サンタのことをいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいどうでもいいような話だが、それでも俺がいつまでサンタなどという想像上の赤服じいさんを信じていたかと言うと
これは確信を持って言えるが最初から信じてなどいなかった。
そんなこんなでオフクロがサンタにキスしたところを目撃したわけでもないのに、その存在を疑っていた賢しいオレなのだが、
ハチュウ人類や鬼やアトランティス人やアンドロメダ流国やインベーダーや悪魔人間や
それらと戦う永井豪的石川賢的ダイナミック的スーパーロボットたちがこの世に存在しないのだと気づいたのは
相当あとになってからだった。
(中略)
そして中学を卒業するころにはこの世の普通さにも慣れ、オレは大した考えもなく高校生になり、ソイツに出会った…。
「東中出身、涼宮ハヤト。ただの人間には興味はない。この中にハチュウ人類、鬼、昆虫野郎、インベーダーがいたら私の所に来い。地獄をみせてやる。以上」
ふりむくとエライ恐ろしい目つきの女がソコにいた。
目があった瞬間、目と耳と鼻がもがれるかと思ったぜ……。
(中略)
こうしてオレたちは出会っちまった。しみじみと思う、ゲッター線の導きではないと信じたい、と。
OP:ゲッターロボ!
涼宮ハヤトは黙ってじっと座っていると一美少女(?)高校生(?)に見えないこともないので、
席がたまたま真ん前だったという地の利を生かしてお近づきになっとくのもいいんじゃないかと
一瞬血迷ったオレを誰が責められよう。
「なあ、しょっぱなの自己紹介のアレ、どのへんまで本気だったんだ?」
涼宮ハヤトがギロリとこちらを睨む。あの、なんでそんな目に殺気がこもってんすか……。
「アレ、とは?」
いや、だからなんでさんなに殺す気満々なんすか。
「いや、あの、だからハチュウ人類がどうとか…」
もう喉カラカラだぜ?まだ超序盤なのに……。
「貴様…、は虫類か?」
「あ、いや、違うけどさ」
すこしかすれ気味の声でやっとこさ答える。
「だったら話かけるな。時間の無駄だ」
思わず「後生ですから殺さないで下さい」と命乞いしそうになるくらい冷徹かつ冷酷な口調と視線だったね。
そして、まるで革命をゲームだと思ってた奴を見るような視線をフイと逸らすと、またどこか違うところを睨む。
クラスの何人かがオレを憐れむような目で見ていたが、それが涼宮ハヤトと同じ中学の連中だと知ったのは後の話だった。
「ハヤトさん気があるなら、悪いことは言わん。やめとけ」
こんなことを言ってるのは谷口、谷口竜二。なんか鬼に改造されて魔王鬼にされちまいそうな奴だ。
つかあのやり取りでそう思えるお前はすげえよ。どう見ても肉食獣の前の草食動物だったじゃねえか。
「ハヤトさんの天才ぶりは常軌を逸してる。聞いたろ、あの自己紹介」
「ハチュウ人類がどうとかってやつ?」
弁当をつついていた国木田が口を挟む。あ、お前はキャスティング変わらんのな。
「そうだ、有名なのが早乙女研究所前大臣襲撃。表向きにはリーダー不明のテロって報道されたが、
たぶんハヤトさんがやったんだと思う。あの人自身は明言してないが」
アレ?話がかなりヤバイ方向に行ってない?中学でテロてw……マジ?
「ああ、新聞の一面に載ってたねー。大臣、謎の集団に襲われる!って」
そのあとも涼宮ハヤトの奇行が竜二の口から話されたが、オレはこう思った。流石にコレでラブコメ展開はムリじゃないかと。
バイオレンスジャックな事態に巻き込まれるのは御免だぜ?
(中略)
こうして、何故かはわからんが、何か大いなる意思による影響を受けたのか、俺は涼宮ハヤトに毎日のように話しかけていた。
ホント、生きた心地のしない瞬間だったぜ。なんで俺、そんな目にあいながらも話しかけてるんだろうね?
これがゲッター線の導きなのだろうか?
そんなこんなで少しは仲良くなった(?)頃には、席替えとなっていた。
いや、ホント助かるよ。なんで話しかけてるのか自分でも分からんけど、やっと涼宮ハヤトから解放されるんだ!
