涼宮ハルヒの事件ファイル/#02 3日目昼

Last-modified: 2007-02-25 (日) 03:20:54

概要

作品名作者発表日保管日(初)
涼宮ハルヒの事件ファイル #02 朝比奈みくるの依頼 3日目昼(13スレ目) 12-700氏06/08/0706/08/19

作品

古泉達は閃光弾のダメージから回復すると、怪盗を追かけていった。
俺たちは会長の「邪魔だ」の一言で警察署まで送り返される事になった。今回の件の事情聴取はないらしい。
怪盗との対峙から俺とハルヒの間には微妙な空気が流れていた。警察署に着いた後、俺たちは近くの公園に向う。
朝倉に襲われたのとは別の公園である。あちらは今頃現場検証や野次馬でごった返していることだろう。
並んでベンチに掛けながら、俺たちは喋り方を忘れたように沈黙していた。
朝比奈さんの依頼はどうするのか、怪盗との会話はどこまでが本気だったのか、そろそろ昼だから飯はどうしようか。いくつもの言葉が頭をよぎり、しかし口から出ることはなく沈んで行った。
「あのさ…」
お互いが沈黙したまま20分ほど経過したとき、不意にハルヒが口を開いた。
「なんだ」
「キョン。これからあたしがする質問に嘘をつかずに正直に答えて」
ベンチを立ち上がると俺の正面にたつハルヒ、真剣なそれでいてすがるような顔をする。
その表情で何が聞きたいか予測がついてしまった。
「キョン、あんた本当はジョン=スミスなんじゃないの?」
「俺はジョン=スミスじゃないし、そんな奴は全く知らん」
自分でも驚くほど平坦な声でそう言っていた。
「じゃあ何で朝倉さんやにょろーんはあんたの事を『ジョン』って呼ぶのよ」
それは俺だって知りたいね。
「知るわけないだろ。誰かと間違えているんじゃないのか、とにかく知らんもんは知らん」
「なによ、何もそう言う言い方することは無いでしょ」
突き放した喋り方を指摘するハルヒ。俺は『ジョン』の話になるとなぜか苛つくらしい。
「だいたい。ガキの頃に一度だけ会ったそいつを見つけてどうするつもりなんだ?」
おい、何を言っている。
「感動の再会とともに、キッスと愛の告白でもするつもりか?」
止まれよ。
「はっ、ばかばかしいぜ。そんな事しても相手に迷惑なだけだ」
やめろと言っているだろう。
「そもそもな、ハル………」
俺の台詞はハルヒに頬を撲たれたことで中断された。
「………っ………馬鹿っ! あんたなんてもう知らない!」
ハルヒは目からこぼれる涙を隠そうともせず、そのまま走り去っていった。
追いかけて謝るべきだ、今のは100%俺が悪い。
そう分かりながらも俺の体はそのベンチから動こうとしなかった。

 

「………ああ」
おわったな。
「………まったく」
間違いなくおわった。
「………やれやれ」
あいつがどれだけ『ジョン=スミス』との思い出を大切にしているかを知りながら、踏みにじった。
「………本当に」
あいつがジョンの事を語ると苛ついた。
「………底抜けに」
ジョンの事を話す表情をみて、平常でいられなかった。
「………救いが無い馬鹿だよ、俺は」
それは………嫉妬だ。俺はあった事もないジョン=スミスに嫉妬していた。
「つまり俺は」
いつの間にか、自分を制御できないほどに。
「あいつのことが」
こんなにも、心の底から………好きになっていたらしい。
「………ま、それもおわったけどな」
失恋のおかげで恋心に気づくなんて、不器用にもほどがあるだろう。
鉛のように重い体のまま。俺はいつまでも、いつまでもベンチにうなだれ続けていた。