未来人侵略 (126-163)

Last-modified: 2010-07-19 (月) 05:16:12

概要

作品名作者発表日保管日
未来人侵略126-163氏10/04/0810/04/09

 

未来人侵略 第一夜『キョン』

「ふわぁーあ」
 
 あくびを一発。俺はゲームのコントローラーを床に投げ出し、電源を落とした。
 そろそろ寝るか。
 明日は久しぶりに、週末SOS団市内不思議探索がある。無論いまだ何の成果も上げていない──上げてもらっては困るのだが。いっそ『ぶらりSOS団の我が街めぐり』とでも改名した方が潔くは無かろうか。
 等と愚にもつかぬことを考え、愚考の主原因たる水冷V12気筒ツインターボ搭載の暴走女の顔を思い浮かべ、速攻で脳内から消去する。
 灯りを消す為に立ちあがったとき、カチャリと部屋のドアが開く音がした。
 妹か?そろそろこいつにはノックのマナーを教え込まねばなるまい。

「こら。もうお前は寝る時間だろ。それから入る時は……」

 入ってきたのは妹でも親でもなく北校の制服を着た男だった。古泉ではない。谷口でも国木田でもない。
中肉中背で俺と同じくらいの身長。眠たげな平凡な顔。会った覚えは無いくせに、よく見かける面というか……あ。
 
「……」
「……よう、俺」

 入ってきたのは俺だった。

 
 鏡を見れば自分の姿を見ることはできるもんな。いやしかしだな、鏡に映る虚像と実物とではインパクトが違うね。常人なら錯乱してもおかしくはない状況なのだが、こういう事態に耐性ができてしまっているのは喜んでいいのかどうなのか。実際、自分の姿を外から見るのも初めてではないしな。
 で、ドッペルゲンガーよ。お前は異世界の俺か?それとも俺のクローンか? はたまた……

「俺は今から1週間後からやってきた。つまり未来のお前だ」
「ほう」

 さすが俺だ。話が早い。ということは朝比奈さんがらみの事件だろうか……
 一緒に来てるのか?

「朝比奈さんに連れてきてもらったのは間違いないが、彼女には外で待ってもらってる。俺個人の用件で来たんでな」
「お前個人の用件?」
 
 はて、そんなことが可能なのだろうか?時間移動には禁則事項やら規定事項やら許可申請やら、意味不明ワード&ルールがテンコ盛りだった様な気がするが。

「朝比奈さんの上司の許可はもらってないし、これがいわゆる規定事項かどうかすらもわからん」
「は?」
「朝比奈さんにはいままで色々と仕事を手伝ったりしたろ? それを盾に取って、拝み倒してこの時間に連れて来てもらったんだ」

 おいおいおい、俺の天使に何て真似しやがるんだ。こいつ、ほんとに俺か? 朝比奈さんに迷惑掛けやがって……

「仕方なかったんだ!」

 うわ。急に大声出すな。家族が寝てるんだぞ。

「スマン……正直切羽詰まっててな、過去に飛んで歴史を変えるしか、もはや手は無いと思って……」
「そ、そんな大事なのか? ……何があった?」
「……ハルヒと喧嘩したんだ、1週間前の市内探索で。お前からすると明日だが」
「……」

 アホだこいつ。あ、俺か。
 
「探索中に、きっかけはくだらねえんだが、いつもの口喧嘩になってな……何故かヒートしちまって、売り言葉に買い言葉で、あいつに酷い言葉を……」

 ふーん。あーそう。へー。

「真面目に聞いてくれ……もう1週間も口を聞いてくれないんだぞ……ガン無視だ」

 ふーむ、口喧嘩も初めてではないが、それは少し長いな。

「ああ。散々謝ったし、団の皆にも、谷口や国木田にまでフォローを入れてもらったんだが、まるで聞く耳なしだ。最近じゃ俺が部室に入ったら、とっとと帰っちまう始末でな……もう、正直言って限界に近い……」

 まあ冷静になれよ。そんな震え声で言わなくともだな…… 

「このままハルヒと喧嘩別れなんざ、断固拒否だ! 耐えられん!」

 ……お前、もうちょい静かにだな……なんか話が変な方向に行ってないか?

「こんな状況になってやっと俺は気づいたよ……俺はあいつのことが……」

 おいおいおい、ちょっと待て! お前何を言ってんだ?! 正気に戻って……
 言いかけた俺の両肩を、未来の俺は両手で掴んだ。
 顔が近い! 離せ! 自分の顔がどアップなのは正直気味悪いんだよ!
 
