キスの味 (71-179)

Last-modified: 2007-12-01 (土) 00:16:32

概要

作品名作者発表日保管日
キスの味71-179氏、191氏07/11/3007/12/01

前フリ・お題

2日前の事になる。この掲示板空間で異常な情報フレアを観測した。
涼宮ハルヒスレの1レスから発生したそれは瞬く間に私を飲み込んだ。
その中心に居たのが>39
私の仕事は>39から観測した情報爆発を解析し、その内容をSSにまとめる事。
>39が生み出されてから二日間、私は(本来の仕事そっちのけで)ずっとそうやって過ごしてきた。
うまく文書化できない。情報の伝達に齟齬が発生するかもしれない。でも、聞いて。

作品

放課後、珍しく女子部員がそろって不在の部室で古泉と何度目かのチェスで対戦していた時、俺の携帯が鳴った。
 
「もしもし」
『キョンくーん?』
「なんだお前か、どうした?」
『急にお母さん出かけることになっちゃったから、ご飯は二人で食べてって』
「そうか、今日のメシはなんだ?」
『おさかなさーん♪』
「魚か…」
『キョン君おさかなさんキライだっけー?』
「好きだぞ。大好きだ。」
『でもね-お母さんが「きすのてんぷら」って言ってたの。あれパサパサしてるからわたしきらーい』
「何だお前、鱚(きす)の味も分からんのか?やっぱりまだ子供だなぁ。」
『分からなくていいもーんだ!そうだ!キョン君「きす」って漢字で書ける?』
「当たり前だろ、そんなもんとっくに知ってるよ。」
『すごーい。どんな字かくのー?』
「あー…電話じゃ分からないだろうから、帰ったら教えてやるよ。」
『わーい!他にもお魚さんの漢字知ってる?』
「当たり前だろ。ついでだからキス以外も色々教えてやるよ。」
『それじゃあ早く帰ってきてねー♪』
「わかった、じゃあな」
 
「妹さんですか?元気良いですね。ここまで声が聞こえてきましたよ。」
最近いつもああだぞ。学校でちょっと難しい漢字習い出したのか知らんが
面白がって何でも漢字で書きたがって困ってるんだ。
「勉強熱心で良いじゃないですか。」
それで纏わり付かれる身にもなってみろ、唐突に檸檬だの醤油だの書いてくれって部屋に入って来るんだぞ。
パソコンつけてなきゃ兄としての威厳が失墜するところだったよ。そういえば、魚のキスって漢字でどう書くんだっけな?
「改めて聞かれるとすぐに出てこないものですね。」
俺の気持ちが少しは分かったろ。さて、チョロッとパソコンで調べておくかな…。
「あ、そのパソコンは今は…」
あぁ、そうだった。部室のパソコンは今ハルヒが映画第二段のシナリオを練ってる最中だからとかで
パスワードかけられて開けないんだったな。俺の旧型の携帯じゃ「きす」で変換しても「キス」しか出て来ないぞ。
仕方ない。長門が来たら聞いて見るか、あいつならすぐに答えてくれるだろう。
 

--Haruhi Side
今日は掃除当番だったんだけど、音楽室の掃除をしていたらアホの谷口が窓ガラスを割ったせいで余計に時間がかかったわ。
おかげで部活の時間が削られちゃったじゃないの!あいつは明日〆ておく必要があるわね。
部室に行くとドアの前に有希が立っていた。何をしているんだろう?声をかけようとしたら有希がこっちを向いて
口の動きだけで『静かに』と言ってるような気がした。中で誰かが何かしてるのかしら?
 
(...色々教えてやるよ。)
(わかった、じゃあな)
 
キョンが電話してたのね。有希もこういうところに気を使うんだから。
あたしなら構わず部室に入って行っちゃうけどね。
「キョンの奴誰と何の電話していたのかしらね?」
本当に何気なく発した一言だった。でも言わなきゃ良かった。
返ってきた言葉は信じられないものだったから。いや、信じたくないものだった。
有希にこのまま帰る事を告げ私は家に向かった。とてもじゃないけど部室に入る気にはなれなかったから…。
 

--Kyon Side
俺と古泉が話していると、今度は古泉の携帯が鳴った。
一瞬険しい顔を見せる。嫌な予感だ。
「閉鎖空間が発生しました。これまでに無い規模だそうです。僕もすぐに向かわないと」
嫌な予感が的中した。しかし帰りのホームルームまではハルヒはいつも通りだったぞ。
「何か心当たりはありませんか?どんな小さな事でも構いません。」
そういわれてもな。俺もホームルームが終わってすぐにここに来たからな。
その時のハルヒはいつもの様に「掃除当番だから先に行ってて!」と言って走って出て行った。それっきりだな。
「そうですか。僕は仲間の手伝いに行ってきます。何か分かったらすぐに連絡を下さい。」
古泉が慌てて部室から出て行くと入れ違いで長門が入ってきた。
長門もいつもより表情が険しい気がする。何だ今日は。皆して俺の知らないところで気分を損ねているのか。
椅子に座って本を読み始めた長門に声をかける。
妹に兄の威厳を見せるためにもこの疑問は片して置かないとな。
 
