機械工業の立地変化/再②

Last-modified: 2023-03-10 (金) 10:50:47

日本標準産業分類の変更

年次変更内容
備考全ての年次において大分類「製造業」に変化なし
2002年中分類項目が3産業に分類される。伊藤(2006)を参照。
2007年電子部品・電子デバイス(中・小同じで細9)→電子部品・デバイス・電子回路(小7で、細17)
2013年変更なし

伊藤敏安(2006)電気機械産業の構造変化と地域経済 1990~2003年における3産業別・地域別動向 「地域経済研究」第17号,pp3-23.

伊藤(2006)は、経済産業省「工業統計」(従業者4人以上の事業所)で電気機械をみる。2001年以前は「電気機械器具製造業」であったものが、2002年に、中分類項目において3産業(電気機械器具、情報通信機械器具、電子部品・電子デバイス)に分類された(日本標準産業分類は定期的に見直される)。これにより、2002年以降のみ3産業を都道府県別に把握することが可能である。

分類
電気機械器具産業用電気機械器具、民生用電気機械器具、電球・照明、電子応用装置、電気計測器など
情報通信機械器具テレビ、携帯電話、電子計算機、パソコンなど
電子部品・電子デバイス半導体、集積回路、プリント回路など
  • 電気機械産業は、成長分野とそうでない分野の格差が顕著である。
  • 各県の付加価値額の変化を示した1図,2図より、電気機械産業は地理的に分散傾向にある。
  • 「図表7電気機械産業の付加価値額の構成(全国)」では3産業の変化(90~03年)が示しされており、電子部品・電子デバイスは上昇したが、他は下落した。A群(付加価値額の増加が特に顕著なグループ)は電子部品・電子デバイスの付加価値額の構成比が突出して高い。
  • 電子部品・電子デバイスの集積の地域差が、地域間の経済格差をもたらしている。
  • A群は資本装備率・資本生産性・労働生産性が高い。労働生産性の規定因には、有形固定資産現在高=設備投資の動向が影響している。90年以降の技術革新の伸び悩みは、(A群などを除いて)設備投資が不活発であったことも影響する。
  • ただし、A群の付加価値額の増加は、県内総生産の増加に結実していない(製造業のウエイトが高くないため)。
  • A群内では、富山・三重・広島に大きい新規投資がみられる。

池田明由(1998)「工業統計表・用地用水編にみる製造業の立地分布について 電気機械産業を中心に 「早稲田社会科学研究」56号

半導体工場の実情

半導体の製造過程は大きく5つにわけられる(p34)。

②の工程については,この製造事業所ではなく群馬県内のウエハー製造メーカ,および甲府にある日立の他事業所から原材料であるシリコンを調達しているとのことであった。伝統的な立地理論によれば,製品製
造にあたって中間原材料をいかにコストを押さえて調達するかということが中心課題であった。その意味でシリコンは半導体ICの主要原材料であるから,その調達先は工場立地を考える上で重要な検討課題であると予想された。しかし実際にはシリコン調達コストは立地選択に加味されず,むしろその加工処理工程に必要な化学薬品や酸素等気体の輸送問題の方が,重量的にもコスト的にも優先課題であるとの説明を受けた。その意味で同工場は高速道路の高崎インターチェンジの近傍にあり,良い立地条件ということであった。

③の工程は専門知識は要さないとのことで、このオペレータ要員の確保は,地元住民に雇用機会を広げる可能性を持つと考えられ,事実同工場が高崎に立地した理由の一つとして,群馬県内には地元への就職を希望する若年労働者が多かったことが挙げられるとの説明があった。

④以降の工程に関しては海外のやすい労働力に依存して,たとえばマレーシアの直接投資先の工場などで行われるとのことであった。

同工場が高崎を立地点とした理由について,ヒアリングしたことをまとめると以下のとおりである。
①洗浄水として必要な水資源(上水道,井戸水)が豊富。
②近い将来(昭和45年設立当時)高速道路が開通し,近くに高崎インターチェンジの建設が計画されていた。その意味で交通の要所であり,製造工程に必要とされストックすることが不可能な化学薬品の輸送をスムースに行える。
③幹線があるため電力の供給が容易である。
④土地が平坦である。また県や市当局の熱心な誘致があった。
⑤就職を希望する地元若年労働力が豊富であった。(昭和45年設立当時)
このように,労働,輸送といった伝統的立地理論において扱われてきた変数とならんで,土地,水などの条件は事業所の立地選択におおきな影響を与えているようである。

工業統計表用地用水編にみる立地状況

半導体IC産業を含む電気機械器具産業を中心に,工業統計表の都道府県別用地・用水の集計結果について,ファクトファインディングを試みる。

表5より、出荷額構成比の高いのは電子機器関係と家電関係の産業であり,どちらかといえば前者の生産拠点は東日本が中心であり,後者は西日本が中心である。特殊化係数および上位3県の百分率合計をみると,出荷規模の小さい産業ほどいずれかの都道府県に生産が偏る傾向がある。また電子・通信機器部分品等,中間部品的な財を生産する産業は特殊化係数が低く,広い地域に分散して立地する傾向が見られる。

