500年後からの来訪者After Future1-10(163-39)

Last-modified: 2017-05-04 (木) 14:47:08

概要

作品名作者
500年後からの来訪者After Future10163-39氏

作品

ドラマの撮影も順調に進み、青古泉と朝比奈さんはバラエティ番組に出演してドラマのPR。また、SOS団&ENOZのライブツアーで各地をまわり、古泉の認知度が上がるにつれて女性客が増えていった。四月に入ると現内閣総理大臣が公約として挙げていた消費税減税も実行に移され、国民からの株も上昇。他の政治家たちもスキーシーズンの間、毎日働いて少しは国民の信頼も得ただろう。ジョンの世界では佐々木の助言により、なんと拡大された子供たちがバレーの練習に参加。レシーブが安定するようになれば、ハルヒたちと試合ができるかもしれん。俺も男子バレーの日本代表として各国を回り、解禁した理不尽サーブ零式で点をもぎ取っていた。

 

結局、0点に抑えることは出来なかったが、俺が前衛にでることなく全試合を終え、元の業務に戻っていた。今後の予定は七月末に福島市民をツインタワーに移住させ、生活が安定するまでは俺たちが店員として入ること。福島県知事にこまめに連絡を取り合い、毎月放射性物質がないか検査させたものを全国に告知させていた。六月頃には「十二月のいわき市のツインタワーの完成を待ってくれ」と圭一さんが伝えるほどになり、さらに、以前俺が提示した方法で漁業を生業とする世帯には十二月まで待ってもらっていた。そして、八月後半のバレー合宿。その合間を縫って宮古市に移住する世帯の引っ越し作業。引っ越しについてはバレーと関係ないエージェントが向かえば済む。W古泉も午前中は回ってくれるだろう。引っ越しついでにサインを強請られてもおかしくない。新戦力も得たことだしな。
九月に宮古市のツインタワーがお披露目となり、いわき市のツインタワーがOPENするのと同時に宮城県のスキー場をもう一つOPENする手筈を整えていた。全スキー場を修繕してすぐにでもOPENさせられる状態にしたのだが、従業員と客の関係上、これ以上は流石に増やせそうにないな。政治家連中には新しくOPENする方のスキー場とホテルの従業員になってもらうことにして、スプリングバレースキー場のリフト乗り場にも空調を整えた閉鎖空間で覆うつもりでいる。料理長のおススメは俺と古泉で分かれ、俺は新しいスキー場の方へと赴く。
結局、青俺の発案から始まった復興支援プロジェクトも一年半で終えることができそうだ。スキー場なら岩手県の方も作ることが可能だが、福島も含めてあとは現地の人間に任せることにしよう。青ハルヒとの温泉旅行も十月ごろには行けるだろ。それに、翌年の例の計画もな。因みに双子の誕生日に机をプレゼントして以来、二人には漢字練習帳に毎日一ページずつ平仮名の練習をさせていた。「あいうえお」から始まって、俺とハルヒで書き順も指導した。自分の名前くらいは書いてもらわないとな。

 

