私は選ばれし乙女、宵闇のオフェリア!
今日はそんな私に起こった出来事を紹介してあげるわ! 私が『選ばれし者』として覚醒したあの日のことをね……
ある日、私の目の前に異界の聖獣が現れた。背中に雨雲を背負った虎のような姿をしていて、それでいてなんか違うような、そんな聖獣。
オフェリア「これって……なんていうか……聖獣っぽい! まさか、この世界で神聖な力を持った聖なる獣を見ることになるなんて……!」
ライコウ「『っぽい』ではなく、本当に『聖獣』とも呼ばれるぞ。我が名はライコウ。汝の住まう世界とは異なる世界の『ポケモン』と呼ばれる存在だ」
オフェリア「ぽけ……もん……?」
ライコウ「うむ。とくに我は『伝説』とも称される特別なポケモンでな、こうして人語を操ることもできる*1」
オフェリア「そうなの……。で、伝説のポケモンがどうしてこんな場所に?」
ライコウ「実は……迷い込んだのだ。急に次元の穴が空いてしまい、そこに吸い込まれたと思ったらこの世界に……」
その時。なんだか尋常でないほどの怪しい暗黒のオーラを感じ取ったので私は振り向いた。すると……
『フシュー、フシュー、フシュー……。』
唐突な敵襲。やばい……まさか、私一人しかいないってのにノスフェラトゥの群れが!?
こうしている間にも、渾沌たる邪気は次第に増えていく。これじゃあどうにもできないよ……!
オフェリア「ちょっと……こんな時にノスフェラトゥ!? とてもじゃないけど、私一人じゃ勝てないんだよ……!!」
ライコウ「ならば、我と融合し契約せよ。さすればこの怪物どもを倒せるであろう」
オフェリア「契約!? 何それ面白そう! 私そういうのに憧れてたの!!」
ライコウ「まさか……二つ返事で了解の答えをもらえるとはな……よかろう。ならば契約だ。少しばかり身体に違和感を感じることとなるが、しばし耐えよ」
すると、契約のもと私は雷の聖獣の抱擁を受ける。荒々しき稲妻の加護を受けたその体毛が、私を包んでいくの。
変化はそこから巻き起こる。私の四肢が、聖獣ライコウのそれに埋まっていたの。そこからさらにライコウの身体が変化を起こしていき、ポケット状になった身体が母竜の祝福を受けた私の身体を包み込む。
ようやく全身が私の体型に合わせた変化を終えたけど、まだ全体的に『着てる』感じが強いかな。
そうなるとまた劇的な変化。なんとライコウの頭部が溶け、黒く硬質の部分が仮面のような形となり、残りの部分が私の頭部を包み込み始める。具体的にはそのたてがみと私の髪が融合していき、後ろ髪が紫に変わる――のだけれど、そこからはちょっと変わった髪色の変化を見せていく。融解し、真ん中からセパレートされた髭と牙が横に垂らした髪と融合、更に頭頂部から前髪にかけては白い部分が融合することで、私の髪色は4色というとても神秘的な多色髪に。ライコウの顔だった仮面をつけることで唯一素肌の色が残っていた顔面も黄色い液体が包み込んで、面影を残しつつ獣人の姿に。
最後に、全身の素肌という素肌全てがぎゅーっときて、ぴとってなるように引き締められていく。それが終わるとお互いの神経がつながったらしく、しっぽに感覚が通い始めた。
オフェリア「なにこれ!? 私の身体、本当にあなたと同じような感じに……っていうか、ライコウはどこ?」
ライコウ『汝の中だ。これがポケモンと人間の融合だ。……本来ならば人間側を吸収し、肉体の支配権をそちらに明け渡すのが通常のケースなのだが、どうやら、汝自身に起因する何らかの理由により汝の特徴が色濃く残った獣人となってしまったようだな』
オフェリア「私自身に起因する理由……人と狐と狼と竜のキメラだからかしら? ……でも、じゅうぶんだよ! これならすぐに私が私だってみんなわかってくれるもん」
ライコウ『……ともかく、これにて契約は果たされた。さあ、融合者オフェリアよ……我が力を存分に使うがよい!』
オフェリア「任せて! ぎゅーんってきて、バリバリってやっちゃうよ!」
身体が一つになっている以上、私を変身させてくれたライコウは私の精神に直接話しかけてくるのね……まぁ、当然といえば当然よね。
変身を終えた私を目の前に、ノスフェラトゥの群れは物怖じせず束になって襲い掛かってくる! ……っていうか、あいつら感情ないのよね、多分。
オフェリア「この姿なら新しい必殺技が浮かびそう! 喰らいなさい、神雷覚醒――サンダーボルト・ストーム!!」
いつものように、空想を躍動させるままに必殺技を叫ぶ。すると、本当に掌から稲妻がほとばしり、ノスフェラトゥの群れが一撃で全滅した。どうやら、伝説のポケモンの力は際限がないみたい。
ライコウ『初めてにしては上出来ではないか』
オフェリア「へへーん、こういうのには慣れているのよね」
精神に直接話しかけてくるライコウの意識に自慢する私。その時、向こうからこちらに向かってくる人影が。あの髪型は……きっと母さんだろう。
カムイ「見つけましたよオフェリア! 今日はあなたを撫でたいと思っていたんです!」
オフェリア「か、母さん……」
母さんが目をハートにしてキュンキュンな感じでたかってきた。私が聖獣の獣人となっていたことに気づいたのは、その後。
カムイ「……って、あれ? どうしたんですかその姿? きぐるみか何かですか?」
オフェリア「えっと、その、母さん……ちょっと言いづらいんだけど……」
言い訳をしようとしたんだけど、この辺ちょっと複雑な事情があるので、ひとまずそのまま母さんのマイルームに直行することになった。
カムイ「……で、オフェリアの変身遺伝子が今のあなたの姿を生み出した、と」
オフェリア「そうかもしれないわね……ほら、私たち六つ子って、もともとキメラだもの」
言い忘れてたけど、私たちの家族は一妻多夫制だ。なので、六つ子と言っても全員父親が違うと推測されている。
私は3回めの出産の時に六つ子のひとりとして生まれてきたのだけれど、私と一緒に生まれてきた妹に妖狐とガルー(狼女)がいる。
だから普通の人間に見える他の六つ子たちにも動物の遺伝子が含まれていると思われ、更に母さんは竜でもあるのでヒト、キツネ、オオカミ、そして竜の4つの生物のキメラということになる。ハイブリッド、とも言うらしい。事実、フォレオとキサラギという二人の弟はそれぞれ人魚や鳥人間になれるわけだし。
私も変身しちゃうのかな、って思ってたけど、まさか異世界の聖獣と融合して獣人になっちゃうなんてね。でも、その聖獣に変身できるようになって『ああ、やっぱり私は選ばれし者だったんだ!』って思えてきちゃって、ドキドキが止まらなくって大満足だわ!
