エルザのカーゴベイにネオゲッター2が入ってくる。竜馬達はネオゲッターから降りて、壊れた小型艇から人が出てくるのを待った。
軽い爆発音でハッチが壊され、中から大小二つの人影が出てきた。
一人は大柄で隼人と同じぐらいの身長だが、筋肉の付き方はもう少し上回って見え、足元はサイボーグなのか機械だというのがわかった。もう一人は10歳ぐらいのピンクの髪を持つ女の子だった。
「救助して下さって、ありがとうございます」
「助かった。礼を言う。
俺はジグラッ……」
「ジギーって言います。それと、モモです!」
モモはジギーのところをやけに強く主張した。ジギーと呼ばれた男は特に何もすることもなく、無表情のままだ。
「モモちゃんとジギーか。こんな子供を連れてハイパースペース戦闘とは穏やかじゃないな」
弁慶はジギーの方を見上げた。
「ごめんなさい。モモ達、U-TIC機関から逃げてきたんです」
「U-TIC機関?」
「すまないが、船長に合わせてもらえないだろうか。通信室を借りたい。我々は連邦政府の命令で動いている」
「まあ、そりゃいいけどよぉ」
こんな子供が連邦政府? と竜馬と弁慶は顔を見合わせる。どっかのお嬢様が誘拐されたのを政府の高官が私情で動かしたというところだろうという結論に達する。
「そっちの子はレアリエンか? サイボーグがレアリエンに主導権を握らせているというのも珍しいな」
隼人はモモとジギーを一瞥すると、ジギーの方に視線を向ける。
「俺は献体サイボーグだ。ただの備品に過ぎん」
「れ、レアリエン!? こんな子供がか!?」
弁慶は驚いてモモを見た。
「確か……観測用だったな」
「はい。百式汎観測レアリエンです。正確にはプロトタイプですけど」
レアリエンなら子供でも隼人の顔を見ても怖がらないことに納得がいく。
「こっちだ。俺達は別にここの船員じゃないんでな」
隼人はさっさとエレベーターの方に向かって歩いていった。
キャビンに戻ると、三人はそれぞれの個室に入った。然程の間を置かずに戦闘を行ったので、流石にシャワーを浴びて着替える気になる。
「しっかしおまえ、よくあの子がレアリエンだってわかったな。おれぁ、どうも未だに人間と区別がつかん」
「幼体偽装とは初めてみたが、レアリエンの反応は大体同じだからな。動きで見わけがつく」
レアリエン―REALIAN―は、主に炭素系アンドロイドの総称を示す。観測用、戦闘用などの他に、ショップで家事を専門にするものも売られている。高価なものになると、人間へと臓器の提供もできるレベルがある。
また、人間と同じような感情がプログラムされており、ある程度の人権も認められているが、元を正せば人間に忠実にと造られた存在だ。どんな人間にでも必ず好意的に接するように作られている。
まだ濡れている髪をタオルでガシガシ拭きながら、隼人はコネクションギアを機動させた。
「それに、さっきアレン君が本社に通信をしている間に回線を拝借させてもらった。
観測用レアリエンもヴェクターで生産しているな。KOS-MOSとは別の部署――三局か。
だが、開発は別のところで行ったようだが……」
(レアリエンか……面白ぇな)
再び聞こえた声に、竜馬はタオルの隙間で渋面を作った。
(おい、隼人に言ってレアリエンのデータ取ってこいよ)
(そんなもん何に使うんだよ。いらねーだろ?)
(ゲッターのパイロット探すのが大変だってのはお前だってわかってるだろうが)
(あんな人形にパイロットが務まるか!)
