おしゃまなキューピー2 (73-593)

Last-modified: 2007-12-24 (月) 22:30:17

概要

作品名作者発表日保管日
おしゃまなキューピー273-593氏07/12/2207/12/23

作品

 今年ももうすぐクリスマス。あいつ、どんなプレゼントをくれるんだろ。
 あたしはこの前なんだか突然編み物がやりたくなってその時に勢い余って2つ編んじゃったマフラーの内、色が渋くてダサい方のマフラーをあげるつもりだけど。捨てるのはもったいないし、他の誰かにあげるにしてもダっサいマフラーはこれまたダっサい人間にしか似合わないってことでダサキョンにあげるってだけで。ただ時期的にちょうどいいからクリスマスプレゼントにしようって思っただけで……って、何であたしは言い訳みたいなこと考えてるんだろ。
 
 …………………………。
 
 沈黙の続く部室。今、部室にはあたしと有希の二人だけ。あたしが来たときにはもう有希がいた。この子、ちゃんと授業出てるのかしら。
 キョンは掃除当番で遅い。掃除なんてちゃっちゃとやればすぐ終わるのに。ほんっとバカなんだから。古泉くんはバイトがあるって帰った。最近バイト多いわね。そんなに稼いで何に使うのかしら。みくるちゃんはどうしたんだろ? 3年生はそろそろ進路指導の時期だっけ? ならしょうがないけど。有希は相変わらず無言。ま、本読んでるんだから当たり前よね。
 
 …………………………。
 
 沈黙が続く。でも有希との沈黙は悪くない。普通なら沈黙はつまらないものなのに。不思議ね。
 
 それにしても、やっぱり有希ってば黙ってても可愛いわね。たまに喋ったときなんかはもう可愛さ爆発。みくるちゃんも可愛いけど、みくるちゃんとはまた違った可愛さね。母性本能をくすぐられる感じ。
 つい抱きしめて頬ずりしたくなっちゃうくらいに可愛い。でもこの前そうしてたらキョンに止められた。
「やめとけ。長門が困ってんだろ」とか言うのよ? 全然困ってる様子なんてなかったのに。ほんっとバカ。確かに有希はあのバカにも懐いてるけど、有希のことはあたしの方がよくわかってんのよ。
 
 それでも、まだ有希については知らないことが多い。
 たとえば、家族のこと。いつ行っても有希の家には家族がいない。仕事なのかな? それでもこんな可愛い子を1人にしてほっとくなんて信じられない。
 有希にそのことを聞いてみようと思ったことは何度かある。でも、触れてもらいたくないところかもしれない。友達だからってそこまで踏み込んでいいのだろうか――そう思って、毎回聞くのを諦める。
 
 友達の全てを知る必要はない。同じ時間を過ごして、同じ思い出をたくさん作れば、知らないことがあっても絶対仲良しになれるから。
 間近に迫ったクリスマス。これはもっと仲良くなるのにうってつけのイベント。使わない手はないわ。
 パーティーはもちろんやるけど、クリスマスって言ったらなんと言ってもプレゼントよね。
 ――ってなわけで、
 
「ねえ有希、有希はクリスマスにどんなものがほしい?」
 当日にびっくりさせるために、ホントはこんなこと聞きたくないんだけど有希の場合は喋らないから何がほしいのか見当がつかない。だからって去年と同じようなものをあげるってのもアレだし……。
「……別に」
「何でもいいのよ?」
 有希がほしいって言うなら、ツチノコだってUFOだって何だって捕まえてやるわ。
「……特に、何も」
 ホントに物欲ないわね。欲望ってものを知らないんじゃないかしら。どっかのバカとは大違い。
「じゃあ、今までにもらって気に入ってるものとかある? あ、去年あたしがあげたものは除いて」
 去年あげたものを答えてくれたら嬉しいけど、それじゃ意味がないからね。
「……無い」
 もしかしたらプレゼント自体あまりもらったことがないのかもしれない。
「そっか。何でも言ってみていいのよ? 誰かが持ってるのを見て羨ましいと思ったものとか」
 これで「無い」って言われたら手詰まりなんだけど……。
「……彼」
「かれ?」
「……彼といるときのあなたは、とても楽しそう」
 彼ってのは多分あいつのことよね。
「彼って、キョンのこと?」
「そう」
「ってことはつまり……? え? キョンがほしいの?」
「そう」
「キョンは……ダメよ」
「……何故?」
「え、あー……、だってほら、人間はあげられるものじゃないでしょ? 本人がもらってくださいってんなら別かもしんないけど」
「……そう」
 
