日常的なミラクル (54-609)

Last-modified: 2007-07-31 (火) 12:22:55

概要

作品名作者発表日保管日
日常的なミラクル54-631氏07/3107/31

作品

「遅い!罰金!」
 
このフレーズも何度聞いたやら。数える事もとうの昔にあきらめた。
「仕方無いだろ掃除当番だったんだから。」
抗う事は諦めないのかと聞かれれば、諦められるものなら諦めたい。が、これはパブロフ。条件反射だ、ワン。
 
「言い訳は聞かない!お茶おごりよ!」
「そんな時間全然無いだろ。早めに済ませなきゃもっとヒドい目にあう。」
「いちいちうるさいわね、そこに自販機があるじゃない。ダイエットコーラ!三秒!いーち…」
 
なんたる傍若無人。こんな女性がまかり通る社会が心から嘆かわしい。しかし言われたとおりダッシュしている俺が一番嘆かわしい。
怒れる女神はダイエットコーラをぐいぐい飲みながら、目的のスーパーへズンズン歩む。そして肩を落として着いて行く従者一人。誰が従者だ。
 
 
 
 
 
「んー…どれがピッチピチのさばきたてかしら。」
 
鮮魚コーナーならともかく精肉コーナーでそういう発言はやめてくれ、妙に生々しい。
 
「何軟弱なこと言ってるのよ。人は数々の生き物の犠牲の上に成立っているのよ!どうせ犠牲になるのなら美味しくいただかれる方が幸せに決まってるじゃない!」
 
分かった分かった。ボリューム落とせ、見ろ。お菓子をねだっていた子供が怯えて黙っちまった。
 
「決めた!おじさーん、この豚バラ300ちょうだーい!」
聞け。
全く…俺に発言権なんか全然ないのな。今更ながら思う。
 
 
買うもの買ってスーパーを出た帰り道。当然荷物は全て俺。隣りの女に言わせれば、「太古の昔より力仕事は男って決まってるじゃない!」だと。今時びっくりな男尊女卑発言だ。女尊男卑か?
 
「ねぇねぇ。」
「何だよ。」
「あんたさぁ、彼女とかいないの?」
いきなり何を言い出すんだよコイツは。いるかそんなの。大体が大体放課後になると何だかんだで俺を連れ回してる張本人がどの面下げて…
 
「友達が、あんたの事紹介してってさ。」
 
まぁなんと神々しいお顔。まさしく百万ワットの輝きでいらっしゃる。
「…やめた。可哀相だもんその娘。やれやれ、ね。」
前言撤回だ。
「人の事より自分はどうなんだよ。」
「あたし?う~ん…周りにそれっぽいの、いないし。…あ!古泉くんとか?」
はぁあ?何言ってんだこの女!!大体…
「はー着いた。鍵鍵…。」
だから聞けって!
 
俺の叫びも空しく、さっさと家に上がるとズダダと階段を駆け上がって行った。
 
 
俺が荷物を置いてリビングで一息ついていると、ズシリという音と嫌な呻き声が聞こえてきた。起こしたか。
 
 
数秒後降りてきた親父はいつものように半分寝てるんだか起きてるんだかのやる気のない表情で声を掛けてきた。
「…あの起こし方はやめろってお前からも言ってくれ。」
「俺の言うことなんか聞くわけないだろ。俺だって同じ起こされ方してんだぜ。伯母さんから教わった伝統ある起こされ方、な。」
「こちとら締め切りをようやく乗り越えたってのに…。」
ぶつくさ言いながら親父はトイレに向かって消えて行った。
 
「ったくねぼすけ親父なんだから…やれやれだわ。キョウ!夕飯の支度するわよ!」
どかどかとやかましく降りてきたハルコ姉は親父の次は俺にターゲットサイトを向けてきた。
 
今日は母さんが、女友達と会うとかで、夕飯の支度は俺たち姉弟ですることになっていた。
 
俺たち、とはいうが作るのはもっぱらハルコ姉で、俺は手伝うぐらいだ。
 
「さあ出来たわ!!親父、ボサッとしないで食器ぐらい出してよ。」
しぶしぶといった感じで言われたとおりにする親父だが、どこか手慣れた風だ。
「全く、母親そっくりだ…。」
なるほど。
 
 
 
