携帯SS (12-702)

Last-modified: 2007-10-04 (木) 02:31:23

概要

作品名作者発表日保管日(初)
携帯SS12-702氏06/07/3106/08/19

作品

夕食を済ませ、自分の部屋で長門から借りた本を読んでいると、妹が電話の子機をもってきた。「ハルにゃん」から「キョン君へ」だと。
机の上で充電中の携帯は鳴ってない。
はて「ハルにゃん」が、なぜ家の電話に掛けてくるのだろうと思いつつ、妹から子機を受け取った。
「誰と電話してんのよ」かなり不機嫌そうなハルヒの声。
いや電話の向こうではきっとアヒルがしゃべってるに違いない。
「なんの話だ?」
「携帯。かけてもかけても話中になるのはどういうこと?」
「ん?携帯は絶賛充電中だ。」携帯を取り上げて着歴を確認するが、
ハルヒからの電話は残ってない。「鳴ってもないし、着歴にもないぞ」
「どういうことよ、それは。」
「知らんがな・・・」なんとなく携帯を振ってみる。「もう一回かけてくれ」
「・・・ダメ、やっぱり話中」
「じゃあ、こっちからかけて見るか」発信履歴からハルヒの電話番号を呼び出して掛けてみる。
「あれ、繋がらないな」
「携帯壊れたんじゃないの?」あきれたような安心したようなハルヒの声。
こっちもなぜか安心・・・しそうになるが、これはきっとなんかの罠だ。
「かもな」携帯を充電台に戻してベッドに腰掛けた。
「明日にでもショップに持っていくしかないだろうな、これは」まあいまどき
修理にはならないだろうから、機種変になるだろうな。
「あんたは団員なんだから、いつでも団長から連絡が付くようにしとくのが義務なの。そんな壊れるような携帯なんて使うこと自体が間違ってるわ」
「あーはいはい。・・・ところで何の用だ?」
「・・・なにが」
「電話の用件。あるんだろ?」
「バーカ」それで電話は切れてしまった。
ハルヒはなにしに電話をかけてきたんだろうね? 
シャミセンに聞いて見たが、しっぽさえ振ってはくれなかった。

 

翌日。
あっと言う間に授業も終わり、放課後。
マイスイートエンジェルな朝比奈さんプレゼンツなお茶が飲めないのは非常に悲しいのだが、今日携帯をショップに持っていかなければ、さらなる悲劇に襲われてしまいかねない。
というわけで、ハルヒにその旨を断ろうと思ったのだが、姿が見えない。
まあ、いいか。今日ショップに行くことは分かってるはずだ。
とっとと学校を出よう。

 

そう思い教室を出たのだが、廊下でハルヒに捕まった。
「あんた、これからショップいくんでしょ?」
目が輝いているが、なにをたくらんでいるのだろうか。
「団長としてあんたの携帯選びにつきあってあげるわ!
ちゃんとあたしが選んであげるから安心して」
腰に手を当てて偉そうに宣言するようなことでもないだろうに。
「なによ、文句あんの?」
SOS団の活動はどうした?
「ああ、大丈夫。部室に張り紙しといたから」
いいのか、そんなんで。
「うるさい。さっさといかないと日が暮れちゃうわよ」

 

ハルヒと二人きりで下校するのは朝倉の元住居であり長門が今も住むマンションに押しかけて以来だな。
もっぱらSOS団全員で集団下校が常だしな。
まあハルヒもずいぶんと落ち着いて来たし、だまってれば美少女なわけで、まあこういうのも良い。
・・・なんて冗談にもほどがあるな。ははは。
「なんか言った?」口元をとがらせたハルヒが言う。
「なんにも」

 
 

そんなこんなで駅前のショップに到着。
店員のおねーさんに事情を話すと修理より機種変したほうが安いという事だった。
まあそんなことになるだろうと、それなりのお金は持ってきてる。
よし、新しい携帯を選ぶとしようか。

 

