時をかける少女 (118-555)

Last-modified: 2009-10-06 (火) 01:44:02

概要

作品名作者発表日保管日
時をかける少女118-555氏09/10/0409/10/06

作品

「キョンの馬鹿あああああぁぁぁぁ!」
 
 ハルヒは俺に向かって大声で叫んだかと思うと、部室を飛び出していってしまった。部室には俺を含めて残りの団員が取り残されたって訳だ。朝比奈さんは目を真っ赤にして泣き顔で、長門はいつもの無表情のままで心持ち目が冷たい感じがし、古泉はあきれ顔だが同じく少し目が冷たかった。そういう俺も何も話す気力も無くなっていたので、しばらく部室は朝比奈さんの泣き声がする以外は無言のままだった。そしてその沈黙を破ったのは古泉だった。
 
「あなたはもっと冷静な人だと思っていましたが」
 俺もそのつもりだったさ。なあ古泉、お前その台詞は以前にも言った事無いか?
「そういう切り返しが出来るくらい冷静なのに、先ほどはどうしてキツく涼宮さんに言ったのですか?」
 俺にもわからん。朝比奈さんをオモチャにしてるのはいつもの事だったのに、さっきはどうしても許せなくなってしまったんだよ。
「うううう、あ、あたしは、べ、別に…いいんです…」
 その朝比奈さんはべそをかきつつ、俺に向かって小さな声でつぶやいた。健気です、朝比奈さん。そう思っていたとこに古泉はよけいな言葉をかぶせてきた。
「まあ僕もいるのに、朝比奈さんに着替えを強制させる涼宮さんもどうか、とは思いますが」
 そう思うなら古泉、お前お得意のいつものようにいつの間にか部室から出てるワザ使って外に出ろよ。
「ところが今回は僕やあなたがここから出にくい位置で涼宮さんは”着替えショー”を始めましたよね」
 
 古泉が言った台詞に俺はハッと気がついた。ハルヒと喧嘩になったそもそもの始まりはそこだと思いだしたからだ。よりによって部室の扉のまん前で俺達を邪魔するように朝比奈さんの服を脱がし始めたのを止めようとして、売り言葉に買い言葉で冒頭のハルヒの台詞になったわけだが。
 
「いつもなら、朝比奈さんとじゃれ合う時などはあなたや僕のような邪魔ものは、それとなく涼宮さんは部室から追い出すようにしていたと記憶しているのですが」
 そうだよな。いや、朝比奈さんがこの部室に初めて来た時に俺に一緒にあの麗しい胸を触るよう強制されそうになった事はある。だが古泉が来てからはそういう事は無かったはずだ。
「どうもいつもの涼宮さんらしからぬ行動だとは思いましたね。あなたも涼宮さんも今日は変ですよ」
「ハルヒが変なのはいつもの事だろ」
 俺のツッコミに対して、古泉はやれやれと呆れた顔をして答えた。
「そういう売り言葉に買い言葉が事態を悪化させたんですよ。すでに現実が少しおかしくなっているのに、さらに閉鎖空間まで生みかねない真似は慎んでいただき…」
 
 そこまで古泉は言ったところで、古泉の携帯が鳴り始めた。あわてて携帯を取り出し古泉はかけてきた相手と話し始めた。
 
 
「はい…わかりました…申し訳ありません。はい、僕の不手際です…すぐ行きます」
 少し憂鬱そうな古泉。おい古泉、お前のその着メロなんかダサくないか?
「そういう冗談はやめて下さい」
 いや冗談じゃないんだが、と思ったが、古泉の顔は真剣そのものだったので、それ以上ツッコミを入れる事を俺は止めた。そして真顔の古泉は俺に説明してきた。
「閉鎖空間が発生しました。行ってきます」
 やっぱりか。いや、すまん。
「僕に謝られても困ります。謝るなら涼宮さんにお願いします。では信じてますよ」
 そう言って、古泉は部室から飛び出していった。
 
