7

Last-modified: 2015-12-29 (火) 23:57:57

部屋を出た三人は、隼人を先頭に階段を駆け上がった。
タワーの内部の移動は基本的にエレベーターやエスカレーターなどの自動昇降機が占めている。
しかし緊急時には使い物にならなくなるそれらは、万が一を考え、炉心の周りにはなかった。
インベーダーに乗っ取られるリスクを考えてのことだったが、隼人はそれにもどかしい思いを感じながら
階段を踏みつける力を強くする。

先頭を行く隼人に竜馬が追いついて叫ぶ。

「隼人 ゲッターの格納庫はこっちじゃねぇぞ!」

隼人はちらりと視線を送った後、すぐまた前を見て言った。

「分かっている。あんな狭い場所でゲッターは使えんだろう。仮に部屋に入れられたとしても、炉心を傷つけずに
 インベーダーを倒すのは不可能だ」

「ならどうするってんだ!」

「竜馬 前だ!」

ゴウが二人の後ろから会話に割り込む。見ると階段の先には行く手を阻むように分厚い扉があった。

「とにかく俺に考えがある ここは任せてくれないかリョウ」

隼人は竜馬の顔を見て寂しげに笑う。竜馬はそれには答えず、黙って隼人の前に躍り出た。

「ぶち破るぜ!ゴウ」

「了解だ 竜馬!」

二人の蹴りを喰らった扉はあっけなく開き、隼人は少しも速度を落とすことなく駆け抜ける。

「あとで始末書を書かねばな」

司令である自分が誰に始末書を書くのだろう。隼人はそれに気づき苦笑しながら先を急いだ。
そして目的の部屋に付くと、隼人は再びぶち破ろうとした竜馬を制止し、カードキーを取り出した。

「そんな暇ねえだろ!早くしねぇと」

焦る竜馬に隼人が余裕を含んだ笑みを見せる。

「爆発してもか?」

竜馬が驚いているのを尻目に、隼人は扉にキーを通しパスワードを入力していく、

「ここが敷島博士のラボなのは説明したな。下は遺伝子工学の、そしてこっちは特殊兵器関係を扱っている」

「あのじじい、武器まで作ってやがったのか」

「ああ極秘でな。遺伝子工学よりも、兵器関係は簡単に悪用される上、人的被害が深刻になる。
 だからセキュリティもこちらのほうを重視してある」

隼人が涼しい顔で作業する横で、竜馬は青くなる。

「ちょっとまて ひょっとしてさっきぶち破った扉もか?」

「運がよかったな。最悪三人まとめて吹き飛ばされていたかもしれん」

隼人はこともなげに言うと、ちょうど厳重にロックされていた扉が開いた。

「さあ行くぞ」

博士による危険な罠が待ち受けているかもしれない部屋の中を、隼人がゆうゆうと歩いてゆく。

「隼人の顔の傷が出来た理由が分かった気がする」

ゴウが隣でそうつぶやいたのを、竜馬は聞こえないふりをした。

隼人が入っていった部屋の中は雑多な品物であふれていた。銃のようなものもあれば弓のようなもの
魚でも獲るのか? と思うような網もあれば、三叉のモリのようなものまである。

罠を警戒して部屋の外で待つ二人を気にする様子もなく
隼人はその中からビームライフルのようなものと、水筒のような円柱状の物体をいくつか持ち出し、
部屋から出た後、それぞれを二人に手渡すと、簡潔な説明をした。

「竜馬に渡したのは液体窒素入りの手榴弾だ。当てれば一時的に敵の動きを止められる。
ゴウに渡したのはゲッタービームライフル、ゲッターエネルギーさえあればビームが撃てる」

それだけ言うと隼人は先ほどの部屋を離れ、来た方向とは反対の廊下に進む。その先には壁があるのみだ。

「おい隼人!そっちは行き止まりだろうが!急いでもどらねぇと」

殺気立つ竜馬をビームライフルを背負ったゴウがいさめた。

「竜馬、隼人についていこう。隼人にも考えがあるんだろう」

隼人はあの黒い目を二人に向ける。隼人は察してほしいことがあると、あの何かを押し殺したような目を
する。竜馬は不意に昔の彼を思い出し、いま戦っているであろう男と重ねた。