「お~い!野球大会のチラシが来たぞ!」
ある日の朝、青有希と幸が居て、どうして青俺が降りて来ないのかと思っていると、どうやら消失世界に行っていたらしい。81階に異世界移動で姿を現した。右手には野球大会の申込書らしき用紙を携えている。Wハルヒが我先に飛び付くかと思っていたが、真っ先に目の色を変えたのは青古泉。まぁ、野球ならチームの監督、サッカーならオフサイドトラップを誘発するDFにと伝えてあったからな。青古泉からすれば、ようやく自分の活躍できる場がやってきたといったところか。だが、青俺が持ってきたチラシに喜んでいたのもつかの間、その途中から様子が変わった。何かあったのか?
「困りましたね…。地域の草野球程度のレベルでは我々の相手になりそうにありません。黄僕から聞いた話ですが、ゾーン状態に入らずともジョンが考案した筋トレのおかげで160km/h台の投球をすることが可能となれば、監督として指示を出すことなく優勝してしまいます」
確かにな。退屈な試合をすればWハルヒのイライラが増すばかり。かと言って、手加減をすれば俺たちまでストレスを溜める一方だ。全員が青古泉に賛同するかのように表情を曇らせていると、青俺の口元が緩んだ。
「心配いらん。古泉の言う草野球レベルのものを持って来たところでWハルヒが満足するわけがないだろう?やるからにはバレーと同じく日本代表クラスを相手にしないとな」
「そうは言うけどね。そんな簡単に戦うことができるのかい?それに、参加するならちゃんと練習の時間も確保してくれるんだろうね?ジョンの世界で野球の練習をするのはさすがに厳しいんじゃないかい?」
「どうやら、そうでもなさそうよ」
青俺のうしろからパンフレットの内容を読んでいた朝倉が声をあげる。
「涼子、それ、どういうことよ」
「わたしたちの地元だけで催されるような小規模なものじゃなくて、全国で行われる大会らしいわ。勝ち進めば他の地域の強豪チームと戦えるし、優勝すればこちらが指名したプロ野球チームと対戦できるそうよ。夏休みの終わりまでビッチリスケジュールが組んであるわ」
宇宙人が『わたしたちの地元』っていうのはどうかと思うが、それならWハルヒが満足できるような試合ができそうだ。青俺も俺たちが出るにふさわしいものを選りすぐったらしいな。
『面白いじゃない!』
「有希!すぐに14人分のユニフォームを用意して!誰が何と言おうと今回のキャプテンはあたしなんだからね!」
「問題ない。番号さえ決まればすぐ仕立てる」
「わわわわわたしも試合にでででるんですかぁぁぁあ!?」
「みくるちゃん、キョンの話、聞いてなかったの!?青古泉君が総監督で、みくるちゃんはチームのマスコットキャラクター。ボンボンを持って皆の応援ね」
「よかったぁ~。それならわたしにも出来そうです!皆さん頑張ってください!!」
「それで、大会には申し込むとして、一体いつから予選が始まるんです?佐々木さんのセリフではありませんが、我々もバレーばかりで野球は素人ですからね。出来るだけ練習の時間を取りたいところですが…」
「それなら来週の土曜日だ。練習場所も大体の目星はつけてある。黄俺が建てたんだ。俺たちが使っても文句は言われないだろう」
「いいからさっさと場所を教えなさいよ!!」
周り全員青ハルヒと同意見らしい。しかし、ジョンの世界はバレーのコートが三面に楽器、ドラマで使っているセットもまだ置いたままだし…あそこで野球の練習もするとなると、子どもたちの秘密特訓がハルヒたちにバレてしまう。それに、俺が建築した建物なんて世界中にあってどこのことを言っているのかさっぱりだ。ようやくと言えるほどの時間が経過した後、満を持して青俺が口を開いた。
「SOSスーパーアリーナでどうだ?」
次の瞬間、周りが満面の笑みに変わった。どうやら次のセリフも決まりらしいな。
『問題ない』

 

