孤独:涼宮ハルヒ (54-914)

Last-modified: 2007-08-03 (金) 23:40:02

概要

作品名作者発表日保管日
孤独:涼宮ハルヒ54-914氏08/0308/03

作品

「孤独:涼宮ハルヒ」
 我々SOS団は文芸部会誌を作っている。
 俺の割り当ては恋愛小説。
団長、いや編集長があまりにうるさいので
「そんなに文句言うならお前も書けよ」
と言ったところ、ハルヒが書いたのがこれである。
 
 
「孤独:涼宮ハルヒ」
その時、私は一人だった。
それは、中3の冬の始め。枯葉の舞う、寒い寒い、今にも雪が降りそうな冷たい冷たい夕闇の中だった。
私は学校が終った後、色々と探索してからやっと家路に着くところだった。
「お嬢ちゃん。お兄さんたちと良い事しない?」
 大学生くらいのいかにも女の子にもてそうに無い不良変態3人組が私に声をかけてきた。
「あんたらみたいなのに付き合うわけ無いじゃん。あっち行ってよ。」
「お兄さん達の言うことを聞かないと、不幸なことになるよ」
 最近の不良はナンパの仕方も知らないのか。完全な脅迫じゃないか。ここは先手必勝で、と思って私がパンチを繰り出そうとしたその時。男の子の声が聞こえた。
「お巡りさん、こっちです。こっちこっち」
「またお前か、何度も邪魔しやがって。今度という今度は騙されないぞ。どこにサツがいる、、、げえ、本物のサツが。それも3人」
「お前たち、そこで何をしている。」
 不良3人組は逮捕されていった。不良には色々と余罪があり、実刑食らったらしい。
 
 私服の男の子は私と同じくらいの年齢だった
「危ないところだったな」
「勘違いしないでね、あんな不良の2人や3人片腕でちょちょいのちょいだわ」
「そうか」
「あの不良、何度も邪魔を、とか言ってたが。あんたあの不良達と対立しているの?」
「奴等にからまれている女子生徒を助けたことが何度かあるな」
「ふーん」
私はとたんに不機嫌になった。助けた女子生徒の中には「良い関係」まで進んだ者がいるのだろうか?
「でも大事にならなくて良かったな。不良たちもつかまって」
「さっきも言ったでしょう。あんな不良の2人や3人なんか目じゃないって。恩着せがましくしないでよ。」
「別に恩を着せようとは思ってないが」
「信用してないわね。それ」
 私は彼に払い腰をかけてやった。ざまーみろ
「お前が強いのは判ったが、急に払い腰をかけることないじゃないか。イテテ腰が痛い」
「フン、男のくせに軟弱ね」
結局私は彼に肩を貸してあげることになった。彼は遠慮していたが
 
 彼は私と同じく中3で、受験のための塾に行く途中だった。途中で友達と待ち合わせしているらしい。
 
気まずい沈黙が流れる
「ねえ、彼女達とどうなった?」
「彼女達って、助けた女子生徒のことか?」
「当たり前じゃないの。デートしたり恋人になったりしなかったの?」
「お礼に2,3度おごってもらって。それだけだな」
「嘘つき!!嘘つき!!大嘘吐き!!」
「何を根拠にそんな失礼なことを言うんだよ」
「嘘つきと思ったから」
「あのなー」
 その時の私は本当に彼が嘘をついていると思った。今でもそうだが
「ところで、あんたどこの高校に行くの? あのねー、もし良かったら」
 その時会話が途切れていなければ私は何を言っていたのだろうか。「同じ高校に行こう」、「友達になろう」それとも「彼女にしてくれ」? あんな女たらしに対して?
 
「遅かったな」
バス停のそばに女子生徒が立っていた。
「すまん。待たせた」
女が待ってたのかい!友人じゃなくて彼女じゃないか。気をもたせてこのスケコマシ!
「それは良いのだが。もしかしてお邪魔だったかな?」
「そうじゃないのだが」
「私が不良にからまれている所を彼が助けてくれたのです。それで怪我をしたから私が肩を貸して」
 怪我をさせたのは私だけど
「そうか」
 と言った彼女は「またか」といったうんざりするような様子だった
 
「ありがとう。もう腰は大丈夫だ」
 彼の隣に立つ女子生徒。制服から近所の中学の女生徒とわかる。彼と同じ中学。傘を持っているのは雨か雪が降ると思ったから?彼も私も傘など持っていないのに用意の良いことだ。
背は私と同じくらい。はっきり言って美人だ。髪は短い。清楚で可憐で家庭的で私と違って良い奥さんになりそうな。胸は私の方が勝っている。ラッキー
 彼と並んで立つ彼女は悔しいくらいにお似合いで、、、(分裂p87挿絵参照。自転車は無い)
「今日はありがとう。それじゃ、さよなら」
 と言って私は走り出した。
「おい、ちょと待て」
 立ち止まる私。彼は言った。中途半端な優しさを持った言葉を
「帰りは気をつけて。また会えたら良いな」
 アカンベーをして立ち去る私。そういえば名前も聞かなかったな。自分の名前を名乗ることも
 