「お前こそいい加減に韜晦するのは止せ! 自分の気持ちにはもう気付いてるはずだ! いいか、俺はお前なんだぞ! 自分自身に嘘はつけない!去年の冬、あいつを失ったときの気持ちを忘れたか!」
 
 ……えーと。うん。あー。そう……。
 黙りこむ俺。真剣な目で俺を見つめる未来の俺。……くそ、何も言い返せん。
 じっと俺を見据える俺に─何か言わないといけないんだろうな─俺はボソボソと答えた。

「……解ったよ。明日ハルヒと喧嘩しなけりゃいいんだな」
「ああ、頼む」
「何とかするさ」
「スマンな……」
「そう謝るなよ。お前は俺なんだし」
「そう……だな……うん、じゃあ俺、帰るわ……」
「朝比奈さんにちゃんと謝っておくんだぞ」
「ああ」
「あと……未来、変わってるといいな」
「……ああ、じゃあな」

 ……なんだかなあ。そんな表情を見せられたり、即効で削除したくなる思いを『俺』にぶっちゃけられた『俺』。ホントどうしたらいいんだろうな?
 まあ、いいや明日考えよう、何とかなるだろ。
 
 気弱げな未来の俺が部屋から出ようとしたその時、カチャリとドアが開く音がした。

「「!!」」

 マズイ! 部屋の中に『俺』が二人……もしこの異常事態を家族の誰かに見られたら……! 隠れなければ! いやもう遅……っておい。
 
「よっ、お前ら」
「……」
「……」
 
 ……入ってきたのは俺だった。今度はうってかわって笑顔満開の。
 
 

 うわ。もう何がなんだか。うわ。
 俺の部屋の中に俺と俺と俺。俺トリオ。シュールだ……マグリットやダリもびっくり。

「俺はこっちの『俺』の一日だけ未来からやってきたんだ。朝比奈さんに頼んでな。つまりそっちの『俺』の8日後の俺ってわけだ」

 ああそうかい。いやホントに朝比奈さん、すみませんね色々と。
 明日会ったら詫びを入れておこう。何のことだか本人は解るまいが。
 
「ちょっと場所を借りるぜ。俺はこっちの『俺』に用があって来たんだ」

 もう好きにしてくれ。

「怒るなって。お前にもいい話のはずだぜ。おっとこっちの『俺』への話だったな。よし……喜べ『俺』!」
「?」
「雨振って地固まるだ! 今日ハルヒと仲直りしたうえに、俺とハルヒは付き合うことになったぞ!!」
「何ぃ!?」
「何ぃ!?」
 
 喜悦の叫びを上げる俺と、驚愕の叫びを上げる俺。
 な! なんでそうなった?!
 
「今日部室で二人っきりになってな、まあ古泉のお膳立てだったんだが」
「ほうほう」
「それで今日はなんか素直に話を聞いてくれて……で一生懸命謝ったら、許してくれてな」
「おお、それで?」
「会話の最後にハルヒが涙目で『あたしも淋しかったんだから!』なんて言う訳だ」
「うお、堪らんなそれは」

 あのハルヒがそんな殊勝な態度を? 何か悪いもんでも食ったんじゃ……

「そんなモン見せられたら告るしかないだろ、これは!」
「わかる! 分かるぞ!」

 いやそこが分からん。

「そうしたら……OKだってよ! しかも前から俺のことを気にしてたらしいぞ!」
「何てこった……信じられん」
「何てこった……信じられん」
「だろう」

 笑顔の俺が二人と、呆然とした俺が一人。長門がねじり鉢巻に法被を着込んで、揺れる神輿の上で演歌を熱唱するくらいに信じがたい話だな。というより信じたくない。

「というわけだ。そっちの俺、明日は何もしなくていいぞ。むしろハルヒと喧嘩しろ」
「お、そうだな。明日は派手にやってくれ」

 ……こいつら……

「いや参ったな、明日からあのハルヒと俺が……なんか急に世界が輝いて見えてきたぜ」
「ああ、バラ色の未来ってやつだ」
「だな」

 死亡フラグとしか思えん。

「黙ってろ、この意地っ張りが」
「お前はもっと素直になったほうがいいな」

 未来の俺自身にスピーカーで説教をくらう俺。くそ、さっさと帰れ、お前ら。
 
 カチャリ。再びドアが開く音がした。固まる俺と俺と俺。
 
「……」
「……」
「……」
「……よう、お前ら……」

 入ってきたのは……やっぱり俺だった。妙にやつれた感じの。

 
 はっはっは。
 俺の部屋の中に俺と俺Aと俺Bと俺C。俺カルテット。もう乾いた笑いしか出て来ねえよ。なんだこのカオスな状況は。誰か助けてくれ。神様、仏様、長門大明神。

「俺はハルヒと付き合って二週間目の未来から来たんだが……」

 ふーん。あーそう。へー。もうどうとでもしてくれ。

「単刀直入に言うがな、ハルヒと付き合うのをやめてほしいんだ」
「はあ!?」
「なに言ってんだお前!」

 激昂する俺Aと俺B。

「理由を聞かせろ!」
「理由か……」

 暗い顔のままうつむく俺C。こうしてみると目の下のクマも酷えなコイツ。疲労困憊という四文字熟語をそのまま俺の姿に変えたような感じだ。
 しばらく俯いていた俺Cはボソボソと暗い調子で喋り始めた。

「……正直にいってハルヒは俺の手に合う女じゃなかったんだ……ただの部活仲間のときでさえ持て余してたのに、付き合うようになってからは尚更だ」
「ふん」
「夜中、いや朝方近くまで携帯で話して、学校と団活は今までどおり。休日は団活に加えあいつとのデートまで組み込むようになった。貯金も底をついたし、何より俺の体力が底を尽いた……全員あいつのスタミナが半端じゃないことは知ってるよな?」
「むう」
「朝、一緒に登校するのはいいがな、彼氏をラジオ体操と太極拳に付き合わせる女子高生なんざ他にいねえぞ」