表6より,日本の電気機械産業のほぼ4分の1に近い生産が神奈川と東京で行われている。これら2都県の主要生産物は電子機器関係であるが,特殊化係数は低く幅広い種類の製品を生産していることがわかる。逆に,出荷構成比の低い地域ほど特殊化係数は高く,特定の生産物の生産に特化している。

図6では三都道府県における電気機械産業の製造品出荷額と敷地面積の構成比の相関関係をプロットした。それによると,神奈川,東京,大阪という出荷額構成比の特に大きい上位3県を除けば,出荷額と敷地総面積にはおおむね正の相関がありそうである。すなわち,出荷額の大きい地域は広大な敷地面積を有している。表7では敷地面積当りの出荷額が大きい上位10県の状況を示した。ここで工業用地価格は『地価調査』からの情報であるが,同調査において最も地価の安い岩手県の価格(20900円/m2)を1として各県の相対的な地価の高さを示した。これら10県は,敷地面積については全体の28.4%を占めるにすぎないが,製品出荷額は50.4%にのぼる。製造品出荷額の多かった上位3県の敷地面積当り生産額は特に高い。また,これら10県では労働生産性が平均よりかなり高く,建ぺい率や地価も高い値となっている。電気機械の場合,事業所は地価の高い地域に建ぺい率と労働生産性を極度に挙げながら立地する傾向である,といえそうである。この場合地価の高いということが,電気機械の立地要因とどのような因果関係で結びつくのか(たとえば,空港やインターチェンジに近いところが地価が高くなるかどうかなど)を検討する必要があろう。

電気機械産業という大分類で見た場合,出荷額と用水使用量に明確な相関は見られない(部門分類をブレークダウンして都道府県別の用水使用状況を見る必要があるが,いまのところそれに必要な情報がない)。水の使用量の多い県では,回収水の利用比率が高いといえる。またこれら10県の工業用水単価は安めのところもあるが,高いところもあり,工業用水の価格が水の使用量と明らかな相関を持っているとは言えなさそうである。よく工業用水価格を政策的に低くおさえて,工業誘致を図る政策を耳にするが,すくなくとも電気機械産業に関する限り,そのような政策効果を表10に読みとることができない。

労働,土地,水などの「本源的な」生産要素投入が,生産規模とどのような関わりを持つかを考察するため、要素制約型の生産関数を次のように(p55)定式化する。Yが就業者数,敷地面積,建物面積のケースについては,βの値が1よりも小さく観測され(すなわち規模の経済性がみられ),比較的高い決定係数が得られた。しかし用水関係については,上水道に関してのみ比較的高い決定係数がえられたものの,そのほかはあまりよい結果ではない。また自然水に関してはβ=1.02(決定係数0.52)と,規模の非経済性が観測された。

単純に用地・用水が安価に豊富に存在することだけが立地要因となるわけではない,ということが少なくとも電気機械産業について読み取れた。しかし、たとえば同じ電気機械製品でも製造工程において技術的に水をたくさん使う製品もそうでない製品もあるし,また水が製造工程のどこでどのように使われるかも製品ごとにかなり違うであろう。もしかしたら用地・用水などの自然条件は,その条件が細分類で見たときのどの製品を作るのに適しているかということと深く関係しているかもしれない。

青木英一(2000)電気機械メーカーの事業所配置と地域的生産連関ソニーグループを事例として「人文地理」 第52巻 第5号

「第1図 電気機械製造品出荷額の都道府県別集中率 (1966年)」と「第2図 電気機械製造品出荷額の都道府県別集中率 (1995年)」を比較することで地方拡散を定量的に説明できる。

p454,第3表に事業所別立地理由および現在地立地の利点がある。立地理由欄には,各社が挙げた理由のうち主要なものを1つ記した。空欄を除く19社中10社が自治体の誘致を挙げている。また,人的関係によって立地した例もみられる。次に,現在地立地の利点をみると,高速道路のインターチェンジや空港に近接している点を挙げている企業が9社ある。ソニー栃木は国道バイパスへの近接性を挙げているので,これも含めると10社になる。現実に鉄道の駅に近接している企業はほとんどなく,自動車による製品搬送に対応した立地になっていることが明白である。その他では人材確保を挙げた企業が12社ある。すなわち,地元の優秀な人材を容易に確保できるということであり,分散化の効果といえよう。また,ソニー自身が意図していた広告効果を挙げた企業は2社しかないが,これは各社にとって広告効果が利点になるという判断をしなかっただけで,現実にはかなり大きな広告効果が働いていると考えられる。