頬が濡れているのは私の涙?それとも急に振り出した氷雨のせい?
 彼と彼女は今頃どこかで雨宿りしているのだろうか、それとも、一つの傘で歩いているのだろうか?
 結局彼の名前も聞かなかった。彼と普通に接して、また会う約束をしていれば、恋人にはなれなくても友人にはなれたかもしれない。でもできなかった。何故だろう
 「できなかった?しなかったでなく?」
 家に着いた私は泣きたかった。でも涙は一滴も出なかった。これはあの七夕の日と同じ。そういえば、あの時出会った男子高校生にも巨乳の彼女がいたっけ。(注:消失p181参照)
 
 「髪をショートにしたら彼は振り向いてくれるかな」と一瞬思ったが、そんな表面的なことは無駄だとすぐ気づいた。
そうだ、今度「友達にしたい人」に会った時は髪を切ってお供えして「友達」なれるように願をかけよう。(注:憂鬱p30参照)
 
 一晩中泣こうとして私はやっと理解した。自分が今までやってきた「奇行」の意味。
私はずっと叫び続けていたのだ。七夕の夜の校庭でラインを引こうと思った時、屋上にペンキを塗った時、教室や廊下にお札を貼った時(注:憂鬱p19参照)
「私はここにいる。宇宙人さん、未来人さん、私はここにいる。私と友達になろうよ」と。
何故今まで気付かなかったのだろうか。私は欲しかったのだ「友達」が、いえ、よくある表面的な付き合いの友達でなく「親友」と呼べるものが。
私は一人が寂しかった。でも他の多くの人達のように表面的な付き合いでごまかすつもりは無かった。一時期そうしようと思ったこともあるが。
彼は持っていた。「親友」いや「恋人」というかけがえの無いものを。その中に私が入り込めそうになくてとても悲しかった。
 
 その冬の初め、私は一人だった。いや、その前からずっと。
今は違う。今は幸せだ。
でも時々不安になる。「いつか再び一人になるのではないか」と。
そして、また一人になった時、私は新しい仲間を見つけることができるのだろうか
(完)
 
「いやー、涼宮さんの話は良くまとまっていて素晴らしい。何より気持ちが入っている」
 そんなに褒めるほどの出来なのか、古泉。素人にしては上出来だとは思うが。それとも遠まわしの俺への当てつけか?
「斬新というか何というか。いつぞやの映画に比べれば良い出来だとは思うが。あまり恋愛ぽくないのを置いといたとしても、そんなに手放しで褒めるほどのものか?」
「僕が評価しているのは文章の技法のことではなく、作品に涼宮さんの気持ちが入っていることに関してなのですが」
 気持ちですか、、、
「どうです、ここらで一つ。この話の男子生徒の立場で恋愛小説を書くというのはどうですか?涼宮さんも喜ぶと思いますが」
「却下だ却下。俺にそんな想像力があると思うか」
「想像力でなく、一年前を思い出すだけで良いのですが、、、、、ひょっとして健忘症ですか」
「一年前はずっと受験勉強をしていて、大した思い出ないぞ」
 古泉はしばらく俺の方をあきれた様に見つめていたが、俺にこう言った。
「一年前のこの事件は機関の手落ちです。大事にならなかったのはこの男子生徒のおかげです。この男子生徒に会ったら言って下さい。『涼宮さんと機関が感謝していた』と」
「この話は、本当にあったことなのか?しかし、何で俺が伝えないといけないのだ。俺は奴の顔も知らないのだぞ。」
「-------鏡を見れば良い-------」
「長門いたのか」
「いた」
「さっきのはどういう意味だ」
「スケコマシ、という意味」
「よけい理解できないのだが」
「女たらし、という意味」
 スケコマシと女たらしは同じ意味だが。というか長門さん、お怒りになられてませんか?
「長門さんも会話のセンスが出てきましたね。今後が楽しみですね。しかし、あなたと会ったとき涼宮さんが気付かなかったのは何故でしょうかね」
 と言って超能力者は笑った。
 
(終わり)
 
 
後日談:
「キョン。良いなーお前は、涼宮がいて」
「谷口どうしたんだ急に」
「涼宮さんの原稿読んでからずっとこうなんだよ」

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