概要
作品名 | 作者 | 発表日 | 保管日 |
月が綺麗で三日月で | 105-490氏 | 09/02/04 | 09/02/04 |
作品
「吠えたくなるわ」
いつもながら、突然だな。しかし、電話口で吠えるのは勘弁してくれ。……今日はどうした?
「どうもしないからよ」
そうかい。
「そうかい、って何よ」
三日月を見ているのかと思ったんだ。
「はぁ?」
「お生憎様。アタシには夜に部屋のカーテンを開けて空を見る趣味は無いの」
勿体無いな。
「何がよ」
今夜の月は悪くないぜ。叫び出したくなるくらいには、な。
「……アンタ、電話越しだと性格変わるのね」
そうでもない。
「でも、今は月を見てるんでしょ?」
ああ。
「らしくないわ」
らしくない、か。きっと月が細くて明るいからだな。あんなに綺麗な月が悪い。
「馬鹿じゃないの?」
今だけは馬鹿でも良いな。
「単なる三日月じゃない。あんなのなら一月に一遍は見れるわよ」
俺の眼に映ってる月と、お前の眼に映っている月は違うのかもな。
「そんな訳ないでしょ」
満月は吸い込まれそうで悪くない。今夜の月は。
「雲は無いけど、フツーの三日月よ」
猫の爪の月が浮かんだら迎えに来て、か。
「何よ、それ」
何でも無い。只の妄言だ。
「アンタ、今日オカしいわよ?」
お前は太陽だもんな。分かんねぇよな。
「た、太陽?」
俺は月か。もしくはイカロスだ。
「アンタ……頭でも打ったんじゃないの?」
……眩しいんだよな。憧れて焦がれて。だけど近付けない。
「キョン……」
自分が月だと、分かっているから尚更キツいんだよなぁ。どう足掻いても輝く側にはなれそうにもねぇから。
「嫉妬してるの?」
誰が? 誰に?
「アンタが。アタシに」
……かも知れん。
「……アタシは月に惹かれたりはしないわ」
太陽にはなれそうにも無いね。
「だけど……だけど月と太陽は地球から見たら同じ大きさなのよ!」
なんだ、そりゃ。
「キョン、アンタは月になりなさい!」
意味が分からんぞ。
「全力で! 自分は光ってるんだ、って振りをしなさい! ……そう、言ってるのよ」
……所詮は振りだろ。
「そうよ。アンタは月で、太陽にはなれそうにもないんでしょ?」
無理だな。
「でも、太陽に憧れるんでしょうが?」
ああ。
「なら、アンタは太陽に並ぶ綺麗な月になりなさい!」
でも、月は太陽が無いと輝けないんだぜ?
「それくらい、アタシに出来ないとでも思ってるの!?」
は?
「アタシが! アンタを! 照らしてやるわよ! 全力で!!」
……燃え尽きちまうぞ?
「舐めんじゃないわよ」
いや、お前じゃなくて俺が。
「その辺は自分で距離を調節しなさい!」
……なぁ。俺でも光って見えるようになるかね。
「……なるわよ。誰からパワーを頂いてると思ってんの?」
そうだな……ああ、お前はやっぱり太陽だよ。
ありがとな。
「アンタ、今日落ち込んでたでしょ?」
まぁな。
「盛り返した?」
……少し。
「そ」
お前のお陰だ。
「月が綺麗ね」
お前、月に惹かれたりしないとか言ってなかったか?
「月は月で悪くないわよ」
そうか。
「そうよ」
……そうか。
「……そうよ」