ep6

Last-modified: 2013-11-04 (月) 20:23:13

検証の為の時間までの待機ということで、竜馬達は再びデュランダルの一室に入れられた。エルザに一番近い部屋だ。
今の出来事を整理する為にも丁度良かった。
ぎゃーぎゃー五月蠅い”竜馬の声”を黙らせる為も考え、竜馬はさっきの出来事もひっくるめて、最初からの説明を求めた。

「隼人、エンセフェロンダイブって、どういう理屈なんだ?」

隼人は1:1の水割りを作ると、竜馬と弁慶に突き出した。

「そうだな。
そもそも、エンセフェロンダイブっていうのは、普通に電脳空間に入るイメージのものとは全然違うっていうのが正しい。
ここの電脳空間は、全てU.M.Nに構築されている。つまり、エンセフェロンダイブっていうのは、U.M.N上に構築された仮想空間に入り込むことを指す。だからアレン君が、『足りない部分はU.M.Nで補う』と言ったわけだ」
「なあ、待てよ。それじゃ、U.M.Nにアップロードするってことは、いくらAAAのプロテクトをかけていたって、情報がダダ漏れになるってことじゃないのか? 
それに、ただの情報の集積場所にしちゃ、人間の記憶までアップロードするとは考えられん」
こっちに来てから毎日接してはいたものの、イマイチU.M.Nについてわかっていない弁慶はグラスを傾けながら首を捻る。竜馬は隼人の言葉を流し聞きながら、さっき見た光景を反芻する。

(隼人は何を話してるんだ?)

”竜馬の声”は、突然始まった講義に不思議そうな声を出した。

(いいから黙って聞いてろ)
「U.M.Nっていうのはな、ウーヌス・ムンドゥス・ネットワーク――ユングが唱えた集合無意識のことだ。
つまり、あそこは本来は人間の共通した意識なんだよ。そこに情報がアップロードされ、船がワープの為に出入りしているんだ」
「なん、だと……?」
「虫の知らせとか言うだろう。離れた場所にいる人間同士、何かを感じ合う。それが集合無意識だ。それを意図的にできる場所がU.M.Nだ。
だから共時性やEPRパラドックスといった物理学上の矛盾点を説明出来る。心と心、心と物質といった相互に補完、連結しあうモノ同士の関係も説明出来る」
「おい、なんだそりゃ……それじゃ、ここの連中は、他人とか自分の記憶の中に、更にデータを打ちこんでるってことか?」
「そういうことになる」
「その、データを打ち込める集合意識ってのは、ちょっとゲッター線に似てねえか?」
「ん?」
「いや、違う、か……?」

竜馬は二人を見、”竜馬の声”に記憶の一部を解放する。

「さっき見ただろ? ミルチアから出てきたウドゥって奴を」
(おまえっ……これ……こいつは……!)
「そいつは時天空のカケラだ。千切れた尻尾のその先っぽの毛一本みてーなもんだ。そいつが毛細血管みたいな細いもんを張り巡らせてこっちを探ってる。U.M.Nって場所でな」
(まさかこんなに早くこいつに遭遇するなんてよ……。
正直、今の俺で勝てるかどうかなんて言われたら……間違いなく負けるぞ)

”竜馬の声”は落ち着いているようであり、武者震いを感じているようでもある。勝敗が分かっていようとも、だ。

「それじゃ、U.M.Nにデータをアップロードってのは……」
「みすみすこっちの情報を奴にくれてやってるようなもんだ。
ただ、あいつは図体が相当でかいんじゃなかったか?」
「らしいな。俺も詳しくは知らん」
(実は俺も知らん。ただ、ゲッターがそうだって伝えてくるのはわかる)
「だとしたら、本体にまでその情報が伝達されるのは相当後になるだろう。何しろ伝達距離が遠すぎる」
「だったら今のうちにU.M.Nを壊しておいた方がいいんじゃないか?」
「それもそうだ。だが、相手は虚数領域の存在だぞ。ヒルベルトエフェクトだってまだグノーシスぐらいしか実体化できん」
(だ、そうだ。なんとかしろ)
(俺かよ! きょすー領域なんて聞いたことねえ!)
(なんか頭のいい奴揃ってるんだろ? なんとかなるだろ)
「あいつがこっちにくるそうだ」
(おい、待て! なんでそうなるんだよ!)
「そうか、それは助かるな。だったらこっちはそれまでなんとか侵攻を食い止めるようにしたいが……」
「こっちでできることと言えば……オリジナルゾハルを探し出して破壊するぐらいしかできないだろう。
グノーシスはおそらく時天空の攻撃用端末だ。それを呼び寄せる性質がある以上、無視はできん」
(勝手に話を進めるなあぁ!!)

