていく身体がだんだん馴染んでいったのですわ。同時に、髪の色も氷の如き薄氷の色に染まっていきました。
瞳を見開くと、自分の手が翼に変わっていたのですわ。……でも、この手では筆も短冊も持てませんわね?
ミタマ「えっ……この身体……これが、わたくしですの……?」
フリーザー『そう、それが君の新しい力。これが僕の、最高の恩返しだ!』
彼の声がわたくしの精神に直接響く。それは、フリーザーだった彼がわたくしと一つになったことで、わたくし自身がフリーザーの娘となったからに他ならなかったのです。
ミタマ「でも、あなたは男性だったはずですわ。それなのに、融合してもどうやら普通に女の子のままのようですが……」
フリーザー『僕には本当は性別がないからね、女の子と融合すればその対象はちゃんと女の子のままなのさ』
ミタマ「性別がない……ああ、なるほど。」
フリーザー『さあ、早く行くんだ。大切な仲間たちを助けたいんだろう?』
ミタマ「仰るとおりですわ。わたくし、あなたのお力で戦わせてもらいます!」
心のなかの彼の言葉に従うがまま、わたくしは部屋の外へと飛翔したのですわ。


ダークオンバーン「オォーーン」
エルフィ「こいつ……強いわ!」
アサマ「私達よりも優秀な子世代でも手こずるのです、親世代である私達はもっと苦戦するのも当然ですよ!」
ダークオンバーンの暴走はますますエスカレートしていたようでした。どうやら親世代までもが駆りだされていたようですけれど……(ちなみに親世代の方は暗夜勢も残ってる)
ですが、今のわたくしにはあいつに抗う力があります。この吹雪の力でなら、あいつを倒すことができますわ! わたくしは翼と化した腕を羽ばたかせ、さっそうと苦戦するお父様の前に着地したのですわ。
アサマ「ミタマ!? その姿、一体どうしたのですか? まさか、ビルシャナの悟りを開いたとでも言うのですか!?」
ミタマ「あのダークポケモンはお父様のような破戒僧では絶対に太刀打ちできませんわ。ここは素直にわたくしに任せなさいな」
アサマ「正直言ってその言い草は何だかチクっとくるのですが……実際歯がたたない以上、ここは素直にミタマに任せるしかないようですねぇ」
相手にならないお父様たちにはさっさとご退場いただき、ここからはわたくしが戦場に咲き誇る氷の花となるのです。早速決めポーズをさせていただきましたわ。
ミタマ「愛を失くした悲しいオンバーン……わたくしが、あなたの心を取り戻す!」
わたくしのその姿を見ていたゾフィーたちの反応も少なからず見えました。
ゾフィー「えっ……ミタマ……?」
シャラ「うそ……ミタマまでもがフリーザーと……ポケモンと融合したとでも言うの?」
ミタマ「ええ。この姿になったわたくしなら、ダークオンバーンを対処できるかと思います。任せなさい」
するとわたくしは腕を上下に動かす――羽ばたき、空を飛びました。これが、この身ひとつで空を飛ぶという感覚――しかし……腕動かして羽ばたくのも相当疲れますわね。
ミタマ「はぁ……やはり必要以上に飛ばないほうがよろしいんじゃなくて?」
フリーザー『まぁ腕が羽になっている感じだからね、仕方がないのかもしれないよ』
ついつい、ため息を付いてしまったのですが……その時、自分の吐く息が何だか冷たいことに気づきましたの。
これは……吹雪? わたくしはただ、羽ばたいたことに因る疲れからついついため息を付いただけでしたのに? でも、もしかしたら、あるいは……!!
ひらめいたわたくしはその手で羽ばたき、マイキャッスルの天守閣へと着地しました。そして、そこから飛び降ります。
自由落下の中、空中で投げキッスとともにごく軽く息を吹きかける。すると吐息は吹雪となって、ダークオンバーンを包み込んでいきますの。どうやら効果は抜群――なかなか効いているようですわね。
ゾフィー「すご……一気に優勢になっちゃった」
ミタマ「だいぶ弱ってきたようですわね。そろそろ浄化できるんじゃありませんの?」
フリーザー『うん、もう大丈夫だと思うよ。強く思いを込めて、オンバーンの心を開いてあげて!』
『彼』がそうつぶやく。わたくしは『彼』の声に従い、強い想いを込めた。そして、手元に氷の弓矢を実体化させたのです。
フリーザー『ちなみに浄化技にこれといって技名は決まってない……君のセンスでなんとなく叫んどけ!』
ミタマ「わかりましたわ!」
わたくしはその翼で氷の弓矢をつがえ、浄化の一矢を放たんとする――でもその矢は傷つけるためのものではなく、救ってあげるためのもので。
ミタマ「喰らいなさい! 雹嵐翼矢撃(ひょうらんよくしげき)!!」
その掛け声とともに、氷の矢がダークオンバーンめがけて飛んで行く。そしてそれが刺さった瞬間、氷の矢は光となりオンバーンの全身を包み込んだのですわ。
ミタマ「リライブ! スターライズ!!」
ふと、心の奥に浮かんだ横文字の言葉を叫ぶ。こっちは自然に言わされるのですわね。
そして氷の光が晴れると、オンバーンの表情は穏やかなものとなっておりました。きっと悪しき心が浄化され、元に戻ったのでしょう。
ミタマ「やりましたの……?」
フリーザー『ああ。もう大丈夫だ。ダークポケモンのオーラは感じない。……今後、ダークポケモンのオーラは君にも見えるはずだ。このオンバーンにそれがないということは、浄化に成功したってことだよ』
とりあえずもう安全。ひとまず、もうこの子が暴れる心配はなさそうですわね。
ミタマ「しかしこの子、どこから来たのでしょうか。ちゃんと元の世界に返してあげませんと……」
するとディーアの杖でリフレッシュしたゾフィーが立ち上がりオンバーンに歩み寄って来ましたの。
ゾフィー「ああ、これ野生っぽいわね。とりあえずサイバースフィアで保護してもらいましょ」
ミタマ「そうですわね、それが一番手っ取り早いと思われますわ。さっさと竜の門に行って保護してもらいましょう」
ひとまず浄化したオンバーンをサイバースフィアに保護してもらうことになったのですが、ここでまたある疑問が浮かんできましたわ。
ミタマ「そういえば先程は戦闘中だったのであんまり気に留められませんでしたが……この身体ってどうなってますの? この羽毛、身体と密着しているような……これ、脱げませんわよね?」
フリーザー『ああ、脱げないよ。完全に君の体の一部なんだからね。でも、元の姿に戻ることはできるよ』
ミタマ「本当ですの? ならさっさと人間に戻してくださいまし。この身体は確かに涼しいですけれど、だからといって一生をこの異形の姿で過ごしたくはないですわ」
フリーザー『わかったよ……ちょっと身体に違和感を感じるかもしれないけれど、我慢してね』
『彼』がそう告げると、忠告通り全身に違和感が走る。全身の羽毛が抜け、くちばしが剥がれていくような感じでしたわね。ほどなくしてわたくしの身体は人間に戻ったようで、
フリーザー『はい、おしまい。次からはその獣石を使って変身できる』
その言葉通り、元の姿に戻ったわたくしの手には水色と白の二色を持つ特徴的な色彩の獣石が握られていましたの。
しかし変身を解いたわたくしの髪の色は、フリーザーの羽毛と同じ薄氷色に変わったままだったのですわ。
ミタマ「あら、髪色が……」
フリーザー『人間とポケモンが融合するとたいていその人の髪の色が変わってしまうんだ。ごめんね』
ミタマ「いえ、あなたと同じ髪の色も素敵だと思っていたのです。構いませんわ」
ひとまず人間に戻ることができたわたくしはサイバースフィアへと行き、オンバーンを保護してもらったのですわ。