たぶん、ライオンから逃げきった草食動物はこんな気持ちなんだろうな。さらばダチ公、フォーエヴァー♪
……嘘だよな。なんでまたコイツの真ん前の席なんだよ。窓際後ろから2番目という絶好のポジションながら、
ここはまるでいつ死ぬか分からないアラスカの最前線の気分だぜ。
(中略)
ある日、いつものように授業を受けていると(後ろの奴が怖くておちおち居眠りも出来んおかげで俺の授業態度はかなりマジメなものだった)、
いきなり首根っこをひっつかまれて、「ああ、殺されるのかな俺」と思っていると涼宮ハヤトがいきなりこう告げた。
「そうだ。気がついた」
「え、えっと……何に?」
「無ければ作ればいいんだ」
もう何を言ってるのか分かりません。妙に目をギラギラさせないで下さい。怖いんで。
「だ、だから何を?」
「私の校舎をだ!」
たぶん体をぶつけて痛いんじゃないな。心が痛いんだな(ストレスで)。
「そ、そうか。と、とりあえず手を離してもらえないか……?」
「どうした。貴様も喜べこの発見に」
狂気を孕んだ視線が俺を貫く。誰だよ、こいつをこの学校に入学させたの…。
明らかに革命起こす気マンマンじゃねーか。
「その発見についてはあとで聞かせてもらうから、今は落ち着いて」
必死にハヤトをなだめようとする俺。たぶんこいつの相手するよりランドウの作った自爆メカの解体する方が楽そうだ。
「なぜだ?」
「じゅ、授業中だから…」
オレの言葉にしぶしぶながら納得してくれたのか、やっと手を離し席に着いてくれた。
まだ俺、生きてるよな?ふー、生きてるってこんなに素晴らしいことなんだな。
そして何事もなかったかのように授業が再開される。なんでこのクラスの連中は肝が据わりきってるんだ?普通人の俺がこんなにビビってんのに。
それともハヤトにビビる俺がダイナミック的には異常なのか?
(中略)
なんやかんやで、ハヤトの校舎をつくる手伝いをしろと頼まれた(半ば脅されたとも言う。)オレは、放課後いきなり涼宮ハヤトに連れられ旧校舎へときた。
旧校舎、通称部室等。(すでにハヤトの校舎と言ってもいいかもしれんが)
音楽部や美術部といった特別教室を持たないクラブや同好会の部室のある棟だ。その文芸部室の前にオレたちは来ている。
「えっと、ハヤトの校舎を作るのになぜ文芸部に?」
まず浮かんだ疑問を口にする。一体ハヤトはどういうつもりでここに来たのだろうか?
「まずは、ここを最初の足がかりとする。あからさまに大きく出れるほど、まだ規模は大きくないのでな。
なに、ここの部員の承諾はすでに得ている」
えっと、承諾って、脅したんじゃないよな?
「ん?ここを使ってもいいかと聞いたら二つ返事で快諾してくれたぞ?」
そ、そうか……。こいつに迫られたらたいていの奴は何でも承諾しそうだが、などと考えているとハヤトが部室のドアを開けた。
中には一人の真っ黒い(というより少し赤い?)アンダースーツを着こんだ少女がいた。
「ゴウ……。長門ゴウ……」
短く彼女は自己紹介をした。そ、そうか。長門役はチェンゲのゴウさんですか。
たしかに無口キャラってのが共通してるよね。
そしてゴウに対し、俺はハヤトが自分の校舎を作るためにここを占拠しようとしていることや、
下手をすれば革命組織の構成員にされるかもしれないことを告げたが、その全てに即答され、半泣きになってしまった。
もうやだ。元の世界が恋しいよう……。
「フフ。これでまずは活動拠点を手に入れることができた。だが、まだ人数が足らんな。最低あと2人はいるか……」
完全に自分の世界にこもり、野望を膨らませてるハヤト。
ああ、オレはこんな無茶な世界でやってくことができるんだろうか…?
次の日、俺はハヤトの「先に部室へ行っていろ」という言葉に従い、部室へと足を運んだ。
そろそろ俺の胃にゾーンが開いて諸葛孔明とゆかいな仲間たちが出てきそうなストレスを感じつつ、重い部室のドアを開いた。
中にはすでにゴウがおり、昨日と同じように読書をしていた。
「……何を読んでいるんだ?」
沈黙に耐え切れず、俺はそう訊いてみた。長門ゴウは静かに表紙をこちらに向ける。虚無戦記、と書いてある。
「面白い?」
長門ゴウは静かに何の感慨もないかの如く答える。
「ドワオ」
いや、その感想はおかしい。正直読んでない人が聞いたら意味が分からんと思う。
「どういうとこが?」
「全部」
「本、好きなのか?」
「わりと」
「そうか……」
「………」
はい、会話終了。本編以上にヘビーな沈黙だぜ。まさか、次の瞬間ドワオ!ってなったりしないよなこのSS?