部屋のインターフォンが鳴った。

「入ってもいいですか?」

ケイオスの声だった。

「おう、いいぞ」

弁慶の返事に従って入ってきたケイオスは、何時もの曖昧な笑みを浮かべていた。

「今、ザルヴァートル派の議員が連邦議会に根回しをしたとJr.達の方に連絡があったそうです。すぐに嫌疑は晴れそうですよ」
「そうか」
「これからどうします?」
「そいつはさっきのことを言ってるのか?」
「ええ。もう少し、お付き合いしていただけたらと思うのですが」
「まだなんかあるのか?」
「Jr.から聞いた内緒話なんですが、モモちゃんのプロテクト領域に、旧ミルチアへの転移コードが隠されているそうなんです。
そこには、オリジナルゾハルが眠っている。第二ミルチアでその解析を行うそうですよ」
「……!」
「そんな重要な話を、仮にも企業のトップが漏らすとは思えんが」
「これは僕が漏らしたんです。船長達にもナイショに」

ここでケイオスははっきりと笑って見せた。

「おまえ……」
「ヒトが進化をするには不要なモノがある。僕はそれを排除したい。それは、”竜馬さん”が思っているものと同じものです」
(こいつ、俺に気づいているのか?)
(そうらしいな)
(タイールみたいな奴だ)
「まだ何か話していないことがあるんじゃないか?」
「僕、本当は機械って苦手なんですよ」

デュランダルの金属の壁をぐるりと見渡し、また曖昧に微笑む。

「もっと落ち着いた場所が見つかったら、またお話しましょう」

 

それから二時間後だった。Jr.から連邦艦体に撤退命令令が出たとの連絡がきた直後だった。
隼人のコネクションギアに通信が入る。

「誰だ?」
『間もなくグノーシスが出現します』

いきなりKOS-MOSの声がした。

「なんだと?」
『D.S.S.Sセンサーに反応がありました。後6分43秒後に大質量体がゲートアウトします。数、およそ12万』
「12万だと!? そんな大量のグノーシスがファウンデーションの中に入られたら、逃げ場が無いじゃないか!」

ガタッと立ち上がった弁慶の肩を隼人が座ったまま抑える。

「グノーシスならおまえの攻撃でなんとかなるだろう。デュランダルにもA.W.M.Sはある。
ましてや外にはまだ連邦の艦体がいるんだ。そっちにも応援を頼め。こっちは3機しかないんだ」
『艦体は現在、戦闘用の編隊から移動用に移行中です。再編成に時間がかかると思われます。
私は最も効率的な方法を選択したまでです』
「3機のA.M.W.Sが最も効率的かよ?」
『いいえ。A.M.W.Sは必要ありません』
「じゃあどうしろってんだ?」

KOS-MOSは黙って竜馬を見ると、通信を切った。

「ちっ!」

竜馬は舌打ちをすると勢い良く立ち上がった。
KOS-MOSは、さっきのエンセフェロンダイブで、自分の脳内で起こった出来事を記憶している。

「行くぞ、隼人、弁慶!」

三人はロケットスタートでエルザに向けて走り出した。あまりの勢いと気迫に驚くスタッフを尻目に、走りながら左腕の通信機を口元に寄せる。

「由美子! 転送準備しろ!」
『待ってたわん!』

 