 うーむ。

「ハルヒが弁当を今度から毎日作るとか宣言してたぞ。それで体力と精神力の回復をはかれよ」
「ふりかけ代わりにイモリの黒焼きの粉末がかかってたり、珍しい食材とかいって謎の生き物の唐揚げなんぞ喰わされてみろ」
「ぐ」
「確かにあいつの料理は美味いし、愛情と手間隙かかってるのは十分わかるがな、食うのにあれほど勇気の要る弁当はねえぞ」
「な、何の肉だったんだ? それは」
「わからずじまいだ。詳しく話すとワシントン条約がどうとかいってたが」

 やばくないか、それ。

「いや待て待て、しかしだなあ、せっかくのこのチャンスを……」

 手を上げ、発言を押しとどめる俺C。

「お前ら……ハルヒだぞ……俺が付き合ってるのは『あの』涼宮ハルヒだぞ」

 押し黙る俺たち。

「傍若無人と唯我独尊を絵に描いたら、額に入れられて美術館に飾られてオークションで最高額で落札される『あの』ハルヒだぞ」

 褒めているか、いないかでいえば…褒めてないなソレ。

「もういろいろと限界なんだ。せめてハルヒの性格がもう少し落ち着くまでだな……」
「その落ち着くってのはいつの話だよ」
「そうだ。こんなチャンスは二度とめぐってこないぞ」
「付き合うのはやぶさかじゃねえ。が、このままだと過労で死ぬぞ」
「愛だ、愛で乗り切れ」
「阿呆」

 なんか頭痛がしてきた。俺いろいろ疲れちゃったよ。もう寝てもいいよね。

「「「お前の未来の話だぞ!!もっと真剣になれ!」」」

 ……ごもっともで。

 ドアがカチャリと開いた。

「ういっす!雁首そろえてんな、お前ら」

 …………もはやツラを確認する気にもならんな。やれやれだ、ああやれやれだ、やれやれだ。
 入ってきたのは古泉ばりのニヤケスマイルを貼り付けた俺。
 俺クインテット、ここに誕生す。
 
「見本市だ、俺たちの見本市だ」
「ラインダンスでもやるかね」
「騒ぐな」
「チューリップチューリップだな」
「シャラップ、お前ら」

 いけ好かない微笑をたたえた俺Dが言った。何だその言い草は。そういう似非スマイルは、古泉みたいなツラがやってるからまだ鑑賞に耐え得るんだ。俺がやったところで薄ら寒いだけなんだぞ。
 で、お前は何しにきやがった?

「お前らの不毛な論争に片をつけにさ」
「ほう。でかい口たたくじゃねえか。お前はいつの時間から来た?」
「その答えはお前らの楽しみのために取っておくことにするさ」
「?」
「ところでハルヒと付き合って死に掛けてる俺はどいつだ?」
「見りゃわかんだろ。その顔色の悪い俺だよ」
「うむ。まず言っておこう。ハルヒとはこのまま付き合うべきだ」

 やれやれ。

「……お前は俺より未来から来たのか? ならわかんだろ。正直あいつの暴走には……」
「小さいことだ」

 前髪を捻ってピンとはじく俺D。それは古泉のつもりか? そこまで髪長くないだろお前。

「ハルヒもちょっと浮かれてるだけなのさ。あいつは機嫌がいいと色々暴走しがちになんのは、映画撮影のときに学んだろ?」
「ああ」
「もうすぐハルヒも平常運転に戻るし、弁当も普通の、いや極上の弁当になる。それまでの辛抱さ」
「……しかし」

 食い下がる俺C。遮る俺D。

「だいたいがだ、お前がハルヒの何を知ってるってんだ? ん?」
「入学以来の付き合いだ。あいつのことはよく知ってるさ。ここにいる全員がな」
「いーや、お前らはまだハルヒの可愛さを……あいつの全てを知りはしないんだ」
 
 ……あ、まさかこいつ……
 俺はこの俺Dの妙に偉そうな態度の理由に思い当たった。
 が、いや……まさか。
 
「え!」
「あ!嘘だろ?」
「な、なんだお前らどうした?」

 ニヤリと笑う俺D。

「そう、俺は、ハルヒの、全てを、知った」
「マジでか……」
「ほんとに?」
「え? ……あ!!」

 まあ付き合い始めたんなら、おかしな話ではないよな。
 ないんだが……えーっと…………マジ?
 