ようやく全員が席につき朝食。今朝の話題は当然野球の練習のこと。さっきは満場一致の『問題ない』が炸裂したのだが、土曜の夜はライブが控えている。全国から強豪チームを集めるようだし、一試合9回裏までなんてことはないだろうが、一日に何試合もやっているといつまでかかるのやら…そんな心配を他所に、ある程度考えがまとまったらしい青古泉が口火を切った。
「では、すぐにでも練習を始める必要がありそうですね。優勝チームが指名したプロ野球チームと戦えるとなれば、
予選の段階から強豪チームが複数混じっていてもおかしくありません。基礎体力はバレーで培っていますから、まずは走力と遠投のテストから始めましょう。誰が何を得意としているのかを知らないと、作戦すら立てられませんからね」
まったく…こういうとき『だけ』は頼りになる。これをもう少し他のところでも発揮してもらいたいもんなんだが…まぁ、これが青古泉か。
「そう言われてみれば…50m走のタイムなんて久しく計ってないわね。わたしが戦力になるなんて到底思えないんだけど…大丈夫かしら?」
「朝倉さんがそんな発言をしたら僕は一体どうすればいいんだい?キョンも食べてばっかりいないで打開策を考えてくれたまえ」
「わたし達もバレーなら大丈夫ですけど、野球はちょっと…」
青佐々木の視線が俺の方に向いている。俺が応えてよさそうだな。
「だからテストから始めようと監督が進言してるんだろうが。こういうときは頼りになるんだから、少しは監督の言うことを聞け」
『キョンパパ、キョンパパ!皆で何するの?』
「野球って言ってな。バレーと同じスポーツだ。小学校と保育園が休みのときは三人も一緒に練習しよう」
「やきゅう?バレーと同じ?キョンパパ、わたしやきゅうも上手になりたい!」
「しかし、土日も含めていつ練習をするんです?強豪チームが集まるとなれば、僕もある程度練習を重ねないと足手まといになりかねません」
「復興支援の方も一段落したし、午前か午後のどちらかで練習をすればいいわよ。青みくるちゃんの撮影スケジュールに合わせましょ。一日は無理でも半日くらいなら帰ってこられるでしょ」
「ハルヒさん、ありがとうございます!わたし、皆さんのお役に立てるように一生懸命頑張ります!」
青朝比奈さんの言葉で周りのメンバーが奮い立ったらしい。今日はこのまま練習の流れになりそうだな。ビラ配りや撮影、冊子の編集は野球の練習していない時間帯にやればいいだろう。しかし、子供たちが保育園や小学校を休むなんて言い出さなければいいんだが…
「おっと、彼女の撮影スケジュールで思い出した。話を途中で切ってしまってすまないが、君たち…いや、我々全員に関わる。少しいいかね?」
「圭一さんがそんな切り出し方をするなんて珍しいですね…一体何があったんです?」
「例のサイコメトリーを題材にしたドラマを放映しているTV局からだ。10月からの枠は取れなかったが、1月からの枠で同じ時間帯を確保したから続編を作って欲しいと連絡が入った。第二シーズンの人気の度合によっては来年以降は秋冬の2クールでという話にもなっているそうだ。どうするかね?」
「くっくっ、誰か僕が今どんな顔をしているのか教えてくれたまえ。キョンに言われて色々と考えていたけど、本来僕が脚本を作るなんておこがましいことなんだ。第二シーズンどころか来年以降も続けていくなんて、そんなプレッシャー耐えられそうにない」
「いつもとそう変わらん。別にシナリオを書くのは他の人間でもいいんだし、W佐々木は自分の研究の方もあるからな。ふと思い立ったときにまとめておけばいいんじゃないか?時間もあるし、そう焦る必要もないだろう。それとな、たとえその他全員が反対したとしても古泉が全力で押し通すに決まってる」
『あ~、なるほど』
青俺の言い分にそこにいた全員が同調した。ドラマの中での設定とはいえ、青ハルヒと恋人同士になれるんだ。W佐々木が書けなくなれば、青古泉自ら脚本を作り上げるだろう。
「妙ですね……僕ってそんなに分かりやすいですか?バレーのトスの采配が読まれたのは彼の驚異的な集中力があったからこそですが、このままでは野球の采配も相手に読まれてしまいます」
「問題ない。野球の指示は全てテレパシーで伝えればいい。あなたの行動が容易に想像できるのは涼宮ハルヒに関することだけ」
OGたちが有希の発言を聞いて揃って首を縦に振っている。まぁ、しぐさに現れていなくとも、言わずもがなってやつだ。
「では、ドラマの続編についてはOKということで折り返しておこう。大分時間が押してしまったようだ。我々はそろそろ人事部に向かうとするよ」
「ママ、わたし小学校」
『!!!!』
やれやれ…今後は議事録用のパソコンにタイマーでもセットした方がいいかもしれん。会議の内容が内容だっただけに全員食いついていたからな。時間の経過を全く感じなかった。
「これは失礼しました。ドラマの脚本と野球の練習メニューのことで僕も頭がいっぱいでした」
「わたしもごめんなさい。すぐ双子を保育園に連れて行く」
「でも、ドラマの続編を作ることしか決まってないんじゃ……」
「とりあえず、練習メニューも決めずにSOSスーパーアリーナに行っても仕方がない。青有希と青朝比奈さんを除くSOS団メンバーはここに残ってくれ」
「キョン先輩!試合には出られなくてもいいですから、わたし達にも手伝えることがあったらやらせてください!」
「それなら、わたし達は続編ドラマの各シーンで流す音源を考えることにするわね」
OGもENOZも本当にありがたい。ENOZは自分たちのフロアに戻り、81階に残ったメンバーで会議を続行。再度、青俺が口火を切った。

 

