涼宮ハルヒの負傷 (10-330)

Last-modified: 2007-02-08 (木) 21:47:05

概要

作品名作者発表日保管日(初代)
涼宮ハルヒの負傷330氏(10スレ目)06/07/1606/08/02

作品

玄関ホールに入ろうとしていた俺に阪中が声をかけてきたのは、三時間目終了のチャイムが鳴り、
体育でマラソンをやらされた俺たちが、教室に戻ろうとしているときのことであった。
「キョ、キョン君。ちょっと来て欲しいのね」
阪中は走って来たのだろう、息を切らしながら続けた。
「涼宮さんが大変なのね。それで、キョン君を呼んでこいって…」
俺は阪中のセリフの途中で走り出していた。ハルヒ達女子がグランドの反対側で運動をしている事は知っている。
このときもう少し冷静ならば、ハルヒが怪我したぐらいで俺を呼ぶことは無いのだと気付いたのだが。
どうやら俺は気が動転していたようだ。自分でも何でそこまで慌てていたのかは解らない。

 

グランドまで戻った俺は女子が集まっているのを見つけ、そこに向かった。果たしてハルヒはそこにいた。
地面に座り込んでいるハルヒに、数人の女子が手を貸そうとしているのだがハルヒは頑なにソレを拒んでいた。
「大丈夫だっていってんでしょ! ほっといてよ、もう!」
妙に懐かしい光景だ、入学した手の頃ハルヒは今のように周囲を拒んでいた。
「ずっとあんな感じなの」
阪中が追いついてきて俺にそう言った。
アイツの怪我の具合はどうなんだ?
「結構酷いと思うの、思いっきりひねったみたいだから…」
詳しく聞くと、ハルヒはマラソンの最中隣で入っていた奴がバランスを崩したのを見てとっさに手を伸ばし、そのせいで足を痛めたのだそうだ。
その女子はハルヒの近くで申し訳なさそうな顔をしているのだが、おそらくソレこそがハルヒに意地を張らせている理由だろう。
もともと、他人に弱みを見せるのが苦手な奴ではあるが、自分が誰かを助けようとしたと言うのも認めたく無いと考えているのでは無いだろうか。
俺がそんなことを考えていると、ハルヒは押しとどめる周囲を振り切り立ち上がった。
しかし、数歩歩いただけで足を押さえうずくまってしまう。
根性と気合いで構成されているアイツがうずくまると言うことは、相当酷い怪我なのではないだろうか?
それでも頑なに周囲を拒む。まったく、無茶をする奴である。
それで、阪中は俺に何を期待しているのだろう。
俺がそう聞くと、阪中は困った様なそれで居て責める視線を送ってくる。
そして周囲を見渡すと、女子達が何かを期待する目で俺を見ていた。
やれやれ。ホントに、俺に何を期待してるんだ、おまえらは。
 

 

「おい、ハルヒ。大丈夫か?」
「キョン? アンタなんでここにいるの、まさか覗き?」
あいにくだが、俺には弱ってる奴を眺めて悦にはいるような趣味はない。
「別にたいした怪我じゃないわ、良いからほっといてよ」
だめだこりゃ、完全にとりつく島無し。歩けもしない癖によく言うねコイツも。
「さっき歩こうとして駄目だったんだろ、無茶すんなって。余計酷くなったらどうする」
一応諭す様な事を言ってみる。
「うっさい、バカ。バカキョン。ほっときなさいよ、バカ。私の足がどうなろうとアンタには関係ないでしょ、バカ」
今までハルヒに何度かバカと言われたが、ここまで連続して言われたのは初めてである。
さすがにオレもこの言葉にはカチンと来た。怒髪天を貫くってやつだ。怒りのあまり自分の行動を制御出来なかったのだろう。
当然だ、冷静でいたら絶対こんな行動は取らない。怒りが俺を狂わせたに違いない。
俺はだだをこねるハルヒに近づくと、足の下と背中に手を回しそのまま持ち上げた。
「ば、バカ。何やってるのよこのセクハラ男」
「とにかく、保健室に行くぞ。文句は後で聞いてやる」
ぎゃーぎゃー騒ぐハルヒを抱き上げ俺はそう言った。
さて、保健室は何処だっただろうか。

 

★ ○ ★ ○ ★
幕間「その後の女子達」
「ねえねえ、さっきの涼宮さん見た」
「見た見た、キョン君に抱き上げられてから急におとなしくなっちゃって」
「ほんと、キョン君には妙に素直よねー」
「でもさ、キョン君も凄いよね。お姫様抱っこよ。お姫様抱っこ、普通出来る?」
「やっぱあの二人付き合ってるんじゃない?」
しばらくそうやって騒いでいた女子だが、体育教師に「次の授業に遅れるぞ」と注意され教室に向かった。
★ ○ ★ ○ ★

 

ハルヒの怪我はそれほど酷い物ではなかったが、無理をしたせいで腫れてしまい今は氷で患部を冷やしている。
保健室の先生によるとこのまま安静にしていれば、放課後には良くなるだろうとのことであった。
ハルヒは残りの授業を休むことがよほど気に入らないのか、俺を睨んでいる。
ちなみに今はすでに4時間目の時間なのだが、俺はハルヒと二人で保健室にいた。
ハルヒを置いて教室に帰ろうとした俺に
「アンタのせいで次の授業でられなかったじゃない。なのにそのアンタは授業にいくきなの?」
とハルヒが言ったからである。
まったく、意味が分からない。俺はおまえを運んだだけで、怪我をしたのはおまえのミスだろう。
そのハルヒの様子をみた保健室の先生は俺に「彼女はきっと不安なんですよ、彼氏らしく一緒にいてあげてください」と囁いた。
誰が誰の彼女で、誰が誰の彼氏なのか。変なことは言わないで欲しい。
しかもその先生は俺たちのこして保健室を出て行き、その際に「男性向けのゴム製品ならあっちの引き出しにあります、よろしければどうぞ」と言い残していきやがった。
こんなのが教師をやっていてこの学校は大丈夫なのだろうか。不安だ。
先ほどからハルヒはシーツにくるまり、こちら背を向けていたが。どうやら眠ったようで定期的に静かな寝息が聞こえる。
さて、さしあたって飯はどうしようか。やはり俺が買ってくることになるのだろうか。
ハルヒの寝顔を見ながら、俺はそんなことを考えていた。