四つ角のほし

Last-modified: 2025-01-06 (月) 13:42:50

初めに

この作品はもう更新されません。作者の書く気力がなくなったのと、作品自体への興味、意欲の喪失などからです。それでもいいという方、ご覧ください。

響く音

すがすがしいほどに澄み切った夜空に、思わず見惚れるひとびと。
きょうは、うちゅうでも珍しい、まんてんの星空が見れる日である。
「あっ、流れ星」
「でもすぐ消えた」
「つかめたらいいのにな」
「最近、落ちてこないね」
「そう簡単に落ちて来てもらっても困るけどな。」
そんな他愛もない会話をおこなう。
だがそんなとき
一つの星がなんと、人々に向かって落ちてきた。
「うわっ、なんだ?」
星はひとびとの目の前で落ちた。
目の前の状況に、理解がおいつかない人々だったが、一人の男の子が勇気を出して、その星に近づいた。
するとどうだろう?
星の中から「どんどん、どんどんどん」と、何かを叩くような音が聞こえてくるではないか。
男の子はそれに驚く。
「中に誰かいるの?」
返事はない。だが、叩く音が強くなった。しゃべれないのだろうか?
男の子は「助けようよ」とみんなに言った。
人々は最初はためらったが、男の子の気持ちにおされて最後には協力することにした。
だが、まずそもそもこんな大きな星をどうやって開けるのか?
「しかし、どうやって助ける?」
「こんなに大きい岩、簡単には割れないぞ」
そう、この落ちてきた星はとっても大きい。
半径1500mの、巨大な星なのだ。
取り敢えずとして、その場でできることをすることにした。
くるまを突っ込ませたり、その辺になぜか転がっていたばくだんで爆破したり。
しかし、星は割れるどころか、傷一つつかない。
「こりゃ無理だ」
とあきらめる人もいれば
「どこかにもろい所があるんじゃないか?」
と思考と推論をくり返す者もいた。
男の子は星をぐるりと回っていた。
そして、その星を半周ほどしたとき。
「なんだこれ...」
変な青いボタンを見つけた。
横にはおそらく文字が書かれていたが、地球の言語ではないようだ。
この星を飛ばした文明のものなのだろうか?
「誰もいない...よしっ」
男の子はボタンを押した。
その瞬間、宇宙全体を照らすほどの輝きを持った青白い光が、星から放たれた。
反対側にいた人々はびっくりして二歩三歩下がる。
直後、隕石が10つに分かれ、中から何かが飛び出した。
飛びだしてきた何かは、男の子にぶつかる。
「ぐへっ」
情けない声を上げて後ろに下がる男の子。
見てみればそこにあったのは、直径1mほどの鉄球のような物体。
「なんで星の中にこんなのが...あれ?そんなに痛くない」
星の中になぜこのような奇妙な物体があったかも謎だが、それ以上に男の子が疑問に思ったのは「鉄の塊がぶつかったはずなのに、痛くない」ということ。
普通、成長期の人間位ならば骨の1、2本は折れそうなものだが、男の子の体には打撲傷すらなかった。
なぜ?その疑問はすぐさま解明された。
「よいしょ...軽い?」
そう、その物体は金属なのに異様に軽く
「しかもなんかぶよぶよしてる...」
異様に柔らかかった。
金属の見た目をした別の物体なのか?
それとも...
そんな思考を巡らせたとき、鉄球似の物体から「どんどん、どんどんどん」と音がした。
「うわっ!」
男の子は物体を放す。
直後、その物体はまるで意思を持ったかの如く高速で南に転がり始めた。
「あっ、待てっ」
男の子は追いかけるが、物体、いやボールはあまりにも早い。
反対側にいた人々もボールを追いかける。
だが、走りはおろか、自転車や車ですら追いつけない。
ボールはとんでもない回転をかけながら、森林へと向かった。
ボールの前には50mはあるであろう大木があったが...
「ギュィィィィン...」
なんとボールは大木に突っ込んでへし折った。
さらに回転率を上げるボール...回転速度が速すぎて、もはや摩擦で炎を纏っている。
森にいた猟師たちは狩猟用の銃を発砲する...が、全く通用しない。
そのまま突っ込み、猟師たちを何メートルも吹き飛ばして気絶させてしまった。
「待てぇ!」
そんな誰かの声も無視してボールは進み続ける。
そしてついに森林を抜け、先にある大都市に出てしまった。
切り立った崖からジャンプするボール。
このままじゃ都市がめちゃくちゃになってしまう。
そう察した男の子は、ボールを追いかけている車の上に乗った。
「あんちゃん何してん」と運転手は言うが、男の子は
「いいから、早く」と言ってそのまま走らせた。
そして崖付近...
「うおぉぉぉっ」
男の子はなんと大声をあげながら車のスピードを利用してジャンプした。
「おい、自滅行為だぞっ」
そう叫ぶ運転手を無視して、ボールと同じように崖から飛び降りた。
まだボールは中を舞っている。
今しかない、そう確信した男の子がボールに手を伸ばす。
二つの距離は1m。
「しゃあっ」
男の子はギリギリのところでボールを掴んだ。
ボールはジャンプしたときに回転をやめていたため、そのまま胸元に引き寄せることができた。
そしてようやく、ボールを捕まえることができた...のだが。
「ふぅ、、、あれっ?」
そう。男の子はボールを取ることだけ考えていたためあまり分かっていなかったが...彼がいるところは空中だ。
「うわぁぁぁぁ、、、」
そのまま落下する男の子。
このままタヒぬのか...そう思ったその時。
ボールから「ポコン」という音がした。
直後、ボールはグニグニと音を立てて形を変えていき、まるで人間のような形へと変わった。
そして、男の子をスッと受け止め、何事もなかったかのように着地した。
「...?」
男の子は状況を理解できていなかった。
人々が下りてきては、その状況を見て硬直した。