「すまん、みんなに提案したいことがあるんだが……いいか?」
「何よ、急に改まっちゃって。言っとくけど、キャプテンの座は誰にも譲らないわよ!」
「野球もバレーと同じで、誰が何番だったとしても、キャプテンマークがついていればその人物がキャプテンになる。それについてはこっちのハルヒが文句を言わない限り、黄ハルヒがキャプテンで俺はかまわないと思ってる。ただ、今度は俺たちの世界で試合をすることになるから、青チームが若い番号になるようにしたい。SOS団の団員順でいくなら、俺が1番、有希が2番、朝比奈さんが3番…と続いて、佐々木が6番、こっちのハルヒが7番だ」
「ちょっと待ちなさいよ、青キョン!ってことはあたしが一番最後ってことじゃない!」
「いや、そうはならない。黄ハルヒは9番だ」
「あのぅ………どうしてハルヒさんが9番なんですか?青ハルヒさんの次に入るなら8番なんじゃ……」
「ここにはいらっしゃいませんが、青チームのメンバーとして参加してもらいたい人物がいるということです。その人が8番のユニフォームを着ることになるでしょう。加えて、黄チームSOS団団員その1の彼は映画の撮影で試合にほとんど出られませんからね。その空いた枠にハルヒさんを…という考えのようですよ?」
「あー…もう!そういうことなら先に説明しなさいよ!青鶴ちゃん連れてくるんでしょ?みくるちゃん!こっちの鶴ちゃんにも予定聞いておいてちょうだい!」
「はいっ!やっとわたしにも皆さんの考えていることが分かりました。多分、今の時期なら鶴屋さんもそこまで忙しくないと思います」
おかしい。年齢的には大人版朝比奈さんと同等のはずなんだが…俺が高校生時代に会った大人版朝比奈さんよりも若干幼い感じがするのはなぜだ?メイクは大人版朝比奈さんそのものなんだが…
『キョンの言う大人版朝比奈みくるは未来からの帰還命令後、他の時間平面上の規定事項を満たしていたか、それも含めて階級が上がって立場が変わったからだろう。ここにいる朝比奈みくるはこの時間平面上に残ると宣言した以上、未来に戻ることはない。仕事はしているが、立場としてはキョンやハルヒの方が上。上司として部下を持つことがないからじゃないのか?』
なるほどな。ジョンの推論も的を射ている。大人版朝比奈さんは過去の自分を部下に規定事項の伝達をしていた。そういうことか。
「だったら、最後の番号を着るのは俺になりそうだな。着る機会があればいいんだが…」
「この大会で優勝すれば、こちらの世界のバレーの日本代表チームと同じく、僕らの世界のプロ野球の球団から親善試合の申し込みが舞い込んできてもおかしくありません。我々はこっちの世界で生活していますから、鶴屋さんのご自宅に連絡がいくようにしておけば、映画の撮影が終わってからでも十分使う機会がある。………違いますか?」
「ああ、折角のイベントだから鶴屋さんにも参加してもらいたかったし、こっちの朝比奈さんと話すこともできる。それに、こっちの世界ではバレー、俺たちの世界では野球で名を挙げるのも悪くないかと思ってな」
「あんたにしてはいいプランを立ててくれるじゃない!そういうことなら、あたしが7番でも許すわ!すぐに向こうに行って練習始めるわよ!」
これで番号でもめるようなことはなさそうだ。しかし、俺たちが野球をやったのは高一のときの一回きり。それ以降はマウンドに立つどころか体育の授業以外でボールに触れた覚えなんて………ゲッ!!
思い出したくもない顔を思い出してしまった。そういえば藤原や九曜たちとの話し合いに決着をつけようとしていたときに古泉と北高の中庭でキャッチボールしてたっけ。まぁ、あれは練習とは到底言えない代物だ。数には入らんだろう。それなら、以前のようにジョンに色々と教わりながらピッチングを…と思ったんだが……。そうだジョン、影分身で俺の代わりに映画撮影に出てくれないか?
『そいつは出来ない相談だ。俺も野球に参加したい』
