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Last-modified: 2015-12-29 (火) 23:59:09

結論から言うとインベーダーには出会わなかった。
そもそもドームは地中にあるため、必然的にゲッター2での地中移動が中心になる。

竜馬に代わってハヤトが運転したゲッター2のおかげで、ドームを改造した基地に難なくたどり着いた一行は、
ゲッターに乗ったまま避難民たちの居住スペースへと改造された空間に向かっている。
その途中、通信が入ってきた。

「司令官どの、例のもの輸送完了しました」

「よし、ご苦労、お前らはそのまま戻れ」

「了解であります」

通信が切られると、間髪いれずに、また通信が入る。

「こちらヤマザキです。司令、日本政府の代表団がドーム内でお待ちです」

「そのまま待たせておけ、俺たちは先にやらねばならんことがある」

それだけ言って通信を切ろうとした隼人に、彼女は食い下がった。

「ですが、車少佐は一刻も早く会いたい、と。せめて理由だけでも」

竜馬がその名前に反応した。

「弁慶か 懐かしいな」

隼人はしばしの沈黙の後、口を開いた。

「車少佐だけ通せ、残りには引き続き待ってもらうんだ」

「了解しました」

四人がゲッターを降りると、居住スペース内の治療施設の内部に通される。
そこには無機質な白い部屋の中に、一人の先客と、
大きなテーブルの上に乗せられた棺おけのような物体があった。
先客はこちらの姿を認めるとその巨体を持ち上げ、親しげにこちらに手を振った。

「よう。ひさしぶりだな」

「ひさしぶりなんてもんじゃねぇだろ、十ウン年ぶりだぜ」

竜馬が茶々を入れると、隼人がつっこんだ。

「ほかに言いようがないだろう。弁慶、早速で悪いが本題に入らせて貰う。
 後ろの二人について、いろいろ質問があると思うが、それは後にしてくれ」

隼人は心なしか早口で言うと、返事を待たず、カードキーを取り出し、テーブルの上の物体の溝を滑らせる。
ぷしゅぅと空気の抜ける音と共に箱は分解され、中の物体があらわになった。

「毛布?」

リョウはあの厳重そうな棺おけの中から、丸められた毛布が出てきたことに疑問を持つが、同じように
思った赤マフラーの男が、毛布をめくると、疑問が解ける。

「隼人こいつぁ・・・・・・」

竜馬がそれだけ言って次の言葉を捜していると、後ろから覗き込んだリョウが言った。

「まだハヤトがいたのか、しかもなんで女なんだ?」

毛布の下の一糸まとわぬ女体に絶句する男性陣を横目に、リョウは何の恥じらいもなく質問する。
それに隼人が表情の見えない顔で答える。

「お前たちは見たことがあるだろう。クローンの竜馬の隣にいた初代のクローン個体だ。
 ゲッタービームで派手に装置を壊してしまったからな。物資不足のいま装置を復元して保管するより
 どうせなら活用しようと思って持ってきた。お前らへの祝いと詫びも兼ねてな」

そういってリョウとハヤトに視線を送る司令官に、竜馬が横から言葉をぶつける。その体は震え、顔は下を向いていた。

「なあ隼人・・・・・・「俺」のほうはどうなった?」

隼人はそれに視線すら送らず、淡々と答える。

「・・・・・・修復は不可能と判断した。残ったのはこいつだけだ」

「そうか」

竜馬はそれだけ言うと彼女を見つめる。はがした毛布を元に戻し、今はその顔だけが表に出ている。
その肌は白を通り越して青白く、見ようによっては死人のようにも見えた。
顔の全体的なつくりは、隣にいる男に似ているが、長い髪と切れ長な目、そして長いまつげが、違う性
であることを強調している。そのまつげが不意に震え、声が漏れた。

「んっ・・・・・・」

彼女は薄目を開けて起き上がり、未だ焦点の合わない目で、目の前の男に質問する。

「ここは?」

竜馬はそれに答えることが出来なかった。恐怖のような羞恥のような、そんな訳のわからない感情が
彼の行動の自由を奪う。固まっている彼に助け舟を出したのはハヤトだった。

「ここはドーム もしくはネーサー基地だ。そして俺は所長のハヤト。お前の兄のようなものだな」

いかにも悪そうな笑みを浮かべた男の横から、リョウがハヤトの冗談に楽しげに加わる。

「俺、いや私はリョウだ。アネキって呼んでもいいぜ」

「ハヤトにリョウ・・・・・・私は」

彼女はそういうと言葉に詰まる。困惑している彼女の意図を察したハヤトは言った。

「お前の名前はジーンだ。どうだ、いい名前だろう」

「私は・・・・・・ジーン?」

そのやり取りを見ていた司令がフッとおかしそうに笑う。
それを見た弁慶は、珍しいものでも見るようにきょとんとしていた。
その視線に気づいた隼人は弁慶の方を振り向き、顔を見て言った。

「遺伝子のことを英語でジーンと言うんだ。なかなかしゃれた名前だと思ってな」

その声で二人の存在を確認したジーンはこちらに水を向けてきた。

「あなたたちの名前は?」

ジーンはゆっくりとした口調で後ろの二人にも問いかける。最初に答えたのは弁慶だった。

「俺は日本軍の車弁慶だ。元ゲッターチームで、こいつと付き合いがあったもんで、
 日本政府から言伝を頼まれてきた」

「俺はタワーの司令官 神隼人。ハヤトと同じ名前だが、面倒だろうから司令でいい」

ジーンはゆっくりと二人の呼び名を口にした。

「弁慶に司令」

そして一回りして、ジーンは再び、目の前で固まっている男に視線を向ける。男は観念したように答えた。

「竜馬だ」

ぶっきらぼうに答えたことを気にもせず、ジーンは彼の名前を唇に乗せる。

「竜馬」

呼ばれた竜馬は照れたように視線をはずし、そのまま彼女に背を向けた。

「なぁ隼人、これで用は済んだよな」

寝台に腰掛けながら、露骨に出て行きたそうにしている男に、隼人は言った。

「この部屋での用事は終わったが、まだ代表団との話し合いが終わっていない。
 だが、内容からして数日の泊まりになるだろう。お前は帰ってかまわんぞ」

帰りたそうにしている男の意を汲んで隼人は答える。話し合いが終われば、また竜馬の護衛でタワーに戻らなければ
ならないことは、わざと伏せた。

「それじゃ俺は一足先に、タワーに戻るとしますか」

そういって寝台から離れようとした男の背中に圧がかかる。見ると竜馬のコートにジーンがすがりついて居た。

「置いていかないでくれ・・・・・・竜馬」

竜馬は彼女の目を見据え、いつもの気高い獣のような表情をし、自身のもっとも力強い声で、厳かに言った。

「だったら喰らいついて来い 全力でな」

竜馬はコートにすがりつく手を、立ち上がる力だけで振り払い、そのまま部屋を出て行く。
呆然とするジーンと、慰めようとする三人を横目に、
輪から外れ、壁にもたれかかった男が、苦々しげに言った。

「・・・・・・若いな」

彼はそのままポケットを探ると、タバコを取り出しライターで火をつける。
普段は表情を見せない顔に、嫉妬と羨望が交じり合って張り付いていたことに気が付いていたものは、
長い付き合いの戦友だけだった。