電子さん

人間のように変身した物体は、何やらいきなりしゃべり出した。
「驚かせてしまい申し訳ない。私は電子惑星というものだ。」
歪な人型を形成するその物体はそう語る。
男の子には理解ができなかった。
「電子惑星?」
周りの人々の反応は十人十色だ。
「急にしゃべり出したぞ.」
「おい、ここは現実だよな?」
「単なる形状変化の類ではない...人体を構成する元素全てを一時的に分解して再構成しているのか?」
中には科学者のようなものもいるのか、やたらと長い独り言を言い続ける男もいた。
そんな有象無象を無視して話を続ける電子惑星と名乗る物体。
「実は今、非常に困ったことになっているんだ。君たちの星にも、関係のある事だ。」
それを聞いた人々の大半は首をかしげる。
何を言っているんだコイツは、頭がおかしいのか、とでも思っているのだろう。
しかし、一部の人間はそうではないようだ。
先ほどの男の子は
「僕たちの星が危ないの?」
と自分たちの星を心配する。
先ほどの科学者のような男は
「電子惑星、聞いたことはある。まさかこのような場で出会えるとは、、、」と、勝手に自己完結して勝手に感涙していた。
そして、もう一人の女性は
「電子だか原子だか知らないけど、こんな銀河でも辺境の地に何しに来たの?」と疑問を投げかけた。
そう、この人々がいる惑星は、宇宙の端も端に位置している場所。
こんな辺境の地に飛んでくるものなどそうそういないのだ。
それに対し電子惑星は
「それが、生き物のいる星がここしかなくてだな。」
といった。
その場にいる全員が理解できなかっただろう。
無限の広さを持つこの宇宙、生き物のいる場所なんて探せば五万と見つかるだろう。
そう誰もが思った。
しかし、次に電子惑星が告げてきたのは恐ろしいことであった。
「君たちは知らないだろうが、今やこの宇宙は破滅に向かっているんだよ。」
にわかに信じがたい。しかし、この物体の言葉には妙な信頼性があった。
「本当か」と頭を抱えるものもいれば
「いや、確かにそれが本当だとすれば、最近落石物が少なかったのも納得できる...」と反応を示すものもいた。
電子惑星は一つ、落ちてきた星を指さす。
「あれは私が乗ってきた飛行船だ。その辺にあった隕石を、適当に改造しただけの粗末なものだが。」
そういって、隕石のてっぺんを取り外す。
「どうだ、誰か私とともに、来てみないか?」
電子惑星はそういう。
もちろん、だれも手をあげようとはしない。
普通ならば。
「僕、乗ってみたい。」
手をあげた子がいたのだ。しかも、それはあの男の子。
「実に興味深い、私もつれていけ、見た目詐欺ボール。」
「私も興味あるし、行きたいなっ。」
さらには、あの化学者と女の子まで手をあげた。
「興味深いメンツだ、よしっ、そうと決まれば入るがいい。」
そう言って電子惑星は再びボールの形に戻る。
そして自身の体を変化させ、触手のようなもので3人を掴んだ。
「しっかり捕まってろよっ」
そして、隕石内に飛び降りた。
周囲の人々は不安に駆られたが、男の子の
「絶対戻ってくるからねっ」
という声に、何か安心感を覚えたのかそれらも和らいだ。
ただ、直後に「いてっ」と言う声が3つほど聞こえたが。
「さあ、世界を守る旅路へ出発だッ」
そうして隕石は飛び立った。