(前線の被害だって抑えられるし……)
「つかレアリエンはいいだろ? それよりゲッター線の方が……」
「ああ、そうだな。
U.M.N管理局でグノーシスの出現時期の詳しい調査と……ゲッター線の減少グラフは、由美子に送ってもらえばいいか」
「やっぱりグノーシスがゲッター線を喰っちまってるのか」
「本当にそうかまではまだわからんがな。第一、何度かハイパースペースの中は通ったが、実際にグノーシスに出くわしたのはさっきが初めてだ」
「それなのにもう、100近くの星系がグノーシスに襲われてる……。ここの政府や軍はなんでそこまで放っておいたんだ?」
「幽霊相手じゃな。あの時の、実体化させた装置なりなんなりが完成しなけりゃ俺達までヤバかったからな。完成までに時間がかかったんだろう」
「だからって一週間ぐらいで星系が100も消えるわけじゃねぇ」
目を釣り上げる竜馬を見て、隼人が笑う。
「あまり長期間に渡って調査が進まないようじゃ、この星団ごと吹っ飛ばすしかないな」
アレンから艦内通信をもらって第五層のダイニングに行くと、カレーの匂いが漂ってきた。
「お待ちしてました! どうぞ!」
ちょこちょことモモがやってきて席へ案内する。
「モモちゃんもお手伝いか?」
「はい! シオンさんみたいに上手にはできないけど、皮むきとかお手伝いしたんですよ」
「そうか、偉いな」
弁慶が褒めてやると、モモは嬉しそうに笑ってサラダの入った器を置いた。
竜馬達もスプーンを取ると、カレーを口にする。
「どう? なかなかのもんでしょ?」
「美味しいですよ主任!」
「ああ、いけるぜ。さっすがシオンちゃん!」
トニーがウインクを飛ばす。
「凄いな、スパイスから作ったのか」
「意外と香辛料が揃ってたから」
弁慶はヴォークリンデの食堂でもお目にかからなかった味に驚く。これはレトルトでは出せない。
「まあまあだな」
竜馬は渋々といった感じでカレーを食べる。実際美味い。
「もう、素直じゃないんだから」
(ああ、カレー! カレー!
俺がこっちで砲撃してるってのに、なんでオメーはカレー喰ってるんだあー!)
「うるせえ」
「水! ついでにお代わり!」
カレーを食べる手を止めないマシューズが、片手でコップを突き出す。
『どうぞ』
それにデキャンダから水を注いだのはKOS-MOSだった。
「なんでKOS-MOSがここにいるんだ?」
「出力制御の調整の為よ」
シオンはそう言うと、マシューズの皿におかわりをよそう。
それから自分も席についてカレーを食べ始めた。正面にはモモが座る。
モモの隣のジギーはサイボーグなのでともかく、レアリエンも食事をするということに、隼人達は初めて知った。
「そういやモモちゃん達は何処に行くんだ?」
「はい、ミルチアに……」
「おう、奇遇だな。俺達も第二ミルチアだ」
「行くところは全員一緒か。妙な奇遇だな」
隼人はカレーの上に更に七味をかけて口に運ぶ。ジギーは傷だらけの隼人の顔を見た。
「君達も第二ミルチアか。仕事か?」
「そんなところだ」
「あ、リョウマさん、水いる?」
「ん? ああ」
「かいがいしいね」
ケイオスは周囲に目を配ってなかなか食事の進まないシオンを見て言った。尤も、竜馬のコップに水を注いだのはKOS-MOSだったが。
「そう? うちではこれくらい普通だったのよ。
暇さえあれば本ばかり読んでて、他はなーんにもしないダメ兄貴がいたせいもあるけど」
(あの人、家ではそんなだったんだ)
「はは……こりゃ良い嫁さんになるな」
弁慶もついでに水とお代わりを貰って豪快にかきこむ。
「本当だよ。 あ、俺にも水頂戴ね。
シオンちゃんどう? 俺と一緒に……」
「ああ、ちょっとトニーさん、また何言ってるんですかーーー!」
アレンのコップだけ空のまま、シオンはトニーのコップに水を注ぐと自分のカレーに手を付ける。
「主任……あの……僕にも水……」
「あ、ごめん。気づかなかった」
「……」
就寝から6時間。長距離ジャンプも終わりに近くなっていた時だった。
突然エルザの中に警報が響いた。
「敵か!?」
瞬時にベッドから飛び起きた竜馬は脱ぎ捨ててあったパイロットスーツを着ると、個室から飛び出した。同じタイミングで、両隣から隼人と弁慶も弾かれた様に出てくる。
談話室の内部通信機のスイッチを入れると、まだ寝ぼけたような声を出しているマシューズの姿が見える。
『誰だ、勝手に警報を鳴らしたのは!?』
『し、知らないっす!』
「エレベーターが動いているな」
隼人は咄嗟にスイッチを押して、四層で止めた。中に入ると、ジギーが乗っていた。KOS-MOSの隣の部屋でメンテナンスをしていたところ、警報を聞いて上がってきたのだ。
「警報が鳴った時、KOS-MOSは隣にはいなかった。シオンのところかブリッジに上がった可能性がある」
「なるほどな」
ブリッジに上がると、ジギーの予想どおりKOS-MOSがいた。
「KOS-MOS?」
「何をしている?」
「それが、今上がってきたばっかな上に、話をしてくれないんすよ」
「ロボねーちゃん、おまえが勝手に警報を鳴らしたのか!?」
「おい、KOS-MOS!」
『船体に対して、ハイパースペースの外部から、強い力が作用しています』
「どういうことなんだ?」
『何者かが私たちに接触しようとしています。このままでは、通常空間に拘引されます』
「何者か……だと?」
少しタイミングが遅れてシオンとモモ、それと寝ぐせのついたアレンがエレベーターから出てきた。
「何が起こっているの!?