 
「お、美味いじゃないか。」
「当たり前よ!馬鹿にしてるの親父!」
口は悪いが姉貴の面は大層嬉しそうだ。ファザコンめ。
「ただいまー!!」
玄関から母親の声がした。すぐに席を立つ俺。迎えに行かないと烈火のごとく怒られるからだ。
「キョウ!あんたねぇ、靴は揃えろって何遍言ったら分かるのよ!」
今あなたが脱ぎ散らかしたままにしたのはなんですかお母様。
 
「あら美味しそうじゃない!」
「おかえんなさい。」「おかえりハルヒ。あぁ、なかなかイケるぞ。」
 
玄関の俺を置き去りにして団欒が始まった。寒いです。
 
再びリビングに戻ると、母さんは飯を食べながらマシンガンのようにしゃべくっていた。みくるさんは相変わらず萌えるだとか。長門さんは変わらなすぎて不思議だとか。鶴屋さんはやっぱり楽しいとか。
 
「そうかぁ、今度は古泉も交えて勢揃いと行きたいな。」
 
親父が茶をすすりながら呟いた。
 
 
あ。
 
 
「そういや親父、今日ハルコ姉が…。」
 
 
「絶対に!許さんからな!」
「冗談に決まってるじゃない!いくつ離れてると思ってるのよ!」
「冗談でも言って良いことと悪いことがある!」
「ああもうこんの親父は…キョウ!あんたねぇ…。」
 
ざまぁ見ろだ。チクッてやったら親父は予想通りの反応を示した。
「へぇ、そしたら古泉くんがあたしの息子になるの?面白いじゃない。」
「ハルヒ!」
母さんが油を注ぐ。なかなかに珍しい、いつもは逆だからな。
「ねぇキョン、古泉くんじゃなくてもいつかはこの娘もお嫁にいくのよ?」
「それは構わない。俺は古泉だけはダメだと…」
「ちょ、構わないって何なのよ!親父なら親父らしく少しは、嫁になんかやらん!ぐらい言いなさいよ!」
「言ったっていく時はいくだろう。そこまで親バカじゃない。」
途端に、姉貴はムスッとアヒルのような口でむくれちまった。どうやら親父には嫁にやらんと言われたかったらしい。どうしようもないファザコンめ。
 
ぴるるる
 
親父の携帯だ。携帯を見て一瞬憮然とした顔をすると、
「古泉だ。」
と言って廊下に出て行った。
 
 
しばらく話したあと、戻ってくるなり、
「ハルコ、お前はやはり嫁にはやらん。」
とか言い出した。
「な、何よ急にバカ親父…あ、あたしの勝手じゃない。」
と言いながらどこか嬉しそうな姉貴。
そんな二人を冷めた目で見る母さん。
 
そして傍観する俺。
 
騒がしいが、これが俺の家族の日常。しばらくは続くだろう。
 
 
やれやれ、だな。

日常的なミラクル おまけ

ウチなりの団欒を楽しんでいると、話題の中心の人物から電話がきた。
 
なんとなく予感にかられ、廊下に出てから電話に出る。
 
「古泉です。」
「何だよ。」
「おや?不機嫌ですね。」
お前のせいだ。
「用件を早く言え。」
「閉鎖空間です。規模は小さいですが。」
 
予感は的中した。
 
「何か心当たりはありますか?」
 
「あるわけ…いや。」
まさか…
 
一応古泉に今さっきの会話を話す。
「ふむ、十中八九、そのせいでしょう。」
 
 
おいおい…
 
わが娘よ、そんなに父に嫁入りを止められたかったのか?
 
 
 
ハルヒのとんでも能力は、今はなぜか娘のハルコに受け継がれていた。世襲制とは大層なことだ。まさか孫の代でも俺は悩まされるんじゃないだろうな。
 
「家族仲がよく羨ましい限りです。」
やかましい。
「…で、どうしろと。」
「簡単に、嫁になんかやらん!と言ってあげるのが最良かと。」
はぁまったく…親子二代で俺を苦しめるとは。
「しかし僕がハルコさんの結婚相手ですか、なかなかに面白いプラ」ブツリ。
おっと切っちまった。
 
 
さてさて、とっとと解決するか…
 
とってつけたように嫁入り拒否宣言をしたが、ハルコは憎まれ口を叩くしハルヒは冷たい目で見てくる。違う、違うんだ。
 
 
いつものごとくキョウは、すべてを傍観する態勢をとっていた。なんとなく目線も斜に構えてる気がする。全く誰に似たんだ。
 
 
やれやれ。