 やれやれ、ハルヒに謝れ、か。
 
 きつく言ったのは悪かったが、そもそもはハルヒが悪いんだぜ。まぁそうは言っても唯我独尊・傍若無人・猪突猛進かつ極端な負けず嫌いなあいつを相手にして事を収めるのは、俺が謝るのが一番手っ取り早いんだろうが、何となく気が進まない。それにハルヒは今日はここには戻ってこないだろうし、携帯に電話したところでたぶん出てくれないだろうさ。いやはや、ハルヒの行動パターンがシミュレーションできるように俺はなってしまったらしい。やれやれ、すまんが今日は閉鎖空間で頑張ってくれ、古泉。明日何とかしてやるさ。だが今はハルヒに謝る気分じゃないんだ。
 そうこうするうちに、朝比奈さんは少し元気を取り戻したらしく、俺に話しかけてきた。
「キョンくん、ありがとう。でもあたしはいいんです。だから涼宮さんには謝っておいてください」
「でも朝比奈さん、いつもと違って俺や古泉が見てる中で服を脱がせられようとしたんですよ、いいんですか?」
「う…困るけど、でも涼宮さんは最後にはキョンくんの言う事を理解してくれます。だから、もう仲直りして欲しいんです」
 いや、本当に健気です、朝比奈さん。ただですね、ハルヒが俺の言う事を理解してくれてる、という点については間違っていると思います。
「…」
 長門はいつのまにか本を置いてじーっと俺を見ていた。おい長門、お前今まで空気だったな。しかし何か言いたげな感じだったが、横を少し見たかと思ったら結局本を読む事に戻ってしまった。
 
「だから、丸く収めたいならさっさと謝っとくのが手よ。だっていつもの事なんでしょ?」
 とは、ハルヒの声。ああ、いつもそうだな、ハルヒ。
 
 って、ハルヒ!?
 
 
 その声がする方を見て俺は驚愕した。何とハルヒ声は団長席からし、そしていつのまにか誰か座っていたからだ。座っていたのはハルヒを同じくらいの背で、北高のセーラー服を着た女だった。髪は長めで黄色いリボンでポニーテールにしていたが、それより何より、それ以外のパッと見は驚くくらいハルヒそっくりな奴だった。朝比奈さんも長門も、驚いて…なかった。長門は顔をあげてるがそいつを見てるだけだし、朝比奈さんも少々驚いてる表情はしてるが、意外と落ち着いているようにも見える。いや、長門はともかく、こういう不可解な事に真っ先に混乱を起こす朝比奈さんらしくない、実に妙な感じだ。
 いや、落ち着け、俺。とにかく部室に、俺が気がつかないうちに部室に入ってきて団長席を占領しているこの女がタダ者ではない事は確かだ。まず、こいつが誰だか確認しよう。
「おい、お前」
「なによ?」
 ハルヒそっくりのそいつはハルヒと同じ声で答えた。というか俺にはハルヒ本人の声にしか聞こえん。
「誰だ?」
「見てわからんないの?」
 わからんから聞いてるんだろうが!
「しょーがないわね。あたし見て誰か連想すらしないの?」
 連想ってゲームじゃあるまいし。まぁハルヒみたいな奴だがハルヒじゃない事くらいしか俺にはわからん。どうやらこいつは素直に答える気はないようなので、何か知ってそうな長門に聞いてみよう。
 
「長門、そいつが誰だか知ってるだろ」
「少し待って。異時間同位体の該当メモリアクセス許可申請中」
 長門は表情も変えず俺に言った。その台詞どっかで聞いた事あるな。
「時間連結平面帯の越境情報をダウンロード中」
 思い出した! 3年、いや4年前のお前のマンションで聞いたんだ、その台詞。という事は朝比奈さんも何か知ってるって事か!?
「朝比奈さん!」
「ふ、ふえ!?」
 朝比奈さんは俺の大声に驚いて、飛び上がった。
「あ、すみません。脅かすつもりはなかったです。ところで朝比奈さんも何か知ってますね」
「え、え…あの…その…」
 狼狽する朝比奈さん、あなたわかり安過ぎですって。というか、そいつが現れた事よりも俺の質問に驚いてどうするんですか?
「禁則事項です。けど、その子は誰だか知ってます。でもここにいるはずが…」
 そこまで朝比奈さんが言ったところで、団長席のそいつが茶々を入れてきた。
「もーじれったいわね。朝比奈先輩や有希ちゃんに聞いても無駄よ。あたしが口止めしてるんだから」
 朝比奈…先輩? 有希…ちゃん? こいつの呼び方がハルヒのと異なるのが少し気になったが、つい違う茶々を入れてしまった。
「口止めしてるって割には俺の前に堂々と姿を現してるけど、それはいいのか?」
「いいのよ。それよりもあたしが誰だかわからないって情けないわね」
 