「お前らに聞いておこうか。正直に答えろよ」
「何のことだ?」
「ハルヒの事だ。……あいつ可愛いよな」

 顔を見合わせる俺と俺Aと俺Bと俺C。

「どうした? 遠慮することはないぞ。ここには『俺』しかいないんだ」
「それもそうだ」
「俺しかいないんなら」
「言っても恥ずかしくもないか」
「ぶっちゃけ言えば」
「メチャクチャ可愛いよな」
「あの灰色空間で2人きりになってさ、朝比奈さんと長門のくれたヒントに気付いた時どう思った?」
「パニクってたけど、結構、ラッキーとか思ってた部分もあったな」
「そうだな」
「次の日学校でさ、あのポニテを見たら……」
「ハート鷲掴みにされたよな」
「何も触れないのがベストだと理性では判ってても、つい声かけちまった」
「言わざるを得ないって、あれは」
「実際似合ってたし」
「ハルヒのやつ、顔色一つ変えなかったな」
「すごい精神力だと思ったよ」
「おい夏祭りの浴衣覚えてるか」
「あれは正直長門よりも朝比奈さんよりも可愛かった」
「あの貰ったタコ焼き。あんなに不味くてあんなに美味いタコ焼は初めてだったなぁ」
「映画撮影で、ハルヒと喧嘩しちまったけどさ……」
「あん時部室でアイツが髪を後ろでくくってたのは、自惚れて……良いんだよな?」
「後で気付いてニヤニヤしちまった」
「入院したとき、病室で……な。あのハルヒの寝顔見たとき……な」
「……古泉のヤツ、心底邪魔だったな」
「間違いねえな」
「はは、いなかったら確実に」
「やっちゃってたな」
「クリパのツイスターゲームやばかったよな」
「勝負よりもなによりも、アレ隠すの必死だったわ」
「あんだけ密着しちまったんだ、無理ねえって」
「俺も健全な男子高校生ってこった」
「ははは」
「だな」
「……まああれは全員にモロバレだったのが後で判明するんだが」
「へ?」
「何それ?」

 ……決定、こいつらアホだ。真性の超弩級のアホ共だ。

「それはさておいてだ。そんなハルヒよりも、もっと可愛いハルヒを、お前ら見たくないか?」
「なん……だと……」
「……そんなものが存在するのか?」

 ゴクリと生唾を飲み込む3人の俺。うわあ何これ。痛い、痛すぎ。
 今、北高アホランキングは、ハルヒも谷口もぶっちぎり、この俺が単独トップに躍り出た。
 ……死にてえ。
 
「キスをして口を離した後に『もうやめちゃうの?』と言いたげなハルヒの上目遣い」
「……む」
「嘘だろ……あのハルヒが」
 
「胸に手を当てると、今度は逆に恥ずかしげにうつむくハルヒ」
「おおっ」
「そんな……信じられん」
 
「首筋に唇を当てると口から漏れるのは、切なげな熱く湿ったハルヒの吐息」
「くっ……反則すぎだぜ、それは」
「お、おいもうその辺で…」
 
「体を重ね、そして眉を寄せ、俺の胸に必死にしがみつくハルヒ」
「ちょ、ちょっと待てぇ!」
「そいつを押さえろ!」
「つ、続きだ!早く!」
 
「白い艶やかな裸の上に俺のYシャツを羽織るハルヒ」
「なっ」
「ハルヒの裸Yシャツだと……」

「そのまま俺の胸にもたれ、かすかに、しかし確かにハルヒはつぶやく」
「何て……言うんだ?」

「『キョン、大好き』」

「……」
「……」
「……」

 鼻血でてんぞ、お前ら。

「……お前もだよ」
 

 ティッシュで鼻下を拭い、俺は周りの俺たちを見た。どいつもこいつも気の抜けた顔で、ニマニマ笑い、不気味な事この上ない。何たるマヌケ面だ。こんな顔で俺は朝比奈さんを見てたのか。自戒せねばなるまい。

「いやーホント聞いてくれて助かったよ。こんな惚気話、誰にも話せるわけ無いじゃねえか。正直苦しくてなぁ」
「……お前、ひょっとしてそれ言う為だけにここに来たのか?」
「ああ、そうだ」

 どっかに首吊る為のロープ無いかな。

「いや礼を言うのはこっちだぜ」
「ああ、未来は明るいなあ」

 近い将来、深刻な精神病にかかることが判明したわけだが。
 
 ……涼宮ハルヒ。お前はマルチな才能を持つウルトラスーパーデラックス女子高生だ。だがお前には映画監督と男選びの才能が決定的に欠けているようだ。

「お前はいい加減に素直になれって」
「明日になればわかるさ」
「そうだな」
「じゃあそろそろお開きってことで……」

 さっさと帰れ、貴様ら。
 
 バターン!!
 凄まじい勢いでドアが開き、入ってきたのは俺、ではなくて……あ、朝比奈さん!?
 
「なぁーーにやってんですかあー!!キョンくんーー!!!」
 
 こめかみピクピク。握り拳プルプル。キュートなお顔の頬を膨らませて……こりゃいかん。愛すべきSOS団のマスコットガールは非常にお怒りのご様子であられる。

「え、ええ、えっとですね、これはですね」
 
 動揺しまくりの俺D。お前と一緒に来た朝比奈さんか。

「どうしてもってキョンくんがお願いするから、始末書覚悟で上司にも秘密の時間移動をしたというのに……やってる事は涼宮さんのお惚気大会じゃないですかぁーーーー!」

 あーうんうん。そりゃ温厚な朝比奈さんも激怒するわな。

「いや、あのこれにはですね、海より深ーい訳が」

 どんな訳だか言ってみろ。断言するが幼児向けビニールプールより浅い理由だ。
 
「問答無用ですっ!」

 言うやいなや朝比奈さんは俺Dの目の前に、なにやら金属製の銀色の棒を突き出して、そいつがピカッ!