旅路

飛び立ってから10秒。隕石の速度は早くも音を置き去りにしていた。
「うわぁぁぁっ」
男の子は悲鳴を上げる。
「しっかり捕まってろっ、人間じゃ最悪加速に耐えきれなくて首が飛ぶかもなっ、ははは。」
電子惑星はさらっと恐ろしいことを言う。
それを聞いた男の子は顔を海王星のように青くしながらしっかりとしがみついた。
「おい、物理法則の常軌を逸しているようにしか思えないんだが」
科学者は混乱しつつもそう電子惑星に言う。
「人間の作った法則が私の技術力に通じると思っているのなら大間違いだ。」
だが電子惑星は、そんなの当たり前とでも言わんばかりに返答する。
隕石は恐ろしい加速を続け、ついには光すら追いつけない領域に達した。
「2.3光速/Sかな、もう少しあげられる。」
そう電子惑星はいう。
「おい、光速/Sとはなんだ、教えろ。」
ただ、科学者はその言葉がよほど気になったようで、自身の安全すら確認せず電子惑星を血眼になって問い詰める。
「ああ、光が一秒間にすすむ距離を1高速/Sとして、どれだけの速度なのか計算するものだよ」
惑星はそう二つ返事する。
「ああ、そういうことか。つまり2.3光速/Sは光の2.3倍の速度で進んでるってことを意味してるんだな。お前たちの頭がおかしい技術力には私の知識がほとんど通用しないことが
分かったよっ、くそったれ。」
それを聞いた科学者は舌打ちしながら再びものにしがみついた。
通り過ぎる最中、いくつかの星に当たるが、隕石はびくともしない。それどころか、当たった星が砕けてしまう。
「特殊加工してあるからな、それこそ中性子星にでも落ちない限り大丈夫だ。」
電子惑星は呑気にそう言いながらとある地点を目指す。
「取り敢えず目指すはお隣さんだ。いくぞっ。」
そういって、さらに隕石を加速させた。
そこから約15分後、隕石はもはや理解ができない速度へと達していた。
「うーん、大体5500光速/Sか、やはり即興で作った船だとこのくらいしか出ないな。」
光の5000倍以上の速度で飛んでいる船だというのに、まったく電子惑星は気にするそぶりを見せない。むしろそのあとのことに重点を置いているようだった。
「もうお前の奇想天外さは慣れた。」
科学者は半ば呆れている。
「ねえ、これっていつ着くの?というかどこに向かってるの?」
女性はそんなことを言う。
「君たちの時間に直して30秒、そろそろだよ。場所は秘密さ。」
電子惑星はそう返答する。
少しの沈黙ののち
「おっ、着いたぞ」
電子惑星が大きく声を上げた。
どうやら到着したらしい。
「着陸するぞー」
そうして思いっきり何かに隕石を着地させた。
「ぐへっ」
衝撃で男の子は嗚咽したが。
「では、オープン。」
ハッチを開けると、そこに広がっていたのは月のような惑星。
「組織を分析してみたところ、月と99.98%構成が一緒だった。どういうことだこれは。」
科学者は分析しつつも内心混乱している。
「情報が多すぎて混乱しているようだなっ」
そこに、一匹の鉄パイプのような姿を持つ生き物が現れた。
