抱きつきアフター(39-160)

Last-modified: 2007-02-06 (火) 22:50:47

概要

作品名作者発表日保管日
抱きつきアフター39-160氏07/02/0607/02/06

  『抱きつき』の続編です。

作品

なんにせよ俺はハルヒの奴隷となる運命なのだろうか。
今だってハルヒと連れ立って部室に向かう途中だ。まいったね、どうも。
なんて考え事しながら階段を上っていると足を踏み外した。体が後ろに倒れる。
「キョン!!」
一瞬、体が宙に浮く感覚。必死で腕を伸ばし手すりに捕まる。
腕に力を入れ、自らを引っ張りあげる。
何とか体を水平に戻せた。あぶねー。ちょっとやばかった。
安堵の息を一つ吐く。ハルヒを見るとぺたんと座り込んでいた。
「おい!?どうしたんだ!?」
駆け寄ると、青ざめた顔で俺を見上げる。
「どうした、大丈夫か!?」
ようやく目の焦点が戻るハルヒ。息を飲んで立ち上がった。
「…部室行くわよ」
何事もなかったように俺の手を引いて歩き出す。
どうなってるんだ一体。

 

部室に着くと中には誰もいなかった。
ハルヒが手を離したので、とりあえず椅子に座る。
「で?さっきはどうしたんだ?」
「………」
答えないハルヒ。するとすたすたと歩いて俺の後ろに回った。
何をする気なのかと振り向こうとしたらまたも抱きしめられた。
「な…おい、ちょっと…」
さっきのことはそんなに聞かれたくないのだろうか。
ならば聞くまい。どっちにしろこいつは言いたくないことは言わない奴だしな。
しばらく俺もハルヒも黙っている。
「ねぇ…こうしたら言うこと聞くんだったわよね?」
背中にくっついたままハルヒがそんな風に切り出した。その声に余裕はない。
「あんなの、もう、やだからね」
何のことだかわからない。
「勝手に…あたしの許可なく怪我するなんてだめだからね」
ようやく思い当たる。長門が世界を改変したときの話か。
俺は入院して3日間眠り続けたことになってた。…原因は、そうか、階段から落ちたんだったか。
俺は覚えていないけれどハルヒの目には焼きついていて、さっきのでフラッシュバックしたのか。
でも思い出しただけでこんなに不安がるなんて…。
「…わかった?」
すがるようなハルヒの声。押し付けられる感触なんてどうでもよかった。
そんなことより泣きそうなくらい弱弱しいハルヒの声に心が締め付けられるようだった。
ハルヒにこんな声を出させた奴をぶっ飛ばしたいと思った。
あの事件以来初めて長門を恨んだ。もう少し不安がらせない手はなかったのか、と。
完全な八つ当たりだな。あれは誰も悪くなかった、はずだ。
そうあれは事故だ。だから二度と起きないなんて保証はない。けれど
「わかった。約束する」
断言した。
「そう…ならいいわ。約束破ったら…覚悟しなさいよ」
声に明るさが戻ってきた。
「はいはい、まあしょうがないか。こうされると逆らえないからな」
ハルヒはクスリと笑い
「そうでしょ、今後も使っていくからね」
「マジか…でもそれじゃたびたびこんな風に抱きつかなきゃいけないわけだが?」
「別にいーわよ」
それじゃお前も捕まったようなもんだぞ、と言おうと思ったがやめておいた。
今はこのままでいいと思ったからだ。そう思えたのはハルヒがらしくなかったからだろう。
ハルヒがらしくないなら俺だってらしくなくてもかまわないだろう。
どうせ明日になればハルヒも元に戻るだろうさ。俺も元通りになるだろう。
だからせめて、今くらいは。

 

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