「新年会」 (62-311)

Last-modified: 2007-09-26 (水) 01:54:55

概要

作品名作者発表日保管日
「新年会」62-311氏07/09/2607/09/26

 
前スレでSOS団が酒を飲んだらどうなるかと言う話を元に書きました。

作品

「明っけおめ~!」
玄関先で大音量がこだまする。声の主はもちろんアイツだ。
全く新年早々ウルサイなお前は。大晦日にその有り余る元気を6割程置いてくりゃ良かったんだ。
「うるっさいわねー、新しい年の始まりに騒がないなんてウソだわ!何してんのよキョン!さっさと有希ん家に行くわよ!」
へいへい。
 
今日は1月2日。SOS団団長ハルヒの一人多数決によって、新年会が開かれる事となった。
場所は長門ん家だ。ちなみに明日は鶴屋さんの家で新年会をやるらしい。
俺は家で雑煮でも食いながらゆっくり新春特番でも見てのんびり過ごしたいんだがなぁ…。
「ぶつくさ言って無いでさっさと来る!」
やれやれ。
長門宅に到着。今日の新年会はSOS団のみ、5人だけの新年会だ。
「どうぞ」
長門の声と共に俺達4人は新年の挨拶を交えつつ、ゾロゾロと部屋に上がり込んだ。
驚いた事に長テーブル一杯にお節やら酒やらゲームやらがところせましと並んでいた。
「凄いわ有希!大変だったでしょう!」
「これは素晴らしい。おいしそうですね」
「ひゃあ凄いっありがとうございます」
それぞれ感想を述べつつ席に着く。ふと台所を見ると、50センチはあろうかと言うレシートが見えた。
そういう事か、長門。
そして団長ハルヒの挨拶だ。
「ゴホン!皆さん、我がSOS団は様々な困難を乗り越え、真っ向から不思議現象に立ち向かい、こうして新しい年を迎える事が出来ました!」
全くだ。去年だけで一生分の人生経験をした気がするぜ。
「今年も新たな不思議を求めてノーブレーキで突っ走りましょう!乾杯!」
「乾杯!」
「みんな!今日は無礼講よ!じゃんじゃん飲みなさい!」
うーむ。嫌な予感がする。俺だけはシラフでいないとマズイ様な…
俺の予感は的中した。
新年会開始から2時間後…
あからさまに変貌したのは何と古泉だった。
「いやー楽しいっスねー。こんな楽しいのは生まれて初め…5回目っスよー。」
コイツ…素の喋りは後輩言葉なのか?今となってはニヒルなんて表現をするのもおこがましいただの酔っぱらいだ。
「これだとへいしゃくーかんが現れても行けそうに無いっシュねー。逆に」
何の逆だ。一応ツッコむ。
「まあ涼宮たんが楽しければ安泰れす。逆に」
「おい古泉、古泉!」
「あい何でほーか?」
「お前がさっきから話かけてる相手…焼き魚だぞ?俺はこっちだ。」
 
全くエライもんを見てしまった。古泉がここまで変わるとは…アルコール恐るべし。そういや、長門はどうなんだろう。アイツも相当な量を飲んでるはずだ。
「…」
一見変わった様子は無いが…俺は長門の観察を続ける。
「………ヒック」
だめだコリャ。
 
