長い暗闇を抜けると そこにはまたも地上が広がっていた。
しかしそこに緑色の山河はなく、荒涼とした大地のみが広がっている。
代わり映えのしない光景が過ぎ去った後、見えてきたのは巨大な黒い塔だ。
それは口を開けゲッターを飲み込む。
青白い光が満たされた格納庫に着くと、リョウを捕まえた男は、リョウと共に昇降装置に乗り込んだ。
淡い光が下へ下へと流れていく、それを眺めていた男は、つぶやくように言った。
「整備班のやつらまでいねぇとはな。ずいぶん徹底してやがるな」
「おいてめぇ 私をどうするつもりだ?」
男の呟きを合図に、リョウは男に質問をぶつける。男は一瞬だけリョウを見ると、つまらなそうに視線をあさっての方向に向けた。
「俺が知るかよ」
それだけ言うと男はまた黙る。リョウが男を視線で殺そうと、目に力をこめていると、男が不意に口を開いた。
「俺はしらねぇが、これから会わせる男は知ってるぜ。聞きたいんなら奴に聞け」
「それと、俺はてめぇなんて名前じゃねぇ。流竜馬だ」
竜馬はリョウと同じ眼力で睨み返してくる。彼女はまた怯み、目線をはずした。
男もまた沈黙し、次に昇降装置の扉が開くまで、誰も言葉を発しなかった。
最上階に着くと、二人は昇降装置を降り、そのまま狭い通路を進む。
その先に一つだけある扉を開け、中に入る。すると、機械に囲まれた部屋の中に、ただ一人男が立っていた。
壁と一体化した端末に向かい、こちらに背を向けているスーツの男に竜馬は言う。
「おい てめぇの女はどうした」
「女?ああヤマザキのことか、彼女は俺の代わりにタワーの指揮をとっている。こちらには近づかないよう言い含めておいた」
「だろうな。こんなもん見られちまったら、さすがのお前でも言い訳できねぇだろうからな」
竜馬はそういって腕の中にいるリョウに視線を向ける。彼女は拘束具をつけられ、おとなしくしていた。
いつまた飛び掛ってくるかと内心ヒヤヒヤしていたが、その眼に抵抗の意思が感じられないのを見た竜馬は
とたんに彼女を哀れに思う。だから竜馬は拘束具を外し、彼女を自由にした。
彼女の眼に困惑が浮かぶのを見ないふりをして、竜馬は目の前の男に言った。
「連れてきたぜ ったくいい加減どういうことか説明しろ 隼人」
「ハヤトだって!?」
ゆっくりと振り向いた男は確かにハヤトだった。壁の青白い液晶の光に照らされた顔は、
年齢を重ね、多くの傷を作ってはいるものの、まさしくハヤトその人だった。周囲の液晶画面から出る、
青白い光のように無表情な顔が言葉をつむぐ。
「簡単に言えば彼女はクローンだ お前のな」
「あいつ ハヤトはお前のクローンってわけか。なるほどな。ゲッター2は殺す気でやれっつった訳がわかったぜ」
「私がクローンだって!?」
「ああそうだ お前たちは量産型ドラゴンのパイロットの試作型として、敷島博士に作られ
早乙女博士に預けられたクローンだ。 俺と竜馬 そしてミチルさんのな」
「ミチル 誰だ?」
「リョウ彼女はいなかったのか?」
リョウと呼びかけられ、戸惑っているリョウをよそに、竜馬が自分のことのように質問に答える。
「三号機は無人だった。そうじゃなきゃ動きが鈍すぎる。そうなるとミチルさんは・・・・・・」
「・・・・・・失敗だったか」
「サンプルだけは回収できそうだ。あとは俺らが何とかするしかねぇな」
「・・・・・・絶望的だな」
隼人はタバコを口に含み、大きく息を吐き出す。竜馬も肩を落とし、下を向いた。
リョウが好奇心から二人の会話に割って入ると竜馬が答える。
「なあおい ミチルって誰だよ?」
「早乙女博士の娘で、俺たちの大事な人だ」
「私は早乙女もミチルなんて奴もしらねえっつってんだよ 私が知ってんのはハヤトと・・・・・・ハヤトと あれ?」
彼女は自身の記憶を手繰り、大変な事実に気が付いた。
「私ハヤト以外の奴の名前しらねぇ 何でだ!?そんなはず」
そのことに動揺する彼女に、隼人は当たり前のような顔で言う。
「それはそうだろう なにせあの空間にはお前たち三人 いや二人か?とにかくそれ以外に人はいないんだからな」
「それは違う!私たちは今まで研究所にいたんだ!そこから発進して敵を倒して町を守ってた!」
隼人の態度に激昂した彼女は、手を計器に打ち付けて声を荒げる。
隼人はそれにムッとしたように、イラつき畳み掛けるように聞く。
「その敵は名前は何で、どんな奴だった?研究所はどこにあった?」
その質問にリョウは頭を抱え、短めの髪を掻きむしった。
「それはその・・・・・・何でだ?思い出せねぇ」
「バーチャルリアリティ 仮想現実という言葉を聴いたことがあるだろう? お前たちは、あの地下空間で幻を見せられていたんだ」
「嘘だ!!」
取り乱したリョウはいまにも隼人につかみかかろうとしている。竜馬は二人の両方をかばうように前に出た。
「おいハヤト。やめだ。もうよそうぜ」
「そういうわけにはいかん 我々がすぐにでも計画を実行せねば、タワーは・・・・・・」
「少しは俺を休ませろっつってんだよ!朝からたたき起こして、散々こき使いやがって、俺はてめぇみてぇに仕事する機械じゃねぇ!」
