ノート (64-133)

Last-modified: 2010-01-02 (土) 22:05:55

概要

作品名作者発表日保管日
ノート64-133氏07/10/1107/10/11

作品

俺には秘密がある。
いや秘密と言うほどでもないのだが…簡単に言えばハルヒノートだ。
ハルヒがやらかしたことや迷惑をかけたこと、どんなことを話したかなんかが記されている。
もともとそんなつもりはなかったんだがふと思い立って日記をつけ始めたのが始まりだ。
その日にあったことを書いていると知らずSOS団でのことが多くなり、一番行動しているハルヒの描写が多くなるのもまた真理である。
改めて見返すと良かれ悪しかれすいぶんとハルヒと一緒にいるということを思い知る。
時間だけではなくその密度もまた濃かった。
このノートを他人がみたらストーカーかと勘違いするほど書かれているのだから。
ちなみに写真なんかも貼ってある。SOS団みんなが写っているものから個人写真まで。
それらをカウントするとなぜかハルヒの写っている写真が多いのはあいつがでしゃばりだからだろう。
そんな恥の塊みたいなものをいまだに持っているのはただ感傷だ。
ただの日記では収まらず恨み帳であったりアルバムであったりするこのノートを捨てるのは、なんとなく嫌だった。
そのことを後悔したのはハルヒが遊びに来た日のことだった。
 
トイレのために席をはずした数分の間だった。
部屋に戻るとハルヒが件のノートをじっと読みふけっていたときの絶望感は言葉では言い表せない。
「…こら、何見てんだ」
「あんたのストーカー日記」
なんというか死にたいね、正直。
そりゃまあ自分のことや自分の写真が載っているノートなんて気味が悪いだろう。
だが別にハルヒのことだけを書いていたわけはなくSOS団のことを書いていたら自然にハルヒの描写が多くなっただけである。
「あんたあたしのこと好きなの?」
なぜそうなるのか思考回路を疑う。…待て、普通に考えればストーカーってのは相手を好きだからするもんだ。
あんなノートを見ればそう思うほうが自然じゃないか。思考回路がイカれてるのは俺のほうらしい。
「自分でもわからん。でもそれを書いているとき自然に筆が進んだのは確かだ」
「はっきりしなさい」
結局のところあんなものを見られた時点で、いやあれを捨てられなかった時点で俺の負けなのだろう。
ハルヒに背を向け胡坐をかいて座る。ここまで来たらみすぼらしいながら覚悟を決めないといけない。
「好きだよ。悪いか、ちくしょう」
「悪くないけどこういうのは気持ち悪いわね」
…いまのはわりときつかった。どうせ告白のときに相手の顔一つ見れない情けない奴だよ。
「ふーん、かなり前から書いてたんだ」
背中に重み。どうやらハルヒが背中を預けてきたようだ。
「気持ち悪いんじゃなかったのか」
ハルヒは答えずにしばらく俺と背中合わせのままペラペラとページをめくっていた。
そのたびに「へぇ」とか「うわ…」とか「こんなの覚えてたんだ」とか「この写真…」とかそんな声が漏れ聞こえた。
正直死にたい。いい加減にしてくれ、と振り返ろうとしたとき鏡に映るハルヒが見えた。
妹かハルヒかしらないがいつの間にか置いていっていたらしい。
ハルヒはさぞかし嫌悪感でいっぱいの顔をしているのだろう、そう思っていた。
だが鏡に映ったハルヒの顔は、なんというか、にへら、としていた。まるで嬉しくてたまらないというように。
「あんたあたしのことこんなに見てたんだ。見すぎよ、もう。今度から拝観料とろうかしら」
いつ神仏になったんだと心でつっこむ。にへらにへら
「あたしの写真ばっかりだし、ホントあんたアレねアレすぎて何もいえないわ」
言ってるじゃないか思う様。にへらにへら
「なんかもうあんたはホントしょうがないわね。こんなの許してあげるなんてあたしくらいの…え?」
鏡を通して目が合った。ハルヒの顔が瞬時に真っ赤になる。
「なっ!何見てんのよ!っていうか何ニヤニヤしてんのよバカキョン!」
気づかれた。俺もいつの間にか顔がほころんでいたらしい。
「いや別に。ただ俺の好きな奴にはまだ知らない一面があるらしいことがわかったんでな。ノートに追記しようと思っただけだ」
「うるさい!バカ!書いたら許さないから!」
「はいはい。ところでまだ返事を聞いてない。お前は俺のことどう思ってるんだ」
「ふん。あたしは別にあんたのことなんてなんとも思って…」
「しかしあんなにやけた顔するんだな。どういう相手ならあんな顔するんだかな。古泉や朝比奈さんに聞いてみるか」
「っ!…ずるい」
「惚れた弱みだ。諦めろ」
 
というわけでハルヒとつきあう発端となったあのノートは封印、もとい大切に保管してある。
十数年後、そのノートが娘に見られた、なんてことはまた別の話。

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