 情けなくて、悪かったな。
 
 
 そうは言いつつ、何となくこいつが誰だかぼんやりとわかってきた。まず見た目。髪型以外はハルヒとそっくりという時点でハルヒと血縁関係ありの人間だ。そして長門が言った台詞は、時間の異なる自分と同期する時のだ。長門が無駄な動きをすることはあり得ないので、未来か過去の情報を取得しないといけない事態って事だ。ということは、こいつは過去か未来から来た人間って事だ。朝比奈さんの禁則事項に触れてる点からみて、おそらく間違いない。
 そして未来と過去のどちらかと言うと、朝比奈さんを”先輩”付けで、長門を”ちゃん”付けと、ハルヒと違う呼び方で呼んでるって事は、こいつは二人の直接の知り合いって事だ。そして長門はハルヒと知り合ったのは北高に入ってからという最近の事であって、たぶん過去って事はないだろう。そうなると……いや、何だか古泉みたいな推理してるな俺……そう、こいつの正体は…
 
「お前はハルヒの娘ってトコだろ?」
「そうよ。んもぉ、知ってるならさっさと最初に言いなさいよ!」
 だから知らないってよ。
 
 さて、ハルヒ娘は横をキョロキョロしたかと思うと、朝比奈さんに目を付けた。
「でも朝比奈先輩って、この時代はこ~んなに可愛かったのね。ママが言ってた通りだわ!」
 ハルヒ娘(?)はすくっと団長席立ち上がったかと思うと、朝比奈さんに抱きついて胸をもみ始めた。
「ひ、ひえ~。や、やめてくださ~ぃ」
 顔を真っ赤にして手足をバタつかせる朝比奈さん。ハルヒの娘の中身はやっぱりハルヒなんだな。だがそんな事よりお前ははるばる未来から来たって事は、朝比奈さんの胸をもむ事が目的じゃなくて、何かやる事があるんだろうが。調子に乗ったハルヒ娘が調子に乗ってスカートをまくりあげたあたりで、俺は朝比奈さんの背中から引き剥がした。
「アホかお前は」
「でもでも、こんなに可愛いのにめちゃデカイのよ。パパ…じゃないや、あんたもほら触ってみる?」
「遠慮しとく。それよりもここに来た要件を話せ!」
「ちぇ、相変わらず真面目なんだから。つまんないの」
 つまらなくて悪かったな。つーか、お前こそ真面目になれよ。
 
「あたしがこの時代に来た理由は一つよ!」
 ハルヒ娘は団長席の椅子の上に立ちあがったかと藪から棒に大音響を発した。おい、宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶ事、とか言うなよ。そう思ってた俺に向かってハルヒ娘は俺を指をさして言った。
「さっさとママに謝んなんさい!」
「断る!」
 俺は即座に答えた。
「何でよ!」
 ハルヒ娘はプンプン怒ったように大声を出した。いや、全面的に否定したんじゃないぞ。俺はゆっくり説明を始めた。
「まぁ待て話を聞け、謝らないとは言ってない。だが、ただ謝るだけなら、ハルヒはまた同じ事を繰り返しかねない。それでいいのか?」
 
 ハルヒ娘は俺の台詞を聞いて深く考え込んでしまった。ん~俺はそんなに難しい事言ったのか? そう思ってると、おもむろにハルヒ娘は顔をあげた。
「確かに、パ…じゃない、あんたの言う通りだわ」
 そんな事も考えてなかったのか、お前は。そしてハルヒ娘は何かひらめいたみたいだ。
「じゃあ、ママにも謝罪させるって事で、それならOK?」
「乗った!」
 俺は即座に答えた。
 
