朝チュン編 (37-139)

Last-modified: 2007-01-23 (火) 00:28:38

概要

作品名作者発表日保管日
朝チュン編37-139氏07/01/1907/01/23

作品

チュン……チュン……

 

窓の外から、雀の鳴く声が響いてくる。
どうやら、夜が明けたようだ。
俺は、布団から上半身を起こし、自分の隣で眠っている人物を見遣る。
その人物、涼宮ハルヒは、未だ静かな寝息を立てていた。
そうだ、俺は遂にハルヒと一夜を明かしたのだ。
ただ、ここで注意すべき点は、隣で寝ていると言っても、ハルヒはベッドの上、俺は床の上に布団を敷いているということだ。
「んっ……」
そうこうしているうちに、ハルヒも目を覚ましたようだ。
モゾモゾと腕を動かしながら、一度布団の中に潜ったかと思うと、勢いをつけて、布団ごと上半身を起こした。
「…………おはよう、キョン」
おはよう、ハルヒ。
起きぬけのハルヒは、目が半開きなこともあってか、何だか不機嫌そうに見える。
ひょっとしてハルヒは低血圧なのだろうか。
だとしたら、これはこの先警戒すべきこととして、覚えておかなければならない。
「……それにしても、驚いたわ」
いや、ひょっとしたら、本当にただ不機嫌なだけかもしれない。
「やってくれたわね、キョン。……まさか、ホントに一緒に寝るだけとは思わなかったわ」
ううむ。わかる、わかるぞ、ハルヒ。
お前の言わんとしていることは、俺も重々承知している。
「この際だからはっきり言わせてもらうわ」
ああ、言ってくれ。それでお前の気がすむのなら。
「家族が留守の日に、女の子が『泊まりに行く』って言ったら、もっと他にすることがあったんじゃないかしら?男なら」
ごもっともだ。
うん、そうだったかも知れない。
しかしだな、物事には順序と言うものがあってだな、それでいて心の準備と言うものもあってだな、で……
「意気地なし……」
ごめんなさい。
「まあいいわ、あんたのヘタレぶりは、あたしも重々承知していたことだし、3回目までは許してあげる」
おいおい、ちょっと待て、今から2回目も失敗することが確定してるのか?
「あんたの今までの行動見てればわかるわ。それくらいの覚悟が必要だってことがね」
えらくマイナス方向の覚悟だな。
まあいい、万が一、また今回みたいに俺の家族が親戚の法事で泊まりで帰ってこないことがあったとして、
百歩譲って、俺がまた、何もできなかったとしよう。
だとしたら、3回目でだな
「3回目になったら、問答無用であたしが襲うから」
…………怖いな。
「それに、万が一とか百歩譲っての話じゃなくて、マジな話、来週の日曜、あたしの親が出かけるから」
そうか、でも、俺はハルヒの家に行ったことが無いな。
「あんたにその気があるのなら、自分で見つけて、自分から来なさい。それくらい努力すべきよ」
そうか。まあ、確かに、俺は今まで自分から努力しなかっただけで、調べようと思えば、ハルヒの家くらいわかったかも知れない。
「……とにかく今日は帰るわ。はっきり言って興醒めだし」
言うだけ言ったという風に、ハルヒは大きく伸びをすると、ベッドから降りた。
「はぁ……」
ベッドから降りた瞬間、俺にも聞こえるくらいの溜息が、ハルヒから漏れた。
そういうあからさまな態度が出ると、さすがにヘコむ。
「来週……待ってるから」
小さな声で呟くようにそれだけ言うと、ハルヒは自分の着替えを持って洗面所に向かった。
やるせなくなった俺は、そのまま布団を被った。

 

しばらくすると、俺の携帯が鳴り、メール着信を知らせる。
俺は、布団に潜ったまま携帯を手繰り寄せ、内容を確認する。
『ここまでされても、あんたのことを見捨てない私の寛大さに感謝しなさい』
……頑張れ、俺。

 
 

チュン……チュン……

 

窓の外から、雀の鳴く声が響いてくる。
どうやら、夜が明けたようだ。
俺は、辺りを見回す。見慣れない壁、天井、家具。
それもそのはず。ここはハルヒの部屋だ。
職員室で名簿を盗み見ればすぐにハルヒの家の住所がわかった。
ハルヒの家は、思っていたよりもずっと大きく、また、ハルヒの部屋も俺の部屋よりずっと広かった。
ハルヒって、実は結構なお嬢様なんだろうか。
俺は、そのハルヒの部屋で一夜を明かした。
床の上に敷いた布団で。
「これはいったいどういうことかしら!」
朝っぱらだというのに、やたらと大きなハルヒの声が、部屋に響く。
「ねえ、キョン?どうしてあたしはまだ処女のままなのかしら?」
それは、俺が何もしなかったからです。
「どういうこと?あ!そうだ、いろいろ考えているうちに、あたし待ちくたびれて寝ちゃったんだわ」
そうだな、俺は一睡もできなかったけど、お前はちょっとだけイビキかいてたぞ。
「────── !!」
無言でハルヒキックが飛んできた。
とても痛い。
精神的にも痛いぜ。
「あんたわぁ……」
まずいな、ハルヒの握りこんだ拳が震えている。もうすぐハルヒパンチの方も飛んできそうだ。
いやでも、ちょっと待ってくれ、2回目までは許容範囲だとか何とか言ってなかったか?
「あのね……それはあんたの気持ちを和らげようと……それくらい察しなさいよ」
面目ない。
「はぁ……」
またもハルヒの溜息が虚しく響く。
さすがの俺も、自分の思い切りの無さに考えるところがあった。
「帰って」
さすがにそう言われると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「そうじゃなくて、あたしの親がもうすぐ帰ってくるのよ。だから、逃げた方がいいわ」
なるほど。
そういえば、夜にいないのは確かだが、朝戻ってくるのは早いとか言っていたな、昨日。
俺は、自分の持ってきたカバンを手繰り寄せると、ジャージ姿のままハルヒの家から退散した。
俺の足が思ったよりも早く動いたのは、ハルヒの親に見つからないためとかじゃなく、
単にあの場に居辛かっただけなのかも知れない。

 

しばらくすると、俺の携帯が鳴り、メール着信を知らせる。
俺は、慌ててポケットを探り、携帯を取り出す。
『3回目は……覚えてるでしょうね?』
……どうしよう、俺。

 

チュン……チュン……

 
 

窓の外から、雀の鳴く声が響いてくる。
どうやら、夜が明けたようだ。
身体が動かない。
大きな喪失感。俺の中にはもう何も残っていない。
部屋中に散乱した衣類。
どれがどっちの持ち物なのか、判別もつかない。
「んっ……」
ハルヒが目を覚ましたようだ。どうしよう……
「……おはよう、キョン」
ハ……ハルヒ……裸のままだ。同じ布団だ。
ま…………待って
もう……なにも…………無理なんだ。

 

残ってないんだ

 

ぉが…………