はて…リクライニングルームに設置した漫画の中にジョンがインスパイアされるようなものでもあったか?
『夢にときめけ 明日にきらめけ by…』
「言わんでいい!!………あ``」
『あ``!?』
俺が叫んだ瞬間、全員の視線がこちらに向くと、皆笑うのを堪えていやがる。
「くっくっ、その失態もいつ以来だろうね。よほどジョンと話が盛り上がっていたようだ。二人でどんな話をしていたのか僕にも教えてくれたまえ。ジョンも参加したいのならキョンの中にいないで出てきたらどうだい?」
『それなら、お言葉に甘えることにしよう。監督のご期待に応えられるよう頑張りますので、以後よろしく』
「佐々木さんではありませんが、僕も『くっくっ』と笑いたくなりましたよ。ここまで戦力が揃っているとどういう采配をするべきか逆に困ってしまいそうです。走力や遠投のテストはもう必要ありません。あとは基本的なキャッチボールから初めて、連携を身体に叩き込むだけです」
「じゃあ、青有希ちゃんが戻ってきたらテレポートで行きましょ!お昼まであまり時間がないし」
「それでは、昼食の準備を済ませてしまいましょう。ランチの仕込みもまだでしたよね?」
「古泉がそう言ってくれるのはありがたいんだが…今度は俺たちが皆を待たせることになってしまうぞ」
「問題ない。できた」
このタイミングで有希が「できた」と言うからには野球のセット一式だろうが、青俺の発案から始まって、ジョンも参戦する旨を伝えたばかりだと言うのにもう仕上げたのか。手を前にかざして有希の高速詠唱が始まった。宙に現れたキューブの中には、大量のボール、グローブ、木製バット、スパイクにキャッチャーの防具一式。キャップやユニフォームの上下は青チームに合わせてか青と白のツートンカラーを採用。胸には当然SOS団と描かれ、9番のユニフォームにはキャプテンのマークがついていた。ついでにキャップにはSOS団のエンブレム。黄チームのナンバーは、9番ハルヒ、10番有希、11番朝比奈さん、12番古泉、13番朝倉、14番佐々木、15番鶴屋さん、16番ジョン、17番俺………って、ちょっと待て。
「なんで俺がジョンよりも後なんだ!?」
「簡単、ジョンの方が試合に出る率が高い。着替えさせて」
コイツ……もはや、わざと言っているとしか思えん。あれほど「『着替えさせて』と言うのはやめろ」と口酸っぱく伝えたにも関わらず未だに使ってきやがる。俺に向かって「着替えさせて」と言うくらいなら、Wハルヒが青古泉に向かって「着替えさせて」と言った方が効果抜群だ。連発される前にさっさとドレスチェンジさせてしまおう。朝比奈さんはユニフォームの方でいいんだよな…?チアガールの衣装とユニフォームの両方が情報結合されていた。
あくまで個人的な意見だが、このチアガールの衣装を着るなら、今の大人メイクよりもナチュラルメイクの方が可愛いと思う。さっきジョンと話した件もふまえてな。有希ももう何種類か考えてそうだし、ハルヒにメイクの事を伝えておくとしよう。
「あら?そう言えば黄有希さん、わたし達の名前は入れないのかしら?」
「うん、それ、無理。入れたくても入れられないわよ」
「黄涼子、どうしてよ?別に名前入れても何も問題ないじゃない!」
青朝倉の当然の疑問を即否定で返した朝倉に視線が集まる。W古泉、W佐々木あたりは見当がついているようだが、ここは否定した本人に任せよう。
「他のチームからは私たちは双子の集まりにしか見えないはず。でも、名前まで同じだとバレてしまうと説明がつかなくなるわ。上位大会に勝ち進んで名前を公開する必要があるときは偽名でいいでしょうけど、それまでは下手に名乗らない方がいいわよ」
「流石、黄有希だ。そこまで考慮した上であの短時間で全員分のユニフォームを仕上げてくるとはな」
「わたしも折角のユニフォームなのに、どうして名前を入れないのかなぁってずっと不思議に思っていました」
「では、疑問が解決したところで昼食の準備をしてしまいましょう。青有希さんももう保育園についている頃でしょうから」

