ティアレステラ学園は、高度魔導・魔法学術機関であり、その権威と歴史は王国内で比類なきものとして知られている。創立から400年の歴史を持ち、その間、リフィール王国の魔導士、学者、そして国家を支える人材を輩出してきた。単なる魔法の訓練場に留まらず、学問としての魔導・魔法の真髄を追求し、新たな技術と理論を創造する研究機関としての側面も強く持つ。
本学園はリフィール王国政府の管轄から外れた、独立超高度教育機関で、王国からの干渉を一切受けないのもここの特徴である。
創設と歴史
ティアレステラ学園は、四百年前、何処からともなく現れた教育者でもあったリヴィーナによって創設された。彼女は、魔法が単なる戦闘技術や神秘の力に終わるべきではなく、より体系化された学問として、そして王国全体の発展に寄与する技術として発展させるべきだと提唱し、その理想を実現するために本学園を設立した。彼女は「魔法と知識の融合による次代の創造」を学園の理念として掲げ、魔法の体系化と応用研究の重要性を説きました。現在も、この理念は学園の教育方針の根幹に息づき、全ての学徒に受け継がれている。
校舎図
教育理念とカリキュラム
ティアレステラ学園の教育理念は、「魔法と知識の融合による次代の創造」である。そのため、カリキュラムは魔導・魔法学に偏ることなく、幅広い分野を網羅している。
“・魔導・魔法学”
系統魔法の基礎と応用: 火、水、風、土、光、闇といった基本的な系統魔法から、応用魔法、複合魔法に至るまで、理論と実技の両面から深く学ぶ。
リフィール王国における魔導・魔法体系は、単なる神秘の力に留まらず、国家の発展を支える実用的な技術として進化を遂げてきた。中でも「機械魔法」「科学魔法」「システム魔法」は、互いに密接に連携し、リフィール王国の産業、軍事、そして社会インフラの根幹を形成する、極めて重要な応用魔導技術である。これらの学問は、王国最高峰の学術機関であるティアレステラ学園でのみ、その真髄を体系的に学ぶことができる。
機械魔法 (マキアーニカ)
機械魔法(マキアーニカ)は、魔法の原理と機械工学を高度に融合させた、リフィール王国独自の応用魔導技術である。マナを動力源とし、機械の駆動、複雑な機構の制御、さらには新たな魔導機械の創造を可能にする。王国における産業革命と軍事技術の発展を牽引する中核分野であり、その研究と開発は国家の命運を左右すると言っても過言ではない。ティアレステラ学園は、この分野を体系的に教授する国内唯一の機関である。
“・技術的特徴”
マキアーニカの核心は、マナのエネルギーを機械的な運動エネルギーや電気エネルギーに変換する魔導炉の開発にある。これらは、都市を照らす電力供給から、巨大な飛空艇の推進、精密な自動人形の動作に至るまで、多岐にわたる魔導機械の心臓部として機能する。
また、単なる動力源としてだけでなく、魔法的な制御回路を機械部品に直接組み込むことで、より高度で複雑な動作を可能にする。例えば、自己修復機能を持つ魔導装甲、環境に応じて形態を変化させる可変型兵器、あるいは遠隔からの意思伝達を可能にする魔導通信機など、その応用範囲は無限に近い。
応用例
魔導機関車・飛空艇
大陸間を高速で移動する輸送手段。
“・自動人形(オートマトン)”
労働力、警備、あるいは戦闘に特化した自律型機械。
“・魔導兵器”
従来の兵器を凌駕する破壊力と精密性を持つ火砲、装甲、あるいは特殊兵器。
都市インフラ: 都市の給排水システム、電力供給、通信網、環境制御システムなど。
科学魔法 (サイヴィニカ)
科学魔法(サイヴィニカ)は、物理学、化学、生物学といった現代科学の厳密な理論と、魔法の根源たるマナや次元の不確定な要素を結びつけ、新たな現象を解明し、画期的な技術を開発する革新的な学問である。ティアレステラ学園のみが教授する独自の、そして最先端の学問領域であり、従来の魔法の枠を超えた領域に踏み込むことを可能にする。
“・技術的特徴”