少し遅れたタイミングで、デュランダルのブリッジもグノーシスを感知した。ブリッジでモモの量産型になる百式観測レアリエン達が、忙しなく状況を報告する。

「大質量体、ゲートアウト!
繰り返します! 大質量体、ゲートアウト!」
「U.M.Nジオデシック構造体、強制置換!」
「グノーシスか!!」

半透明に揺らめくグノーシスが、密集した陣を組む連邦の艦体に向けて突進していく。

「……!」
「グノーシス、接近してきます! ファウンデーションとの接触まで後、240秒!」

シェリィはぐるりと全てのモニターを見渡した。

「住民は!? 住民の避難を優先させて! いざとなったらファウンデーションを捨てます。
チビ様」
「任せる。全住民をデュランダルに避難させろ!」
「了解しました。退避勧告発令します」

モモはJr.の方を見た。

「Jr.さん、アンプリフィアーをお願いします。モモもヒルベルトエフェクトは使えます。ここの百式レアリエン<みんな>と一緒に使えば、グノーシスの直接転移は防げるはずです」
「ああ……あ、いや。
シオン! KOS-MOSは!?」
「待ってて、すぐに起動させるから」

シオンが踵を返そうとした瞬間、ヒルベルトエフェクトの光が広がった。
ミルチア太陽系圏全てのグノーシスが実数空間に固着させられる。

「ま、またKOS-MOSが勝手に起動を……!?
KOS-MOS! KOS-MOS! あなた一体何処にいるの!?」

 

エルザに着くと、開きっぱなしのハッチからネオゲッターに乗り込む。
ヒルベルトエフェクトの光が届いた。

「ふん、命令以外じゃヒルベルトを使わなかったアンドイドが、どういう風の吹きまわしだ?」

隼人はさっき見たヴォークリンデでのKOS-MOSを思い出して一人で笑った。

「いいから行くぞ!」

竜馬はヘルメットをフルフェイスガードへと切り替えると、ネオゲッター1を起動させた。
すぐさまエルザから飛び出すと、

「どけどけ~~~~!!」

A.W.M.Sを放出する為に開いているデュランダルの後部ハッチから宇宙に飛び出した。
そのまま最大速度でファウンデーションを取り囲む艦体の外側に回る。
既に多数のA.W.M.Sの攻撃と艦砲が宙域を飛び交っていた。
竜馬はネオゲッター1のハッチを蹴って外に流れ出た。

「イーグル号転送! 
ネオゲッター1、リターンバック!」
「ジャガー号転送!
ネオゲッター2、リターンバック!」
「ベアー号転送!
ネオゲッター3、リターンバック!」

竜馬達の目の前に、懐かしいイーグル、ジャガー、ベアーの機体が出現する。同時にネオゲッターが転送され、母艦に帰っていく。
僅かな距離の無重力を泳いでゲットマシンに乗り込むと、すぐにハッチを閉めて内部を空気で満たし、ヘルメットを使い慣れた何時もの形状に戻した。

「こいつに乗るのも久しぶりだな」

インベーダーとの戦いで大破した真ゲッターだが、艦体との合流後に改修された。武装こそ変わらないものの、炉心の交換がなされ、出力は真ドラゴンと直結した時と同等ぐらいは出せる。
最近はもっと大型のゲッターに乗っていたのでしばらく動かしていなかったが、操縦桿を握った感覚は、機体の方にもブランクがあるとは思えないほど馴染んだ。

「行くぞ!
チェェェェェェンジ!! ゲッタアァァァァァワンッッ!!!」

近くでたまたま合体を見たA.M.W.Sのパイロット達が、しばし驚いて動きを止める。そこへグノーシスが殺到した。

「ゲッタァァーーービィィーーーム!!!!」

       ドワオ!!

真ゲッターの頭部から放たれたゲッタービームが、宙域に密集するグノーシスの群れを薙ぎ払う。それは至近距離にまでA.M.W.Sに接近していたグノーシスも例外なかった。
軽く首を巡らせるだけで連鎖的にグノーシスが爆発していき、ファウンデーション付近の宙域は、一気に視界が広がった。

「グノーシス、6万体消滅!」
「なんだと!? 誰がやった!? そんな高エネルギー反応なんてなかったぞ!?」

Jr.はデュランダルのブリッジで、いきなり虚空が見えたスクリーンを凝視した。
スクリーンではなく、強化ガラス越しに外を見ていたケイオスは、外の残光を感じ取っていた。

(出てくれたんだ、竜馬さん……)