涼宮さんとふわふわプリン (116-83)

Last-modified: 2009-08-28 (金) 00:23:28

概要

作品名作者発表日保管日
涼宮さんとふわふわプリン116-83氏09/08/2409/08/27

作品

ある日の文芸部室。
団長様は突然こんな事を言ったんだ。
「このプリン、おいしそうよね」
パソコンのモニタにかじりついているハルヒは、とある洋菓子店を紹介するブログを俺に見せた。
なになに? 1日数量限定・ふわふわ手作りプリンねぇ。
「1日30個限定の超人気プリンですって。ちょっとキョン、今すぐ買ってきなさい」
アホか。なんで俺がわざわざプリンを買いに、はるばる2駅も離れた店に行かねばならんのか。
「団長に対して、日ごろの感謝の気持ちを表しなさいよ」
お断りだ。俺の即答を聞きむすっとした顔をしていたハルヒは、ふいにぱっと顔を輝かせて言ったんだ。
「でも、やっぱりおいしそう。そうだわ、次の不思議探索はプリンの不思議を見つけに行くわよ」
不思議でも何でもねえ。相変わらず無茶な理由付けをしてくれるな。
やれやれとばかりに俺はお茶をずるずるとすすった。
 
土曜日。2駅離れた街で俺たちは不思議とやらを探す事になっていた。
で、いきなり話は飛んで、俺の目の前には爪楊枝で出来たくじが突き出されている。
引いた結果は俺とハルヒ、残り3人という組み合わせ。
「今日は1日、このままの組み合わせで探索するわよ」
マジですか。今日に限って1日縛りとはどういうこっちゃ。
そんなわけで3人と別れてから、俺とハルヒは目的である洋菓子店に行く事にした。
「楽しみねキョン。ふわっふわのとろっとろよきっと。」
何という事かね、俺は不覚にもプリンにわくわくするハルヒをかわいいと思ってしまったのだ。
いよいよ目的地に到着。しかし結構並んでいるな。12、いや14人くらいか。
「キョン、並ぶわよ」
おいおい、手を引っ張るなハルヒ。しかし、ここで俺たちにとっては酷なお知らせがあった。
「申し訳ございません。限定プリンの本日分は完売いたしました。」
人気商品故これは仕方の無い事であろう。不機嫌炸裂してるかとハルヒを見るがそうでもなさそうだ。
「やっぱり人気なのね。今日は諦めましょうキョン」
スタスタと店を出るハルヒ。気にしていないならまあいいかと俺も続いて店を出た。
「他のケーキとかもうまそうだったんだけどな」
「いいのよ。あくまでもプリンが目的だったんだもの。次は逃がさないわよ」
プリンは逃げないぞ。ただ売り切れただけだ。
そこから後は、ハルヒについていき服やらアクセサリーを見たりして、俺はそれなりに楽しんだ。
ハルヒはどうだったんだろう? 最大の目的が達せられず楽しめなかったんじゃないかと思いはじめた。
俺はそれが気がかりではあったが、面と向かって楽しかったかとは聞けるわけ無いよなぁ。
「そろそろ戻ったほうがよさそうね。帰りましょキョン」
ハルヒと集合場所へと歩く。反対側から3人が歩いてくるのが見えた。同着かよ、狙ってるんじゃないのかコレ。
 
日曜日。俺は何故かまた同じ街に来ている。いや、母親が小遣いをエサに買い物を頼んできたんでな。
母親からの指令を早々に片付けて、俺が向かうはかの洋菓子店。
店には8人ほど並んでいる。最後尾に並んでみると店の女の子が近寄ってきた。
「いらっしゃいませ。先にご注文を承ります」
と、手作りの写真入りメニューを見せてくれた。並んでる間に注文を取るのか行列店らしいシステムだな。
「あの、限定プリンはまだありますか?」
女の子はにっこり微笑むと手にした在庫の残を書いたメモを見た。
「はい、本日は残り2個ございます」
団員分は無いのでプリンの他にシュークリームを買う事にしようか。おっと、妹の分も買っておこう。
手に入れたプリンとシュークリームを手に、俺は帰りの電車に乗るべく駅へと向かった。
ハルヒめ、これを見たらどんな顔をするかね。俺はほんの少しわくわくしていたと思う。少しだけな。
 