サイヴィニカは、経験則に頼りがちだった従来の魔法とは異なり、科学的な仮説、検証、実験を通して魔法の真理を探求する。例えば、魔法的なエネルギーが物質に与える影響を量子レベルで分析し、その相互作用から全く新しい素材を生み出したり、生命現象におけるマナの役割を生物学的に解明することで、従来の医療では不可能だった治癒や身体機能の改変を可能にする。
この学問は、魔法を「理解し、制御可能な法則」として捉え、再現性と普遍性を持たせることを目指す。その根底には、魔法現象もまた、宇宙の根源的な法則に従うという思想がある。
応用例
・新素材開発
魔法と素粒子物理学を組み合わせた、軽量かつ強度に優れた魔導合金や、特定の魔力を吸収・放出する特殊結晶など。
“・魔導医療”
魔法的な治癒と生体工学の融合による、失われた部位の再生、不治の病の治療、あるいは身体能力の限界を突破する強化医療。
“・エネルギー科学”
マナの直接的な物質変換や、異次元からのエネルギー抽出など、従来の常識を覆す新たなエネルギー源の研究。
“・環境制御”
大気中のマナ濃度を操作し、気象を安定させたり、汚染された土地を浄化したりする大規模な魔法技術。
システム魔法 (ジステニカ)
システム魔法(ジステニカ)は、魔法陣の幾何学的構造、詠唱の音韻解析、マナ流の最適化など、魔法の発動とその効果を合理的かつ最大限に引き出すための工学的アプローチを追求する学問である。個々の魔法の威力向上だけでなく、複数の魔法を連携させ、あるいは大規模な施設全体を魔力で制御するシステムとしての魔法を構築することを目的とする。
“・技術的特徴”
ジステニカは、魔法の各要素を詳細に分析し、最も効率的かつ安定した組み合わせを導き出すことを重視する。例えば、同じ効果を持つ魔法であっても、詠唱のわずかな音程やリズムの違い、魔法陣の線の太さや角度の変更が、その威力や持続時間に大きく影響することを解明し、最適なパターンを構築する。
これにより、複雑な魔法プロセスを簡略化し、熟練を要する魔法であっても、より多くの魔導士が安定して発動できるようにする。また、大規模な魔力制御においては、複数の魔法陣や魔導回路を連携させ、全体として一つの巨大なシステムとして機能させるための設計思想を提供する。
応用例
大規模防衛魔法陣: 都市全体を覆う不可侵の結界、あるいは特定の領域を封鎖する強力な魔力障壁。
“・魔導都市管理システム”
都市の電力、水道、通信、治安維持などを統合的に制御する、自動化された魔法システム。
“・魔導通信網”
遠隔地との間で、安全かつ迅速な情報伝達を可能にする広域魔法ネットワーク。
“・魔導製造ライン”
複雑な魔導機械や部品の製造工程を自動化し、効率と品質を飛躍的に向上させるシステム。
これらの応用魔導体系は、リフィール王国が技術力と国力を保持する為の方法の一つであり、未来の王国の姿を形作る重要な要素となっている。
概念魔法 (メティファニカ)
リフィール王国の魔導技術の頂点に位置するのが、概念魔法(メティファニカ)である。この魔法は、ティアレステラ学園において、全生徒の中から成績上位20名という極めて限られた者だけが習得を許される、まさに「神の領域」に属する禁断の奥義とされる。その影響力と根源的な性質から、他のいかなる魔法とも一線を画す。
概念魔法 (メティファニカ) の概要
概念魔法は、既存の魔法体系の枠を超え、基底概念のあり方を別の方向へ変換・変更することを可能にする。これは、単なる物理法則の操作や現象の改変に留まらず、形而上学的影響範囲に及ぶ、更に根源的かつ不変的な、ありとあらゆる事象を覆す力を持つ。例えば、「時間」や「空間」、「存在」、「因果」、「生命」といった、この世界の根幹を成す普遍的な概念そのものに干渉し、その定義や性質を書き換えることができると言われている。
その発動には、術者の深い洞察力、普遍的な真理への理解、そして強靭な精神力と、膨大なマナの制御能力が求められる。些細な誤謬がありとあらゆる物に根底を揺るがしかねないため、細心の注意と絶対的な正確さが要求される。
