GR異聞~地獄変~ エピローグ

Last-modified: 2011-03-20 (日) 05:47:49

<<エピローグ>>
 
 
 
「これは……、一体何の冗談だ?」
 
崩れかかったビルディングの屋上で、セルバンテスの呟きがこぼれる。
彼の眼下に広がるのは、あたかも全ての生物が死に絶えたかのような、終末を思わせる光景であった。
 
だがそれは彼の知る、いつもの燃え尽きた世界では無かった。
 
木が、草が、土が、コンクリートが、鉄骨が……
眼前にある何もかもが、あるいは爆ぜ、あるいは歪み、捩じり曲がっては混じり合い……。
 
そして……、全てが蕩けていたのだ。
 
「まったくよォ、花の東京がこの有様とは、情けなくて涙が出てくらァ」
 
剣呑なる響きを匂わせながら、奇妙に陽気な声が背後より投げかけられる。
聞き覚えのある声色に、セルバンテスがゆっくりと振り返る。
 
崩れかけた鉄扉を蹴破って現れたのは、隆々とした肉体にサラシを巻いて
袖も通さず羽織っただけの上着で風を切って歩く、豪放磊落を絵にしたかのような、いかつい大男であった。
 
「ほぅ、随分と懐かしい顔だな……、村雨竜作よ」
 
かつての油断ならぬ強敵の出現に対し、セルバンテスも不敵な軽口で応じる。
が、竜作の姿を見とめるや、すぐにさっ、と表情を変えた。
 
「村雨……、左腕は?」
 
「あん、これかい?」
 
と、半ば合金化し、大きくねじ曲がった左腕を、竜作が事もなげにひらひらと振るう。
 
「へっ、いわゆるゲッター線照射障害ってぇヤツよ。
 われながら、とんだドジをこいちまったモンよ」
 
「ゲッター線……照射障害だと?」
 
あっけにとられるセルバンテスを尻目に、竜作が身を乗り出し、東洋の大都会と謳われた繁栄の跡を覗き込む。
 
「ああ、どこもかしこもヒデェもんさ。
 三年前、浅間山で巻き起こったゲッター線の暴走事故を境に、
 日本中のなんもかんもが、すっかり蕩け切っちまったのよ。
 
 ……だが皮肉な事に、その時溢れだしたゲッター線の力によって
 世界の中で日本だけが【燃え尽きる日】の惨劇を乗り越える事が出来た。
 それ以来、神国日本はあのクソッタレのイデアどもの天下ってェワケだ!」
 
「…………」
 
ジッと西の空を睨みつけながら、竜作が心底忌々しげに吐き捨てる。
ゲッター線とアンチ・エネルギー。
時を超え、大きく立場を変えながら、どこまでも絡み合う超エネルギーの因果に、セルバンテスが言葉を失う。
 
「んな事よりよォ、アンタこそ、
 何だって今さら化けて出やがった【眩惑のセルバンテス】さんよォ?
 風のウワサじゃアンタ、三年前に紅海で死んだって聞いたぜ?」
 
「……何? そうか、私はここでも死んだ、か」
 
訝しげな瞳を向ける竜作に、セルバンテスが自嘲気味に笑みをこぼす。
 
「やれやれ、十傑集のセルバンテスとやらも存外骨の無い奴だ
 フフ、これじゃあ大作君の事ばかり言ってられんな」
 
「……? まあいい、折角だからちィっと手ェ貸せや、眩惑の。
 世界がこんななちまったんじゃァ、今さら国警だのBFだのでも無いだろう?」
 
「フフン、さっそく悪だくみかね? 今度は何をする気だ、村さ……」
 
 
「 ジ ャ イ ア ン ト ロ ボ の 発 掘 じ ゃ ア ァ ー ッ !! 」
 
 
と、その時、それまで村雨の背後に控えていた老人が、突如として狂声を上げた。
あっけにとられるセルバンテスの前に、狂人がずいっと畳み掛ける。
 
「グヒッ、あんのロクデナシのイデアどもを皆殺しにするにはよ。
 ヤツら光のゲッターに対抗できる、ゲッター線の怪物がどうしても必要なんじゃッ!!
 ヒヒヒ! その点、草間博士の生み出したアンチ・エネルギー理論は、
 実にゲッターに馴染みそうじゃからのう。
 まずはロボの行方を探しだし、その全貌を白日の元に晒してやるんじゃァ!!!」 
 
「……ま、そう言うこった、ノラ犬に噛まれたとでも思って力貸してくれや、眩惑のおっさんよォ」
 
「…………」
 
セルバンテスはしばし、迫りくる狂人と遠い目をした宿敵の姿を交互に見つめていたが、
やがて一つ、大きな溜息をついた。
 
「……やれやれ、今回はまたずいぶんと、長い寄り道になりそうだ」
 
「ンン、何か言ったかの? 眩惑のセルバンテス君!!」
 
「いえ、出来ればお手柔らかに頼みますよ……【敷島博士】」
 
「ムホホ! ワシの名前まで知っとるのか! 名乗る手間が省けたワイ!」
 
頭を抱える二人を尻目に、今やすっかり上機嫌となった敷島が、両手を突き上げ高らかと宣言した。
 
「ヒヒッ!! 役者は揃った、さっそく始めるとしようかッ!
 
 【 反(アンチ)ッ!! G R 計 画 】の始まりじゃアァ――ッ!!」
 
 
 
(完)