デートまがい (49-23)

Last-modified: 2007-05-18 (金) 00:46:28

概要

作品名作者発表日保管日
デートまがい49-23氏07/05/1707/05/17

作品

「では行きますよ。…スタート!」
「あのさ、今日は、その、いろいろ考えてきたんだ。た、楽しみにしてろよな」
「う、うん。すごく楽しみ」
ハルヒは朝比奈さんから借りた清楚な服を着ている。俯いて頬を染める姿はお嬢様と言うにふさわしい。
「こ、ここの公園のアイスは絶品でな…あ、あれだ」
「…いらっしゃいませ」
「えっと、こ、これを二つ、お願いします」
「…お揃いですね」
何!?おい長門、そんな台詞台本にないぞ。…古泉がニヤニヤしてる。あいつの差し金か。あとで覚えてろ。
「え、ええ。じゃあお金です。はい」
「…毎度あり」
「ほら、おいしそうだろう?」
「う、うん。ありがとう。」
う、落ち着け。これは役だ。なりきっているだけだ。しかしいつもと違うハルヒは、こいつが美少女だということを思い出させる。
さて、俺は自分でもわかるがわざとらしい仕草で頬にアイスをつける。
「あ、ねえ、ちょっと待って」
うあ、マジきつい。ハルヒが近づいてくる。そして俺の頬についたアイスを指ですくい取り
「アイスついてる」
と言って、そのアイスのついた指を舐めた。

 

さて言うまでもないがこれは演技だ。なぜ俺がこんな目に会うことになったのか、
それは「新入部員勧誘の為のミニムービーを作ってみませんか」という古泉の提案からだった。
ハルヒは「おもしろそう!」と当然のごとく許可し、超監督の腕章を取り出そうとした。
だが古泉が「監督、脚本、演出は僕にお任せください。必ずや傑作にして見せます」と宣言し、
そこまで言うならとハルヒはメガホンを渡した。
「練習の必要はありません。当日軽く目を通していただければ十分にわかる内容です」
と言う古泉の言葉に安心し、俺はなにもしなかった。だがよく考えれば古泉以外にSOS団は男がいないのだ。

 

「俺とハルヒがデート!?」
「はい、もちろん演技ですが」
「当たり前だ。なんでデートなんだ」
「こんなロマンスがあるのなら、と釣られる方もいるのでは、と思いまして」
「男はハルヒに釣られるかもしれんが、女性が俺で釣れるか?お前のほうが…」
「それも考えましたが僕は監督ですので。それに、僕が涼宮さんとデートしてもよろしいのですか?」
「別に俺に許可を取るようなものでもないだろ」
「涼宮さんと手を握ったり、見つめ合ったり、それ以上のことをしてもかまわないんですか?」
「…それ以上ってのはどういうことだ」
「さて?まあ僕が忙しいのは事実です。SOS団には他に男性もいないことですし、どうか頼まれてくれませんか?」
嵌められた気もするが仕方ない。俺は雑用だからな。甘んじて受け入れよう。
というわけだったのだが、当日台本を見たときにはめちゃくちゃ後悔した。
こんなことなら古泉に任せればよかった。
しかし我ながら大根である。もしこんなものを見せられたらDVDを叩き割りたいと言う心境に陥ることだろう。

 

さてさっきのアイスの他にもボートやら食事やら肩の並べての散歩やらいろいろあった。
とてもじゃないが言えるような内容じゃない。
だがなんとか終わりまで来た。最後の台本にはキスシーンとある。
とはいえ近づいていく二人の肩から下を写しキスしたように見せかけるものらしいので一安心している。
ベンチに腰掛ける二人。そうして見つめあう。
「今日は楽しかったよ」
正直言えば100%演技というわけじゃなかった。大人しく淑やかなハルヒは俺の心の何かを刺激したからだ。
「うん」
ハルヒもいつの間にか硬さが抜けていた。まるで演技でなく本心で行動しているように。
「今日はもうお別れだ。だけど君に一つ贈りたいものがある」
ハルヒは乞うように瞳を向ける。演技だというのにその瞳の輝きはいつものハルヒだった。
両手でハルヒの肩を抱く。いつかの夢の中と同じように。
顔を近づけ間近で止める。ハルヒの吐息を感じる。きっとハルヒも俺の吐息を感じているだろう。
しばらくして古泉のOKが出た。でもハルヒは動かなかった。その瞳は「何か」を期待していた。
誰も動かない。時が止まったかのようだ。そして時を動かすことが出来るのは俺だけだとわかっていた。
「ハルヒ、俺はこんな場所で、こんな演技の続きなんて形でしたくない。だからちょっとだけ待っててくれ」
あんな告白まがいのことを言ってしまったのは演技の熱が冷めていなかったからだろう。そうでなければ説明がつかないからな。