 

 古泉のセリフを受けてすぐに準備に取り掛かったが、結局、ランチの仕込みを終えたところで青有希が帰って来てしまった。どうせほとんど試合には出場しないし、俺だけ残って昼食の支度をしていると進言したのだが、
「すみませんが、あなたにはやっていただきたい事があるので我々と一緒に来て下さい。肩慣らしから始めないと、精密なボールのコントロールなんて出来ないでしょうから」
と、青古泉に半ば強引に連れて来られてしまった。俺にやって欲しいことって何だ…?結局練習が始まってもその内容は知らされず、終わり際になってようやく青古泉が動いた。集められたのはW俺、Wハルヒ、ジョンの5人
「一体このメンバーで何をしようっていうのよ!」
「ジョンも含めて160km/h台を出せる人間が3人。ですが、予選の最初からそんな球を投げていては、他のチームに警戒され、対応策をたてられてしまいますので、ある程度勝ち進むまでは涼宮さんとハルヒさんにピッチャーをと考えています。片方がピッチャーを務めている間、もう片方はセカンドかショートの位置についていただきます」
「それが俺たち三人と何の関係があるんだ?」
「160km/hの投球を生かせるポジションは何もピッチャーだけではないということです」
『なるほどな。強豪チームが集う大会だからこそ、こういう場面をシミュレーションしておく必要があるってことか』
「ちょっと!二人だけで納得してないで、どういうことか説明しなさいよ!」
「ランナーが一人以上いる状態で相手に長打を許してしまった場合、フライであれば、出塁を防ぐことができます。しかし、勢いのある球がバウンドしながら外野手のところまで届いてしまったら…」
「俺が呼ばれた理由がようやく分かったよ。だが、それなら青俺とジョンで十分だろう?」
「Wハルヒさん以外にもう一人、球を受けることができる人間を作りたかったんですが…今日の練習を見ればそれが不可能なのは明らか。ですが、外野手はピッチャーと違ってボールを取ってすぐ送球しないといけませんからね。そのための練習も兼ねてお呼びしたというわけです」
「そういうことか。宇宙人二人には練習の必要はないだろうが、いくらハルヒでも剛速球をいきなり受けるとなると厳しいってことか。取れなければ大量失点につながりかねん」
青古泉の意図していることが未だに理解できていないWハルヒから怒気が漏れている。折角大抜擢されたんだ。暴れ出す前に説明して練習を始めないとな。
「二人とも、今から俺たちが投げる球を防具なしで受けてもらう。有希と朝倉以外にWハルヒなら可能だと青古泉が判断したんだ。それに見合う仕事をしてもらうぞ」
「はぁ?あんたたちの球を受けるのは有希の仕事でしょうが!なんであたし達が受けなきゃいけないのよ!」
「イチローのレーザービームと同じだよ。ランナーが行けると思ったところを刺すための練習だ。俺たちの球が取れなければ相手に得点を許してしまう。勝負の分かれ目は二人にかかっていると言っても過言ではないはずだ」
『青チームの古泉一樹からの挑戦状ってところだな』
「面白いじゃない!その勝負、受けて立つわ。その代わり、あたし達が塁から離れなきゃいけないようなところに送球したらタダじゃおかないわよ!」

 

「これ以上は圭一さんたちを待たせることになる」と俺が進言したところで終了。
81階に戻るとENOZや人事部の社員たちも揃っていた。いくら『いつ昼食を食べに行ってもかまわない』という社則があるとはいえ、空腹の人間を待たせるわけにはいかない。即席の野菜スティックとノンドレッシングサラダで空腹を満たしてもらっている間に、古泉、青ハルヒと三人がかりで昼食を作り上げた。
「しかし、キョン達が作る昼食もそうだけど、朝倉さんたちのおでん屋の仕込みの方は大丈夫なのかい?」
「今はジョンの世界で作業をさせてもらっているからまだ大丈夫だけど…バレーの練習が本格的になってくると厳しそうね。野球の大会も八月末まであるんでしょう?」
「問題ない。朝倉さんは食材の注文と仕込みに集中してもらえばいい。経理部にも優秀な人材が多く揃ってるから平気。それに、今後はわたしも仕込みの手伝いに入る。煮込む方も」
青有希の発言に全員が前傾姿勢を取り、騒然とし始めた。おでんを煮込むなんて発言が青有希から出るなんて今回が初めてじゃないか?真っ先に青俺が今の発言を問いただした。
「煮込む方もって、おまえ、あれだけおでんを嫌がっていたのに大丈夫なのか?」
「ようやく対応策を閃いた。ジョン、わたしに逆遮臭膜の張り方を教えて」
『そういうことならお安い御用だ。俺も今言われて気付いたよ。ただ、おでんの仕込み以外のときは解除することも忘れるなよ?ガスが充満していたなんてこともありえる』
「わかった」

