D-2

Last-modified: 2007-04-06 (金) 23:20:56

D-2-霧隼翔

ゴウン、ゴウン、というエレベーターのモーター音が、広い倉庫に反響する。電灯に代わり、外壁の役割をはたしている鉄骨が下から上へと流れていく。
「すげえ……」
セトの言葉通り、4体のロボットは圧倒的な迫力である。
細部は4機ともでまちまちだが、全て大きな肩幅、細いウェスト、背中には翼のようなものが付いている。
1番左の機体は、頭が他の3機よりも大きく、3つ目だ。ちなみに、他の3機は黒いガラスで覆われたスクリーンの中に黄色い双眼である。
背中に大きなライフルを背負っている。体つきに相当するフレームは、他の物と比べたいして厚くない。色は、銀灰色に塗装されている。
その右の機体は、鎧を着ているような形をしたフレームだ。そして、腰に2本の鞘。背中にも大きな剣が装備されている。頭にも兜のようなものが付いており、頭頂部には装飾的な髪が付いている。色は白銀。
次のは、曲線を多用した、他の3機の無機的な印象とは大きく異なるフレーム。他の機体より華奢だが、それゆえに洗練されているように見える。これだけが赤や黄色を基調とした配色で、1段と目立っている。
そして、最後の1機。白と青を基調にしたツートンカラー。他の3機のように特徴的な装備や装飾はないが、体のところどころにハード・ポインタがあり、汎用性の高さをうかがわせる。
エレベーターが止まり、チン、という音とともに金網のドアが開いた。
ホーガンに促され、セトは巨大ロボットの前へと歩みを進める。
3人の男女が、そのロボットの前にめいめいの姿勢でいた。3人とも、体にフィットしたダイバースーツにも似た服を着ている。
ライフルを背負った機体にもたれていた1人が、セトの方へ歩いてくる。
「やあ、君が最後の1人?」
黒い前髪をかき分け、もう片方の手を軽く上げたその男。まつ毛の長い切れ長の目が、きざに微笑んでいる。身長は低くないが華奢な体つきで、そんなにごつくはないセトと比べてもかなりの撫で肩で、大柄なホーガンにはすっぽり隠れられるのではないかと思うほどだ。
「そう。セト、セトエルク・ベルセーリウス。」
「僕はディアン・カルベン。よろしく。」
ウィンクをして、ディアンは左手を差し出す。
セトも、それを握り返した。
「私にも挨拶させてよ。」
ディアンの後ろから、茶髪碧眼の女性が現れる。身長はさほど高くなく、セトより少し小さいくらいだが、女性らしい体つきながらも、無駄のない筋肉が全身にあることがわかる。
「アレス・セルバ・ラズロフ。アレスでいいわ。」
片方の手を腰にあてたまま、アレスは右手を差し出す。それを握るセト。
「あっちの人は…?」
アレスと握手をしたまま、セトは2人の向こう側、そっぽを向いて鎧付きの機体に寄りかかっている女性を見ていった。
長いブロンドの髪に、透き通るような白い肌。そして、限りなく薄い蒼色の眼。
「あ、そういえばあいつ、まだ私たちにも自己紹介してなかった。……感じ悪い。」
怪訝に目を細めるアレス。
「そんなこと言わないで。君、名前は?」
そんなアレスの肩をたたき、ディアンは問題の女性にセトの時と同じように片手をあげた。
「……ラティエル・ウェルカー。」
「へえ、星座を司る天使の名前じゃないか。じゃあ、呼び名はラティでいいかい?」
「…別に。」
会話を終えたあと、ディアンはセトとアレスのほうに向きなおり、やれやれと肩をくすめた。
「サイアク。」
「照れているんだよ。きっと。」
「はぁ、メデタクできてんのね。」
「そんなことはないさ。ねえセト君。君もそう思わないかい?」
ディアンがセトの方を向く。突然話をふられて慌てるセト。
「……照れている、というか…人と話すのが苦手なんじゃないですか?」
「ほら。彼女もわざとああいう態度をとっているわけじゃないさ。」
ディアンが微笑む。白い歯が口からのぞく、完璧な笑顔だ。
その時、4機のロボットを正面に見て左がわの壁にある扉が開いて、一人の女性が現れる。
金髪に銀縁眼鏡。フェル・グレイだ。
「皆さん、揃いましたか?」
カツコツとハイヒール特有の足音をさせ、書類を小脇に抱えたグレイは4人の前まで歩いて行く。
「時間がありません。皆さんは、このロボットのパイロットとして召集されました。」
「ええっ!?」
グレイが何の気負いもなく発した一言に、セトは素っ頓狂な声を上げた。
「……何も、聞いていなかったのですか?」
鋭い目でセトをみるグレイ。
「…はい。」
セトがそう答えると、グレイはため息をついた。
「ホーガン中佐。何もおっしゃらなかったんですね?」
「む、すまん。」
グレイが半オクターブ低い声でホーガンに言う。素直に頭を下げるホーガン。
「この機体の開発目的は聞いていると思います。巨大ホムンクルスに対抗するための特殊兵器、“Dシリーズ”。左から狙撃・強行偵察用のD-1、近接戦闘における武装に特化したD-2、近接戦闘、またはそれに拘わらず機動性や柔軟性を追求し他とは異なるフレームを採用したD-3 。そして、中近距離戦闘を目的とした汎用性の高い、白兵戦用のD-4。」
何も見ることなく、淡々とグレイは話を続ける。
「操縦方法は、皆さんの体の動きを各所に取り付けた金具を通して機体に動きを追跡させる、モビルトレースシステムを採用しました。よって、専門的な知識がなくても扱うことができます。」
グレイはそういうと、機体のほうに向きなおった。
「エルダ、ザガン、カミオ、ヴァル。ハッチ解放。第一戦闘態勢。」
その言葉と同時に、4機の胸のプレートがずれて、ちょうど人間で言うと肋骨が分かれていく部分、そこに穴があき、目の光が強くなった。
「乗ってください。詳しい説明はAIのほうからされます。ああ、セト君。」
セト以外の三人が迷わずに機体を選び乗っていく中、おろおろするセトを見てグレイが言う。
「……乗って、くれる?」
まっすぐな言葉、まっすぐな目。こころなしか、一つ残った機体、D-4の目もこちらを見ているような気がする。
セトはしばらく迷った後、こう言った。
「はい。」

→続きD-3

first wrote2007/4/6