VCV Rackから始めるモジュラーシンセサイザー入門

Last-modified: 2018-12-12 (水) 08:35:16

◆◆モジュラーシンセサイザーとは

世界にはありとあらゆるシンセサイザーがあります。加算合成、減算合成、ウェーブテーブルなど方式も様々。
その中でも音作りの自由さでモジュラーシンセサイザーにかなうものはありません。
ユニークなモジュール群(音源やフィルターなど)を好きなようにケーブルで繋ぎ、音を作り出します。
有名どころはMoog社を筆頭にBuchla社、Arp社、Doepfer社。日本でもヤマハやローランド、コルグなどのメーカーが出しています/した。
モジュラーシンセ自体は減算合成方式のシンセサイザー。減算合成というのは引き算の音作り。
豊かな倍音成分を含んだ原音から特定の周波数を削ることで目的の音を導きます。

◆高価すぎたモジュラーシンセ

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自由は高価なもの。Moog社のMoog Modular IIIは1970年代の日本円にして数百万円。
日本に入ってきたのも2、3台と非常に少ないものでした。
さらには単音しか出ない、電源を入れてから2時間しないとチューニングが安定しないなど問題点は多々。
minimoog(単音のみ)やprophet-5(和音可)などが100万円前後で手に入るようになるまで、シンセサイザーは高根の花でした。
そして80年代に入り安価で安定したデジタルシンセ(初音ミクのモデルになったDX7など)の普及によって、
モジュラーシンセはマニア向けの良く分からんモノとして忘れ去られつつあったのです。
しかし、近年のITによりシンセサイザーをパソコンで使えるようにしたソフトウェアシンセサイザーが登場。
再び日の目を見ることになります。
音作りの自由さはそのままに、実機では不可能だった和音演奏も、好きなだけモジュールを足すこともできるようになったのです!

◆音作りに向いたソフトシンセ Modular V

modular-v-image.png

https://www.arturia.com/products/analog-classics/modular-v
https://beatcloud.jp/product/808
有料無料問わず最高のソフトウェアモジュラーシンセと言えばこれです。最強。
たった2万でテクノ少年少女憧れの音が手に入ります。買うしかない。
「あの曲のあの音」が簡単に作れ、パッチングもしやすく親切。神。
Moog社公認で実機Modular IIIを完全エミュレート。チューニングのブレすらも完全。心臓が破裂する。
ちなみにスプラトゥーン2のフェスステージ機材群の左端に鎮座してるのも実機のModular III C型です。イイダやるね。

adk-2f2.png

◆音楽作りに向いたソフトシンセ VCV Rack

vcv.png

https://vcvrack.com/

今回紹介するのはこちらです。動作も軽快で、非ウィンドウズOSでも使用できます。フリーウェア。MIDIキーボードも必要なし。
その場で複数の音を作り、重ね、曲にすることすら簡単。もはや音楽作成ソフト。
様々なモジュールが有料・無料で公開されています。
まずは公式サイトからインストールしてください。ほかのプラグインのダウンロードは不要です。
 
今回は3つのシンセがそれぞれ自動で演奏されるパッチを作りました。
動画をご覧ください。
各音色を確認してから、3音を重ねます。途中からパラメータを弄って音を変化させました。

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パッチファイルはここからダウンロードできます。

 ※いきなり音が鳴らないよう初期状態でミュートしています。下記『音が出ないときは』を参考にしてください。
基本モジュールであるFundamentalシリーズのみで作っています。
音を弄る楽しさを感じましょう!