 

 青俺が大会のチラシを持ってきてから数日が経過し、W鶴屋さんも都合が合うときは一緒に練習に参加していた。
レーザービームもW鶴屋さんが難なく受け止め、これで防御面は盤石と言ってもいいだろう。青朝倉、W佐々木、青有希、青朝比奈さん、古泉は徹底的にミートの練習。Wハルヒは有希やジョンから変化球を叩き込まれていた。
前回のようなどストレートだけではすぐに攻略されてしまうからな。俺は一人で新たな魔球の考案…といきたいところなんだが、WハルヒやW鶴屋さんとの連携が安定してきたところで青古泉が別メニューに切り替えた。
「では、これから皆さんに160km/hの球を打っていただきます。まずはW彼にマウンドに立ってもらいますので、黄有希さんと黄朝倉さんはキャッチャーをお願いします」
おいおい、バッティングの基本中の基本しかやってない奴等にいきなりそれは厳しすぎないか?W佐々木や青朝倉、青有希がギョッとして青古泉を止めに入った。
「ちょっと待ってくれたまえ。いくらなんでもキョンたちが投げる球を僕らが撃てるわけがないだろう?」
「あんな剛速球じゃ、投げた瞬間にミットにおさまってるわよ…」
「古泉君、もう少し段階を踏んでからの方がいいんじゃないですか?」
「段階ならちゃんと踏んでいますよ。皆さんお察しの通り、彼らの投げる球なんて打てるわけがない。最初はそれでかまいません。これは皆さんの動体視力を鍛えるための練習メニューです。彼らの剛速球を捕らえられるようになれば、地域の予選程度の弾なら止まって見えるでしょう。我々はプロ野球のチームと対等に戦うための練習をしているんです。変化球を織り交ぜられるのならまだしも、ストレートしか飛んで来ない球を打てないようでしたら、野球は即刻諦めてバレーに専念した方が数倍マシですよ」
「あんたもなかなか言ってくれるじゃない!要はキョンの球を打ち返せばいいんでしょ?3球で勝負をつけてやるわ!」
「面白い。どっちのハルヒも三球三振で悔しがらせてやるよ」
『それはこっちのセリフよ!』
「こうなってしまってはやるしかないようですね。我々よりもお二人の方が疲労が激しそうですが、お手柔らかにお願いしますよ?」
「問題ない。疲れが出た時点でわたしが回復する。それに、ジョンと三人でローテーションすればいい」
回復なら俺も青俺も自分でできるんだが…まぁ、いいか。こっちの朝比奈さんなら、球を投げた瞬間にバッターボックスから逃げだすだろうが、今回は応援役。ハルヒに耳打ちしておいたメイクもナチュラルメイクに変わっているようだ。朝比奈さんを除外すれば、残りのメンバーは気に病むことも無いだろう。

 