「なぁ長門、おまえ『キス』ってどんな漢字か分かるか?」
長門が首を傾けた、長門でも分からないのか?
「もし知ってたらで良いんだが、そこの紙に漢字で書いてみてくれるか?」
しばらく考え込むような仕草を見せた長門は
程なく机の上にあった紙にペンで何かを書いて俺に手渡した。その紙にはこう書いてあった。
 
接吻
 
全世界が停止したかと思われた。これは長門流のジョークなのか?
予想外の事に俺が固まっていると長門が微妙に首を傾けたまま俺の顔を覗きこんでいた。
その表情は俺に「違うの?」と聞いているようだった。まさか長門に天然ドジっ娘の素地があったとはな。
「あのな…長門、俺が聞きたかったのはそういう事じゃなくて、魚のキスって漢字ではどう書くのかなと…」
ついでに俺は先ほどの妹とのやり取りを話し、他の魚の漢字もいくつか書いてもらうように頼んだ。
長門が小さく「・・・うかつ」と呟いたと思うと、あっという間にメモ紙が魚を表す漢字で埋め尽くされた。
 
長門から魚で埋め尽くされたメモを受け取った俺はふと部室の時計を見た。
いい加減帰らないと腹を空かせた妹が何をしでかすか分からない。
長門に事情を話し先に帰る旨を伝え、朝比奈さんが来たら皆帰ったと伝えてもらうように頼んで俺は部室を後にした。
 
家に帰った俺は手早く食事を用意し、長門メモを頼りに一通り魚類漢字講座を開いて早々に床に着いた。
長門のおかげで何とか兄としての威厳を保てたようだ。あとでちゃんとお礼しておかないといけないな。
 

--Haruhi Side
家に帰った私は制服も着替えずにベッドに倒れこんだ。
有希の話からすると、キョンは阪中さんと話していた。大好きだのキスを教えてやるだのという話を…
いつのまにそんな仲に…信じられない。あの子と学校の外で会ったのはルソーの一件だけなはず。
朝は大抵あたしの方が早く学校に来ているし、キョンは彼女にも軽く挨拶くらいはするけど
そんなに意識してる素振りなんて全く見せて居なかったのに…何で?
途端に涙が溢れてきた。何で?あんな奴が誰とどうなろうと知った事じゃないじゃない!
それなのに何でこんなに涙が出てくるのよ!訳分かんない!
 
いつの間にか眠っていたらしい。
携帯の着信音で目が覚めた、キョンから?今は話したくない。
ディスプレイには『有希』と書いてあった。心配して電話して来てくれたんだ。
団長の私が団員に心配かけちゃいけない。なるべく普段どおりに電話に出た。
 
「もしもし、有希?」
『…今日の事』
「あーごめんね!心配かけちゃって。あたしはもう平気だから。」
動揺を悟られちゃいけない。あたしは必死だった。
『…そう』
今彼女は私に何て声をかけようか考えているんだ。
有希は口数は少ないけどちゃんと皆の事考えてる良い子だ。それが分かるだけに余計に辛い。
「今日あの後馬鹿キョンに何か変な事言われなかった?」
有希の気遣いを無駄にしちゃいけない。この言葉は普通に言えたと思う。
『…彼からは、あの後部室でキスとはどんな感じか教えてくれと言われた。』
 
目の前が真っ暗になった気がした。あの馬鹿は有希に何をしてるの!
あたしは何故か怒りよりも呆れて笑い声が出てしまった。
 
その後有希から聞いた内容は数時間前の私だったら卒倒していたかもしれないけど、
何もかも吹っ切れた私は馬鹿話として笑い飛ばすことが出来た。
 
有希はあたしに「あなたが心配する事ではない」と言ってくれた。うん、わかってるよ。ありがと。
 

--Kyon Side
翌日ハルヒは6間目が始まる直前にようやく学校に姿を現した。
授業が終わり、すぐにホームルームが始まる。それが終わって俺はハルヒに話しかけた。
どうした?昨日も部室に来なかったし、体調でも崩したか?
「別に、どうだっていいでしょ。」
声のトーンがいつもと違う。機嫌が悪い時のような棘があるわけでも無い。
心底「どうでもいい」と思っているような何の感情も無い声だった。
「あんたこそ、昨日はキスがどうのとか有希に色々聞いてよろしくやってたんでしょ?」
何か引っかかる言い方だな。まぁ、長門には感謝しないとな。お陰で兄としての威厳を示せた訳だし。
「何言ってるのあんた?阪中さんはどう…」
阪中がどうしたって?妹以外にそんな事俺に聞いてくる奴他に誰が居るってんだ。
俺はハルヒの頭上を例の棒の先端を星からハテナマークに変えた
魔女スタイルのミニチュア長門の大群が飛び回っているのを幻視した。
どうやら状況が全く飲み込めて居ないであろうハルヒに昨日の出来事を話す事にした。
あら珍らしや。俺の話を聞いているハルヒが放心状態になっている。
 

