涼宮ハルヒの事件ファイル/#02 2日目夜

Last-modified: 2023-01-23 (月) 07:17:00

概要

作品名作者発表日保管日(初)
涼宮ハルヒの事件ファイル #02 朝比奈みくるの依頼 2日目夜(13スレ目) 12-700氏06/08/0706/08/19

作品

自称名探偵の涼宮ハルヒと、その助手であるキョンは朝比奈みくるから人捜し依頼を受る。
探す相手はみくるの姉『朝比奈みちる』。数日みくるの前から突然姿を消したのだ。
情報屋の長門有希から情報を元に、みちるが働いているカフェで聞き込みを開始するハルヒ達。
みちるの同僚、朝倉凉子によるとみちるは今まで仕事を休んだ事はなく、急に休みを入れたのは初めての事だという。
朝比奈姉妹の近所の住人によると、みちるは三年前から一年前まで二年間家を空けており。
一年前家に戻ってきてからも、たまに家から出ているようだとの話である。
秘密主義の依頼人、つながりの見えない情報、そして行方のしれないみちる。
情報をまとめているハルヒとキョンの前に、朝倉凉子が再び現れる。
キョンのことを『ジョン=スミス』という名前で呼ぶ朝倉。
『ジョン=スミス』の名前は失踪直前にみちるが言い残したものである。
その意味を問うキョンに朝倉はナイフを向け、殺すと宣言する。
とっさの機転で朝倉を撤退させるが、キョンも負傷してしまう。

 

涼宮ハルヒの事件ファイル 第二話 二日目 夜

 

「ふむ。にわかには信じられん話だな」
公園で肩の傷の応急処置をしていると、警察がやってきた。
しかたなく事情を話すと、予想通り俺たちは警察署までご同行を願われた。
当然だろう。殺人鬼ジャンピング・ジャックにねらわれて生き延びた、初めての人間なのだから。
警察署で本格的な治療をおれると、俺は刑事の古泉とその上司である警視の会長氏に事情を話すように求められた。
しかし、人のことは言えないが会長とは変なニックネームである。まぁ、ハルヒが考えたのだから仕方ない。
ともあれ、何とか長い説明を終えた俺に会長氏がかけたのが上の台詞である。
「言っておくが、俺は嘘はついてないぞ。依頼に関わる部分は説明してないけどな」
俺の言葉に古泉が「いいえ」と首を振った。
「こういう事であなたが嘘をつかないことは知っています。もう長いつきあいですからね」
たぶん、他意はないのだろう。無いと思う。いや、無いと思いたい。
古泉の台詞に会長も肯定した。
「そうだな。俺が信じられないといったのは殺人鬼の非常識さの事だ。
 現場をみればおまえの話が真実だとはわかる。道理で刑事どもが捕まられないわけだ」
そういうと苛立たしげにたばこを吸う会長。相当苛立ってるらしい、口調が乱れている。
「ふん。いいだろう、俺の庭で好き勝手できるのもこれまでだ。警察総力を挙げてでも捕まえてやるさ」
普段の嫌みな口調から(主にハルヒに)誤解されているが、この会長氏は以外にも市民を愛するナイスガイである。
警察に誇りを持ち、市民を事件から遠ざけようとしている。
だから、ああいう物言いになってしまうのだろう。たぶんだけどな。
「しかしさすがはあの女の助手だな。舌先三寸で殺人鬼を撃退するとはな。ふん、なにが『俺は優秀な人間じゃない』だ」
「単に運が良かっただけだ。朝倉が俺のハッタリに引っかかってくれて助かったよ」
会長の言葉には間違いがある。ハルヒは間違いなく探偵向きの人間である。
つまり、限られた情報を組み合わせ理論的な思考をしつつも、そこからさらに飛躍した結論を見つけだす。
対して俺はどうしても常識の枠にとらわれてしまう。思考が堅いのだ。それほど頭がいいわけでもないしな。
だから俺は、真実を語る代わりに虚偽を並べる。ハッタリという奴だ。
身を守るために、騙し謀り誤魔化し曖昧に有耶無耶に蒙昧にする。
「なるほど。おまえは探偵と言うより、まるで怪盗だな。あの女とおまえは警察にとって最悪のコンビと言っていい」
「まさか、探偵も怪盗も俺に不相応だよ。朝倉に殺されなかったのも、ここで教えている護身術が役に立ったからだしな」
ハルヒと出会う前まで俺は、警察主催の護身術道場に足を運んでいた。
単に警官相手に殴る蹴るをして、憂さ晴らしをしたかったのだが。一応身には付いていたらしい。
そういえば、今思い出すとのあのときの警官は古泉に似ていたような気がするが…まさかね。

 

俺がそう考えていると、突然取り調べ室の扉が開かれた。いや、ぶち破られたと言うべきか。
「あんた達、いつまでキョンを拘束するつもり!? そいつは被害者なんだから、これ以上このままでいるなら、あたしにも考えがあるわ」
扉を開けたのはハルヒだった。部屋にはいると同時に物騒な台詞を叫ぶ。
いったいどんな考えがあるというのか、全くわからない。
ふと気づくと部屋の隅で古泉が笑いながら妙な視線を送ってきていた。ええい、何が言いたい。
「彼の事情聴取はちょうど今終わったところだ。しかし、ノックなしで入るとはマナーがなってないな」
いつもの慇懃無礼な口調に戻り嫌みな口調をいう会長。
「ところで喜緑君はどうしたのかね? 君のことは彼女に任せていたはずだが」
会長がそういうと喜緑さんがハルヒの後に続き部屋に入ってきた。
「すみません、警視。涼宮さんがどうしてもキョンさんが心配だというので」
「べ、別にキョンのことなんてどうでも良いわ! あたしはその悪徳警官がまた悪巧みをしてるだろうから、正義の探偵としてそれをうち砕きにきただけよ!」
「あらあら、そうだったんですか? さっきまで…」
喜緑さんがそこまで言ったところでハルヒが喜緑さんの口をふさいだ。さっきまで、の続きは何だったのだろうか?
ハルヒは喜緑さんに何かを耳打ちすると、喜緑さんの口から手を離した。
「とにかく、そろそろ家に帰るわよ。キョン」
そういって部屋を出ていいくハルヒ。喜緑さんもそれに続いた。
「やれやれ、何考えてるんだあいつは」
俺は思わずそうつぶやいていた。ついでにため息まででる。
「それ、本気でおっしゃってるんですか?」
「のろけるならほかの場所でやれ、目障りだ」
そんな台詞が耳に届いたが、俺は聞こえなかったことにした。

 

結局その日は警察署に泊まっていくことになった。事情聴取が終わった時点で夜の1時であったし。
医者の話によると肩の傷はそれほど心配する事は無いが、少なくとも今晩は安静にしろと言われたためだ。
古泉の話によると公園で俺たちと話した時点で、俺の家には数名の警官を派遣しておいたらしい。
朝倉が俺の妹や朝比奈さんをねらうかもしれないが、少なくとも今夜は大丈夫だろう。
唯一不満があるといえば、仮眠室で一緒に眠るのが古泉と会長ということだ。
別にハルヒと一緒に寝たいなどというイカれた考えがある訳じゃないが、こいつらと修学旅行の夜をする気は無い。
古泉の妄言や部屋を出るたびに会長が言う見当違いな心配を聞き流したりしているうちに、その日の夜は更けていくのであった。