ソレイユ「――で、結局ミタマもポケモンと融合しちゃったってわけ?」
ミタマ「はい。後天的な獣化能力も存在するものなのですね」
オフェリア「あらミタマ、それは賛同してくれるってことでいいのかしら。それじゃあ私たちは今日からミタマを加えて『ピュエラ・マギ・ポケモン・カルテット』よ!」
ミタマ「オフェリア……それは長い上に言いづらいですわ……」
ゾフィー「でも、仲間が増えたってのは確かよね!」
エポニーヌ「そうね。どんどん増えていく仲間たち、そして最終的に5人組の変身ヒロインとなる……イイんじゃない?」
ソレイユ「それな。でも……5人目ってあたしなのかな……?」
オフェリア「ソルガレオ、だっけ? と融合する夢を見て、それがきっかけで白髪になったのよね? じゃあ、ソレイユももうすぐなれるんじゃない?」
ソレイユ「そうかなあ?」
ミタマ「でも……わたくしたち、この時点で変身ヒロインのようなのは事実ですわ。ぶっちゃけた話、原作ゲームではわたくしたちってそれぞれソレイユとしか支援が付かないんですのよね……」
ソレイユ「そこは……まぁ、みんな血がつながってるきょうだいってことで一つ……」


なお、後日やっぱりソレイユも変身できるようになりポケ獣人系変身ヒロインチームが誕生するわけですが……それはまた、別の話ですわ。


*1 本作ではゾフィーとディーアは白夜サイド、シグレとミドリコは暗夜サイド扱い