きゃあっ!?」
エルザが揺れた。それは確かに引っ張られる感覚だった。
「トニー、なんとかなんねぇのか!」
「そんなこと言ったって、ロジカルドライブは全開なんだぜ!」
ハイパースペースの金色のトンネルのような空間が、裂かれたストローの様に開いていく。
「ダメだぁっ、強制転移! 逆らえないっす!」
文字通り、エルザは真空中に吸い上げられた。強化ガラスに映るのは18時間ぶりの通常宇宙空間だ。
「いったい、なんだってんだ……」
マシューズはキャップを被り直して息を大きく吐いた。トニーとハマーはすぐにエルザのチェックをする。
「とりあえず、エルザの機能には異状はねぇな……」
「そうか。それじゃ正面を見ろ」
隼人の至って平坦な口調に、フロントウインドウを見上げたハマーは、
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
絶叫をあげた。
「ぐ、グ、グ……グノーシスの大群!」
それもほとんどが戦艦以上の大きさを持った巨大なものばかりだ。
両手で口元を覆ったモモがすぐに観測する。
「数……概算で30000!」
「と、とにかく出せ、トニー!」
「アイサー、ロジカルドライブ全開!」
待ちかまえていたグノーシスが、一斉に動き始めた。一瞬息を飲んだシオンだが、すぐにKOS-MOSに命令する。
「KOS-MOS、超広域ヒルベルト展開!」
「了解しました」
額のバイザーを下ろしたKOS-MOSから、波紋の様な光が爆発した。それはエルザの船体を突き抜け、数百天文単位にまで広がった。
半透明に揺らいでいたグノーシスが、音を立てるかのように実体化していく。
モモはその効果範囲を観測すると、大きな瞳は更に見開いた。
「すごい……アンブリファイアー装備のシステムでも周囲100kmが限界のはずなのに……」
「なるほど、ヒルベルトエフェクトか……虚数空間を実数空間に強制置換」
(面白ぇことするじゃねえか)
隼人も”竜馬の声”も感心しているが、今はそれどころではない。
「実体化したなら話は早ぇ!
隼人、弁慶、行くぞ!」
「おう!」
「ちょっ……いくらヒルベルトを使ったところで、倒しきれるわけないですよ!」
「連邦軍一個艦隊を壊滅させた敵よ。戦うより、逃げた方が賢明だわ!」
「30000ぐらいでビビってんじゃねえ! インベーダー共はもっといたぞ!
KOS-MOS、来い!」
竜馬は誰の返事も聞かずに隼人達とエレベーターに飛び乗った。
「ちょっと! KOS-MOSに命令しないで!
KOS-MOS、あなたにはここまでの大群を相手にする装備なんてないのよ。行っちゃダメ!」
エルザのカーゴベイから、再びネオゲッターが飛んだ。
「だ、誰だハッチ開けたのは!? あいつらを殺す気か!?」
血相を変えるマシューズに向かって、ケイオスがオペーレーター席から立ち上がった。
「僕だよ。
船長、余ったパーツで組み上げたA.M.W.Sがあったよね?」
「よせ! おまえも出る気か!?」
「お客さんだけに戦わせるわけにはいかないもの。
トニー、頑張って逃げて」
「ケイオス!」
「ケイオス君!?」
ケイオスは何時も通りの曖昧な笑顔を浮かべたまま、戻ってきたエレベーターに乗った。
(それに、彼が本当の皇帝なのか、見極めなくちゃいけないしね)
「うおおおお……プラズマサンダーーーー!!」
「ドリルアームッ!!」
「プラズマブレイク!!」
飛び出した竜馬達は、グノーシスの大きさなど問題にせず、瞬く間にその数を減らしていく。
インベーダーの様に再生をするわけでもない。固着したグノーシスはその巨体と光弾が武器だけの脆いものだった。
「へっ、歯ごたえがねえなあ!」
「だからって手を抜くんじゃねぇぞ! でかい分だけ一体潰すのにエネルギーがかかる!」
「わかってらぁ!」
ドリルでグノーシスをぶち抜いた隼人は、トレースしていたエルザの方に目を向けた。A.M.W.Sが一体出てきて、エルザの後ろを守るようにマシンガンを撃っている。
「誰が出てきた?」
『僕です』
小型モニターにケイオスの顔が映る。