「おっ、鉄爺生きてたかっ」
惑星は彼のことを知っているようで冗談交じりにそう話しかける。
「馬鹿もんッっっ」
しかし次の瞬間飛んできたのは、強力な尻尾?によるはたき。
電子惑星は地面に光速でたたきつけられ、そのせいで半径数十キロはあるであろうクレーターができた。
「痛いわ、おんぼろ。」
だが電子惑星は平然とはい出てきた。
「体力どうなっているんだ、お前。」
科学者はドン引きしていた。
「それより、僕たちはこの星に何をしに来たの?」
「そうよっ、早く教えなさい。無駄骨になっちゃうわ。」
男の子と女性は電子惑星に迫る。
「わかった、わかった。話そう。」
「ここは、多世界惑星と言うんだ。」
惑星はそういった。
「多世界惑星?なにそれ?」
勿論だが、男の子はそんなもの知らない。
「全ての現存する惑星の性質をあわせ持つ、異常な星だ。100万度を超える場所から、絶対零度に限りなく近い場所だってあるぞ。」
そういって惑星は、星の地面に触れる。
その瞬間、周囲にホログラムで作られたテレビが出現する。
テレビには、色んな映像が映る。
その中には地球もあった。
「このように、この星には地球や月だけでなく、本当に全ての星が集まっている。星を切り取って、つなぎ合わせたんだ。」
電子惑星はそういいながら、はなしを続けようとする。
「まてっ。いまつなぎ合わせたといったよな?」
しかし、科学者が声をあげる。
「それはおかしい。月にしても地球にしても、ここまで切り取られればさすがに違和感を感じるだろう。月なんてどうだ、見た感じ、全体のほぼ1割レベルはあるじゃないか。」
「我々の目が節穴だからと言ってさすがに気づくはずだ。」
そう疑問を呈す。
「ほお、人間でここまで核心に迫るものがいたか、なかなか興味深い。」
鉄パイプが電子惑星の代わりに話す。
「実はな、この星たちは...『ほかの世界』から『とってきた』んじゃよ。」
そう、まるで気づかれることを想定していたかのように話す。
「別の世界?どういうことだ?」
科学者は再び疑問を投げかける。
「文字通りじゃ。君たちはタイムライン論は知っているだろう?」
「勿論だ。多世界解釈と言う奴だろう?」
科学者は当たり前のように答える。
「その通り。実際、その仮説は正しいんじゃ。君たちと似て非なる世界が、無限に存在している。異なる時間、異なる法則、異なる形の世界で、な。」
そう、真剣に語る鉄パイプの爺さん。
「そして、それらすべての世界を結ぶのが、この場所なんだ。」
そして情報を付け加える電子惑星。
「なるほど、だから『多世界』なのね。」
女性は納得する。
「しかし、まさか多世界解釈が本当だったとは、信じられんはなしだな。」
科学者も驚きを隠せない。
「それで、この星が多世界惑星?ってのは分かったけど、何するのさ。」
そんな中で男の子は、再び疑問を投げかける。
「ああっ、はなしが少々脱線してしまったね。結論から言うと、この星を破壊するんだ。」
電子惑星はあっさり言った。