 
「でも、どうすんだ? ハルヒに謝罪させるなんて至難の業だぞ」
「大丈夫、まーかせて!」
 よくわからんポーズを取って自信満々で答えるハルヒ娘。未来ではそんなのが流行ってるのか?
「何言ってるの! 朝比奈先輩からもらった過去の資料の中に光画部とかいうとこで過去に流行ってたらしいけど」
「なんだよ、それ。北高にそんな名前の部活ないぞ」
「そうなの?」
 こいつの過去に関する知識も怪しいもんだな、おい。そう思ってるとハルヒ娘は椅子から降りてささっと座ってしまった。
「まぁ、ちょっと待つって事で」
 
 おいおい何を待ってんだ、お前は。
 
 さて、ハルヒ娘の出現を当たり前のように捉えていた俺だが、それでも色々確認したい事がある。あまり未来の事を聞くのもアレだが、聞けるトコまで聞き出してみよう。
「おい、ところでお前。どうやってこの時代に来たんだ?」
「ん~そうね、禁則事項って事にしておくわ」
 お前は朝比奈さんかと。そういう朝比奈さんはと言うと、まだ真っ赤な顔をしつつ少し当惑した感じでいた。
「朝比奈さん、あなたの仕業ですか?」
「ふえ!? ち、違います…よ」
 俺の問いに驚いたかと思うと、消え入るような声になってしまった。いや朝比奈さんは嘘を付けないお方だから、彼女が仕組んだ事ではなさそうだ。長門はどうだ?
「長門、お前か?」
「…違う」
 一言の元に答える長門。こいつも朝比奈さんと違った意味で嘘をつかないから違うんだろうな。まぁ以前に時間を凍結する技を見せたがあれは時間をさかのぼっていない。時間の遡上は出来るのかもしれないが、長門の主な任務は監視であって干渉じゃない。古泉は時間の旅に関しては論外だから、除外だ。
 
 そうなるとハルヒ娘本人の意思で来たって事かもしれないが、そうするとこいつはハルヒと同じ力持ってるって事か? 面倒だな、そりゃ。
 
 
 とりあえず時間があるうちに色々とハルヒ娘に聞いてみよう。
 
「なあ、お前にもハルヒと同じ能力が受け継がれてるのか?」
「うーん、それも禁則事項ね」
 聞くだけ無駄って事か。
「別に意地悪してる訳じゃないわよ。未来の事は話せない事が一杯あるって事。朝比奈先輩もそうだし、あんたならわかるでしょ?」
「まあな、未来の事は知らない方がいい、そういう事だろ?」
「わかってるじゃない」
 馬鹿にしてるのか、本当に感心してるのかどっちだ、お前は。それと未来の事を話せないなら、もっと疑問な事がある。おれはその疑問をハルヒ娘にぶつけてみた
「じゃあ、その危険を犯してまでなんで過去に来た?」
「だって、どうしてもここで仲直りしてくれないといけなかったから。あたしの存在に関わる話なんだもの。そのためにはあたしが来る他なかったの」
 なんだそりゃ。
「だってママが悪いのよ。ママがパパと家の中で大ゲンカして…それで怒ったママが、よりによって過去の自分に…そう、この時間軸のママに干渉するんだもん。ここで別れられたらあたしがいなくなっちゃうのに。も~ママったら全く自分勝手なんだから!」
 よくわからんが未来のハルヒが現在に干渉って事かね。なるほど、だとするとあのハルヒの、俺を怒らせるような言動も、俺が何となく怒りっぽくなってたのも、わかってきた気がする。やれやれ、未来から心に干渉ってか、ハルヒよ。だがまだ何となくしっくりこないので、続けて質問してみた。
「ところで俺とハルヒが仲直りする事が、なんでお前に関係するんだ?」
「ねえ、それ本気で言ってるの?」
「ああそうだが」
 ハルヒ娘は心底呆れた、といった顔をしている。どうした、何か俺は変な事を言ったか? しかし俺の思いを遮るようにハルヒは続けた。
「ホント、ママの言ってたとおり鈍感なのね」
 何が鈍感なのかわからんが、悪かったな。
 
「っと、時間ね。じゃ、後はよろしくね」
 
 ハルヒ娘は唐突に言ったかと思うと、パチッと指を鳴らした。俺は視界を奪われた…不意の暗転。立ちくらみの強烈な奴が俺の意識を奪い去っていった。完全なるブラックアウトが訪れる間際、これは朝比奈さんのと同じ状態じゃないか。おいおい、まだまだハルヒ娘には聞きたい事あったのに。名前とか、父親とか。
 
だが俺の意識はそこで途切れた。
 
 
 頬を誰かが叩いている。うざい。眠い。気持ちよく眠っている俺の邪魔するな。
「…キョン」
 まだ目覚ましはなってないぞ。何度鳴ってもすぐ止めて…
「さっさと起きろってんでしょうが!」
 
 パチーン!
 