『エルザをできるだけ逃がします。こちらは気にしないでください』
「危なくなったらすぐに逃げろよ」
『はい』
竜馬は物腰に似合わないケイオスの度胸に一瞬笑うと、すぐに近くのグノーシスをミサイルで吹っ飛ばした。
ゲッタービームなら一撃で全滅させられるのだが、ネオゲッターはゲッター炉心が無いため時間がかかる。まだ三人合わせても数百体程しか倒していない。
「左舷後方から高速のグノーシスが1体、エルザに接近している!」
「ケイオス!」
『大丈夫です!』
ケイオスはエルザの方には向かわず、その場で射撃を続けている。
レーダーに別の反応が映った。
「空間歪曲!? グノーシスの転移か!?」
転移座標は逃げるエルザの後方。グノーシスの背後から、巨大な戦艦の先頭が、ゆっくりと姿を現す。
全長4000メートル。巨大な翼を持った、真ドラゴンより少し小さい赤い戦艦だった。
「あれは……?」
赤い戦艦は両舷からレーザーを撃った。
「きゃあっ!」
エルザの至近距離でグノーシスが爆発する。余波でエルザが揺れた。
「なにが起こった!」
「4時方向からレーザー砲撃! グノーシスが消滅したっす!
……後方から大型艦接近! 艦籍は……」
「デュランダルかっ!」
「助かったぁっ!」
「へえ、やっぱりヒルベルトエフェクトかかってるな。いったい、何者だ?」
「ちび様、船籍確認! やっぱりエルザやで!」
「ったく、グノーシスが暴れてると思って来てみりゃあ、こんなとこで、なにしてやがんだ。
だいたい、なんでヒルベルトなんかエルザに積んでるんだ?」
「A.M.W.Sが4機、戦闘宙域で交戦中」
ちび様と呼ばれた12歳ぐらいの赤毛の少年は、映し出された4機のA.M.W.Sを見て目を見開いた。
「4機でこの数を相手にしてるのかよ! 狂ってやがる!
全砲門、目標グノーシス! エルザの退路を確保しつつ、殲滅しろ!」
「了解! レーザー砲群、10時を指向しつつ、撃ち方はじめ!」
デュランダルの数百の砲門が、一斉に火を噴いた。
「ゲッタァァートルネェードッ!!」
「ドリルアームショット!」
「ショルダーミサイル!!」
デュランダルからの砲撃が加わり、グノーシスの数は1/3程度は減らすことができた。後は時間の問題だ。
「いかん、5時方向にグノーシスの集団転移だ!」
「なんだと!?」
「これじゃキリがねえ!」
「この動き、連携が取れているな。指揮をしているのはどいつだ?」
隼人は素早くキーボードを叩き、周囲の動きを見極める。
「おい、あのグノーシス、ヴォークリンデの時にいやがった奴だ!」
「なんだと?」
竜馬が真っ直ぐ飛び出した。隼人が素早くサーチしたその個体。クジラの様な形をした戦艦クラスのグノーシスの腹の中に、あの時見た板状の物体が収まっていた。
KOS-MOSの目の前でグノーシスが次々と爆発していく。そしてエルザは四方から襲いかかるグノーシスから逃げる為、全速力で飛んでいる。
『KOS-MOS、来い!』
『人々を救うため……ですか?』
『そう。彼女はその為に生まれてきたといってもいい。
彼女の目醒めは、人々を未来へと導いてくれる。
その日がくるのが待ち遠しいんだ、僕は。
こんなことを言うと笑われるかもしれないけど、彼女は破壊のための単なる兵器ではなく、彼女の作り出す未来が、すべての価値観を一掃した、破壊も殺戮もない、理想の世界である事をね』
KOS-MOSは振り返ると、騒ぐブリッジを後にした。
「わわわっ、グノーシス群の先頭と距離20000! やばいっすよ!」
「トニー! 振り切れるか!?」
「無理っぽいな。向こうの方が、速度が上だ」
「くそう、デュランダルもよくやってくれてるが、数が多すぎる。どうすりゃいい……?」
「あれ、17番ハッチが開いてるっすよ! 誰か残ってたんすか!?」
全員が咄嗟に互いの顔を確認する。
シオンの背後にいたKOS-MOSがいない。
「KOS-MOSだわ、あの子!」
「いました、昇降機に乗ってるっす。モニター出しまっす!」
ハマーがシオンの前に船内映像を回す。
「KOS-MOS、KOS-MOS! なにやってるの、戻ってきなさい!