概念魔法の技術的特徴と影響範囲
メティファニカは、世界の構造を司る「概念の配列」そのものを読み解き、特定の「概念コード」を操作することで発動する。これは、一般的な魔法が現象の表面を操作するのに対し、概念魔法は現象を規定する根源的な法則そのものに働きかける行為である。
“・基底概念の変換・変更”
「光は速く進む」という概念を「光は遅く進む」へと変換したり、「物体は重力に引かれる」という概念を「物体は重力から解放される」と変更したりすることが可能となる。これにより、従来の物理法則や常識を覆す現象を意図的に引き起こすことができる。
“・根源的かつ不変的な事象への干渉”
時間の流れを加速・減速・停止させる、空間の連続性を歪める、存在しないものをあるものとする、あるいは逆に存在を消滅させる、といった、哲学的な領域にまで踏み込む影響を及ぼす。これは、因果律そのものに干渉し、未来や過去の事象にまで影響を与える可能性を示唆している。
“・広範な影響力”
その性質上、概念魔法の影響は特定の対象に留まらず、広範囲に、時には世界全体に及ぶ可能性がある。例えば、「生命」の概念を操作すれば、特定の種の絶滅を引き起こしたり、新たな生命の形態を生み出したりすることも理論上は可能となる。この広範な影響力故に、概念魔法はありとあらゆる分野での応用が考えられる。
概念魔法の応用と使用例
概念魔法は、その圧倒的な力ゆえに、通常は厳重に管理され、使用は極めて限定される。しかし、その広範な影響力から、理論上は以下のような応用が考えられる。
“・国家防衛”
敵対勢力の「戦意」の概念を消滅させる、あるいは「武器」の概念を「無害なもの」に変更することで、戦わずして勝利を収める。
“・環境制御”
特定地域の「不毛」の概念を「豊穣」へと変換し、一瞬にして広大な農地を出現させる。
医療・生命科学: 「病」や「死」の概念を操作し、不治の病を根絶したり、寿命そのものを延長したりする。
“・資源問題”
「希少性」の概念を操作し、特定の資源の「豊富さ」を創出する。
しかし、これらはあくまで理論上の可能性であり、実際にはそのリスクと倫理的問題から、ごく一部の限られた状況でのみ使用が検討される。
対処法と危険性
概念魔法の最大の特徴は、その影響を概念魔法でしかその正を負に変更するしか対処法が無い点にある。物理的な防御や他の系統魔法では、概念的に改変された現実に対抗することは不可能である。例えば、「鉄は融ける」という概念を書き換えられた場合、いかなる耐熱魔法や物理的な冷却装置も意味をなさない。この特性が、概念魔法を究極の切り札であると同時に、最も危険な禁断の力たらしめている。
万が一、悪意を持った者が概念魔法を行使した場合、世界の秩序そのものが崩壊する可能性すら孕んでいる。そのため、ティアレステラ学園でこの魔法を学ぶ者には、最高の知性と同時に、最も強固な倫理観と責任感が求められるのである。彼らは、世界の均衡を保つための「最後の防衛線」として、その力を厳しく制御する使命を負っている。
その他学術分野
学生は魔導・魔法学の他に、以下の分野も必修として深く学ぶ。
経済学: 王国の経済構造、交易、財政、市場原理などを学び、魔導技術が社会にもたらす経済的影響を理解する。
機械工学: 単なる機械魔法の知識に留まらず、機械の設計、製造、素材科学など、基礎的な機械工学の知識を習得する。
歴史学、哲学、政治学: 広く人文科学を学ぶことで、深い洞察力と倫理観を養い、国家や社会における自身の役割を理解する。
学生生活と進路
ティアレステラ学園の学生数は、リフィール王国屈指の規模を誇り、常時1万人の学生が在籍している。しかし、その入学は極めて困難であり、例年、受験倍率は非常に高く、選抜されたごく一部の優秀な才能のみが入学を許される。