 俺は頭を叩かれたらしい。いてて、何すんだよ。俺は伏せてた机から起き上った。寝てたのか?
「やっと起きたわね」
 俺の横に誰か立ってる。お前、誰だ?
「何よ、団長に向かっていい態度してるじゃない。それともまだ寝ぼけてんの?」
 俺の横に立ってるのはセーラー服姿のハルヒだ。いや、たぶんハルヒだ。
「あったり前でしょ。ちょっと何を言ってんのよ、キョン」
 俺はしげしげとハルヒを見た。髪は短めでカチューシャを付けてる。やっぱりこいつは俺の知ってるハルヒだ。間違いない。
「あたしはあたしよ。キョン、あんた頭打ったの?」
 お前、俺を叩いておいて、よくそんな事言えるよな。
 
 しばらくハルヒと俺の間で沈黙が続いた。ここはどこだと思ったが、どこをどう見ても部室だ。俺は寝てしまっていたのか。それと…そうだ俺はハルヒと喧嘩して、ハルヒは部室を飛び出していったはずだが、なぜここにいる? そしてハルヒは俺をじーっと見たまま無言になってしまった。これではいかん、とにかく何か言わないと…
「あのさ」
「あのな」
 ハルヒと俺の台詞が被ったので、また沈黙が続いた。ハルヒ、お前はなんで俺と同じタイミングで台詞を切り出すんだ。だから一息置いて切り出した。
「すまん」
「ごめん」
 またハルヒと俺の台詞が被った。ん、ハルヒが謝った? 何だ?
「ちょっと、なんであんたが謝るのよ?」
 ハルヒは少し不機嫌な感じでおれに言った。まぁここは素直に話しておこう。
「いや、言いすぎたかな、と思って」
 ハルヒは俺の台詞を聞くと少し驚いた表情をした。しかし次の瞬間には神妙な表情になり、静かに話し始めた。
「あたしも、みくるちゃんに調子に乗りすぎたわ。キョンが怒るのも無理ない事したもん」
 えらくしおらしいハルヒ。何かいつもの違う感じなので調子が狂うな。どうした?
「ん、何でもない。さ、古泉くんは先帰ったみたいだし、みくるちゃんと有希は先に帰したから、あたし達も帰るわよ!」
 ”みくるちゃん”や”有希”か。いや、やっぱりいつものハルヒだ。
 
 あれは…ハルヒの娘の出現は…俺の夢だったんだろうか?
 
 
 北高の屋上にて。
 
「ほらほら見て。涼宮さんにキョンくん、仲良く校門向かってます。うまく行ったみたいですね」
「そりゃそうよ、朝比奈先輩! あたしに間違いはないわ!」
「うふふ、そうね」
「でもママもパパも若かった。笑うのを堪えるのに必死だったわ!」
「ここは25年前ですからね。みんな若いですよ」
「でもママったらこの時代でも面倒なのね。事実を隠しながら説得するのは大変だったんだから。それに比べてパパったら、理解は早いけどあたしが自分の娘とわからないなんて、鈍感過ぎ」
「うふふ。あの2人らしいわ」
 
「あ、そうそう、この時代の朝比奈先輩ってお人形さんみたいに可愛くてびっくりした!」
「あら、ありがとう」
「あたしの時も綺麗な先輩なんだけど、この時代のは可愛さ倍増って感じ。うーん、今は…キャリアウーマンって感じかな?」
「うーん、これでも一応は未来ではキャリアウーマンなんだけど…」
「あははは、ごめん」
「あ、そうそう、お願いがあるんだけど。あなたの時代のあたしにもこの件は黙っておいてね」
「まーかせて、朝比奈先輩!」
 
「じゃ、帰りましょうか」
「らじゃー! じゃあね、この時代のママとパパ!」