ハルヒの目にも涙 (44-25)

Last-modified: 2007-03-24 (土) 23:54:49

概要

作品名作者発表日保管日
ハルヒの目にも涙44-25氏07/03/2407/03/24

作品

 

『ハルヒの目にも涙』

 

今日は何だか食べる気がしないわね。
「おはようママ、今日は2枚だけでいいわ。パン」
「あら珍しい!キョン君と喧嘩でもしてたりして」
…やっぱりあたしの母親ね。鋭いわ。

 

この美人で優しくてナイスバディなのが、あたしのマッ…母親よ。
何よ?仕方ないじゃない!昔からママって呼んでるもの。今更無理よ。
ママの事は大好き!ママにだけは素直になれるわ。
「また原因はハルの方でしょ?そのうち本当に嫌われちゃうわよ?」
原因が無いとは言わないけど…
「ハル!キョン君は優しい子よ。ハルの話を聞けばわかるわ」
ママは両手であたしの右手を包んでる。叱られる時はいつもこう。
顔はすごい恐いのに、ママの手はとっても優しい。だから素直に聞けるのかしら。
「でもね。あなたはキョン君に甘えすぎ。何をしても最後は許してくれるって考えてる!」
「………うん」
そうよ…あいつはバカみたいにお人好しだもん。
ママの両手に力が入ってきた。ママの目を見つめる。
「ダメなの。愛してほしいならあなたも愛さなきゃ。
…わかる日がきっと来るわ。でもそれじゃ遅いの。お願い、ハル」

 

朝の教室。あたしはこの時間が少しだけ好き。
キョンが来たら何を話すか考えてるの。
でも今日は憂鬱ね。
アホキョンのせいよ。ばか。

 

「暴れるから抑えてるだけよっ!」
「いい加減にしろハルヒ!朝比奈さんが何したってんだ!もう付き合いきれん!」
「あっ!キョン君違うんで…す」
みくるちゃんの言葉を聞き終わる前に出てった。ふん!
確かにあたしの言い方も悪かったかもね。
でも、みくるちゃんをペットみたいになんかもうしないわよ。

 

あたしが部室に着いた時、みくるちゃんが泣いてたの。
「みくるちゃん!どうしたのよ!いじめられたの!?相手は誰よ!」
絶対許さないんだから!みくるちゃんをいじめるような奴は死刑100回よ!
「あっあの…目に何か入っただけですぅ。い、痛っ!」
…紛らわしいわね。でも本当に痛そう。
「みくるちゃん、動いちゃダメよ?すぐ済むから」
「ひ、ひぇ~!でもこここ恐いですぅ!」
あたしはティッシュを一枚出してみくるちゃんの前に座った。
んー…あった!長いまつ毛が入っちゃってるわ。こりゃ痛いわね。
「わっ!ま、まま待ってくださ…」
こらっ!暴れないの!
ガチャッ。

 

何よキョン。…そんな悲しそうな顔で見ないでよ。

 

あたしは窓の外を眺めながら思い出してた。やっぱりあたしは悪くないわよ。
そーね、あんたが謝ってきたら許してあげる。
「………」
キョンが来た。一瞬目が合ったのにそらしたわね。まったく子供なんだから。
「ねぇ、キョン」
素直に謝ればいいのに。しょうがないわね。手伝ってあげる。
あたしの前でふて寝してるキョンの背中を、シャーペンで突いて呼んでみた。
…シカトしてんじゃないわよっ!いい度胸ね!
「キョンってば!無視してんじゃ…」
やっと頭を上げたキョンは谷口たちの所へ歩いて行った。
「……何よ…バカ」

 

お昼休み。結局キョンはあたしに謝って来なかった。
今は教室でみんなとお弁当食べてる。意外と友達いるのね、知らなかったわ。
「風邪ね。もっと早く気付かなかったの?とにかく今日はもう帰りなさい」
5年ぶりぐらいだわ、風邪。
お昼になっても食欲無いなんておかしいもんね。食堂に行く前に保健室に来たわけ。
帰りたくはなかったわ。でも体は限界みたいね。
「苦しいわよ………キョン」

 
 

「ビックリしたわ。ハルが風邪なんて何年ぶりかしら?」
こんな時間に部屋に居るなんてなんだか不思議。寝てなきゃいけないのはツライけど。
「じゃあまた後でね。何かあったらすぐに呼ぶのよ?」
「うん…ありがと」
ノドまで痛くなったあたしは、ママが作ってくれたお粥も少ししか入らなかった。
「はぁ。プリン食べたいなぁ…」
でもね、あたしの好きなのは駅前のコンビニしか置いてないのよ。
ママにはそんな事頼みたくないし。
…あ!キョンに買って来てっ……なんて言えないわよね。
「ばかキョン…」
キョンの寝顔に言ってみた。夏休みにみんなで行った旅行の時の写真ね。
みくるちゃんたら自分の指まで写しちゃうんだもん。でもいいの。
ベッドの横に置いとくと何でか分かんないけど良く寝れるのよ。
こ、こんな事誰にも言うんじゃないわよ!いーわねっ!?