学園で学んだ学生は、そのほとんどが卒業後に上級魔導士、あるいはその中でも特に優れた才能を持つ者は特級魔導士へと昇格する。彼らは王国の中枢を担う存在となり、王宮魔導師団、王立研究所、戦略魔導局、主要都市の魔導行政官、あるいは各地の教育機関や大企業の幹部など、多岐にわたる分野で活躍する。彼らの存在が、リフィール王国の魔導技術と国力の発展を牽引していると言っても過言ではない。
施設と環境
学園の敷地は広大で、最新の魔導研究設備を備えた研究棟、各種系統魔法の演習場、大規模な魔法陣の展開が可能な実習フィールド、膨大な蔵書を誇る大図書館、そして学生寮や商業施設などが整備されている。学園都市と見紛うほどの充実した環境が、学生たちの学習と研究を強力に支援している。
ガルムラクトン転歪魔導軸
ガルムラクトン転歪魔導軸は、ティアレステラ学園高等魔導技術局が管理・研究する空間転移技術体系の一つ。特定の条件下で発生する「意図的半形而上学事象」を利用し、現在位置から指定した座標まで、物理的媒質を介さず瞬時に移動する超高等魔導である。
その起動原理の特異性と、術者への極大な負荷から、学園内でもごく一部の認可を受けた者、あるいは特殊な素養を持つ者のみが限定的に使用を許可されている。
概要
ガルムラクトン転歪魔導軸の核心は、異なる種族が持つ固有のマナ周波数の「位相干渉」にある。具体的には、この世界に存在する知的生命体のうち、リンス人とアウラ人がそれぞれ発する正反対の性質を帯びたマナ周波数が、時空の一点で交差する際に生まれる莫大なエネルギーを利用する。
この交差地点は、「ポイントカルネアディス」と言われる。このポイントを人工的に生成し、制御下に置くことで、空間そのものを歪曲・短絡させ、理論上あらゆる距離をゼロにする瞬間的な「道」を創り出すのが本技術の骨子である。
原理
マナ周波数と位相干渉
魔導の根源たるマナは、全ての生命および事象に固有の周波数を持つエネルギーとして偏在する。通常、これらの周波数が干渉することはあっても、互いを完全に打ち消し合う、あるいは相乗的に増幅させるような特異な関係性は見られない。
しかし、リンス人とアウラ人のマナは、その起源からして特異な対立構造を持つとされている。
'’・リンス人のマナ (正周波数)''
「存在的」「構築的」な性質を持ち、空間を「肯定」し、物質を「固定」する方向へ作用する正の位相を持つ。その周波数は極めて安定しており、万物をあるがままに維持しようとする力が働く。
・アウラ人のマナ (負周波数)
「非存在的」「解体的」な性質を持ち、空間を「否定」し、事象の結びつきを「解放」する方向へ作用する負の位相を持つ。その周波数は常に揺らぎ、不確定な状態にある。
これら二つの対極的なマナ周波数が、特定の条件下で、1:-1 の完全な比率で衝突した瞬間、両者の性質は互いを打ち消し合い、物理法則が一時的に無効化されるゼロ領域、すなわち「形而上学的真空状態」が発生する。これが「ポイントカルネアディス」である。
ガルムラクトン転歪魔導軸は、この「無」の性質を帯びた時空の裂け目を利用し、出発点(A)と到達点(B)の空間情報を重ね合わせ、距離の概念を消滅させることで転移を達成する。
ポイントカルネアディス
ポイントカルネアディスは、単なるエネルギーの衝突点ではない。正と負のマナ周波数が完全に対消滅することで生まれる、この宇宙の法則から逸脱した「特異点」である。その性質は以下のように定義される。
・絶対的非干渉性
ポイント内部では、時間、空間、重力、因果律を含む全ての物理法則が適用されない。
・情報的等価性
ポイントを介して繋がれた二つの座標は、情報的に「同一」の存在として扱われる。これにより、移動というよりは「存在位置の再定義」に近い現象が引き起こされる。
・極短命性
この状態は極めて不安定であり、生成から 10^{-23} 秒というプランク時間に近い短時間で崩壊し、元の時空構造へと復元される。
この一瞬に満たない時間を捉え、転移シーケンスを完了させることが、本技術の最大の難関である。
