ハルキョン版アリとキリギリス (118-477)

Last-modified: 2009-10-04 (日) 00:24:45

概要

作品名作者発表日保管日
ハルキョン版アリとキリギリス118-477氏09/10/0209/10/03

 
(虫成分が含まれます。苦手な方は回避願います)

作品

 その夏、キリギリスのハルヒは、山で海で、全力で遊んでいました。
 そうこうしていた、ひときわ暑い日、知り合いのアリが荷物を運んでいるのに出くわしました。
「なによ、キョン、あんた汗だくじゃないの! 真夏の炎天下に力仕事なんかして、熱射病で倒れても知らないからね!」
「なんだ、ハルヒか。おまえこそ、大丈夫なのか?」
「なによ、夏休みの宿題なら最初の3日で終わらせたわ。後の憂いなく、思う存分遊ぶためにね!」
「そうじゃなくて、冬の食料のことだ。夏のうちに食べ物を蓄えておかないと、あとで大変だぞ」
「そんなの、なんとかなるわ。あたしは今の瞬間を思いっきり生きるの!宵越しの金を持たない江戸っ子よ!」
「おいおい」
「だいたいね、この不景気に貯蓄なんてしてどうすんのよ! 世の中にお金が回らなくなって、ますます不況になるわ。デフレ・スパイラルよ。そもそも貯め込んでる連中は消費性向(所得のうち消費に回す割合)が低くて、毎日かつかつで生きてる人の方が高いのよ。だから富裕層にお金が集まり、貧富の差が拡大すると、社会全体の平均消費性向は低くなるってアーヴィング・フィッシャー(Irving Fisher, 1867年~1947年)も言ってるわ。すると、社会全体の消費は減退、モノが売れなくなって不況へまっしぐらよ! さあ、キョン、その米倉を開いて、町中の人たちに分け与えなさい!」
「おまえは、どこの米騒動だ? だいたいな、おまえの理屈だと、最善の社会は、なるべく多くの人間を貧者にして、そいつらに生活できるぎりぎりの金を配って、社会全体の消費性向は100%に限りなく近くするのが良い、ってことになるぞ。しかし、そんな世の中で、誰が働くんだ? 誰が生産性を高めるための投資をする? その資金はどうやって調達する? おまえは消費のことばかり言ったが、だれかが生産しないと、生活費をもらったって、生活に必要なものが買えないんだぞ。多分、金あまりモノ足らずで、インフレになる。だいたい儲けがないと、誰も働かないし、儲かる可能性がゼロなら誰も投資なんてしない。そんな社会はまずいと思うぞ」
「もう、うっさいわね。あんたときたら、あーいえば、こーいうの典型なんだから」
 
 そうこうするうちに、やがて夏がおわり、秋が来ました。
 キリギリスは、ますます陽気に遊んで、歌なんかも歌っていました。
 けれど、とうとう、さむいさむい冬がやってきました。
 
 野原の草はすっかり枯れ果て、キリギリスの食べ物は1つもなくなってしまいました。
「ああ、おなかがすいたわ。そうだ、キョンのお弁当を横から食べる、というのはどうかしら」
 こうしてキリギリスは、蟻たちが暮らすマンションにやってきました。中に入るには、部屋番号を指定して、インターホンっで相手と話して、中からオートロックを解除してもらわなくてはなりません。
「ねえ、キョン、いる?」
 ………
 ……
 …
「しかしですね、夏に遊んでいたものをホイホイ助けていると、大きなモラル・ハザードとなりますよ。どうせ国がたすけてくれるのだからと、経営努力しない銀行が増えてしまうようなものです」
 といってるのは、今回、出番がこれだけの古泉アリでした。
「そんなことは、わかってる。だがな、だからと言って放っておけるか!」
 アリのキョンは外に飛びだし、キリギリスのハルヒを抱え上げました。
「うわ、突然、何すんのよ、キョン!」
「こら、暴れるな。こんなに体、冷やして。なんか温かいものでも食わせてやる」
 アリは自分の体重よりも重いものを楽々運べるのです。運ぶのは、だいたいは「食べ物」なのですが、ここは深く考えないでおきましょう。わからない人は大人の人に聞いて下さい。
 こうして、キョンをハルヒを中に入れました。
 
「あんた、よかったの? ほかのアリから、いじめられない?」
「そんな連中じゃないさ。あいつらが言うことが正しいのは俺だって分かってる。だからといって、死にそうな奴を放っておくのも違うと思う。それだけだ」
「……キョン」
「ん、なんだ?」
「あの、その……ありがと」
 
 その後、ふたり(?)は末永く幸せに暮らしました。
 
「ちょっと、待って。キョン、あんた、働きアリでしょ? 性別から言うとメスじゃないの?」
「それをいうならハルヒ、キリギリスで歌うのはオスじゃないのか?」
「「……なら、いいか」」
 
 こうして、ふたり(?)は仲むつまじく暮らしました。
 
「すまん、ハルヒ。おれはメスだが生殖機能がないから、おまえの子を生んでやれん」
「バカ、あんたがいれば、それで十分よ! そんなことより、だっこしなさい、6本の腕で!」
 
 こうして、ふたり(?)は末永くバカップルに暮らしました。
 
「こら、キョン、どこ触ってんのよ!」
「後ろ足の発達したこのあたりが……」
 
 
 たのむ、おわってくれ。