ドワオしとけばとりあえず石川漫画的だとか勘違いしてないだろうな……。
この数十秒の間に満身創痍となったオレは鞄を机に置き、その辺のパイプ椅子を引き寄せて腰を下ろそうとすると、ドアが蹴り飛ばされて開いた。
「待たせたな。こいつを捕まえるのに手間取ってな」
みると後ろの手には縄が握られており、その縄の先にはぐるぐる巻きにされた人間らしき物体が存在している。
どこから突っ込めばいいんだろう。つか、突っ込んだ瞬間に目だ!耳だ!鼻!されないよな?それくらいは仲良くなってるはず、自信ないけど。
ハヤトはそのままずるずると引きずって部室へ入ってくる。どうやら縄に巻かれてるのはこれまた少女(?)のようだ。しかもすんげー感じの。
「なんなんだ! ここはどこだ! 私に分かるよう説明しろ~~!!」
「黙れ」
ハヤトの殺気のこもった声をうけても、その少女は全くひるまなかった。こりゃすげえぜ。
「紹介しよう。朝比奈リョウマちゃんだ」
それだけ言って、朝比奈リョウマ、とやらの縄を解き始める。もう紹介おわりかよ?
縄から解かれた朝比奈リョウマとかいう謎の少女は、今にもハヤトに襲い掛かりそうなピリピリした空気を醸し出す。
俺は今にも泣きそうな顔でおどおどしてるし、ハヤトはふんぞり返ってるし、ゴウは何一つ反応せず読書を続けてるし…。
これ、役割が逆だよね?普通、朝比奈さんがビクビクするべきで、朝比奈さんがこんな野獣みたいなのとか無理があるだろ。
あ、そうか、朝比奈さん役はチェンゲの竜馬ってワケだな。確かにチェンゲで未来に飛んだから未来人かもしれない。うん、無理ありすぎ。
この殺伐とした空気を和ませるべく、俺は決死の覚悟で口を開いた。
「で、どこからさらってきたんだ?」
タメ口聞けるなんて、なんて命しらずなんだオレ。
「二年の教室から出てきた瞬間の隙をついて捕まえた。素手で気のたったイヌの首を刎ねた所を見てな。いい人材だと思いつれてきた」
とりあえず、イヌの首刎ねるってどんだけよ。いや、そんなことより、
「じゃ、上級生?」
「そうだ」
いや、そうだ、じゃなくて、そういや俺は何を聞けばいいんだろう。犬の首の刎ね方とか?
「ええっと、じゃあ犬を素手で倒せるから連れてきたんだな?」
「それもあるが、よく見てみろ」
ハヤトは朝比奈リョウマさんに指を突きつけ言い放つ。
「胸がデカイだろう?」
確かに胸はデカイ。まるでゴム毬だ。
「空手も出来て胸もデカイとくれば組織の一員として不足はない。おまけにリョウマだ。これ以上ない条件だろう?」
ええと、このハヤトさんは頭が良いんでしょうか?悪いんでしょうか?
「リョウマ、お前他に何かクラブ活動しているか?」
「あん?空手部とサッカー部に……」
「じゃあ、それらをやめろ。我が部の活動の邪魔だから」
重ーい沈黙が流れる。なんて自分の野望中心な考えなんだ。ほら、リョウマさんを見てみろ。怒りのボルテージMAXといったご様子じゃないか!
「言いたいことはそれだけか……ん?」
今にもハヤトに飛びかからんとした、リョウマさんだったが、長門ゴウの存在に初めて気づき、目を見開いたかと思うと「そうか。そういうことだったのか」と静かに呟き、
「解った」
と言った。どうやら血を見ないですんだようだ。つか何が解ったんだろう。
「空手部とサッカー部は辞めてこっちに入らせてもらう……」
あっれー?さっきとは打って変わってめちゃくちゃ楽しそうな目をしてるんですけどー?
「だけど、文芸部ってのは何をするんだ? 私は体育会系だから……」
「我が部は文芸部ではないぞ?」
目を丸くしてるリョウマさんに俺が説明する。
「じつはかくかくしかじかでして」
「…へ?」
状況をのみ込めていないのか、かなり困惑してる。正直、俺も困惑してんだから当然だよな。
「フ、心配するな。名前ならすでに考えてある」
「えっと、とりあえず聞かせてもらおうか?」
出来れば聞きたくない、というか今すぐ脱退したい俺だが、とりあえず名称くらいは聞いてみたい気がする。
そして涼宮ハヤトは高らかに宣言するのだった。
お知らせしよう。おそらくは何かしらの命名の理由があろう我が部の名は今ココに決定した。
NIhonwoSuzumiyhayatogAtenisuRutameno団。
略してNISAR。そこ笑っていいぞ。流石にむりやりすぎるよなコレ。
こんな名前を考えちゃうハヤトはおそらくゲッター線でおかしくなってるんだろう。
反対すべきなんだろうが、反対して命名センスを疑うと言えばその瞬間、俺の首は体とサヨウナラせねばならんだろう。
こうしてNISARはめでたく発足したのでした。
もうそろそろ俺を解放してくれないかなあ(泣)