カムイ「……ソレイユがあんなんだから、同じく変身動物を固定できていないオフェリアもそうなってしまうのかと思ってましたが……どうやら融合という方法で固定、変身暴走を防いだわけですね」
オフェリア「そういうことになるのかな。私だってこの身体、まんざらでもないわ」
改めて母さんの部屋で姿見を見させてもらったけど、見事なまでにライコウと合体してるわねこの姿……。
全身は基本的に黄色いけど、首元からひざ上(スカート丈くらいか)の内側辺りまでが白くなってる。特に胸なんか真っ白ね。同様に、腕についても内側の肘は真っ白。契約時の融合変身の時はとろとろに溶けていたのに、今はもふもふ。ちゃんと黒い模様も腕や脚、脇腹あたりにあって、稲妻のように伸びたしっぽもちゃんと自分の意志で動かせる。
シークエンス上仕方がないのかもしれないけど、顔はほとんど黒い部分だけが仮面になってるようで、髭や牙といった部分はすべて髪色に移植されている状態みたい。ちなみに角に見えるのは仮面の一部であって、耳じゃないみたい。まぁ、女の子にヒゲ生えてるのも違和感ありまくりだし、こっちのほうが断然可愛いんじゃないかしら。
カムイ「しかし、獣人になっても女の子としての……私譲りのボディはしっかりと維持されてるんですね」
オフェリア「え、ええ……ひゃあっ!?」
やだぁ! 母さんったら、獣人になった私にスキンシップ!?
カムイ「うふふ……ライコウの胸、真っ白なんですねー」
オフェリア「か、母さんのヘンターイ!」
この母さん、たまにパイタッチもしてくる。つくづく変態の母を持ってしまったと思う。
カムイ「この尻尾も意外と可愛いですねー、うりうりっ」
オフェリア「はぅっ……母さんそろそろやめにしてよー!」
今度は尻尾を触りまくってきた。今までになかった部位を触られるのは当然ながら慣れていないので、敏感に感じちゃう……。
この後、滅茶苦茶人間ポケパルレされた。
オフェリア「ふぅ……やっと開放されたんだよ……」
ライコウ『疲れているようだな……ずっとこの姿でいるのも負担であろう。そろそろ汝を人間に戻すとするか』
オフェリア「へ?」
ライコウ『いうなれば変身解除だ。ただ、我が力のほんの一部は汝に残る。肝に銘じておけ』
戻れるんだ。母さんがなんとかわかってくれたから、あとはこの姿のままでも覚悟はしてたんだけど。
オフェリア「そっか、じゃあ今度から都度変身するのね……いいじゃない、こっちのほうが『選ばれし者』っぽいし」
ライコウ『では行くぞ。また身体に違和感を感じることもあるだろうが耐えてほしい』
すると、私の全身をプラズマを伴った光が包み込んでいく。その光の中で四肢の先が融合してから元の5本指に戻り、尻尾が縮んでなくなり仮面についていた角もなくなる。
そして光が収まった頃には私の身体は人間に戻り――唯一、髪の色だけはライコウのたてがみと同じ色のまま戻ることはなかった――融合変身寸前に着ていた服も元通りになった。
オフェリア「……戻ったわね。髪色以外は」
私から分離した光が集まると、それは稲妻のオーラを纏ったボールのような形状の獣石へと形を変えた。その獣石は何故か中央にラインが走っていて、真ん中にボタンがある。
ライコウ『これからは我はこの獣石型モンスターボールの中にいる。我が力を借りる際にはそのボタンを押すが良い。その時は再び、汝と一つになろうぞ』
オフェリア「変身するときはこの獣石を使えばいいのね、わかったわ! あなたの持つ稲妻の力、必ず役に立ててみせるわ」
私は自分用の獣石を懐にしまい、それからはいつものように星々に幻想を馳せる。
と、なると……私のかっこいいキャッチフレーズがまた増えちゃったんだよ!
今日から私は『雷后のオフェリア』! ……うん! これ、結構行けるかも!