 

もう部活が始まってるわね。キョンの奴ちゃんと来てるかしら。
どーせみくるちゃんのお茶飲んで有希と見つめあってんのよ!あのエロキョン!

 

「………………何よ?」
「いや、まぁ、何というかだな…」
あたしのベッドに座ってポリポリ頭掻いてる。猿みたいで可笑しいわ。

 

キョンが突然やって来た。ママに案内されて部屋に入るなり目をキョロキョロ。
乙女の部屋で何してんのよ!変態!
「うふふ。ご・ゆ・っ・く・り♪」
…怒るわよ、ママ。

 

「悪かった!このとうりだ!すまん!」
「…何の事かしら?」
イジワルしてやるんだから。
「昨日の事、さっき朝比奈さんから聞いたんだ。本当に悪いと思ってる」
な、何よ。やけに素直ね。でも謝ってくれたから許さなくちゃね。
「もういいわよ。あたしは心の広い団長なんだから!ゲホッ」
ありがと……キョン。
でもあたしは本物のバカね。あんな事言っちゃうなんて。

 

その後キョンに水を飲ませてもらってから話をしたわ。次の不思議探索についてとかね。
楽しかった。本当よ…。
「そうだハルヒ、実は来る時に…ん?ベッドに何か入ってないか?」
迂闊だわ!キョンが急に来るからベッドに入れっぱなし!
写真立てに入れなきゃよかった。
「ゴツゴツしてて痛いだろ。ほれ、取ってやるよ」
ヤバイ、ヤバイ。やばい!
あんな写真見られたら言い訳なんかできないわ!
「な、何すんのよ変態!弱ってるのをいい事に何する気!?」
あぁ…
「ふん!あんたの本性はこれだったのね!騙される所だったわ!」
本当に…
「どうせみくるちゃんに頼まれて嫌々来たんじゃないの?ぜんぜん嬉しくないわ!!」
最低。

 
 

キョンはしばらく俯いた後、何も言わずに出ていった。
当然よね。どうしていつもこうなのかな?
キョンは許してくれるかな?
謝ったら…許してくれるかな?
もうだめかな。
「好き」って言えなかったな…

 

「…あ」
床にビニール袋が落ちてた。
「……ウッ……ウゥッ……ごめ…なさ……キョ…ン」
中身はあたしの大好きなプリンが二つ。
「…ウゥ………ヒッ……キョン…ゲホッ」

 

「ハル。朝言ったよね?気付いてからじゃ遅いって」
ママが来てくれた。
あたしの頭を撫でながら話を聞いてくれた。
「あんな事…ウッ…言いたくなかった」
涙が止まらない。中学に入ってからは泣いた事なんてなかった。
クラスから無視されたって、変な噂を立てられたって泣かなかったのに。
あんたに出会ったから笑顔を取り戻せた。
あんたを失って涙を流した。
特別な人。宇宙人でも、未来人でも、超能力者でもないのに。
不思議な人。

 

「ハル。あなたは自分を素直じゃないと思ってる?」
あたしは頷いた。あたしが素直になれればキョンを失う事も無かったもの。
「逆よ。あなたは自分の気持ちにいつも真っすぐだわ。周りが見えなくなるくらい」
ママは微笑んだ。
「だから時には衝突するわ。今日みたいに。
彼に気持ちを知られるのが恐かったんでしょ?知られたくないから突き放したの」
そう。あたしは恐いの。あいつに振られるのが。
だったら今のままで…
「逃げちゃダメ。あなたはそのつもりでも彼は違うわ。
ハル以外の誰かを好きになったり…」
「いや!そんなのイヤ!あたしは…」
あたしの右手はママの手の中。
「伝えなさい。今の、素直な気持ちを」
でもキョンはもう居ない。気付いた時には遅いのね。

 

「さぁ!涙を拭きなさい。きっともうすぐよ」
…何の事?
「言ったでしょ?彼はとっても優しい子だって。ハルが好きになった人だもの」

 

ピンポーン。

 
 

あたしはベッドに座り直してキョンが来るのを待った。

 

「ちゃんと伝えるから…ちゃんと受け取ってよね」

 
 

キョンの寝顔を抱き締めながら。

 

END