竜馬は帰るなり扉を勢いよく開け放つと、その先にいるリョウを怒鳴りつけた。
「てめぇ!武蔵に何吹き込みやがった!」
彼女はそれを予想していたように、ベッドに寝転がりながら、余裕たっぷりの笑みで答える。
「私は事実しか言ってないぞ。実際無理やりだっただろうが」
そう言って意味もなく体をごろりと横に一回転させる。
ふてぶてしい猫のような動きに竜馬の怒る気がだいぶ失せた。
「それは・・・・・・それはそうだけどよ。そもそも言い方ってもんがあんだろ!」
「うるさい!私にとってはみんな敵なんだ。信用しろって方が無茶だろ」
彼女は怒りに任せ、その身を跳ね上げる。すると体を覆う毛布が外れ、パイロットスーツがあらわになった。
先のやり取りと、彼女の服装を見た武蔵は、ここで初めて自分の誤りに気が付く。
その横からゴウが涼しい顔で彼女に質問した。
「お前もゲッターのパイロットなのか?」
ゴウに聞かれたリョウは目を輝かせ、無駄にポーズを決めて答える。
「そうだぜ。町を守る正義のヒーロー リョウだ。ホントはもう一人居んだけど 今は事情があってよ」
リョウの発言に武蔵が首をかしげる。
「町?今の地上には町なんてもんは無いぞ。一体どこの町を守ってたって言うんだ?」
「あー畜生。話がややこしくなる。俺が説明するから黙って聞け」
竜馬が説明しようとすると、ゴウがその手に持っていたローストビーフの大皿をリョウに差し出した。
「リョウ 竜馬からだ」
「竜馬が?」
リョウが目を丸くして竜馬を見る。すると竜馬は頭を掻いて視線を外した。
「手に入れんのかなり苦労したぜ 味わって食えよ」
リョウが肉の量に感激していると、武蔵がうれしそうに話しかけた。
「こいつはうめえぞ。食って力つけとくんだな」
「さて説明始めんぞ。食いながらでいいが、しっかり聞け」
竜馬は、三人に経緯をかいつまんで説明した。自分の任務は地下深くに創られた空間、
仮想現実発生装置を含めたゲッタードラゴンのパイロット養成のためのドーム状の地下施設
(長いので、これ以降その施設を「ドーム」と呼ぶ)
その「ドーム」内にある旧ゲッターを無力化し乗員を保護すること、
その際に抵抗があった場合には攻撃の許可があったこと、これらを踏まえた上で最適な方法をとった結果。
リョウを捕まえ、ハヤトを後の部隊に任せたのだと弁解した。
「まあつまりな、一言で言うと命令した隼人が悪い」
「責任転嫁なんて男らしくねぇな」
そう締めくくった竜馬を弁慶が茶化す。
「うるせぇ」
そんな武蔵を竜馬はじゃれ付くように小突く、二人の中の良さそうな様子にゴウとリョウはふっと笑った。
「なるほどな。じゃあここに着いてからのことはどう説明する?」
リョウの質問に、弁慶を締め上げていた竜馬は手を離し、説明に戻った。
「ああそれはな。あいつが悪党の顔してたからだ」
「顔って お互い様だろ?二人とも刑務所にいてもおかしくねえ顔だぜ」
リョウの歯に衣着せぬ言い方に、武蔵が苦笑する。
「おめーも遠慮ねぇな」
リョウの容赦ない突っ込みに、竜馬は苦笑いで答える。
「まあ俺は実際刑務所にいたし、ちげぇねぇな。なんていうかその 悪巧みしてるときの顔ってあるだろ?
