武道と格闘ゲームの「読み合い」の面白さについて

Last-modified: 2018-12-11 (火) 21:21:10

概要

私は何気に剣道を小1~大学まで ちょっとずつブランクはありながらたしなむ程度に行っていた。
段位は初段だが、経験年数だけ見ると15年近く竹刀を触っていたことになる。
最初のうちは暑いし重いしとにかく辛いという印象であったが、ある一線からグッと楽しさが増したように感じている。
それが「読みあい」を感じ取った時だった。
インハイどころか地方予選大会の第一試合ですら勝ち進めない弱者ではあったが、武道の奥深さを少しは垣間見ていると自負している。

一方でその「読みあい」を手軽に楽しむことができるのが格闘ゲームである、とされている。
有名どころではストリートファイターやギルティギア、鉄拳等があり、
いずれも「相手に一定のダメージを与え、体力を0にすれば勝利」というルールと、この「読みあい」が楽しさの一つ、としている。
私自身 大学時代にブレイブルーを気が狂うレベルでやりこみ、この「読みあい」の楽しさを享受していた。

周りのNot格闘プレーヤーにはなかなかわかりづらいこの「読みあい」という概念を紹介しようと思う。
なお、実際の格闘技において 私は空手や柔道はほとんどやったことがないため、
剣道のみとの対象になることをご了承いただきたい。

そもそも「読みあい」の楽しさとは?

読みあいとは、お互いの考えを探りあい、その上で戦術を組み立てたり立ち回りを構築したりするものである。
この楽しさといえば、「自分の読みが正しく、その上での行動もうまくいく状態」つまり「してやったり感」である。

例えば2人でジャンケンをする際に、片方の人間(仮にAとする)が「俺はチョキを出す」と公言したとする。
それを聞いたもう片方(Bとする)は「Aの言ったことは真か偽か、それぞれどの手を出せば勝利するか」などを考えるだろう。
そしてそれを見たAは、「Bは私の言ったことを信じるかどうか、公言した通りの手を出すべきか」と考える。
そうしてジャンケンをする というのがいわゆる”読みあい”の例である。
これで勝った方が「相手の読考えを読み取り、その上で自分が有利に動けた」という「してやったり感」を味わえるのだ。

ただしこれはジャンケンのような「3すくみ」がある状態で成立する。
これを出せば確実に負けない というものがあると、読みあいは発生しないのだ。

前提:武道においても基本は「3すくみ」がある

剣道はざっくり言うと「相手に有効な打突を与えれば一本」というルールがある。
(心技体の概念は度外視して)
面(頭を上から)、小手(相手の右手首)、胴(相手の右腹)、突(喉元)のいずれかをキレイに打つことができれば一本となるが、
もちろん相手も人間なので打たれまいとガードをする。
このガード という概念が良くできており、どこかを防げばどこかが必ず空く という仕組みになっている。
小手をガードすれば体の正面ががら空きになるので面が打ちやすくなり、面をガードしようとすれば腕が上がるので胴が空き、胴をガードすると基本的には突きと面が空く、といった具合だ。
※面の弱点が多すぎない?という話だが、面を打つのはかなり大きな動作になるためスキができやすいのだ。この辺は後述。

面、小手、胴の全てをガードする「三所防ぎ」という方法もあるが、
そこからニュートラルのポジションに戻すのはかなり時間がかかる上に、酷い場合によっては反則を取られてしまう場合がある。この反則は明らかに危険 というものではなく、「全く攻撃の意思が感じられない」というもの。要するにsplatoonでリスポーン位置から出ないのと一緒である。

格闘ゲームにおける3すくみ

格闘ゲームにおいても場所こそ異なるが基本は3すくみだ。
多くの格闘ゲームでは、上段攻撃、中段攻撃、下段攻撃、ジャンプ攻撃、投げの攻撃がある。
これに対してガード方法は、基本的に立ちガード、しゃがみガード、投げ抜けの3つだ。
立ちガードは下段攻撃に弱く、しゃがみガードは中段攻撃、ジャンプ攻撃に弱く、
どちらのガードも投げは通ってしまう といったような状態だ。
ちなみに投げ技はガード不能であるため、技が発動するまでの予備動作が長く設定されている事が多い。投げのモーションの合間に発生の早い攻撃を繰り出しておけば反撃ができるのだ。
完全に踏襲 とまではいかないものの、似たような3すくみがあることはわかるだろう。