お隣さん

「???」
3人の頭がはてなで埋め尽くされる。
それは当然の思考。なぜそんないかにも重要そうな場所を破壊するのか。
「先に言ってしまうと、今回の宇宙消滅と言うのは、なにもこの宇宙だけを指しているわけではないんだ。」
電子惑星は話を付け加えていく。
「さっきも言った、君たちで言うと多世界解釈論に基づいた全時間と全法則、そしてそれらを統括する『上の次元』の存在。それらすべてに、消滅の危機が迫っているんだ。」
さらっと言ってしまったが、その内容はあまりにも壮大だ。
「せかい?」
「上の次...元?」
「なるほど...つまり、上位次元からの何らかの介入、はたまた既存の現三次元空間から高次元へと進化した異常による危機というわけか。」
科学者以外は考えることをやめていた。
「そうだ。というわけで、さっそく壊そうかっ。」
ただのボールの形態なのでわからないが、絶対悪い笑顔をしている。
そう三人は思った。
「ああ、わしは空で見ておくわ。」
そういうと鉄パイプの爺さんは当たり前のように空を飛んでどこかに行った。
どこかに行く最中に惑星にぶつかっていたが、その惑星は粉々になった。
「鉄爺がやったな。」
電子惑星は確信した。
「壊すのアイツでいいだろ。」
と女性は思いながらも口には出さなかった。
そうしながらも、まずそもそもどう壊すかがわからない。
「ちなみに世界線をつなぐという役割を持つから、惑星破壊レベルのエネルギーじゃ歯が立たないよ。」
絶望の新情報が付け加えられる。
これは万事休すか。
「...」
「科学者さん何してるの?」
そう思った瞬間、科学者が何かをしでかそうとしているのを男の子が見つける。
「ふっはっは。私はこんな時のためにも、反物質爆弾を作っていたのだ。」
そういいながら、彼はバッグから青白く光る1mほどのカプセルを取り出す。
「どうやって作ったんだよ。」
「その辺にある素材で10秒で色々したらできたのだ。」
「お前マジで頭おかしいな、いい意味で。」
電子惑星が褒めるレベルの技術者である科学者、さっそくカプセルを設置する。
「言い忘れたが私の名前はエッジワースだ、よろしく頼むよ。」
そういいながら、科学者改めエッジワースはカプセルの起動ボタンを押す。
「まもなく爆発します。10、9.8」
機械的な音声が流れる。
「そういえばこれ、どのくらいの火力に設定してある?」
電子惑星がエッジワースに問う。
「ん?知らない。」
しかし科学者は一蹴。
「は?」
「いやっ、その辺の物質を適当にあれこれして作ったから、もしかしたら宇宙の法則を崩すレベルかもしれない。」
しかもこんなことまで抜かしてきた。
「今すぐ止めろ、前言撤回だお前悪い意味で頭おかしいわ。」
だが手遅れ。
「2、1、、、0.」
カウントダウンがゼロになった瞬間、内部エネルギーが暴走してあたりに激しい閃光と、巨大な青白い爆発を生み出す。
その爆発はとどまることを知らない。
電子惑星は他3人を連れて全速力で走り出した。
「うおおおおっ、お前覚えとれよ科学者ァッッッ」
そう叫びながら、ギリギリで逃げる。
しかし爆発はあまりにも早い。
光速に限りなく近い速度で逃げる電子惑星に追従しているのだ。