さまざまな携帯が展示されていて、いやはや目移りしてしまう。
これまで使ってた携帯は影も形もない。古いからな。まあ同じメーカーにすれば戸惑うこともないだろう。
そう思い、新型を手にとって見る。・・・ちょっとラブリーだな、これ。
「それ、みくるちゃんが使ってるわ」横からハルヒならぬアヒルが口を出した。
「ちょっとあんたにはかわいすぎじゃないの?」
確かにそれは言える・・・もう少し落ち着いたデザインがいい。そう思い直して違う携帯を手に取ると、
「それ、古泉くんが使ってる奴よ」アヒル口をやめたハルヒがいう。
「古泉くんならおしゃれだし似合うけど、あんただとpu」
まったく部室でネットばっかやってると思ったら妙な煽り覚えやがって。
もっともこういうのはスルーが一番というし、流そう流そう。
おっ、かなり小さな携帯があるな。これなら邪魔にならないし、なんていうかサイバー?
「それ、有希が使ってる奴。あんたとは携帯会社違うから使えないわよ」
などといわれて却下されてしまった。ああ、自由が欲しい。

 

「これがいいんじゃないの?」ハルヒが手に取ったのは音楽が聞けるというスライド型携帯であった。あんまり音楽聴かないんだがな。
「スライド型珍しいし、なんか格好いいわよ」かしゃかしゃモックのスライドを
動かしながらハルヒはいう「決めた、あんたこれにしなさい」
いや勝手に決めんなよと思ったが、ヒマワリのような笑顔でそう宣言されると反論する気も失せてしまった。
肩をすくめてさっきのおねーさんに声を掛けた。
あのおねーさん、なんで彼女の尻に敷かれる彼氏をみるようなやさしい眼をしてるんですか。はは、意味わかんないですよ、それ。

 
 

携帯の切り替えには30分ほどかかるという。

 

ショップを出ると空は紫からオレンジへの見事なグラデーション。眺めてると寂しくなるのは何故だ?
特に行く当てもないので、ハルヒといつもの喫茶店に入ることにした。
「そーいえばさ、ネットで仕入れた話なんだけど」
ハルヒはいちごパフェをつつきながら話を始めた。
「ある男の子がね、バイト先の女の子に惚れて告白したら、その女の子がいきなり泣き出しちゃったんだって」
「へえ」アイスカフェオレにガムシロを入れて、ストローでかきまぜながら相槌をうった。
あ、ちょっとガムシロ入れ過ぎたか?「それって嬉し泣き?」
「それが違うのよ。”こんなやつに告白された”って泣いたんだって」
ハルヒはいちごパフェを口に運んでにんまり笑みを浮かべる。
タダのいちごパフェはそんなにおいしいか。おいしいだろうな。
「なんだそれ」ストローでアイスカフェオレを一口。やっぱりガムシロ入れ過ぎた。
甘すぎだこれ。飲めない。「想像できないな」
「いいキョン、あんたなんかいい男なわけないんだから、告白するときは気をつけるのよ。
少なくとも女の子泣かすようなことしちゃだめよ。
そーね、誰かに告白するときは、まずあたしに相談してからにしなさい。あたしは団長なんだから、団員の恋愛に関しても面倒みてあげるからね」

 

うーん、恋の悩みか。・・・最近もやもやしたものを感じているのは事実。
しかし、こいつにだけは絶対相談したくねえ。そもそも相談じゃなくなるとかじゃなくて、ハルヒに恋愛相談することがありえないというだけの話だ。
「ん?ひょっとして恋の悩みでもあんの?」ハルヒが満面の笑みで身を乗り出して来た。「ちょっとあたしに言ってみ?」
 本当に勘の鋭い奴だ。だが、これを逆に利用するとおちょくってみよう。
可愛い・・・こともないかもしれないハルヒが見れるかもしれない。
「実は・・・」ちょっと視線をそらしながら切り出す。
「なになに?」
一瞬視線を合わせると、きらきら輝く瞳に吸い込まれそうだ。あわてて視線をそらす。
「このカフェオレ甘すぎて飲めないんだ」視線をそらしたまま辛うじて口に出せた。
笑いをこらえるのが一苦労だ。「飲んでいいぞ」
 ちらりとハルヒのほうをのぞきみれば、甘ったるいアイスカフェオレをストローで一気に飲んでるアヒルさんがいた。そんな甘いの一気に飲んで大丈夫か?
「バーカ」
 睨んだ目も素敵ですよ。と古泉のマネでもしようかと思ったが、本当に三途の川を渡ることになりかねない。ここらでやめておこう。

