Story2063

Last-modified: 2021-06-27 (日) 21:57:01

 その青年は、ある日突然現れた。
 つややかな長い黒髪に大理石のようなきめ細やかな白い肌、深い知性をたたえた紫の瞳。
 背中に生えた一対の、黒鳥のような黒い翼。

 この青年は神の使いかそれとも悪魔か。
 誰もがその青年に見惚れ、しばしの間放心していた。


とある少女と天使様

 やがて現場に調停官が到着した。
 この調停官は名を"楪司"という、仲間内でも変わり者だが優秀と呼ばれる調停官だった。

 青年はマリオン・リュストと名乗り、ある少女を助け出してほしいと、調停官に言う。


 エマ・レイという名のその少女はとある研究機関にて隔離されていた。

 彼女は特殊能力を有する"NSP"であり、生まれてすぐに研究施設に送られ、外の世界を知らずに生きてきた。
 彼女と触れ合うのは白い看護服を着た研究員たちであり、事務的なこと以外は話さない。

 毎週日曜日の午後二時になると能力実験のためグラウンドに出るが、それ以外は鍵をかけられた施設内で過ごす。
 家族は会いに来ず、彼女は次第に無口に、無表情になっていくのだった。

 ある日窓の外を見ていた彼女の前に、黒い翼を背中に有する美しい青年が現れる。

 彼女は驚かず、初めは周囲の人間たちと同様に無表情で接していたが、青年の紳士的で穏やかな振る舞いに、次第に心を開いていき、青年は彼女に美しい外の風景などを魔法で見せてやるのだった。


 楪とマリオンは車で郊外に向かっていた。
 目的地はサイト8109である。

 車を運転しながら楪は、後部座席のマリオンに目をやった。
 マリオンはいたって平然と、鞄を膝に乗せて後部座席に座っている。

 背中に生えていた翼は今はしまわれており、こちらからは見えない。
 あんなに大きな翼をどうやって隠したのか。

 車に乗る前に楪は、マリオンにその翼をどうするのか、と訊いた。
 するとマリオンは翼を開き、口の中で古代語のような言葉を言う。
 すると翼は、さあっと消えてしまったのだ。

 霊翼人という種族の事は分権で読んで知っている楪だったが、実際に目の前で翼の生えた人というのを見るのは初めてであったし、その翼がエーテルだというのを知ったのも初めてだった。

 暫くミラーに映るマリオンを見ていると、こちらの視線に気づいたのか、マリオンは楪の方を見て、微笑んだ。


 「家に帰れるの?」少女は白い服を着た看護師に尋ねた。
 「ええ。もうご家族の方が見えてますよ」白い服を着た看護師は、少女の隣を歩きながら言った。

 鍵のかかった二重扉を看護士が開けると、その向こうには二人の、少女が知らない人が立っていた。
 一人は銀縁の眼鏡をかけた二十代後半ほどの女性で、藍色のスーツを着ていた。
 もう一人は黒いロングコートを着た青年で、長い黒髪に白い肌、紫色の眼をしていた。

 「エマ・レイさん、ですね」
 眼鏡の女性が少女に声をかけた。
 「異種間調停理事会扶桑支局から参りました。楪司と申します」

 「はじ・・・・・・めまして」
 エマ・レイと呼ばれた少女はぺこりと頭を下げた。

 「初めまして。こちらの方は」
 楪司と名乗った眼鏡の女性が青年を指して名前を言うか言わないかのうちに、

 「カラスさん」

 少女は、そういって微笑んだ。


File#2063

Thought:Positive

EntityClass:Normal

特別対処用プロトコル:現在#2063は異種間調停理事会エージェント楓の元で保護観察下にあります。#2063及びその周辺物品に対し暴言を吐く、暴力をふるうなどの加害行為は決して行わないでください。

説明:#2063は十代中頃と思われる白人女性です。栗色の髪と緑の瞳を有しており、精神的に実年齢より成熟しています。本名はエマ・レイであり、彼女自身は"エマ"と呼ばれることを好みます。彼女は不可視の存在を認識し、対等に対話する能力を有しています。