「このままだとまずいっ、と言うか最悪宇宙の法則が本当に乱れるッ。」
最悪なことに、直後それは現実となる。
「あれっ、なんかあそこひび入ってない?」
男の子が指さした方向には、白いひびが入っていた。
「アアアッッッ」
電子惑星は何かを察したのか叫ぶ。
「おい、どうしたらしくないぞ。」
元凶エッジは自分がしでかしたことよりも電子惑星の心配をする。順序逆だ逆。
「お前の作った反物質爆弾のせいで、宇宙がはじけてしまう。どうしてくれるんだッッ」
電子惑星はそう大声で言う。
「壊せって言ったのはそっちだろ、知らないぞ俺は。」
科学者はそういい返す。
いつの間にか論戦になってしまった。
だがそれもすぐに終わる。なぜなら彼らは直後、虚無へ投げ出されたのだから。
「うわあああっっっっっ」
3人と一体は悲鳴を上げながらなんとか姿勢を正した。
「ここは、一体?」
男の子がそうつぶやいた。
こう思うのも無理はない。
なぜならそこは、何処まで行っても、無限に暗闇が続いている場所だったのだから。
「おいおい、どこだここは。」
エッジは辺りを見渡す。
周りには無数の、ガラス玉のようなものがあった。
それらは単なる球だけでなく、三角柱であったり、五角錐であったりと、特異な形状をしていたりする。
そして、それらが無限に広がっていた。
「まさか、ここが多世界解釈の宇宙か?」
科学者はそうつぶやく。
「collectよ、ユー。」
その時、奥から何かが出てきた。
「お前は誰だ?」
「ミーはパシフィックってものよ、以下よろしく。」
その男は自身をパシフィックと名乗る。
彼の体は名前通り、まるで海のように青い。
「ここは、パラドクス宇宙ってもんね。あらゆる無限の可能性、簡単に言えば、もしもの世界が全部集まってるのよ。」
そう彼は告げる。
「そうやって慌てず説明できるってことは、説明したのはどうやら私たちが初めてではないようだな。」
電子惑星は問いかける。
「もちろんね。パラドクスの世界一つ一つにはいかれた脳みその持ち主がいくつかいてね、たまに世界の上限を超えるようなエネルギーを生成して、世界事壊しちまうのさ。」
「その結果、エネルギー負荷によってここまでたどり着いちゃうわけ。オッケー?」
パシフィックは長々と説明する。
「うん、僕には理解できないことが分かったよ。」
「私にもー。」
二人はほぼ思考停止していたが、
「つまり今回の場合、私が作った反物質爆弾が世界の許容上限を超えてしまったことにより、世界全体が破裂してしまったわけだな。」
「どんな火力なんだ、お前が作った爆弾。」
電子惑星とエッジワースは普通に理解していた。
これが知識量の差か。
「それで、君たちがここに来た理由は分かってる。」
パシフィックは真剣な顔をしてこちらに振り向いた。
「世界全体を崩壊させる要因となるものの駆除だろう?」
「ああ。」
電子惑星は体を縦に振る。
「それなら話は早い。こちらに来てくれ。」
そういって手招きしながら、4...
「おう、分かったぞ。」
「おい鉄じいさん、いつの間にいた?」
あと鉄パイプを含めた5人でパシフィックの歩いて行った先に向かった。

