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Last-modified: 2015-12-29 (火) 23:49:10

ゲッターは悪だ。ふとそんな言葉がよぎる。
誰が言ったのかは覚えていない。冗談のつもりだったのかもしれないし、本気でゲッターを憎んでの
言葉だったのかもしれない。そしてそれは、おそらく事実なのだろう。

だが、こうも思った。進化するエネルギーであるゲッターが悪だとして、進化は悪だ。
進化が悪なのならば、今こうして生きていることも悪ではないのか。
生きることが悪なのだとしたら、皮肉にも正義は死者しか持ち得ない。
死ねば分かるのだろうか、宇宙の理が、ゲッターのすべてが・・・
生きている限り、事実に触れることは叶わない。それが運命かもしれないと、彼は思った。

 
 
 
 

敵の脳天にトマホークが命中し、血しぶきがあたりを染めた。

「よしまずは一匹!」

赤い機体のコックピットから、威勢のいい声が上がる。その声に目の前の通信機が答えた。

「油断するな。上だ。リョウ!」

巨大ロボのパイロットは、スクリーンに映っている青いスーツを着た男に楽しそうな笑顔で答える。

「なことわかってるぜ!飛ぶぞ!ハヤト」

「おう!」

白い機体のコックピットに納まっている男が、レバーを操作すると、二人の機体が同時に浮き上がる。
ゲッター1は、マントのようなものを翻し、空中を走るように左右にふれながら移動した。

「ゲッタァァァトマホゥゥゥゥク!」

肩から飛び出した鉄球が、瞬く間に斧へと変形する。
掛け声と共に、敵は一刀の元に切り捨てられた。

「こいつで終わりだな!」

最後に残った1体をしとめようと、ゲッター1が空中の敵に接近する。

「いくぜ ゲッターァァビーィィム!」

敵の正面に周りこみ、ゲッタービームを放とうと操作を開始する。
すると赤い機体のパイロット、リョウの視界の隅に影が映りこんだ。視線をそちらに向けると、
別の敵がまるで網のように体を広げ、ゲッターを捕らえようと覆いかぶさってくる。

「チッ、もう一匹居やがった。」

「くそ、誘い込まれたか。リョウ避けろ!」

パイロットは、とっさにビームを撃つ操作をキャンセルし、トマホークを再び持つ。
避けられるか否か、ぎりぎりのタイミングだ。リョウは瞬時に判断を下す。

「いや、よけねぇ。このまま切り裂く!」

そういって、もう一方のトマホークを取り出し連結する。リョウは避けることはせず
そのまま向かってくる敵に突っ込んでいった。

「ダブルトマホゥゥゥゥク!」

掛け声と共に二つの斧を回転させ、敵の体を切り裂いてゆく、体を広げることで網状になっていた敵の体は
易々と切り裂かれ、後に残ったのは巨大な肉塊だった。それは生命を失うと虹色に輝き、
どこかへと消えてゆく。どこに行くのかは知らないし、分からない。だが、リョウにとっては
それは戦いの終わり以外の意味はない。

 
 
 
 
 