「にゃふん」

 鯛の刺身をゲットしたシャミセンの嬌声の如き声を発し、くたりと崩れ落ちる俺D。
 
「「「わあっ」」」
 
 一斉に後ずさる残りの俺達。
 ああそれ映画で見た事ありますウィルスミスが出てたメンインブラックとかいう映画でそいつが光ると記憶が飛んじゃうんですよね。ちなみに当初はタランティーノが監督予定でそれはそれで見てみたいというか。あと続編ではマイケルジャクソンがカメオ出演を……
 恐怖のあまり喋りまくる俺を尻目に、朝比奈さんは未来から来た俺たちの前に銀の棒を突き出して、

ピカッ「ふにゃ」
ピカッ「もっふ」
ピカッ「ふわあ」

 あっというまに計4人の俺を気絶させてしまった。
 あは。あはは。あは。あはははは。
 かくして俺の部屋の中には、俺と気絶した俺と俺と俺と俺。そして何やらぶつぶつと呟く朝比奈さん。もはやシュールを越え、ホラーの領域へと事態は移行した。
 
「……規定事項……TP修正……記憶を消して上書き……最悪、脳手術で……記憶強制削除……」

 ど、どうやら朝比奈さんのお仕事に関する独り言のようであるが、豪く物騒な単語が聞こえる気がするのは、ええ気のせいですよね。
 
 ギロリ
 
 な、何故こちらを睨まれるので?

「……元はといえば……」
「え?」
「キョンくんがさっさと涼宮さんに告白しないから、こんな事に……」
 
 えええ?
 
 いやそれはと言いさした俺の前に銀の棒が突き出され

ピカッ
「あふん」
 
 
 
 
「未来人侵略 第二夜『ハルヒ』」へと続く

未来人侵略 第二夜『ハルヒ』」

「ふわぁーあ」
 
 あくびを一発。俺はゲームのコントローラーを床に投げ出し、電源を落とした。
 そろそろ寝るか。
 今日は久しぶりに、週末SOS団市内不思議探索があってひどく疲れている。無論、俺の財布の軽量化以外には、何の成果も上げる事はなかった──上げてもらっては困るのだが。いっそ『ぶらりSOS団の我が街めぐり』とでも改名した方が潔くは無かろうか。
 等と愚にもつかぬことを考え、愚考の主原因たるアフターバーナー付ターボファンエンジン搭載の暴走女の顔を思い浮かべ、速攻で脳内から消去する。
 灯りを消す為に立ちあがったとき、カチャリと部屋のドアが開く音がした。
 妹か?そろそろこいつにはノックのマナーを教え込まねばなるまい。
 
「こら。もうお前は寝る時間だろ、それから入る時は……」

 入ってきたのは妹でも親でもなく、えらい、いやドえらい美人。年の頃は20半ばか、前半か? 少し薄い形のよい唇の上に、スッと鼻筋の通った鼻。驚くほど長い睫毛と、その奥のキラキラと光り瞬く大きな瞳。キッとあがった意志の強そうな細い眉。艶やかなセミロングの黒髪を無造作に後ろに流している。ピンクのルージュとアイラインを引いただけの、メイクとすらいえない薄化粧のくせに、恐ろしいばかりにその美貌を引き立たせていた。
 そして、その天下を睥睨するような傲岸不遜な笑み。
 ああ、よく知ってるよ、その表情。俺の後ろの席に居るやつとそっくりだ。
 ぞわり、と背筋をはいのぼる悪寒。
 高校入学以来、はた迷惑なトンチキ騒ぎには数多く出くわしてきた俺だったが……これ、相当にやばくねえか。
 そいつはドアの前に仁王立ちしたまま言った。

「グッドイブニング、キョン。やっぱ若いわね」ニヤニヤ

 くそっ。

「……あいつの姉ちゃんじゃねえよな」
「違うわよ」ニヤニヤ

 やっぱりそうか。精一杯のポーカーフェイスで俺は言った。

「ハルヒか」
「そ! 未来から来たのよ」

 
 見りゃわかる。
 ……時間移動か。こいつは自分の能力を明らかに自覚している。俺や古泉はもちろん、SOS団全員が恐れていた事だ。
 太陽が地球の周りを周り、象と亀が平面世界を支え、宇宙人に地底人に恐竜に魔法使いが地上を闊歩し、夜な夜な百鬼夜行と魑魅魍魎が跋扈する、暗黒の未来を俺は幻視した。
 あとはこいつの良識と、理性主義者、常識家としての側面に期待する他ないってことか……

「心配しなくてもいいわよ。今のあたしにはもうほとんど力が残ってないし」
「そ、そうなのか?」
「古泉くんから聞かなかった? 高校入ってしばらくしてから、あたしの力ってどんどん低下してるらしいのよ。今じゃ欠片ほどしか残ってないわ」
「へ、へえ」
「今は精々おみくじで大吉引いたり、卵割ったら黄身が二つ出てきたり、アンタの頭に猫耳生やすのが関の山ってところね」
「……おい待て」
「最後のは冗談よ」

 ……お前の冗談は悪質でシャレにならんし、心臓に悪い。
 ま、そういう事なら心配ないか……。
 俺は胸を撫で下ろした。
 
 古泉とか機関の人間がこの事知ったら喜ぶかな。語弊を恐れず言えば、大魔王ハルヒから世界を守る正義の味方があいつ等なわけだし。

「誰が大魔王よ」
「お前だよ」
「ともかくそれはダメ。みくるちゃんが言うにはさ、あたしがここに来るのは規定事項から外れたイレギュラーなんだって。だから知り合いに会ったら記憶を消せって言われてるのよ」
「ふーん」
「あんたの記憶も別れる時、消させてもらうわよ」