無限パンケーキ

パシフィックという男が案内した場所に広がっていたのは、鼻にツンと刺さるパンケーキの香りと、それとはまったく接点のない巨大な機械的部屋。
「ここはパラドクス宇宙を管理する場所だ。」
そうパシフィックは淡々という。
「これは珍しいものを拝めた。どうやって作ったんだい?」
電子惑星はパシフィックに質問する。
「それはどうでもいいとして、ここがあればその原因を見つけ出せるはずなんだ。」
最もその質問は軽く受け流されてしまったが。
「しかし、何次元にいるのかが問題になる。」
そこ時パシフィックが突拍子もないことを言った。
「何次元とは?」
「そのまま、次元の階層を表すものさ。」
彼は少しめんどくさそうにしながらも、説明する。
「君たちはヒルベルト空間というものはご存知かな?」
「ヒルベルト空間?何それ?」
「確か、次元の階層みたいなものよね。」
女性はぎり理解できたらしい。もっとも男の子は全くだが。
「ああ、ダフィット・ヒルベルトらが研究したユークリッド空間の一つだな。」
科学者はそう返答する。
「そう、もっともその名は、フォン・ノイマンによってつけられたのだがな。」
パシフィックはうなずきながらも情報を追加する。
「なぜ地球の知識を知ってるのかは置いておいて、それが何を表しているんだ?」
「ああ、それはこれを見てもらった方が早い。」
そういうと彼は一つのボタンを押す。
するとどうだろう、正面にあった数十キロはあるであろう鉄の壁が開いていく。
そうして現れたのは、巨大なパンケーキ。
それも、無限に積み重なった、天まで届くほどのパンケーキだ。
「あの香りの正体はこれか。しかし、これは何をしているんだ?」
科学者は合点いきながらも、新たな疑問を持つ。
「ああ、これはな、ヒルベルト空間の再現をしているんだよ。最も、疑似的だがね。」
彼はそう返答する。しかし、この積み上げられただけのパンケーキがヒルベルト空間を再現しているとは、到底思えない。
「このおいしそうなものが積み重なっているのが、階層の再現、にわかに信じがたいな。」
電子惑星がそう返答する。
「わっ、おいしそう。」
しかし、危機感がない男の子はなんとパンケーキに向かって走り出してしまった。
「あっ、おいよせ。触れたらまずいっ」
パシフィックは止めようとするが、あと一歩で届かない。
男の子がパンケーキに触れた。
「えっ、えっ?」
瞬間、男の子の体にパターン化された模様が現れる。
「あれは、幾何学模様か?」
科学者は驚きつつもそうつぶやく。
「ザッツライト。って言ってる場合じゃない、早く止めないー」
そう言い切る前に、パシフィックの顔に男の子?の拳が当たる。
「うおぉっ!」
そしてそのまま殴り飛ばされ、外に行ってしまう。
「おいおい、あの調子じゃ数百光年は飛ばされてしまったな。」
鉄爺は呑気に言う。
男の子?はもはや意識を失っている。そして鉄パイプに拳をふるう。
「とろい。」
しかしその拳は鉄爺にかすりもしなかった。
「それっ」
そして鉄パイプの部分で、「鉄爺にとっては」軽くこつくレベルで攻撃した。
もっとも、その一撃があまりにも男の子には強すぎたようで、一撃で幾何学模様が割れて気絶してしまった。
「うう、、、」
何とか落ち着かせたが、少し不安点ものこる。
「ああ、だから触るなと言ったのに。」
パシフィックはすでに戻ってきていた。
「おい、なんでこうなった?」
電子惑星は脅迫するようにパシフィックに詰め寄る。
「当たり前だ。元三次元の存在が高次元に触れたからだよ。」
淡々とパシフィックは返す。
「触れただけでああなるのか?普通。」
「もちろん、君たちには理解できないだろうが、次元というのは意外と強大で恐ろしい力を持っているんだよ。」
そういうと一つ間をおいて、パシフィックは話し始めた。
「まず、君たちは次元の力を侮っている。我々が今いるのは3次元、ではなく4次元だ。厳密に言うと、4.5次元に値する。」
「ここは三次元ではないのか?」
科学者が質問する
「当たり前だ。もともと、宇宙というのはこのようになっているんだ。」
そういうと彼は、いつの間にか目の前にあった画面を起動させた。
そこには、点、線、面、立体。そして、形状しがたい謎の形があった。
「君たちは初めて見ただろうが、次元というのはこのような形になっているんだ。0次元、つまり次元がないというのは点だ。1次元は線、つまり無限の0次元の集合体だ。」
「1次元からすれば0次元は無だ。君たちだって、ゲームでキャラを操作したり、プログラミングをしたことがあるだろう?それと一緒だ。」
パシフィックは続ける。
「まあ、ようするに一次元からすれば0次元なんてただのフィクションでしかないってことだな。」
科学者は簡潔にまとめる。
「そーそー、ユーは有能ね、欲しいわ。それは置いておいて、この構造が無限にあるのが次元階層だ。」
「それで、宇宙は基本三次元。そして、宇宙を包み込む世界が四次元。そして、ここが無限の世界を管轄する4.5次元ってわけ。ただ管轄するだけだから、5次元にはなってないけどね。」
パシフィックはそう言って話を終えた。
「因みに、形状しがたい形、と君たちが言っているものは4次元の構造だ。試しに見てみようか。それっ」
そういうとパシフィックは、5人を引き連れていった...