転界領域
転界領域は、ポイントカルネアディス生成の直前段階で観測される予備現象である。リンス人とアウラ人のマナ周波数が高速で目標座標に収束していく過程で、両者のエネルギーが混ざり合うことなく、しかし互いに強く引かれ合うことで時空に形成される三角錐状の歪み地帯を指す。
この領域の大きさは、マナ周波数の収束速度 v に比例し、時空定数 \kappa を用いて以下の関係式で表される。
V_{tr} = \frac{4}{3}\pi (\kappa v)^3
ここで V_{tr} は転界領域の体積を示す。収束速度が光速に近づくほど、転界領域は広大となり、内部では時間の遅延や空間の圧縮といった相対論的な現象が顕著に現れる。
技術的応用と課題
・応用
超長距離瞬時移動
大陸間や、さらには衛星軌道上への人員・物資の輸送に応用研究が進められている。
・戦術的利用
戦場における部隊の緊急展開や離脱、敵陣中枢への奇襲など、軍事魔導としての価値は計り知れない。
・次元障壁
ポイントカルネアディスを意図的に不完全に生成することで、あらゆる物理的・魔導的攻撃を無効化する防御壁として利用する研究も存在する。
課題
術者の素養
リンス人またはアウラ人の血を引く者、あるいはそれに準ずる極めて稀なマナ特性を持つ者しか術者になれない。
・制御の困難性
転界領域の安定化と、ポイントカルネアディスの精密な座標設定には、極めて高度な演算能力と精神力が要求される。わずかな計算ミスが時空災害に繋がる。
魔大陸の利権
王立異界安全保障高等研究所・公式提言書
文書番号:R-AES-DOC-87-ALMS-4
発行日:XXXX年X月XX日
機密レベル:最高厳秘(コード:アヌヴィニウス)
宛先:リフィール王国・最高安全保障評議会 御中
発行者:王立異界安全保障高等研究所 所長 シュナイダル・ハーヴェストン
確認者:リフィール王国 国防大臣 エシュリナ・アウロラシエン・サンフィルデン
件名:高次位相領域「深郢大陸」(通称:魔大陸)及びその統治存在に関する脅威度分析と、初期接触方針についての提言
1. 序論:認識の転換点
本提言は、断片的な観測情報と、ティアレステラ学園内部からの非公式情報を基に、我々の既知宇宙の外縁、あるいはその「外部」に存在する可能性が極めて高い、新たな脅威、あるいは新たな理について報告し、国家としての基本方針を策定する必要性を訴えるものである。
これまで「魔大陸」とは、古代伝承に語られる単なる幻想、あるいは高レベルの魔導師が精神世界に垣間見る幻影の類とされてきた。しかし、近年の「転界領域」に関する研究、および、特定人物、ティアレステラ学園理事長リヴィーナの経歴を洗う中で、この「魔大陸」が「深郢大陸」という固有名を持つ、実在の、そして極めて特異な物理法則下にある“概念大陸”であるという、看過し得ない仮説が立ち上がった。
本報告は、この仮説を暫定的に「真」と仮定した場合の、国家安全保障上に発生しうる未曾有の事態を想定し、その備えを提言するものである。
2. 分析:既知情報からの推論
2.1. 「深郢大陸」アクセス不能な版図
当該大陸は、我々の宇宙が準拠する物理定数や因果律が適用されない高次位相領域に存在する。飽和したマナそのものが結晶化し、大地を形成しているこの場所は、存在そのものがエネルギーであり、エネルギーそのものが法である世界と推察される。 重大なのは、この地への到達手段が「転界領域」を経由する以外になく、その航法は統治存在たる「メディストラシエン楽園共通胎帝国連邦」によって完全に掌握されているという点である。これは、我々が彼らを観測・干渉することがほぼ不可能である一方、彼らは任意に我々の王国へ現出可能であるという、致命的な非対称性を意味する。
2.2. 統治者「リヴィーナ」理解不能な君主