〇音が出ないときは

  • マスターセクションのスコープに波形が表示されていない場合
     《ミュート》のランプが消えていませんか?クリックしてオンにしてください。
     《ミキサー》のレベルがゼロになっていませんか? ドラッグして上げてください。
  • マスターセクションのスコープに波形が表示されている場合
     《オーディオ》セッティングを弄ってみてください。
     PCの音声ドライバやスピーカーなどが表示されると思います。ご自身にあったものを選び直してください。
  • それでもだめな場合
     営業時間内にお問い合わせください。

◆頻出用語解説

パッチ解説の前に、音作りでよく使われる言葉を知りましょう。
まず、シンセ音は電気の振動です。バイオリンなどの弦楽器が弦の振動を音とするように、シンセ音は電気の振動です。
電気をどう振動させるか、振動をどう処理するかで音が変わってくるのです。

VCO
ボルテージコントロールド・オシレータ。発振器。声帯
LFO
ローフリケンシーオシレータ。オシレータの1種、可聴域外の非常にゆっくりとした振動を発する。
VCF
ボルテージコントロールド・フィルタ。原音を削って音の形を作る。口
VCA
ボルテージコントロールド・アンプリファイア。アンプとも。音量を大小させる意思。
SEQ
シーケンサーの略。CVシーケンスを組みクロックに合わせ走らせる(演奏する)装置。楽譜。
CV
電圧の指示。コントロールボルテージの略。音程のみならず様々なパラメータを操作する。
V/octやCVinなどに入れる。高い/低い声を出そうという意思。
Gate
発音の指示。CVとGateは一緒に扱われることが多い。 発声しようという意思。
V/oct
1ボルトを12分割したもの。下のド~上のドまで12音1オクターブを制御。

◆◆パッチ解説

まずはどんなパッチなのか先ほどの動画でご覧ください。
本パッチは大きく4つのセクションに分かれています。

vcv1.png
  • マスター
  • シンセ1(規則正しいシーケンス)
  • シンセ2(うなり出す低音)
  • シンセ3(変化の急激なピロピロ)

順に解説します。
電気信号はライトの強弱やオン・オフで表現され、可視化されています。
各モジュールがどのような信号を出しているか、確認するとよりパッチングを理解できるでしょう。

◆マスター

今回こちらの方に音の取りまとめをお願いしました。
各シンセから流れてきた音をミキシングして再生機器に渡すのが役割です。

vcvmast.png

信号は左から右へ。解説も流れにそって左から見ていきます。
 
1.《ミュート》で各シンセ音のオン・オフをコントロール。
 グレードの高いミキサーならミキサー自体にこのミュートスイッチがついているので本来は不要。
 
2.《ミキサー》各シンセの音量を総合的にコントロール。
 各シンセの音量バランスを変えたいというときは1、2、3フェーダーを上げ下げしましょう。
 
3.《オーディオ》PCの再生デバイスにVCV Rackからの音を渡す。
 「INPUTS」1,2の両方に信号が流れているのはライトとレフト、つまりステレオで楽しむため。
 モノラルでよければ1のみに繋ぐ。
 
4.《スコープ》3つの波形が合成された姿を表示。

◆シンセ1(規則正しいシーケンス)

設定されたテンポに従って、休まず音を鳴らし続けるけなげ組。
1つ目のシンセなので詳しく解説します。信号の流れに沿って左から見ていきましょう。

o1.png

1.《SEQ-3》でシーケンスを設定。
 1-8のノブでCVシーケンス設定。 テンポは「Clock」ノブで変更可能、Gateランプの点滅や下部の緑ランプで早さを確認。
 「Step」はマックスの8。1から順番に8まで演奏し、1にループする。
 1行目のCVを音高として《VCO》に渡す。
 2行目のCVを音量変化のため《ミキサー》に渡す。
 
2.《VCO-1》はV/octに入ってきたCVシーケンス(音高指示)に従いSQR波(矩形波)を発する。
 Gate(発声の意思)がないのに発音しているのは《VCO-1》がGate不要で常に音を垂れ流すタイプのVCOのため。
 矩形波をSIN波(正弦波)、TRI波(三角波)、SAW波(鋸波)に繋ぎかえると音がガラリと変わる。
 いちばん大きいノブの「Freq(フリケンシー)」を弄ることで、ベースとなる周波数を変更できる。
 信号は《VCF》へ。
 