結局、青ハルヒには三球目でクリーンヒットを許し、ハルヒも四球目で打ち返してきた。三球以内で打ち返せなかったことに苛立っていたが、一度打ち返して以降は全てクリーンヒットで返してきた。時間も頃合いになり、撃ち返せたのはWハルヒだけだったが、W鶴屋さんや青朝比奈さんはもう少しというところまできていた。練習終了後、W佐々木は食事を済ませてラボへとテレポート。研究に行き詰ったときは服のデザインを考えてみたりドラマのシナリオやトリックを考えたりしていた。圭一さんが第二シーズンの話を持ってくるまでほとんど撮り終えていた最終話も、
『第二シーズンに繋げるのに敵対組織がほとんど壊滅していては張り合う相手がいなくなってしまうからね。
 すまないがもう一度練り直させてくれたまえ。代わりと言っては何だが、最高のラストに仕上げて見せるよ』
「最高のラストに仕上げてみせる」なんてセリフを吐く佐々木も珍しい。だが、第二シーズン以降も脚本家として活躍してくれそうだし、安心して任せられる。俺も次のシーズンに向けていくつか盛り込みたい案があるんだが、それはアクション映画の撮影と野球の大会が終わってからに………いや、一つだけやらせてみるか。口コミで広がるには時間がかかるだろうしな。
アクション映画の撮影に乗り出す日が訪れ、向こうのスタッフにも新川流料理を味わってもらおうと丸一日仕込んだものがその他の荷物と一緒にキューブにおさまっていた。夕食前にも関わらずメンバー全員が81階に集まり、俺の見送りをしてくれるらしい。本当にいい仲間をもったとつくづく感じるよ。
「あたしが選びぬいた脚本なんだから、中途半端な演技したら承知しないんだからね!」
「野球の方は順当に勝ち進んでおきますので、戻ってきたらお願いしますよ?」
「わたしもあなたとキスシーンを撮影したい。終わったら付き合って」
「あっ!有希さんばっかりずるいです!わたしもキョン君とキスシーン撮って欲しいです!」
俺なんかでいいのならいくらでもするぞ。こっちが頼みたいくらいだ。有希と朝比奈さんの発言に対してハルヒもさほど怒ってないようだしな。
『キョンパパ、キスシーンってなあに?』
「俺からは言い辛いから、あとで有希お姉ちゃんとみくるちゃんに聞け」
何を思ったのかはわからんが、二人で顔が緩むのを隠していた。
「でも、時差のせいでジョンの世界でも黄キョン君と会うのが難しそう。双子が寂しがらなければいいんだけど…」
「心配するな、有希。そのときはジョンと黄俺が入れ替わるだけだ」
「伊織パパ、またどこか行くの?わたし、伊織パパの作ったごはんじゃなきゃやだ!」
「くっくっ、どうやら子供たちの胃袋を掴んで離せないようだね。キミなら予定されているスケジュールを大幅に短縮できるだろうけど子供たちが寂しがらないうちに戻ってきてくれたまえ」
「幸、心配いらん。俺がいなくとも、古泉や青ハルヒが美味しい料理を作ってくれる。それと、古泉。一つ頼みたい事があるんだが……」
「これから出立しようというのに、どうしたんです?突然……」
「いや、例のドラマの第二シーズンに先駆けてちょっとしたパフォーマンスを思いついてな。週に2,3日、時間に余裕ができたときだけでかまわない。80階のディナーの手伝いに入って欲しい」
「それはかまいませんが、一体何をするおつもりですか?」
「古泉が各テーブルに料理を運べば、まず間違いなくサインをねだられる。それを断る代わりにサイコメトリー能力を披露してみせるんだよ。酒の好みを読み取って提供してみたり、客の好みに合わせて料理をアレンジしたりな。酒NGだと言われているのに飲もうとしていれば注意を促してみたり、目の疲れや肩の痛み、腰痛なんかがあれば『軽いマッサージをする』とでも言って治してしまえばいい」
「なるほど。どうしてこのタイミングでそんなことをと思いましたが、そういうことですか」
「え?え?古泉君、一体何が分かったっていうんですか?」
「今からそれを実行に移せば、10月頃には『古泉一樹には本当にサイコメトリー能力がある』と口コミで流れる。当然、各TV局からバラエティ番組のゲストとして呼ばれるはず。そちらは青チームの古泉一樹に任せればいい。第二シーズンのドラマの視聴率をさらに向上させるための一手」
「キョン……ドラマの視聴率にさらに拍車をかけるのはいいけど、脚本を手掛ける僕たちの身にもなってくれたまえ。そんなことをされたら余計プレッシャーを感じてしまうよ」
「脚本の方も、考えていることが一つある。まぁ、それについてはハリウッド映画の撮影が終わってから話すことにする。何かあったらテレパシーで連絡をくれればいい。じゃあ、行ってくる」
「まったく、相変わらずキミは僕を焦らすのが上手いよ。どんな考えかは分からないけどキミがそこまで言うんだ。くれぐれも僕を落胆させないでくれよ?」
「お気をつけて」「キョン君、行ってらっしゃい」「帰りを待ってる」
「フン!あんたなんかいなくたってこれっぽっちも寂しくないんだから!さっさと行ってきなさいよ!」
「ああ、子供たちを頼むな」
そう告げてハルヒと唇を重ねた。有希が双子に「これがキスシーン」なんて言ってやがる。まぁ、こんな反応をするハルヒを見るのも久しぶりだからな。つい、可愛く思えてしまった。テレポート先の座標を特定し、81階から姿を消した。

 
 

…To be continued