「・・・ずいぶんと無茶をしたな」

基地に戻ると、白い機体のパイロットが話しかけてきた。
いつの間にか白衣に着替え、格好をつけて壁にもたれかかっている。
進路をふさいでいるのは間違いなくわざとだ。

「・・・・・・んだよ。文句あんのかよ」

リョウが答えると男は壁から離れ、歩み寄ってくる。

「ああ大アリだ。お前に、もしものことがあったら・・・・・・」

ハヤトがこの切り出し方をするときは必ず話が長くなる。説教の予感にリョウは大声を張り上げた。

「うるせー。ごちゃごちゃ言うな!リーダーは俺だ!」

その一言に、普段表情を見せない男の眉間にしわが寄る。

「何度も言っているだろう。俺じゃなく私と言え!」

そういってリョウの両肩をつかんだ男は続けた。

「お前は女なんだからな」

リョウはキザな格好で見下してくる男をにらみつける。

「男だろうが女だろうが関係ぇねえ!ほら体だってなんとも」

そういってハヤトの腕を弾き飛ばすと、ハヤトも負けじと彼女を睨んだ。

「ほう、ならこの後、俺が直々に検査してやろう。馬鹿力のお前のことだ。
 医務室に放り込んだら、医者を病院送りにしかねんからな」

「嫌だ。お前変なところ触るだろ。おれ・・・じゃなくて私はもう寝る」

そういってハヤトの前を通り過ぎようとすると、彼は、ほくそ笑むような嫌な笑顔を向けた。

「俺はお前が寝ていても一向に構わんぞ。むしろそのほうが検査しやすい」

嫌そうな目で睨み返してくるリョウ視線をかわし、ハヤトはそのまま背を向けると、どこかに歩いていった。

ハヤトは研究室のような部屋の中にやって来てモニターをチェックする。

「室内のゲッター含有率は0.3%、12時間での平均値は0.1%か。・・・今日はゼロではない・・・か」

研究室の中に、三つの台座があり、その上に巨大な試験管のようなものがセットされてある。
二つは空で、一つには女性が入っている。モニターには彼女の状態が映し出されていた。

「インベーダーに汚染された部分を取り除き、体も再生させた。
だが、いまだ彼女の意識レベルは戻らない」

ハヤトは端末を操作しながらつぶやく

「時間はもう残されていない・・・そろそろ潮時かもしれんな」

そういって男は顔を上げる。
目の前の画面に映された女性の顔を見つめて申し訳なさそうに言った。

「すまない。ミチルさん」

 
 
 
 

ハヤトは計器の数字をチェックし、記録を済ませると研究室を出る。
そのまま居住区に向かい、目的の部屋の戸をノックした。
その扉がゆっくりと開かれ、その中から女性が姿を現す。
いつものパイロットスーツではなく、黒のタンクトップとジーンズに身を包んだ彼女は
先ほどと同じように、嫌そうな顔で出迎えた。

「ほんとに来やがった」

「律儀に起きていた人間が何を言ってる?」

ハヤトは有無を言わさず彼女の部屋に入ると、彼女を寝台にうつぶせに寝かせた。
リョウはハヤトの指示におとなしく従い、体を預けた。

「やさしくしろよな」

「ただの検査とマッサージだ。体を壊すような真似をすると思うか?」

男は嫌味な笑いをつくると、慣れた手つきで彼女の体に手をかけた。

「なあハヤトぉ」

「何だ?」

「おめえは無茶だって言ってっけどよ。あれ無茶じゃなかったんだぜ」

ハヤトは何の話か迷ったが、すぐに今日の出撃のことだと思い当たり、彼女の言い分に耳を傾けた。

「前な あいつと同じ奴が出たんだよ。 ドンぐらい前だったかは覚えてねぇけどな」

「ほぉ」

「んで、今回みてーに誘い込まれて 攻撃されちまってよ あの網に腕持ってかれて
 トマホークは使えねえし 危うく捕まっちまうとこだった」

「そんなこともあったな」

「んでそんときは、結局ゲッタービームで倒したんだ」

要約すると大分前に戦った敵が、今回とまったく同じ動きをした。そのときは回避しきれなくて
腕を持っていかれ、トマホークを使えなくなり、結局ゲッタービームで倒したんだとリョウは言った。

「気流の動きまで一緒だったぜ。こんなことってあるんだな」

「・・・・・・」

「どうしたハヤト?」

「いや、さて見たところ体に異常は見られないようだ。俺も部屋に戻る」

「へ?今日は泊まっていかないのか?」

「そんな気分じゃない。第一お前と一緒だと俺がゆっくり寝られんからな」

「それってあれか?俺の寝相的な意味でか?」

ハヤトは、彼女の言い分に、すねたように顔を背けると、そのまま寝台から立ち上がる。

「・・・・・・明日も出撃がある可能性がある。ゆっくり休め」

ハヤトは彼女が何か言いたそうにしているのを無視して、そのまま部屋をでた。

「女の勘って奴か。いつまで隠しておけるだろうな」

部屋に戻る道すがら、ハヤトはつぶやく。
彼女はまもなくすべてを知るだろう。
彼らの頭上には、すでに運命の亀裂が走っていた。しかし、当人たちは知る由も無かった。