※厳密に言えばヘビ、カエル、ナメクジのような確定した三すくみではないことは明確であるが、 簡単のために3すくみと表記している。

剣道のスピード感と読みあいについて

他の格闘技や球技にも言える事ではあるが、剣道は時間にして0.1秒以下の世界だ。(俺調べ)
相手と対峙し、瞬きしている間に既に面を打たれている ということはよくある。
とはいうものの、それを回避したりガードしたりするために、全ての人が反射神経が超人の域に達しているわけではない。
では どのように反応しているのか。
それは相手の「予備動作」だ。
剣道の場合は、お互い構えている状態の剣先にその兆候が表れやすい。
面を打つ前にいったん剣先が下がったり、胴を打つ前に剣先が少し左に移動したりする。
武道の場合は、その情報と、相手の踏み込み具合などで判断してガードしたりするわけだ。

格闘ゲームにおける読みあい

格闘ゲームも剣道や他の武道と同じく、1つのパンチに悠長に1秒2秒かけているわけではない。
小パンチ(弱パンチ)は威力が低い代わりにほぼ予備動作なしから数フレームで技が出る という仕組みになっている。(これを発生フレーム とかいう)
弱パンチはだいたい2~3フレームで発生。だいたいの格闘ゲームが60fps(1秒を60コマに分割したもの。フレームごとに入力を受け付ける)なので時間にすると、0.05秒となる。
相手が技を出し、0.05秒以内にガードキーを入力して対処、なんて到底無理なのだ。

では何をするか、であるが、上述の通り、予備動作を見るのである。
リーチの短い攻撃を仕掛けるのであれば距離を詰めてくる。
ジャンプ攻撃を仕掛けてくるのであればジャンプをしてくる。
長距離技で攻めるのであれば距離を詰めてこない。
いくらガードしても突っ込んでくるのであれば投げを狙っている。
といった具合だ。

読みあいとは結局?

読みあいとは結局、対戦相手の凝視と対応 だと私は判断している。
剣道においてもはじめの辛い時期は、すり足、構えの所作、竹刀の振り方、力の入れ方、踏み込み方、残身 など、自分の体の動かし方が主な練習だ。
この状態で相手と対峙したところで「何をしたらいいかわからない」という状態になる。
もちろん教え通りに竹刀を振れば1本になるなんてことはなく、相手も自分と同じように1本を狙っているし、ガードもする。
そこで相手の動きをよく見る事が大切になり、
相手が何をしてくるのか、その時自分はどう対応すべきか、もしくは何もしてこないことを見越して自分から仕掛けるのか という「読みあい」が発生する。
格闘ゲームでも実は同じことが言える。
初めは自分の気に入ったキャラクターを使用して技や演出を見て、コンボ練習等に打ち込むような流れだが、コンボ練習が完璧になったからと言って対人戦で勝てる という事はまずない事は上記より明らかだろう。
実際に格闘ゲームのキャラクターの使用が体になじんでいると、プレーヤーが凝視するのは自分のキャラクターでなく相手のキャラクターなのだ。
もちろん自分のキャラクターを動かして攻撃を出さんとするが、基本的には相手のキャラクターを見て予測を立てて対処 ということになる。
武道と異なるのは、格闘ゲームは各キャラクターによって動きが異なる”異種格闘技戦”なので、相手がどのような動きをしてくるかわからない という所である。

新しく見るキャラクターやトリッキーなキャラクターが対戦相手の時、どこにどのような判定があるか見極めることができないままK.O.されるのを、俗に「わからん殺し」と呼ばれている。

読みあいからの攻勢、および反撃

今まではガードの話をしてきたが、読みあいはもちろんのことガードするだけのものではなく、対処して攻撃するためのものである。
この反撃に転じる瞬間は格闘ゲームのほうが説明が簡単なので先にこちらから説明をする。

格闘ゲームでは通常、相手の攻撃をガードすると防御側に一瞬の余裕が生まれる。
相手が発生の長い技やスキの大きい技を繰り出して来た場合に、ガードを解除して攻撃することで反撃ができる事が多い。
このほかにも、技の特性として技発生の最初だけ無敵になる技(いわゆる昇竜拳系)やカウンター技等、反撃に転じる事ができる技は数多く存在する。

逆に武道ではどうなのか。

剣道で話を進めると、回避やカウンターといった行動は確かに存在する。
例えば、相手が面を打ってきたとする。
その時に面をガードし、返す刀でそのまま相手の胴を打つ、という技だ。(いわゆる返し胴)
※他にも様々な「返し技」があります

さらに剣道では、相手が出てきたその瞬間に攻撃を繰り出す という技が数多く存在する。
相手が面を打ってくるとする。
相手の竹刀、腕がある程度は上がる。
その腕が上がった瞬間の小手を狙う という技だ。(いわゆる出小手)
※他にも様々な「出技」があります

剣道では全ての攻撃の予兆がどこかの弱点をさらす行動になっているため、
相手が動き始めた瞬間を狙って打ち込む という行動が選択肢に入ってくるのである。

もちろん反射神経でどうこうできる技ではない。

詳しい話は置いておく(制中権の取り合いなど)が、ほぼ全ては読みあいによって生まれる選択肢なのだ。
他の格闘技ではガードのクセなどによって死角を作って攻撃 という方法もあるらしい。

「ゲーム」としての読みあいの楽しさとは?