 
 

 約束の時間がきたので、茶店のお支払いを済ませる。
ハルヒならぬアヒルさんは先に出て行ってしまった。
 5人分のお茶代は財布にきついが、二人分ならそうでもないなと一瞬でも思った自分が嫌だ。ああ嫌だとも。

 

 ショップに戻って携帯を受け取る。おねーさんの「仲良さそうでうらやましいな」オーラが感じられて、どうも落ち着かない。
 いやいやアヒルと人間ですから仲良さそうに見えても絶対結ばれないんですよと言いたかったが、ハルヒの機嫌はかなりよくなっているのは、遺憾ながら認めざろうえないので黙っておく。

 

ありがとうございましたの声を背中に受けながらショップを後にする。
紫色になった空を鳥が飛んでる。駅から出てくる人の流れが多くなった。
日が暮れるのが早くなった。空気の匂いが違ってきている。
だからなんでこんなに寂しさを覚えるんだろう?
「さて、ハルヒこれからどうする?」礼儀として聞いてるだけで他意はない。
「腹も減ったな」だから家に帰ってご飯を食べたいと言いたいのだ。察しろ。
「そーね。確かにお腹すいたし」ハルヒは元気100倍な笑顔で答える。
「ご飯食べにいこっか。キョンの奢りで」
「さっき奢ったよな?」
「そこらへんのお店でいいわよ。ぜいたく言わないから」
元気だけでなく勇気まで100倍になりそうな笑顔でハルヒが言う。
その笑顔は変な事を考えてしまうのでやめてほしい。
「もしお金ないんなら貸すわよ。本当なら利子つけて返してもらうとこだけど、特別に無利子でいいわよ」

 

 晩ご飯は中華だった。もちろん奢ったさ。奢ったとも。財布の中はすっからかん。
携帯が思ったより安かったからいいようなものの、もし予想通りだったらいまごろハルヒに借金していたところだ。
 食べ終わった頃には、高校生としての門限にひっかかりそうなギリギリの時間。
やむをえずハルヒを自転車で家まで送った。
いや、なんだかんだいってもやっぱり女の子だし。最近物騒だからな。
ハルヒにおいたするような奴は許さん。
ああ、長門がそんなことを言ってたんだ。結構前の話だが。たまたま思い出しただけで他意はない。

 

なんだかんだでやっと帰宅。ああ楽し・・いや非常に疲れた。
机に新しい充電器をおいて、新しい携帯を充電する。そして風呂に向かう。
風呂から上がって自分の部屋に戻ってみれば、珍しく携帯にハルヒからメールが届いていた。
ハルヒの正気を疑うような内容のメールだったが、酒でも飲んだのかもしれない。
楽しかったとか、また二人で遊ぼうとかありえないことが書いてある。
まあ、あとでうるさいのでメールは返しといたが。
返事はかえってこなかったが、寝てしまったんだろう。きっと。

 

翌日。
教室に入るとハルヒは憂鬱そうだった。
「ハルヒ、どうかしたのか?」
「ん、携帯壊れちゃったんだよねえ。メール送れなくなっちゃった」
「へえ。誰に送ったんだ?」
「誰でもいいでしょ」赤くなってそっぽむいて答えるということは恥ずかしい系か?
まさか出会い系のサクラやってるとか?儲かるのか、あれ?
「んなわけないでしょ!」突然笑顔になった。「だから、今日またあのショップいくから、あんたも付き合いなさい!いいわね」

 

おしまい。