翌日。冷蔵庫から洋菓子店の包みを取り出しカバンにしまった俺は、少し早めに家を出た。
学校に着いて、職員室で文芸部室の鍵を借り部室の冷蔵庫に包みを収める。
ん? ちょっとこの箱の大きさだと入りきらないな。プリンにはフタもついてるし箱の外に出すか。
シュークリームはむき出しなので、箱の入っていた袋に収めて冷蔵庫へ。
放課後を楽しみにしてろよ、ハルヒ。ぼそっと独り言を言って、俺は職員室へ鍵を返しに行った。
「よう、ハルヒ」
教室ではハルヒが窓の外を見ている。いつもの光景。
「おはよう。今日は少し早くない?」
ああ、ちょっと早く起きたんでね。いつもの様にイスに横座りした。
「珍しい事もあるのね」
まあな。珍しいっちゃ珍しいかもな。なにせ俺がハルヒの為にプリンを買ってきているくらいだし。
っと、これは放課後まで内緒だぜ。ささやかな企みに俺は自然と笑顔になっちまってた。
「どうしたのよ。機嫌がいいのね随分」
さらに笑顔をこぼすと、俺はやってきた岡部の方を向く事にした。
 
授業が終わりのたのたと文芸部室に行くと、物静かな読書少女が俺を迎えてくれた。
「よう長門」
こくりとごく僅かに頷くと、長門はふたたび本のページへ目を向ける。
「なあ長門。シュークリーム食べないか」
すばやく顔を上げこちらを凝視する。ふふ、食いしん坊な奴め、かわいいぞ長門。
「たべる」
よしよし、今出してやるぞ。冷蔵庫を開けてシュークリームを袋から出す。
長門は俺の手からシュークリームを受け取り、顔の前に掲げるようにしている。
「何してんだ、食べてもいいんだぞ」
3ミリ頷くと長門はシュークリームにかぶりつく。そして一口食べてこちらを向いた。
「とてもおいしい」
ほらほら、口の横っちょにクリームが付いてるぞ。俺は指ですくい取ってやるとティッシュを探した。
「いい。だいじょうぶ」
長門は俺の指をくわえると、クリームをきれいになめとってしまった。
「もったいない」
あー、長門よあまりそういう行動はおすすめできないぞ。ちょっとドキドキしながら注意しておいた。
長門はちまちまとシュークリームを食べ続けていたが程なく完食した。
「ごちそうさま」
ちょ、長門…また口の横っちょにクリームが付いてるぞ。
「そう」
で、何故俺の方に顔を近づけるのだ。そりゃ長門の顔が近いのは一向に構わんが。
「とって」
震える指で同じ様にクリームを取ってやると、長門の手が俺の手をそっと包み込んだ。
あああ、長門っダメだそんな事しちゃいけないってお父さん言ったでしょ。
ぺろりとクリームをなめとった長門は、何故か自慢げな顔をしているように見えた。いろいろ心臓に悪いなこりゃ。
「あなたは食べない?」
「ああ、俺のは別の物なんだが、後で食べるよ。ハルヒが来てからな」
長門はちょっと首を傾げて、俺をじっと見る。
「まぁなんだ、ハルヒと一緒に食べようと買ってきたんでね」
俺は苦笑いをしながら頭をかくポーズで話を終わらそうとした。少し顔が赤い気がする。
「あー、なんだ。その、ハルヒはまだなのか? 俺より随分先に教室を出たんだが」
「涼宮ハルヒは先ほどまでここに居た。今はあなたを探しに出ている」
ん? 何で俺を探すんだ。ここに居りゃじきに来るのはわかっているのに。
俺はドアの方を向きそんな事を考えると、何気なくハルヒの席を見た。
何だ、何かが引っかかる。机の上。2個のカップ。なんだコレは。空だ、空のカップ。2個の空のカップ。
「食っちまったのか、ハルヒの奴」
そう、ハルヒの机の上には、プリンの入っていたカップが2個重ねて置いてあった。
「わたしが来た時にはすでに空だった」
そうか、とつぶやき俺はふらふらと出口に向かう。
「どこへ?」
「すまん。今日は帰る。残りのシュークリームは朝比奈さんと古泉に食べてもらってくれ」
長門の返事を聞かず、俺はドアを閉めた。
 
俺は帰りながらぼんやりと考えてた。
いったい俺は何でこんなにショックを受けているのか。
ハルヒが勝手にプリンを食べたから? ある意味ハルヒらしいだけに、腹が立つという事でもない。
じゃあ、俺の分も食べちまったからか? それもちょっと違う。そこまで執着があるというわけでもない。
何なんだ? わからない。うそだ、わかってんだろ。ぐるぐると思考を続ける俺の脳は唐突に結論に行き着いた。
 