--Haruhi Side
今日は学校に行く気にはなれなかった。でも行かないと有希に心配かけちゃう。
そうだ、6時間目だけ出よう。キョンの顔なんて見たくもないけど1時間だけなら我慢してやるわ。
 
6時間目の授業開始ギリギリに教室に入った私は授業を上の空で聞いていた。
授業が終わり、ホームルームも終わって部室に行こうとした時、キョンが話しかけてきた。
何でそんなに何事も無かったようにあたしに話かけれるのよ?あんたは阪中さんと一緒に帰ればいいじゃない。
有希にまで変な事して…文句の一言でも言ってやりたい気分になった。
「あんたこそ、昨日はキスがどうのとか有希に色々聞いてよろしくやってたんでしょ?」
帰ってきた言葉は余りに予想外だった。妹?威厳?何それ??あんたは阪中さんと…言いかけて途中で辞めた。
でも少し声に出ちゃったかもしれない。何?何なの?訳分かんない。
私の混乱を見越したようにキョンは昨日の有希とのやり取りを話し始めた。
魚、キス、漢字、その前の電話の話。大好き、キス(のてんぷら)の味?妹ちゃん?
音としては昨日有希から聞いたものと同じだった。でも意味が…
有希も勘違いしていたのかわざとなのか。とにかくあたしはとんでもない勘違いをしていた。
キョンが笑ってる。その事に気が付いたとたんにものすごく恥ずかしくなった。
とてもじゃないけどキョンの顔を見れない。あたしは窓の外に目をやった。
 

--Kyon Side
ハルヒに昨日の話しをしていると、最初は放心状態だったハルヒの顔が見る見る赤くなっていった。
ハルヒの話によると、俺の電話の内容を中途半端に聞きかじった長門とハルヒが、
俺が阪中と付きあっていると誤解していたらしい。昨日の長門の天然ぶりを思い出して俺は大笑いしてしまった。
ハルヒは恥ずかしいのだろう。顔を真っ赤にして外を向いている。笑いが止まらない。呼吸が苦しくなって…
…うかつだった。笑いすぎるあまり、ハルヒの顔色が照れから怒りに変わる瞬間を見落とした。
色にしたらどっちも赤だからなぁ。何で神様はこの二つの感情を表す顔色を同じ色にしたのか。
次の瞬間「いつまで笑ってんのよ!」とハルヒにネクタイを締め上げられた。本気でヤバイ。意識が…
「あのぉ、涼宮さん…」
それは救いの天使の声だった。朝比奈さんがハルヒに一枚の封筒を手渡した。「長門さんから涼宮さんにって…」
封を開けたハルヒが小刻みに震えている。俺は横からハルヒの手元を覗きこんだ。
「ぶっ!ぶふぉあ!!」
一つ目は俺が再び笑い出した声だ。二つ目はハルヒの肘が鳩尾に入った音だと思ってくれ。
般若の面を被ったハルヒ…否、ハルヒの皮を被った般若がそこに居た。
薄れ行く意識の中で俺はハルヒの手に握られた紙に書いてあった文字を思い出した。
そこには紛れもなく赤い文字で大きく
 
 大 成 功
  ユ キ
 
と書いてあった。俺の幻覚でなければだが…
 
バン!
「古泉君!有希はどこ?有希見なかった!?」
「長門さんなら先ほど、『目黒の秋刀魚の味を確かめてくる』と言い残して釣竿を持って東京に向かいましたよ」
「有希ー!どこ行ったー!出てきなさーい!!!!」

スレの流れ

ハルヒ「さすが有希ね!もう目黒の秋刀魚を釣ってくるなんて!」
有希「…たいした事は無い。築地に行っただけ。」
ハルヒ「?・・・でも、有~希~!今度あんなことしたらたとえ有希でも許さないんだからねっ!」
有希「…わかった。次は古泉一樹にすることにする。」
ハルヒ「古泉くんにするなら面白そうねっ!あっ、あの笑顔をどっちが崩すか勝負しない?」
有希「…わかった。…楽しみ。」
みくる「遅れてすいませーん。」
ハルヒ「あっ、みくるちゃん!いいところに来たわっ!3人で古泉くんの笑顔を崩す勝負をするわよっ!」
みくる「え・・・え・・・ひょえぇぇぇぇぇ・・・」
 
 
 
・・・・なんだかしらないが、やれやれだな。

派生作品