 そりゃ残念。

「どうやって記憶を消すんだ?」
「これで消せるらしいわ」

 ハルヒがゴソゴソと取り出したのは20センチぐらいの光る銀色の棒だった。
 それ、以前見たSF映画で見たことあるぞ。メンインブラックだっけか。

「有希が作ってくれたの」

 ほう、長門がねえ。映画の内容を思い出し、俺は少しあきれた。ずいぶんあいつも洒落のきいたことしやがる。

「目の前でTVのリモコンがあっというまにこれに変わっちゃったの。びっくりしたわ」

 長門の正体も力もバレバレか。何があったのか知らんが、良い悪いは別として、SOS団もずいぶんと今とは違った関係性で成り立っているようだな。

「ん、待てよ? 矛盾してないか? お前力が無いくせにどうやってここまで来れたんだ? 時間移動ぐらいは出来るってことか?」
「みくるちゃんに連れて来てもらったのよ」

何! 朝比奈さん(大)が御一緒か?! それを早く言え! こうしてはいられん。顔を洗って一張羅に着替えてと……

「とう!」ビシッ!!
「ってえ!」

 ピンポイントで鼻っ柱にデコピン喰らわせやがった。

「あんたもホントみくるちゃん好きねぇ。一緒に来たけど、今はいないわよ」
「なんだと」
「ホントはあたし達、もっと以前の過去に向かってたんだけど、途中であたしに『この時間平面で待っててくださいね』なんて言って、一人でちょっとこの先の過去に行っちゃったわ」
「お前声真似うまいな。で、何でだ?」
「『歴史改変しちゃった昔のミスを修正してきますー』だって。あんたからすると昨晩あたりみたい。何か知ってる?」
「昨日の晩……? いや特に何もなかったな。覚えてないぞ」

 むしろ今日の不思議探索で朝比奈さんが異常に不機嫌だったんだが……あれは何故だ?

「さあ、あたしが知るわけないじゃん」
「そうだよな」
「で、お前は朝比奈さんが戻るまで待ってるわけか。つまり此処にきたのは」
「只のひまつぶし」

 やれやれ。

「なあお前未来から来たってことは、俺の将来も知ってるわけだよな」
「そりゃね」
「俺は今どうしてる? 大学は何処行ったんだ? 就職はどうだ?」
「あんたは5浪した後、ニートになって、でっかい借金作ってマグロ漁船に売られちゃったわ」
「……おい待て」
「冗談よ」

 ……お前の冗談はホント悪質だな。
 
「ところでさ、今のあたし、どう?」

 ハルヒはその場でくるりと1回転してみせた。

「やっぱり昔とは変わったでしょ? 大人になった?」

 ふーむ。スレンダーな体つきはそのままに、ふわりとした衣装に隠されてはいるが、育つべきところはさらに育っているようである。SOS団専属メイド様には及ばないものの、これはこれでなかなか……。
 朝比奈さん(大)に会った時にも感じていたことだが、どうやら俺には『年上のお姉さま』萌えがあるやもしれん。トラウマものの初恋もいとこの姉ちゃんだったし、年の離れたガキっぽい妹を持つとそんな性癖が育つのかもしれんな。
 ちなみに今のハルヒは、胸元が空いてレースのついたベージュのチェニックに、若草色の七分丈のパンツという春っぽいゆるゆるファッション。うむ非常に俺好みではあるが、生憎と朝比奈さんと違ってこいつの場合、王権神授説を唱える絶対君主的な面構えがフェミニンな雰囲気を全て台無しに……

「とう!」ビシッ!!
「ってえ!」
「一言多い性格は今のうちに矯正すべきね」

 くそ、胸のボリュームと一緒に凶暴性も増してやがる。
 

「……ところでお前何しに過去に来たんだよ。懐古趣味か?」
「んー、一言で言うなら自分の原点の確認ね」
「なんだそりゃ」
「ここ座っていい?」

 ハルヒは俺が腰掛けているベッドの隣を指差した。

「構わんぞ」
 
 俺の隣に腰を下ろしたハルヒは落ち着いた口調で語り始めた。
 
「……あたしさ、もうすぐ人生の大きな転機を迎えるの」
「ああ」
「自分で決心してそうしたわけなんだけど……もちろんその選択に後悔はないわ。あるはずもない。前々から密かに決心してたことだから」
「……ふーん」

 どことなくメロウな雰囲気。いつの日かのハルヒの独白を思い出す。あの時は大勢の中の自分を認識したって話だったか。

「ただ新たな一歩を踏み出す前に自分の立ち位置っていうのか、あたしの思いの源を確認しておきたかったの。それでみくるちゃんに頼んで過去に来たって訳」
「ふむ……」
 
 こんなハルヒを見るのも久しぶりだな。こうして思いのたけを素直に語ってくれるのも……まあ悪くない。
 自分の感情に多少戸惑いつつ、俺は尋ねた。

「そうか……転機ってのは何だ? 聞いても構わないか?」
「結婚すんのよ、あたし」
「ほへ?」
 
 思わず間抜けな声を出しちまった。
 正直驚いたね。マリッジブルーってやつか。あのハルヒがねぇ。恋愛は精神病だの何だの言ってたくせに。歳月が人を変えるってのは本当だな。