『俺はハルヒの為に買ってきたプリンを、ハルヒと一緒に食べたかっただけなんだ。』
 
俺のどこかに乙女回路でもできたのか? いくらなんでも女々しすぎやしないかこれは。
まあ、一時の気の迷いみたいなもんだ。明日にゃ普通にハルヒに接することもできるだろうさ。
頬を平手でひっぱたいて気合を入れると、俺は気持ちが前向くのを感じた。
食われたプリン分くらいの奢りは覚悟してもらおうかハルヒよ。
 
翌朝。教室に入ると机に突っ伏しているハルヒを発見。
「おはよう、ハルヒ」
もぞもぞと動くが返事が無い。寝ているのか? 仕方ない休み時間にでも話をしよう。
と、思ったんだが休み時間になるたび、振り向けば突っ伏したハルヒ。
昼休みになればと考えれば、超ダッシュで教室から出て行き帰ってこない。
なんだか避けられているというのはわかるがなんでかね。
放課後に文芸部室に行けば、ハルヒはいつまでたっても来ないし。どうなってんだ。
しかし、翌日もその翌日も同じ様な展開になると、さすがの俺も心配になる。
4日目にして俺はハルヒの肩を揺さぶり、何とか話をしようとした。
だが、結局ハルヒの反応は無い。寂しいねこりゃ。
そして翌日の土曜日。
普段なら不思議探索なんだろうが、お休みとのお達しが古泉からあった。
理由はわからんとの事。古泉も少し戸惑っているようだ。
やる事もない休日をだらだらと過ごしていると、今度は長門から電話がきた。
「涼宮ハルヒを信じていてあげて」
それだけ言うと長門は電話を切った。…何だって? それだけじゃわからんですよ長門さん。
もう時間は11時になる。とりあえず階下に降り顔でも洗おうか。
さっぱりした所で牛乳なんか飲んでみたりする。たまに飲む牛乳はうまいね。
妹は母さんと出かけているのか姿が見えないな。今日は静かでいい。
と、思っているとチャイムが鳴った。どちら様でしょうとインターホンで問いかける。
「あの…そのぅ」
聞いた瞬間、俺はドアを開けた。そこに居たのはハルヒ。
「どうした、ハルヒ」
ほとんど何も言わずにインターホンが切られてドアが開いたことに、びっくりしたのかハルヒは少し目を丸くしていた。
だが、俺の顔を確認したハルヒは気持ちうつむいて、おずおずと手にした袋を差し出した。
これはあの洋菓子店の袋じゃないか。
「あんたのプリン、勝手に食べちゃったから」
もしかして、わざわざ代わりを買ってきたのか。って『お前の物は俺の物』を地で行くハルヒがか。
「キョン、ごめんね。バイバイ」
ちょ、いきなりプリン渡してさよならかよ。おい、待てよハルヒ。俺はハルヒの腕を取って引き止める。
ハルヒは黙ったまま俺に腕を掴まれている。なあ、ハルヒ。もしかしてお前、俺が怒ってるとか思ってんのか。
「だって、黙って全部食べちゃったし」
「まあ、メモでも書いときゃよかったんだし、それにもともとお前の為に買ってきたんだから」
俺のセリフの途中でハルヒが割り込む。
「でも、有希に聞いたの。あんたが…その、あたしと一緒にって」
長門、話しちまったのか。無口なわりにはおしゃべりさんだな、まったく。
「お前、もしかしてさ。これ買う為にここんとこ放課後すぐ帰ってたのか」
両手の指をこねこねしながら、ハルヒはつぶやいた。
「そうよ、放課後行っても間に合わなくて売り切れちゃってて、さっき朝一でやっと買えたのよ」
長門の信じてあげてってのはこの事か。やれやれ、団長様はいらん心配を団員にさせるなよ。
「謝りたいけどやっぱり食べちゃった物の代わりがないとダメよねって思ったのよ」
「なあ、ハルヒ。お詫びにプリン持ってきただけじゃ、俺の腹の虫はおさまらねえぞ」
ハルヒの顔は少し悲しそうだ。またうつむいちまってるし。
「そうじゃねえよ、ハルヒ。代わりを持ってきたんなら一緒に食ってくんなきゃダメって事だ」
俺はハルヒをリビングまで案内すると、お茶の用意をすべくキッチンへ移動した。
「さて、それじゃあプリン様にご登場を願おうか」
ハルヒはニコニコと箱からプリンを取り出した。機嫌も良くなったようで楽しそうだ。
「はい、召し上がれ」
俺はフタを開けると、ハルヒに頂きますと言ってプリンをひとすくいした。対面のハルヒも食べる態勢に入っている。
「な、ハルヒ」
「ん」
「ふわっふわだな」
「うん」
もう一口食べる。
「な、ハルヒ」
「ん」
「とろっとろだな」
「うん」
俺もハルヒもプリンを食べ終わった。俺はお茶を飲んで一息ついてハルヒに言った。
「うまかったぞ。ハルヒ、ありがとな」
何に対してありがとうなのかは、まぁ、俺の胸のうちに秘めておきたい、こっぱずかしいしな。
「キョン、ごめんね」
また、ハルヒは謝ってくる。それはもういいっての。俺はぶんぶん手を振ってハルヒに言った。
「だけど、他の3人には謝ったほうがいいぞ。何も言わないで活動休んだら心配するだろ」
ハルヒは真剣な顔でわかったとつぶやき、くるっと表情を変えてにっこりと笑った。
「ねぇ、キョンも心配してくれた?」
ぶっきらぼうに当たり前だと答えて、俺はキッチンにお茶のおかわりを淹れに行った。
戻ってきた時のハルヒの顔は、なんだか嬉しそうだったがなんでかね?
他愛の無い話をしながらお茶を飲み、ハルヒがそろそろ帰ると言うので玄関までお見送りする。
「じゃあ、また学校でね。」
ああ、またな。そう言いながら、俺はすっかり元通りになったハルヒに安心しつつ、ハルヒにかき回される日々の
復活をため息をつきながら喜んでいた、と思う。多分な。
 