あいつはそんな顔してたんだよ」
「・・・・・・俺たち付き合い長いからな」
竜馬は最後の言葉を、昔を懐かしむように、遠くを見て続けた。
「ふーん。なるほどな」
リョウはその説明を受け、腕を組んで考えるふりをする。彼女の頭は難しいことを考えるのに向いていないようで
出てきた結論は、よく考えなくても出るものだった。
「とりあえずあんたらが悪い奴じゃないことはわかったぜ。なんか他人の気がしないんだよな」
「それはお前が俺のクローンだからか?」
冗談を言った竜馬にリョウも笑う。
「ふふっどうだろうな。そこの二人も他人のような気がしないんだ」
空になったローストビーフの皿を手に笑顔を見せるリョウ。そんな彼女を見た竜馬の笑みが深くなる。
リョウから視線を向けられたゴウは微笑み、武蔵は照れたように下を向いて頭をかく。
「美人のねーちゃんにそういってもらえると、嬉しいぜ」
「おっと私に惚れるなよ。やけどじゃすまねぇぜ」
リョウは武蔵に向けて銃を持つようなしぐさをすると、本気とも冗談とも付かないことを言った。
「具体的にはハヤトのマシンガンの餌食だ」
そのしぐさであの戦いを思い出した竜馬が呆れたように言う。
「やっぱ クローンのあいつもやばい性格してやがんのか」
(あいつのことだ。俺が一発で決められてなかったら、何か仕掛けてきただろうな)
竜馬はクローンのハヤトを思い浮かべ、心底嫌そうな顔をする。
ぼそりとつぶやいた竜馬をよそに武蔵が質問した。
「隼人のクローンも居やがるのか、こっちの隼人とやっぱ同じなのか?」
リョウは問われるままパートナーの彼のことを思い浮かべ、ついで司令室で会った男を思い浮かべる。
年を重ねた彼の、暗い暗い目を思い浮かべながらリョウは言った。
「うーん。顔は同じはずなんだが、印象はずいぶん違うな。ハヤトが年をとって傷だらけになっても
ああはならないと思う。」
「・・・・・・まぁいろいろあったからな」
竜馬が口数少なくそれだけ言うと バツが悪そうに本皮のソファに体を投げ出した。
それは今の今まで物置に眠っていたものを、つい先ほど引きずりだして来たものだ。
これが高級な品であることは、先ほどからこの部屋の入り口にいる招かれざる客以外は、
だれも気が付いていない。
そのまましばし沈黙が続くかと思われた。しかし唐突に部屋の入り口から、招かれざる客の声が低く響く。
「興味深い話だな」
部屋にいた四人の視線が一斉に入り口に向くと、そこには司令室に収まっているはずの男が壁にもたれていた。
「隼人!?」
武蔵は動揺し、竜馬は殺気を強くする。リョウは彼の姿と、まとう雰囲気に拳を硬く握りこんだ。
「いつから居やがった」
「いつからだっていいだろう」
まるで獣のうなりのように低い声で威嚇する竜馬、そして自分をにらみ付けてくるリョウに、隼人は肩をすくめる。
隼人の飄々とした態度に竜馬の苛立ちはさらに増した。
「ならさっさと出てけ」
「そうはいかん」
隼人はそう言うと、壁から離れ、ベッドに陣取っているリョウに近づいてゆく。
「来んじゃねぇよ おっさん それ以上近づいたらぶっ飛ばすぜ」
リョウは毛布を握りこみ、いつでも飛びかかれるように体勢を整える。
「それは困るな」
そう言われた隼人はベッドには近づいたが、彼女に触れようとはせず、距離を取って、ゆっくりと言った。
「俺と一緒に来い ハヤトに会わせてやる」
「ハヤト だって?」
何を言われても拒否しようとしていた彼女は、その名前に動揺する。
その目が迷いを映し出していると、竜馬が助け舟を出した。
「俺もいくぜ 文句は言わせねぇぞ」
隼人が口を開く前に、竜馬に続いて武蔵とゴウが口を挟む。
「俺たちも行くぞ」
「ああ」
隼人は彼らをその黒い目でじっと見つめ、小さくため息をつくと、部屋の扉を開けて、ゆっくりと歩き出した。