3.《LFO-1》は目に見えるくらいゆっくりした信号を《VCF》の「Freq」と2基目《LFO-1》の「FM1」に送り変調している。
 このように、1つの信号を複数のモジュールが参照することもできる。
 こいつ自体は音を出しているわけではない。
 
4.《LFO-2》は《LFO-1》の簡易版、下位互換。《LFO-1》でもちろん代用可能。
 目で見ても遅いと分かるぐらいゆっくりした信号を《VCF》の「Res」に送って変調している。
 
5.《VCF》は《VCO-1》からきた音を削っている。2つのフィルタが同モジュール内に存在。
 「LPF(ローパスフィルタ)」は高い音を削り、低い音(ロー)を通す(パス)。
 「HPF(ハイパスフィルタ)」は低い音を削り、高い音(ハイ)を通す(パス)。
 「LPF」の音はそのまま《ミキサー》の「IN1」へ。「HPF」の音は《ディレイ》に送られている。
 《VCF》の重要パラメータは「Freq」と「Res」の2つ。
  「Freq」はどの周波数以降/以前を削るのかを指定。
  「Res(レゾナンス)」は削られた周波数付近をどれほど強調するかを指定。
 《LFO-1,2》からの信号は「Freq」と「Res」ノブを指定された周期で自動的に上下させている。
 人が定期的にノブを回しても同じ効果が得られるが、いちいち回してられないので《LFO》の周期で自動化している。
 
6.《ディレイ》は入ってきた信号をある程度待たせてから送り出すモジュール。
 《VCF》の「HPF」から来た信号はここでほんの少し待ってから飛び出していく。
 信号をどれだけ待たせるかの「Time」や信号を何回繰り返すかの「FDBK(フィードバック)」が重要なパラメータ。
 ちょっとだけ待った信号は《ミキサー》の「IN2」に入る。
 
7.2基目の《LFO-1》は1基目《LFO-1》のサイン波を「FM1(フリケンシーモジュレーション)」に受け周波数変調。
 そうして得られたサイン波を《ミキサー》の「CV2」に送っている。
 このように、信号を変調し変調された信号でさらにべつのパラメータを変調......という手法はよく使われる。
 
8.《ミキサー》では《VCF》の「LPF」から来た音を「IN1」に、《ディレイ》から来た音を「IN2」に受け、各チャンネルの音量調整。
 総合音量である上部「LEVEL」は《SEQ3》の2行目CVシーケンスに従って自動的に上下。
 同様に「IN2」の音量は2基目の《LFO-1》からの信号で自動的に激しく揺さぶれらている。
 どちらかのチャンネルのフェーダーを下げきってゼロにするとその音は聞こえなくなる。
 最終的に「MIX」された音がマスターセクションの《ミュート》を通りマスター《ミキサー》に入っている。
 
9.《スコープ》でシンセ1の波形を確認。
 マスターセクションに入る前にシンセ1の音を確認。別になくてもいい。

◆シンセ2(うなり出す低音)

特徴はシーケンサー速度の変調により、だんだん詰まってうなりを上げるようなシーケンスです。
音自体は鋸波をLPFにかけただけのシンプルな音。左から見ていきます。

o2.png

1.《SEQ-3》でシーケンス設定。
 シーケンスの速さ「Clock」が《LFO-1》からの信号で変調されている。
 1行目が音高として《VCO-1》へ。
 
2.《VCO-1》はシーケンスに従い、鋸波を《VCF》へ。
 
3-4.《LFO-1》は《LFO-2》によって変調され、その結果を《SEQ-3》の「Clock」へ。
 
5.《ADSR》はGate信号を受けるたび、アタック→ディケイ→サステイン→リリースの順に信号を発生。
 アタックが高いとゆっくり立ち上がり、ディケイが高いとゆっくり減衰し、
 サステインが高いと持続信号があまり弱くならず、リリースが高いと余韻がしっかり残る。
 今回は《LFO-2》のサイン波がアクティブになった瞬間にGate信号が発生。
 サイン波が鳴り続ける限りディケイ→サステインと移行し、消えると緩やかに信号をリリース。
 《ミキサー》の「CV1」に信号を送っている。
 
