知らない (55-939)

Last-modified: 2007-08-15 (水) 01:25:02

概要

作品名作者発表日保管日
知らない55-939氏07/08/1507/08/15

作品

「みんなまだ来てないみたいね」
不思議探索の中間である正午に集合場所に来てみればハルヒの言うとおり誰もいない。
向こうの面子が古泉、長門、朝比奈さんとくればいたずらで驚かそうと隠れているなんてこともありえないだろう。
メールを出してそのまま十分ほど待ってみる。
なんかこっちを見てくる奴がいる。なんだ?と思っているとハルヒの限界が来たみたいだ。
「あーもう!迎えに行ってくる!あんたはちょっと待ってなさい」
俺の返事も聞かずスタスタと行ってしまった。
まあ、仕方ないだろう。おとなしく待ってるとするかね。
 
少しして「なああんた」と親しげに声をかけられる。
振り向くと見覚えのない男が立っていた。全体的に軽薄そうな雰囲気である。こんな奴と知り合った覚えはない。
「まあな、それよりさ、さっきの涼宮だろ?東中の涼宮ハルヒ」
「それがどうかしたか?」
「やっぱりな。…へぇ、あんたが今の涼宮の彼氏ってワケ」
こちらを見透かすようなニヤニヤとした笑み。古泉のとは訳が違う嫌悪感が先立ついやらしい笑みだった。
「高校行っても変わってないのな、あいつ。あんた何日目?」
こんな奴がハルヒのことを『あいつ』と呼ぶ事自体にイライラが募る。
ああそうかこいつはハルヒが中学のころ付き合った数多の有象無象の1人という訳か。
「俺は5日だったけどさ。あーあやっぱ顔だけはイケてんな。無理してでもヤっときゃよかった」
「…」
「ん?どしたん?…もしかしてあいつにマジボレしてんの?やめとけってあんなヤリマン」
「…」
「あれ?シカト?チッ!別にいーけどさぁ。これチューコクしてやってんだかんね?」
そんな捨て台詞を残してどこかへ行った。やれやれ。
「見下げたクズですね」
背後からの声に振り返ると古泉が立っていた。
「自分が相手されなかった腹いせに根拠のない誹謗中傷、クズとしか言いようがありません」
目が怖い。本気で怒ってるのか、こいつ。
「ハルヒは?」
「…先ほど合流した際に涼宮さんの琴線に引っかかる服飾の店があったようで皆さんとそこにいます」
またおかしなコスプレをさせる気じゃあるまいな、あいつ。
「しかし僕だけが来て正解でした。あのような輩があることないことあなたに吹き込むのを目撃したら涼宮さんはどうなることか」
まだなにか言ってる古泉をさっさと来いと身振りで促す。
「な…あなたは何も感じていないのですか!?涼宮さんの名誉のために…」
「わかったわかった。せいぜいお前は気をもんでやれ。俺は気にしてない」
「…それはどちらの意味ででしょうか」
訝しげな古泉。その問いには答えず歩く。
5分もしないうちに目的の店に着く。
なぜわかったか?そりゃあのバカみたいな笑顔が外からでも見えたからだ。
店内に入ると朝比奈さんの悲鳴が聞こえる。早速やってるらしい。
朝比奈さんに抱きついているハルヒの頭に手を乗せ強めに撫でる。
「わ!ちょ!ぶ!何すんのよ!…ってキョンじゃない。あんた団長に対してなんてことすんのよ!」
答えずハルヒを見つめる。ハルヒは「?」という顔で俺を見上げる。
こいつの過去なんて気にしない、なんて格好良いことは言えないが少なくとも俺に関係ないのは確かだろう。
今の俺達は団長と団員その一であり加害者と被害者であり席の前と後ろであり一年続く腐れ縁だ。
だからいままで誰と付き合っていようが今の俺達には関係ないしどうすることも出来ない。
それでもさっきのあいつの言っていたことは嘘だってことは確信できる。
「こらキョン!さっさと手をどけなさい!」
両手を自分の頭に乗せ俺の手を引き剥がそうとするハルヒは滑稽で少しばかりかわいいと思った。
少し力を入れて俺の方向に倒れさせる。ハルヒが俺の胸元に突っ込んだ。
「わぷ!ちょ、ちょっとキョン!何考えてんのよバカ!こんなことで抱き…その…バカ!」
そうこんなことですぐ赤くなるこいつは、世界を改変するなんて神様の所業を行おうとしながらどっかの凡人のキス一つでやめちまう奴なんだ。
だからこいつはきっとそういう方面には疎いんだろう。というか人を好きになったりしたことがないんだろう。
俺の胸元から見上げてくるこいつは夢でないキスなんかされたらどうなっちまうんだろうね。
別に俺がしたいなんてことはない。
でも今だけはこのままでハルヒを撫でていたいと思った。
あいつの知らないハルヒを俺は知っている。もしあいつに会うことがあったらはっきり言ってやる、そう思った。