「ぐへへ~姉ちゃんエエケツしとるのぉ~!」
「ひゃあふ!しゅ、しゅじゅみにゃさんやめ○□△×!」
おかしな会話が聞こえたのでふと見ると、ハルヒおやじが朝比奈さんを襲っていた。
それにしても朝比奈さん?上手く言語化出来てませんよ?
「エロオヤジかお前は」
ハルヒの襟をひょいとつまみ上げる。
「らりよキョーン!あらしは団員とさらり親睦を深めようとしてるんららいの~!うぃっ」
やれやれ、なんて酒癖の悪さだ。するとハルヒは、
「ええか~ええのんか~」
と言いながら朝比奈さんを追いかけていた。朝比奈さんはと言うと…
「ひゃうぅ~!するみや、する、スルメ屋さんやめてくろ○×△□!」
良かったなハルヒ。就職出来て。
さらに一時間後…
俺はチビチビとウーロン茶を飲みながら、お節をつまんでいた。…その時。
「うぃ~捕まえたわお!みくるひゃ~ん」
ハルヒが背後から抱き付いて来た!ちょっ!おいハルヒ離れろ!ぐあっ酒臭え!
「みくるひゃん逃がはないわお~!もう可愛いんらから~!」次の瞬間…
カプッ!レロレロ
「のあ!!!」
ハルヒ!俺の耳を噛むな!舐めるな!くすぐったいだろ!
「くひひ~」
ダメだ、目の焦点が合ってない。ったく調子に乗り過ぎやがって。
俺は水を片手に耳をかじられながらベランダへ連れて行った。少しは酔いも覚めるだろう。
「ハルヒ、水だ飲め」
「うぃっく。ありがとみくるちゃあん」
完全に朝比奈さんと思い込んでやがる。泥酔を越えて酩酊状態だから判別が出来んのか…などと考えていると、
「ねえ、みくるちゃあん」
ハルヒが朝比奈さん(俺)を呼んでいる。ココは朝比奈さん風に振る舞うべきなのか?
「何ですか?涼宮さん」
振る舞ってしまった。その時。
酔ってはいるものの、真剣な顔をしたハルヒがそこにいた。
「あたし、好きな人いるんだけどね…」
一瞬、心臓が止まりそうになる。ハルヒも健全な一女子高生だ。そりゃ恋もするさ、そんな事は分かってる。だが…
なんだ、この言い知れぬ不安感は。
「涼宮さん、そのぉ…」
朝比奈さん(俺)は思わず言葉が詰まる。
「あぁっ心配しないでっ!だからってSOS団をほったらかしって訳じゃないから!と言うか…その好きな人なんだけど…」
何で俺まで緊張してんだ?
「SOS団の中にいるの」
ドクンッ
聴診器など必要無い位の鼓動が俺の胸から聞こえて来た。と、同時にさっきまでの不安感も何処かに吹き飛んでしまった。
こいつ、酔った勢いで言ってんのか?それとも俺をビックリさせる為のドッキリか何かなのか?
するとハルヒは思いがけない表情を見せた。
まるで父親と約束した遊園地行きが、父親の仕事の都合で行けなくなってしまった子供の様に…
あからさまに淋しそうな表情をしていたのだ。
俺の前では満面の笑みや、阿修羅の様な怒り顔を見せるのがほとんどのアイツがこんな表情を見せるなんて。
同性の前(俺は男だが)だからだろうか?ただそんなハルヒを見ていると、抱き締めたくなる俺がいた。…すると、
「でもね…」
ハルヒが口を開く。
「アイツったらホント鈍感で、アホンダラゲで、団長の言う事にいつも意見してくる万年平部員なんだけど…」
おいおいエライ言われ様だな。
「一緒にいて凄く楽しいの。時々悪ガキみたく笑ってたり、たまにだけど…あたしの腕を引っ張ってくれたり…些細な事だけどドキドキした。こんな事言うの恥ずかしいんだけど、夢の中でキスもしたわ。」
いつぞやの閉鎖空間の事か。良く覚えてるよ、忘れる訳が無い。あれが本心だったからな、もちろん今でもさ。
「でもアイツだって一人の男子だもん。団活が終わった後とか、彼女の一人や二人作って遊んでるんじゃないかって独りで考え込んだりしちゃうの。ほら、アイツって特別不細工って訳じゃないでしょ?かと言って特別カッコいい訳でもないんだけど。」
誉めてんのか貶してんのかどっちなんだ。
「どうしたらいいかなって…みくるちゃんに話聞いて欲しくて。こういう事本人に聞く勇気無いし…」
俺もハルヒと同じなのかもしれない。心ではそう思ってるのに本人を目の前にすると好きと言う感情を隠して接してしまう。
照れ隠し、と言うと聞こえはいいが、実際は臆病になっていたのかもな。
幾度となくハルヒからサインが出ていただろうに、俺は全く気付いて無かったなんて。
何てアホだ俺は。
 
「ごめんねみくるちゃん!いきなりこんな事言われても困るだけよね!
あははっあたし飲み過ぎちゃったみたい!」
「………くれませんか?」
「え?みくるちゃん何?」
「待っていてくれませんか?」
「何を待つの?」
「その人は涼宮さんの前に現れて、必ず涼宮さんを幸せにします。それまで待っていてくれませんか?」
「え…う、うん。分かった」
ハルヒは少々困惑気味だった。俺も似た様なもんだ。まさか朝比奈ボイス風でこんな事を言うなんて。
だがハルヒ。今度はお前がシラフの時に、俺の声で気持ちを伝えるから…
待っててくれよ。
 
その日は俺と長門以外の3人が眠ってしまった為、全員長門の家に泊めて貰う事となった。
 
次の日…
 
「あったま痛ぁ~い!」
ハルヒが飛び起きる。二日酔いでもテンション高いなお前は。ちなみに俺はぐっすり休ませて貰い、爽やかな朝を迎えていた。
「キョン!昨日酔ってるあたしに変な事しなかったでしょうね!」
してねえよ、むしろ逆だ。続いて古泉と朝比奈さん(本物)も目を覚ました。
「うぅ~頭がガンガンしますぅ~」
「少々飲み過ぎましたね。」すると古泉が…
「おや?これだけ誰も手を付けてませんね」
そりゃそうだろ。ハルヒと朝比奈さん(俺)がベランダで話してる間、お前は寝る直前までその焼き魚と話をしていたんだからな。
それはそうと…
「おいハルヒ。もう10時だぞ?今日は鶴屋さん家で新年会なんだろ?」
「あ、そうだったわ!早く支度しなきゃ!」
「ほら行くぞ」
俺はハルヒを引っ張る。腕では無く、手を握って。
「ちょっと!引っ張んな…いでよ…」
ハルヒは下を向いて顔が赤くなっていたが、まぁ夕べの酒のせいって事にしといてやるか。
 
━完━