6.《VCF》で音の整形。今回は「LPF」のみ。変調もなくシンプル。《ミキサー》へ。
 
7.《ミキサー》は《ADSR》に従い音量を変化。
 音が突然鳴りだすかのように変化させる。マスターセクションへ。
 
8.《スコープ》でシンセ2の波形を確認。

◆シンセ3(変化の急激なピロピロ)

特徴は《ディレイ》の「Time」を急激に変化させることで得られるピロピロ音です。
VCO2基から得られた波形を合成したものが音源。他のシンセに比べて音色豊か。左から見ていきます。

o3.png

1.《SEQ-3》でシーケンス設定。
 下部のライトが消えている部分は無視される。
 他シンセが「タタタタタタタタ」に対し「タ・タタタ・タタ」と発音。早すぎてちょっとわからないかも。
 
2-4.《VCO-1》2基のベース周波数を同じにしたうえで、チューニングをワザと少しずらし音の厚みを得る。
 鋸波と矩形波を《ミキサー》で合成。《VCF》へ。
 
5.《VCF》は「LPF」のみ。「Freq」に変調を受けている。
 
6.《LFO-1》はサイン波を《VCF》と《ミキサー》の「CV1」へ。
 さらに同周期で生成されている三角波を「CV2」へ。
 VCOもLFOも複数の波形出口があれば、すべてから信号を出している。
 このように、1つの発振器から別種の信号をとることも可能。
 
7.《ディレイ》はシンセ2の《LFO-1》からサイン波を拝借。ごくまれに「Time」を揺らす。
 このように、横並びのモジュール群から信号を持ってこなくても、別シンセのモジュールから持ってくることも可能。
 画面上にあるモジュールすべてと結線できる。
 
8.《ミキサー》は《VCF》からの音と《ディレイ》の変化音を受けミックス。マスターセクションへ。
 
9.《スコープ》でシンセ3の波形を確認。

◆◆音を楽しむ

モジュラーシンセ入門のソフトシンセ紹介とパッチ解説をお送りしました。
今回紹介したのは基礎モジュール群のみの非常にシンプルなパッチです。
余計なダウンロードもいらないので、ぜひ音を弄る楽しさを味わってもらえればと思います。
 
シーケンサの音高を調整してもいいですし、VCOのフリケンシーを変えても波形を変えても様々に変化します。
どのシーケンサも3行目を使っていないので、その信号をどこかの変調に使うのもグッド。
別行シーケンサのクロックが違うシーケンスを持ってくると、意外な音色変化と出会えます。
LFO群は様々な変調の源なので、これらのフリケンシーを変えるとより劇的な変化が得られます。
大体の仕組みを把握したら4行目以降に新たなシンセを追加するのもいいですね。
ちょうどマスターミキサーの4チャンネル目が空いています。
マスターミキサーのMIXを別立てしたミキサーのIN1に送ることで、さらに空きを追加し、音を重ねることもできます。

vcvmast2.png

公式サイトにメアド登録すると、先人たちが作ったユニークなモジュールがプラグインとしてダウンロードできます。
有料のものもありますが、無料のものだけで十分楽しめるでしょう。
VCV Rackが広げる音のキャンバスはCPUパワーが許す限り無限大です!!!
小生のCore 2 Quadでメモリ4Gマシンではわりとキャンバスがせまい。つらい。
あなたの音を表現しましょう!
面白いパッチができたらぜひ、教えてください。
 
それでは、また会う日まで。
ごきげんよう。