ハルヒと親父ーかなしいうた (119-955)

Last-modified: 2009-11-07 (土) 17:17:43

概要

作品名作者発表日保管日
ハルヒと親父ーかなしいうた119-955氏09/11/0609/11/07

 

作品

母さん:ハル、考えごと?
ハルヒ:うん。
母さん:昨日はキョン君とデートだったんでしょ?
ハルヒ:デートじゃないわ。二人で出掛けて、街の中歩いたり、買い物したり、帰りにちょっとカラオケに行っただけよ。
母さん:それにしては、浮かない顔ね。かといって悩んでるわけでもなさそうだし。
ハルヒ:だから、まさに「考えごと」よ。
母さん:そうなの?
ハルヒ:キョンってあんまり歌がうまくないの。音痴って訳じゃないけど、淡々としすぎてるというか、情感がこもってないっていうか。ついでにレパートリーもそんなに多くなくって、いつも決まって歌う曲があるの。それを、いつものように、昨日も歌ったんだけどね。
母さん:ええ、それで?
ハルヒ:ううん、昨日はそれだけ。何かあったのはさっきよ。めったに聞かないラジオをつけたら、昨日、キョンが歌った歌が流れてきたの。本物のが。曲も歌詞も自分で書く人みたいね。ものすごく悲しい歌だった。絞りだすようなかすれ声で、それこそ切々と歌い上げるバラードでね。
母さん:さすがにキョン君にそこまで要求できないわね。
ハルヒ:当たり前よ! そんなこと思ったんじゃないわ。そうじゃなくて、あいつがその歌を歌いだしたのが何時からなのか、思い出したの。あいつは、その、つまり、表現力が乏しいから、さすがのあたしも気付かなかったけど、あんな歌を歌いたくなるような何かがあったかもしれないじゃない? あいつは、そういうことは、ちっとも話さないから。それからずっと、あいつはその歌を歌ってるのに、あたしはほんのついさっきまで、気が付かなかったわ。……考えすぎだと自分でも思うけど、そういうことをつらつら考えていた訳。母さんに話せて、少しはすっとしたわ。はい、おわり、おしまい。母さん、なんか用事ない? ちょっと気分切り替えたいから、体を使うことだと助かるけど。
母さん:そうねえ。外に出掛けるのは構わないのね? じゃあ、ちょっと「おつかい」に行ってもらおうかしら。
ハルヒ:いいわよ。何を買って来るの?
母さん:ううん、逆。届けものをお願いするわ。ちょっと待ってて。
ハルヒ:もう夕方だけど、いいの? こんな時間に行って。
母さん:大丈夫、電話しておくから。はい、これ。
ハルヒ:こないだ作ってたジャム? パテとかペースト作ってる、あのおばあちゃんに?
母さん:あの方には母さんがもう持って行ったわ。はい、メッセージカードの伝言付き。このあて先へお願いね。
ハルヒ:って、これ、キョンのお母さんじゃないの!
母さん:さしあげるって約束してたの、すっかり忘れてて、ごめんね、ハル。
ハルヒ:絶対うそだ。母さんが忘れるなんてあり得ない。
母さん:ちょっと疲れてたのかしら?
ハルヒ:うー、分かったわよ、行ってくるわよ!
母さん:お夕飯誘われたら、断らなくていいわよ。ちゃんと電話しておくから。
ハルヒ:どういう電話よ、それ? 非常識にもほどがあるわ!
母さん:ハルがいうと説得的ね。
ハルヒ:うー、わかったわよ、もう!
 
 ● ● ●
 
ハルヒ:で、なんで、あんたがそんなところにいるのよ?
キョン:こっちのセリフだ。いや、用件は電話があったんで知ってるけどな。
ハルヒ:あんたんちは、いつも客が来るのを、玄関の前で立って待ってんの?衛兵みたいに。
キョン:これくらい経ったら、玄関から外に出てくれ、と言われたんだ。
ハルヒ:うー、予言者か、うちの母さんは? まあ、いいわ。ここで、あんたにジャムを渡せば、上がらなくても済むし、「おつかい」も完遂ね。
キョン:いや、ダメだと思うぞ。
ハルヒ:なんでよ?夕食が用意してあるなんてのは無しだからね。
キョン:ああ、俺たち以外の分は、な。
ハルヒ:どういうこと? いとこの結婚式なんてベタなネタ、使ったら殴るわよ。
キョン:うちの家族は、おまえの母さんが差し向けた黒塗りのタクシーに乗って出掛けた。本気の夕食(ディナー)を御馳走してくださるそうだ、おまえんちで。
ハルヒ:は、はあ!?
キョン:俺が預かってるメッセージは、次ので全部だ。「ハル、メッセージ・カードの中を読んでね。くれぐれも声は出さないように。」だそうだ。
ハルヒ:……ば、ばかあ!!こんなこと、く、口に出して言えないわよ!
キョン:なんて書いてあるんだ?
ハルヒ:み、見るなあ!! あんたは駄目。絶対。あんただけには言えない。これは墓まで持ってくわ。それから、あんたより一日だけでも長生きするから、そのつもりでいなさい!! いいわね、絶対だからね!

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