 まさかキョンがほしいって言うなんて思ってもみなかったわ。団長を驚かすなんて、さすが有希ね。
 一緒に遊べる相手がほしいのかしら。でも何であいつなんだろう。あいつよりあたしの方が楽しいのに。まぁ、あたしのことがほしいって言われても有希にはあげられないけどね。
 ――さて、気を取り直して、
 
「じゃあ、ほかに何かほしいものはある?」
「……子供」
「いや、だから人間は――」
「私の子供なら問題ない」
「……有希の、子ども?」
「彼と、私の子供」
「なっ!? ダメよ! それは絶対にダメ!」
「……何故?」
「え、それは、あー、あれよ、その、あのー……そうよ! だってまだ高校生じゃない!」
「……高校生だと、駄目?」
「そうよ! ダメよ! 肉体的にも精神的にも経済的にも社会的にも無理があるわ!」
「……そう。……残念」
 わかってくれたのならいいんだけど……。でも――
 
「何であいつなのよ」
 他に仲のいい男友達がいないからしょうがなくキョンってところかしら。
「……好きだから」
「え……? 有希が? あいつのこと……!?」
「好き」
「え、だって、キョンよ? あのバカキョンよ!?」
「大好き」
「ぇ、え? ……そ、それ、本気で言ってんの……?」
「…………」
 有希は何も言わずにまっすぐあたしを見てる。そうなんだ……。有希も、あいつのことが――
 
「……冗談」
 
 ――っ? え? 冗談!? 冗談ってことはつまり――……こっ、このあたしが手玉にとられたっ?
 この……。団長ともあろうものがみっともなく動揺しちゃったじゃないの。全く以て油断ならないわね。
 違うわよ? あたしが動揺したのは有希みたいなすっごく可愛い子があいつみたいな超絶バカを好きって言ったことに驚いたからであって、その、別にカブったとかそういうのじゃなくて……。あぁっ! もう全部あのバカキョンが悪いのよ!
 
 ……で? 何でこうなったんだっけ? そうだ、有希が変なこと言ったからだ。
 こういうのはしっかり言っておかないとね。
 
「有希、今回は許すけど、これからは人を弄ぶような嘘はダメよ?」
「バレンタインデーでチョコをあげたその一ヶ月後に、思い返したら恥ずかしくなるくらいにピンクでホワイトなお返しを貰い、その時の子供が、まるで一対の男女をそっと祝福するかのように神秘的な光を湛えた銀色の結晶がふわりふわりと音もなく舞い降りる聖なる夜に誕生する――それはまさに最高のクリスマスプレゼントである、と言っていた。私はそれに興味を抱いた。そのために彼が必要だった」
 
 とっ、突然なにを……?
 
「私が彼のことを好きと言えば三角関係になって面白い、とも言っていた。私は三角関係と言うものを見たことがない。一度で良いから見てみたかった。だから『好き』と言った。しかし三角関係なるものは観測されなかった。残念」
「だ…………だれが、そんなことを……いったの、かしら……?」
 
 
「……朝比奈みくる」
 
 
 
  バン!!!!!!
 
 その時、文芸部室の扉がもの凄い勢いで吹き飛ぶ音とともに、校舎内を爆音が突き抜けた。
 
「みくるちゃん! みくるちゃんはどこにいるのっ!! 大人しく出てきなさいっ!!!!」
 
「……朝比奈みくるなら、『サンタクロースをみっくみっくにしてくる』と言い残して、6限目終了後、グリーンランドへと旅立った」
 

関連作品