涼宮さんとふわふわプリン おしまい
 
と、思ったんだが、この話には少しばかり続きがある。
 
数日後の放課後、部室に行った俺を待っていたのは無口な読書好き少女。
「待っていた。あなたにお願いがある」
俺のすぐ目の前で8cmの間隔を開けて立つ長門は、身長差の都合上上目遣いに言ったんだ。しかし近いな。
「なんだ、俺に出来る事ならなんでもするぞ」
長門は一瞬間を置いてから、ゆっくりと言う。
「今日の帰りにわたしの自宅に寄ってほしい」
なんだろうか。またハルヒがらみのトラブルでもあるのか?
「そうではない。あなたが危惧する様な事ではない」
そうか。まあ何にせよ長門に頼まれちゃ断れないし。長門には世話になっているもんな。
わかったよ。何て長門に答えていると、ドアが悲鳴を上げて開かれた。
「おいーす。みんな居る?」
ハルヒの登場である。もう少しドアに優しくしてやれ。
「あんたたち。何か近くない?」
俺の言葉は無視かよ。って、何が近いって…
「何でキョンが有希にぴったりくっついてんのよ」
ぴったりというほどでは無いと思うのだが。うーん、近いと言えば近いのは間違い無いか。自分でもさっき思ったしな。
「彼に目に入ったゴミを取ってもらっていた。それだけ」
長門はおもいっきりウソを言うと、定位置に戻り本を開く。
「まあ、有希がそう言うならそうなんでしょうけど」
気持ち不機嫌そうなハルヒが団長席に付くと、朝比奈さんや古泉もやってきた。
さて、またいつもの様に古泉でも負かすとするかね。
 
なんだかんだで、俺は長門と一緒に長門のマンションに向かっている。
エントランスから一緒に入るってのは、あんまり無いパターンだな。
「座って待っていて」
長門に促されて腰を下ろす。長門はふらふらとキッチンに消えた。
また、お茶でもご馳走してくれるのかね。少し収まりの悪さを感じながら待つ事5分。
「おまたせ」
お盆にお茶セットをのせた長門が帰ってくる。布団の無いコタツにそれを置くと、またキッチンへと向かう。
今度はすぐに戻ってきた。手には何かの箱を2つ持っている。
「あなたは先日、涼宮ハルヒと一緒に自宅でプリンを食べた」
なっなんでそれを知っているんだ長門。いきなりの指摘に動揺を隠せ無い俺に、長門は箱を開け中を見せる。
「わたしも同じ事をしたい。あなたと一緒に食べる為これを買ってきた」
…長門。あんまり男にそういう言い回しをすると色々と勘違いされるぞ。
長門はごく僅かに首を傾げると、俺にシュークリームを差し出した。
「たべて」
 
まあ、この日は長門と楽しくお茶をして、俺は長門の家を後にしたんだが。
ここ数日のハルヒと長門の行動が、さらに加速していく事に俺はまだ気付いていなかったんだなこれが。
 
長門さんと涼宮さん 3 ―涼宮さんとふわふわプリン― おしまい

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