あれだけの数、あなたには倒せないわ! そういう機能は搭載されてないのよ!」
俯いたKOS-MOSの長い髪がエルザからの排気で揺らぎ、シオン側からの視線を塞ぐ。
『シオン……傷みは、私を満たしてくれますか……』
顔をあげたKOS-MOSの瞳は、青く輝いていた。
「ちび様、ゾハルエミュレーターが活性化しています」
「なんだって!? 活動阻止装置<アトラクト・インヒビター>は!?」
「活動阻止装置出力300%、ゾハルエミュレーターの波動を抑えきれません!」
「なんてこった……動き出しやがった」
「中央電脳<マザーフレーム>ピエタに侵入警報。バリアントに置換現象が見られます」
「”ママ”にか! どこからだ?」
「感染<トランスフェクション>経路を走査<スキャン>中……経路特定、隔離格納庫からです!」
「隔離格納庫……まさかゾハルか!」
「はい、ゾハルに対して外部からのリクエストが発生しています」
「パラダイム汚染進行中。このままでは中央電脳を乗っ取られます」
「隔離格納庫との主回線を切れ! 活動阻止装置、サブ回線で独立稼動させろ!」
「主回線パージ、シグナル伝達系封鎖!」
「いったい、なにが起きてやがるんだ!?」
エルザの上に降り立ったKOS-MOSは、ケイオスのA.M.W.Sを超えて迫ってくるグノーシスに相対した。
ナノマシンの集合体であるKOS-MOSの体の腹部が開き、背中にショックアブゾーバー用のユニットが花開く。
そして。
開いた腹部から放たれた青い光線が、次々とグノーシスを粉々する。それは射撃軸上にない個体にまで波及し、そして砕け散った塩の塊をKOS-MOSは受け止めた。
「グノーシスを消去してる!? いや違う……これは!」
「吸収……してるの?」
アレンとシオンはその光景に目を見張った。
竜馬達の目の前のグノーシスも綺麗さっぱり消去された。
「やるじゃねえか」
「流石は、対グノーシス用ってところだな」
「だが、なんでヴォークリンデの時は使わなかったんだ?」
「さあな。使えなかったか、使わなかったか」
「……まさかシオンが使わせなかったんじゃないだろうな」
竜馬はシオンの過保護ぶりを思い出し、眦を釣り上げた。
「おい、竜馬!」
「ん? ……あ!」
グノーシスが消えたことで、腹の中に収まっていた金色の板が、まさしく宙に浮いている。
『……まさん……うまさん……竜馬さん!』
竜馬の手首から、しきりと呼びかける声がした。
「ああ?」
『ああ、良かった! やっと繋がりました!
今はどちらにいらっしゃるんですか? 真ゲッターは転送しますか?』
「おっせーんだよ! もういい!
それより、今いる座標から転送を……あーーーーっ!?」
竜馬の目の前で、デュランダルから降りてきたアトラクトインヒビターが、がっちりとその板を拘束した。
「バッカヤロー! もたもた話かけてるから取られちまっただろうが!」
「やれやれ、先を越されたな。だが、エルザと関係ありそうだ。まだチャンスはあるだろう」
ケイオスから入った通信を見て、隼人が竜馬を宥めた。
「なんだ、楽勝じゃねぇか」
マシューズがほっと溜息をつく。ケイオスもいない状況で胆が冷えたが、とにかく助かったのだ。
トニーとハマーも強張らせていた表情を解す中、アレンとシオンだけが狼狽していた。
「主任……」
「いまの……幻覚なんかじゃないわよね」
「ええ、グノーシスを吸収しているようでした……」
「私の知らない兵装があるなんて……ううん、兵装なんかじゃないわ、あれは……」
「ありえない話ですよ……」
「あるとかないとか、いったいなんの話だ。グノーシスは倒したんじゃねぇのか?」
「あのぉ―……船長、さっきからちび旦那が通信を入れてきてるっすけど……」
「おう、つないでくれ」
「ちび旦那?」
アレンは聞き慣れない単語に耳を傾けた。
『お、やっとつながった』
「いやぁ、どうもすいません。おかげで助かりやした
『なんでお前らが、グノーシスに追われてるんだよ?』
「それがですね、とんだ災難にあっちまいましてね……」
(……私の知らないKOS-MOS……。
ケビン先輩、これがあなたの望んでいたことなんですか……。KOS-MOSの本当の姿なんですか……。
それに、リョウマさんの……)