「わーったよ。けど急ぐぞ。ぐずぐずしてる暇はねぇ」

隼人は行き止まりの壁にたどりつくと、何かを探るように手を伸ばす、すると、壁の一部がスライドし
ロックを解除するためのパッドが現れた。

「!隠し扉か」

隼人はすばやく数字を打ち込み、ボタンを押す。行き止まりの壁は扉となり、
扉は重厚な機械音をたててじわじわと開いていく。

「一体どこに続いてやがんだ」

淡い蛍のような光と、聞きなれた稼動音、そこにはゲッター炉心の下部が見えていた。
そして下からする聞き覚えのある銃撃音。扉が完全に開ききる前に、竜馬の疑問は氷解する。
竜馬は扉に近づき、のぞき見る。下では二つの人影と 一つの化け物がお互いの命を削り、戦っていた。
竜馬はその光景に安心して叫ぶ。

「おいお前ら大丈夫か!」

上部から聞こえた声に男が反応する。

「ああ、なんとかな!」

苦しそうな声に続いて、必死な女の声がする。

「竜馬、ハヤトが怪我したんだ!わたしのせいだ。わたしがもっと気をつけてれば」

「なんだと!待ってろ今行く!」

竜馬は居てもたっても居られず、そのまま体を重力にまかせ、身を宙に躍らせた。
そして落ちながら、隼人に手渡された「液体窒素手榴弾」を、インベーダーの入っている試験管にぶん投げる。

「喰らいやがれ!液体ぃぃ窒素ォォォォ手リュゥゥゥウ弾!」

ゲッタートマホークやゲッタービームを使うときのように、気合の入った声で叫ぶ。
その気合が利いたのか、弾は触手に阻まれることなく本体に命中した。

「ぎゃああああああ」

断末魔の悲鳴とともに、あたりに冷気が立ち込める。本体を守ろうとした触手は
次々と物言わぬ氷柱に変わっていった。

「竜馬、そのまま二人を部屋の外に誘導しろ!」

「言われなくともそうする・・・・・・ぜ!」

竜馬は落下の衝撃をローリングと受身で無かったことにすると、その勢いを利用し扉に向かう。

「ハヤト大丈夫か?」

「そんな顔をするな。美人が台無しだぞ。 なに、ほんのかすり傷だ」

「お前ら急げ、もたもたしてっと奴が動き出すぞ!」

肩に傷を負い、明らかに動きが鈍っているハヤトを、リョウが背負って扉に走る。
竜馬はそれをカバーするように、残った触手を銃でいなしていく。
竜馬の手によって開けられた扉に二人がたどり着くと、全員がすばやく脱出し扉を閉める。
上階からその様子を見届けた隼人がゴウに言った。

「エネルギー充足率80%だ。ゴウ外すなよ」

隼人は壁に取り付けられた画面を見ながら言った。壁の内部にあったゲッターエネルギーの通り道から、
ライフルへと伸びるコードを通して、ゴウの持っているビームライフルに格子状の緑色の光が流れ込んでいる。

「分かってる」

ゴウは隼人の言葉を受けて、手に持っているライフルを構えなおした。

「エネルギー充足率90% いいか試験管の中央を狙え・・・・・・あの顔を打ち抜くんだ」

隼人の声に混じる迷いに、ゴウは気遣いをみせる。

「隼人、大丈夫なのか」

「ふっ俺は対インベーダーの司令官だぞ。私情なんか挟めるか」

苦しそうな顔をした隼人を気遣い、ゴウは悲しげに眉を下げる。しかし、ほかに出来ることはなかった。

「分かった。俺がやってやる」

ゴウの決意を持った目を前に、隼人は気づかれぬよう、その黒い目をそらす。

「エネルギー充足率100%!ゴウ今だ撃て!」

隼人の叫びと共にゴウはライフルの引き金を引いた。

「ゲッタァァァァビィィィーーーム」

いつもの充填音の後、赤い光が打ち出される。そしてその光は、インベーダーも、彼女も、
部屋にあった装置も、跡形も無く吹き飛ばした。

「仇はとったぜ 武蔵」

竜馬は決着が付いたことを、壁一枚隣で理解し、抱えていた何かに向けて話しかける。
それは戦友であった友の頭部だった。
コートは赤黒い液体で汚れ、マフラーにも血の赤が侵食している。しかしそれでも 
彼はそれを離そうとはせず、ただ一言、もう目を開けることのない彼に話しかけ、弔った。