「そうか、そいつはおめでとう」

 ハルヒはどことなく戸惑ったような、はにかんだ笑顔を見せた。

「……ふふ、ありがとキョン」
 
 こんな表情初めて見たな……ああこれがこいつの照れ笑いってやつか。
 俺がそう思った瞬間、それはきた。
 
 ごっそりと内臓をそぎとられたような異様な感覚。
(なん……)
 下半身には力がまるで入らず、逆に肩は恐ろしく強張っている。
(……だ)
 手が震える。口が渇く。舌が突っ張る。
(こ……れ)
 心臓が引き絞られるように痛む。
 
 ……わかってる……ああわかってる。これは……喪失感だ。ハルヒを、あのハルヒを遠くへ、手の届かない遠くへと失ったことへの喪失感。
 
(落ち着け、俺。ハルヒに悟られるぞ)
 
 自分に言い聞かせ、必死に感情の沈静化を図る俺に、第二の侵略。じわじわと這い登るのは、まだ見ぬ『ハルヒの夫』予定者への敗北感。
 
(やれやれ敗北感とは笑わせるぜ。お前勝負すらしてねえじゃねえか)
 
 俺の理性は俺の幼稚な感情を嘲笑ったが……うるせえ、こういうのは理屈じゃねえんだよ。
 ……くそ女々しいぞ、俺。あのハルヒが幸せになろうとしてんだ。笑って送り出してやれよ。

 何とか必死で笑顔を作り(SOS団結成以来、俺もポーカーフェイスが上手くなったもんだ)、俺はハルヒに聞いた。
 
「で、どんな奴と結婚すんだ? お前が選んだんなら相当レベル高いんじゃねえのか」

 ハルヒはチラリと俺を見て、

「当ててみたら? 当ったらご褒美ね」
「当てる? ……って、え? 今の……高校生の俺が知ってるやつなのか?」
「ええ、よおくね」
 
 そうか……そういう事か。とすればあいつしかいまい。美形で文武両道。そしてこいつが長年求め続けた不思議人材。

『……僕は涼宮さんのことが好きなんですよ』
 
 光陽園の制服を着たあいつはそう言っていたな。最初は愛想笑いを張り付けた、いけ好かない野郎としか見ていなかったが、今では考えも少し違って、多少信頼に値する奴ではないかと考えるようになっている。
 そうか……まああいつなら……。
 
「古泉か」

 一瞬キョトンとしたハルヒは、残念な出来のパチモンキャラを見るような面で呟いた。

「そうきたか」
「?」
「ハズレよ」
「え!?」

違うのか? しかしハルヒと俺の共通の知人などそう多くはないぞ? 国木田? まさか谷口ではあるまいな!?

「とう!」ビシッ!!

「ってえ!」
「あんたのアホっぷりも相当よねー。やっぱ考え直した方がいいのかしら」
「は?」

 ハルヒは指を俺に突きつけ、今までに見たこともないような凶悪な笑みを浮かべた。そうファウストの魂を手に入れたメフィストフェレスのような。

「アンタよ」

「……だからお前の冗談は悪質だと何度言えば……」
(ニヤニヤ)
「おい……笑えねえって」
(ニヤニヤ)
「……え、えーとハルヒさん?」
(ニヤニヤ)
「………………マジで?」
「マジよ」
「…………」 

「   キー   」
 
 俺の口から出てきたのは、猛禽類の鉤爪に捕えられたげっ歯類の断末魔の如き声だった。
 な、何考えてんだ?! 未来の俺!
 こんな女と結婚したら、今まで以上にこき使われて、若くして腹上死、間違えた過労死するに決まってんだろうが!

「なーによーキョン! 今まで死にそうな顔してたくせに、急に満面の笑み浮かべちゃってえ! そんなにあたしと結婚するのが嬉しいの?!」

 阿呆。これは恐怖のあまり顔面の筋肉が強張っているにすぎん。

「あはは。その顔に免じて間違えたのは許してあげるわよ」

 何を勘違いしたのか上機嫌に俺の肩をバンバンぶったたくハルヒ。痛えって。

「まあ間違えたけど、ご褒美あげちゃおっかな」
「はあ?」

 ハルヒは俺の両肩に手を載せると、

「『俺、実はポニーテール萌えなんだ』」

 へ?そのセリフは……
 
ちゅううううう
 
 あああああああ。

「……ぷ、ぷふっ……はあ、お、おいハルヒ!」
「くくっビックリした?」
「するわ!」
「あん時のあたしはもっとビックリしたんだからね!」
「ぐ……あん時は、悪かったよ。だからってお前……だいたいこれ浮気じゃねえのか?」
「おんなじアンタじゃん」
「そ、それもそうだが」
 
 確かにそのとおりである。未来の俺が知ったらどう感じるんだろ? 嫉妬しようにも相手が自分じゃあなあ。
 俺が過去と未来の自己同一性という深遠な哲学的命題に心悩ませていると、ハルヒは、

「それとも何? 今のアンタ、だれか好きな子でもいるわけ?」
「ちげえよ」
「みくるちゃん? 有希? 佐々木さん?」
「違うって」
「じゃあ別に気にする事ないじゃん」
「ま、まあそうなんだが」
「煮えきらないわねえ。やっぱアンタ……あっ!まさか!!」

 ハルヒは急に真剣な顔で俺の顔を凝視した。

「な、なんだよ?」
「ひょっとして……過去のあたしに操を立ててくれてるわけ?」
「はあ? 何言ってんだお前」
「キョン!!」

 で、でけえ声出すな!ビックリすんだろが。

「話半分にしか聞いてなかったけど、以前言ってた『出会った時からお前しか見てなかった』っての本当だったのね!」

 うぉい! 何言ってんだ未来の俺!!