早朝とも言えない真夜中に、ジャガー号に押し込まれ、長時間穴掘りをした挙句、慣れないゲッター2での戦闘をこなし、
戦闘員の最後の抵抗を、腕づくで押さえ込んできた。最後はランナーズハイになりかかったものの、今は落ち着きを取り戻している。
そんなハードな一日を送った竜馬は今、空腹、寝不足、そして疲労のトリプルコンボで相当に気が立っている。
竜馬の当然の要求に、隼人はそれもそうだと思い直した。
「・・・それもそうだな よしお前は部屋に戻っていいぞ」
「ああそうさせてもらうぜ こいつと一緒にな」
「てめぇ 何のつもりだ」
「ったく、俺が直々にタワーへの客人をもてなしてやろうってんだよ。わりぃか?」
竜馬はそういうと、いつの間にか彼女の肩に乗せた腕の力を強めた。至近距離でにらみ合う形になった二人。
隼人はそれを困ったような呆れたような顔で制止する。
「竜馬 妙な真似はよせ 彼女は置いていくんだ」
「はっ てめぇに預けとくほうがあぶねぇだろ」
「俺がお前に協力してやってんのはな、どこに行っちまったか、てんでわからねぇ あのバケモンとジジィを
探すためだ。関係ぇねえ奴らをいたぶるためじゃねえ」
「竜馬 話を聞け」
「てめぇのうさんくさい話なんて誰が聞くか。おい女、俺の寝首をかきてぇんだったら好きにしろ。行くぞ」
「ま待て、私はまだこいつに話が!」
言い終わる前に竜馬はリョウの体を遠慮なしに引きずっていく。
扉が閉まると隼人はため息をついた。
「・・・・・・まったく余計なことを」
隼人の執務室の前の昇降装置に再び乗り、そこを一階層下った区画に竜馬の私室がある。
ゲッターチームの小隊長でもある彼は、彼自身の強さと経歴の特殊性から、タワーではもっぱら隼人の私兵として動いていた。
小隊長として部隊を率いる以上、彼も下士官の端くれであり、さらに隼人の護衛も兼ねるということで、部屋は割といいものが割り当てられていた。
しかし、当の竜馬はそんなことは露知らず、仲間とだべったり、寝に帰るだけの場所としてしか認識していない。
ミーティングに使うための四人用の机と椅子のある部屋、銃器やコートなどの私物を乱雑に詰め込んでいる物置、
そして、寝台があるだけの殺風景な部屋。リョウは寝台のある部屋に引きずられ、連れ込まれた。
入り口から、ミーティングルームを通ぬけ、寝台の布団に投げ飛ばされた彼女は、間髪入れずに向かってきた。
「てめぇ!なにしやがる」
「さっきより力入ってねぇな 疲れてんのか?」
「だまれ うあっ!?」
竜馬に向かってリョウのパンチが飛んでくるが、軽く避けられる。リョウはもう一度パンチを撃とうとするも、ふらついて倒れ、ベッドに飛び込む形になった。
彼女は無様に布団に埋もれる。そこでぐうぅぅと盛大に腹の虫がなった。
「なんだ 腹減ってたのか」
「うるさい うるさい」
「・・・嫌われちまったな。まぁしかたねぇか」
そのまま布団に潜ってしまった彼女をみて、竜馬はため息をつく。
そういうと つかつかと入って来た扉のまで引き返し、振り向いて聞いた。
「なああんた。俺はこれから食堂に行くんだが 食いもんだと何が好きだ?」
「肉。肉なら何でも」
「そうか」
駄目もとで聞いた竜馬の耳に、ふて腐れた彼女の声が届く。彼女の素直な答えに竜馬の口元がゆるく弧を描いた。
「いいか。俺以外の誰がきても開けんなよ」
竜馬はそれだけいって出て行った。やることのなくなったリョウはそのまま頭だけを出し、毛布に包まり体を丸めている。
「なんなんだよあいつ。そもそも私たちが何したってんだ」
一人になった彼女は、思考をめぐらせる。
女は殺すな。なら男であるハヤトはどうなる?不安から無意識に布団に爪を立てる。
(ハヤト・・・無事だよな)
そこにインターホンがなった 頭だけをそちらに向けると小さな画面に太った男が映し出される。
「よう竜馬いるか?」
無視しようかと思ったが、彼女は竜馬へのささやかな復讐を思いつき、布団に包まったままインターホンのボタンを押す。
聞きなれない女の声に驚いた男は目を見開き、画面に映るリョウをまじまじと見た
「竜馬は食堂に行ったぞ。すぐに戻ってくると思うが、伝言があるなら私が聞いておこう」
「女だと!?あんた誰だ?どうしてあいつの部屋にいんだよ!?」
「私はリョウ。突然やって来た竜馬にさらわれた挙句、無理やり部屋に連れ込まれた」
男の反応を見るに、毛布の下にパイロットスーツを着ているのはバレていないだろう。
何一つ間違ってはいないが、聞いた人が勘違いするような言葉を選び反応をうかがう。
「おいおい。マジかよ。・・・・・・あんたそっから出られねぇのか?」
「無理だ。出来たとしても竜馬以外の人間には開けるなといわれている」
「あのやろう。ついにやらかしやがったか 待ってろ!今出してやるからな」
伏し目がちに憂いをこめて言ってやれば、男は血相を変えて飛び出していった。
リョウはあの竜馬への仕返しが出来たことに気をよくして、再び布団にダイブして寝転がった。
「フッ ちょろいな」