武道でもゲームでも同じことが言えるが、
この「読みあい」が発生するのはほぼ互角でないと難しい。
ぷよぷよは特に顕著で、3連鎖するのがやっとの初心者と、安定して11連鎖を組める人間が対峙したときには、
相手がどう連鎖をしてくるか、どれくらいの火力を送ると相手が本線を発火するか、セカンド連鎖はどれくらいのものがあれば良いか、といった読みあいは意味がない。
ただ単純に連鎖早出しゲームと化してしまうのだ。
格闘ゲームであれば「どの技からでも安定してコンボを1つは完走できるくらいの安定度」くらいがネット対戦の指標だろうか。

最近ではネットの普及やコンシューマーゲームのトレーニングによって、コンボ順序の指南が多数存在する。
これを練習してマスターすれば、ひとまず読みあいのできるスタートラインに立った、と言える。

だが、これが敷居がとんでもなく高い。

武道であれば数年単位の年月が必要だし、格闘ゲームでもここまで来るのには下手をすると大作RPGを1本クリアするくらいの時間は必要になる。
(そういう意味では3すくみの読みあいが即席でできるジャンケンは画期的だ)
ストリートファイター2等の格闘ゲームは立ち回りを優先しており、コンボ数も多くはなかったのに対し、
コンボを完走させることが優先となる格闘ゲームが増えたことも 敷居を高くする要因なのかもしれない。
最近ではアークシステムワークス社のゲームシステムとして、ボタンを連打するだけでコンボが繋がる というシステムがあり、
ゲームとしての単純さを増強させることで読みあいの楽しさをすぐに味わえるシステムも増えているため、
手早く遊びたいという状況に対してはメーカーからの対応が進んでいる というのが現状だ。

ボードゲーム等ではいかんのか?

確かにボードゲームやシミュレーションゲームでも同じような読みあいが発生するが、思考時間が十分にあるのが大きく異なる。
制限時間がついているものもあるが、だいたい思考時間を待ってくれるプレーヤーが多い印象だ。
武道や格闘ゲームにおける「読みあい」とは、基本的には一瞬で決定する。
そのため、文章化や動画化しにくく、気付いたらとっさに動いていた、あとから考えるとこうだったんだなぁ という事がよくある。
この反射神経で体が勝手に動く といった、一種の過集中状態、フロー状態(ゾーンに入った とも)がとても脳汁の溢れる状態なのだ。
これが自分の思っているようにバッチリきまると最高に気持ちが良い。

で、結局なんなの?

ゲームのために練習が必要、というのは今の時代かなりナンセンスなのかもしれない。
今から全く新しく武道を始めるのも無理があるかもしれない。
いかよろは「チームで共闘したり対戦するのが楽しい」というところがきっかけで集まってきたので、
1人で相手と対戦する という所に少し抵抗があるかもしれない。

だが練習を積んだ上でのライバルと対峙するときの緊張感。
練習を積んだからこそわかるe-sportsプロゲーマーの神がかりなテクニック。
初めは全く勝てない状況だったが勝率が上がるにつれて認知する経験値。
読み合いを勝ち抜いた時の爽快感。

これは耐え難い快感なのだ。
是非一度 酔いしれるステージに上がってきてほしい。
そして一緒にしのぎを削りたい。

ぷよぷよであればいつでも言ってくれれば相手になりたいと思っている。

え?格ゲーはやっぱり敷居が高いからもう少しソフトなのが欲しい?
自分がよく知っているキャラクターのゲームがいい?

最近出たじゃないですか。みんなが知っているキャラクターがたくさん出てくる、
簡単操作で読み合いができるゲームが。

大 乱 闘 ス マ ッ シ ュ ブ ラ ザ ー ズ S P E C I A L
スプリングマン参戦おめでとう!

あと、ARMSもこの読み合いがアツいゲームなので、久しぶりに起動してみはいかがだろうか。