「やっぱしあんたを選んで正解だったわ! 愛してるわキョン!!」

ぎゅううううう

 く、苦し……首が……しまって、い、息が……

「もう、顔真っ赤にしちゃってえ。純情なキョンも可愛いわね」

 ゲ、ゲホッ。リアルに死に掛けたわ。
 
「あ! そうだ! この顔も撮っておこっと」

 ハルヒはポケットから小さなビデオカメラを取り出すと俺の顔にそれを向けた。相変わらず人の話を聞かない奴だな。
 つーか何だそのビデオカメラは。何でそんなモン持ってきた?

「んー、言ったでしょ『原点の確認』って。それを撮りに来たのよ」
「……なんだそれは」

 ぞわり、と背筋をはいのぼる悪寒。

「あんたとの原点つったら、あんたがさっきの恥ずかしい台詞言って、あたしにキスしたアレに決まってるでしょ」

サアアアア(←血の気が引く音)

「アレをビデオに撮って、SOS団オンリーの結婚式2次会で上映すんの。あたしだったらあの空間に入れるらしいから」
「 キー 」
「さっきから何それ。流行ってんの?」

 ハルヒはハルヒであってハルヒでしかないというトートロジーで……って言ってる場合か!何が『大人になった?』だ! 頭のネジが2、30本抜け落ちてるのは今と変わりがねえよ! こいつ!

「てか、アイデア出したの古泉くんなんだけどね」
 
 くぉいずみぃぃぃぃ!!!
 
「2次会の出し物は何がいいかしらって相談したら、こんなグッドアイデア出してきたの。流石はあたしの選んだ副団長ね!」

 明日会ったらとりあえずぶん殴ろう。何のことだか本人は解るまいが。

「有希もみくるちゃんもノリノリだったわ。
 
『思念体に報告すべき貴重な情報。成功を祈る』
『未来に残す大事な資料ですー。涼宮さん早く行きましょう』
 
……どう? 今の声真似、似てた?」
 
 全員死刑。
 
 我が生涯の友垣と甘いことを考えていた過去の俺をぶん殴ってやりたい。んなトラウマものの映像を撮られてたまるか。自分の未来は自分で守る。俺はハルヒに飛びかかった。

「そのカメラ寄越せ! 没収だ!」
「ちょ!何すんのよ! こんな時にさかんな!」

 くっ、無視だ無視! 確かにこいつは馬鹿力だが本気の俺の筋力をなめるなよ!

「あっ! そ、そんなトコ、さわんな!! あん!」

 通じるか! んな攻撃! よし……もうチョイでカメラを奪え……
 
 カチャリ

「キョン君お邪魔しますね。涼宮さんお待たせしましたー」
「あ」
「あ」
「あ」

 ……あ、朝比奈さん……はっ、この状況は非常にまずい様な気が……
 
「なぁーーにやってんですかあー!!キョンくんーー!!!」

 だあぁーやっぱり!!

「そんなマネはこの時代の涼宮さんにしてください!!」
 
 えええ?
 
 いやそれはと言いさした俺の前に銀の棒が突き出され、

「油断したわねキョン。じゃまた未来で会いましょ」
 
ピカッ「あふん」
 
 
 

おしまい
 
 

おまけ

-X年後 某式場控え室-
 
ガチャッ
ハルヒ「ちょっとキョン! 花嫁より支度が遅い花婿ってどういうことよ?早くこっちに……」
 
キョン「お、ハルヒ。ドレス似合ってんぞ」
 
ハルヒ「……ねえなんで、古泉君とみくるちゃんと有希が床に正座してんの?」
 
キョン「なあハルヒ、お前、俺に白状するような事は無いか?」
 
ハルヒ「何の事よ。あたしはやましい事なんてこれっぽっちも……」
 
キョン「2次会のビデオ鑑賞会とかさ」
 
ハルヒ「……えーと……なんで……それを……」
 
キョン「こいつらの挙動がおかしかったんでな、さっき問い詰めたんだ」
 
ハルヒ「……」
 
キョン「やってくれたなハルヒ」ピキピキ
 
ハルヒ「……ひょっとして怒ってるのかしら、ダーリン」ダラダラ
 
キョン「いいや激怒だよ。マイスウィート」ゴゴゴゴゴ
 
ハルヒ「  キー  」
 
キョン「とりあえず式が終わってから、じっくりと話そうか……お前らも一緒にな」ギロッ
 
古泉 「 キー 」
長門 「 キー 」
みくる「 キー 」