最大の脅威因子は、その帝国の女帝が、我々の世界では一教育機関の長「リヴィーナ」として振る舞っているという事実である。彼女が統治する帝国は、「導克超進主義」なるイデオロギーを掲げ、停滞を悪、進化を善とする、無限の自己超越を宿命とした文明であると分析される。 彼女が持つ技術体系は、単なる科学技術や魔導の延長線上にはない。それは、生命、空間、因果律そのものを設計図に従って「作り変える」ための“創世の技術”である。そのような存在が、なぜ我々の世界で「学園の理事長」という限定的な役割に甘んじているのか。その意図は完全に不明であり、この不可測性こそが本件を地政学的リスクから存在論的リスクへと昇華させている。
2.3. 「共通胎」汚染する概念
帝国の根幹を成す「共通胎」という社会システムは、個人の意識が帝国全体と常時接続された、一種の集合精神体である。これは、軍事力による侵略以上に危険な、「概念汚染」のリスクを我々に突きつける。 もし、この「共通胎」の思想が個人の苦悩を消し去り、大いなる目的に帰属する安らぎが我々の社会に流入した場合、自由や個人の尊厳といった我々の文明の根幹を成す価値観は、内側から静かに侵食され、崩壊する危険性を否定できない。
3. 仮想的脅威評価
本研究所は、現段階の情報に基づき、「メディストラシエン楽園共通胎帝国連邦」の仮想脅威レベルを、我が国の規定において最高の【カテゴリー・Ω】として暫定的に認定する。
軍事的脅威:
測定不能。彼我の技術体系が質的に異なりすぎるため、比較自体が無意味である。我々の最大戦力が、彼らにとっては観測対象ですらない可能性がある。
政治的脅威:
現時点では低い。しかし、リヴィーナ理事長の一存で、王国の政治バランスは瞬時に崩壊しうる。
文明的脅威:
計り知れない。彼らの存在は、我々の哲学、宗教、社会、そして生命の定義そのものへの挑戦である。
4. 緊急提言
以上の分析に基づき、最悪の事態を回避し、国家としての存続を図るため、以下の三段階の方針を提言する。
提言1:【プロトコル・サイレンス(完全沈黙)】の発令
現時点では、いかなる形であれ、帝国およびリヴィーナ理事長への積極的干渉は悪手である可能性が極めて高い。本件に関する全ての情報を最高機密に指定し、関連する全ての研究・調査活動を完全に水面下へ移行させる。公には「魔大陸」の存在を否定し、リヴィーナ理事長を「特異な才能を持つ教育者」以上の存在として扱ってはならない。我々は、彼らにとって「まだ知るに値しない、静かな隣人」で居続けるべきである。
提言2:【対抗概念研究部門(コード:アナムネシス)】の設立
彼らの脅威の本質が「創世の技術」と「概念汚染」にある以上、我々もまた、物理的な防衛だけでなく、“概念”の防衛を研究せねばならない。本提言の核心は、魔導と科学、哲学、心理学を横断する特別研究部門の設立である。この部門の任務は、帝国の「導克超進主義」を分析し、それに対抗しうる我々自身の文明的価値、自由、多様性、個人の尊厳を、より強固な哲学的・魔導的理論として再武装させることにある。
提言3:【観測者Σ(深淵の番犬)計画】の準備
「沈黙」が破られる日に備え、帝国との唯一の接点であるティアレステラ学園に対し、極めて受動的かつ長期的な情報収集を行う専門チームを編成する。このチームの目的は、帝国の意図を探ることではなく、彼らが行動を起こす際の「予兆」を、たとえ僅かでも早く察知することにある。リヴィーナの言動、学園の教育方針の微細な変化、転界領域から漏れ出すエネルギーパターンの変動など、あらゆる情報を統合・分析し、我々が「沈黙」を破らざるを得ない最後の瞬間を判断する材料とする。
5. 結論
我々は、嵐の前の静けさに立っているのかもしれない。あるいは、我々の存在は、巨大な実験場を観察する者の目には、まだ留まってすらいないのかもしれない。 いずれにせよ、我々の取るべき道は一つである。それは、我々の文明が持つ可能性を信じ、足元を固め、来るべき「対話」あるいは「対決」の日に備え、静かに、しかし強靭に、我々自身の理を守り抜くことである。
以上。本提言が、王国の百年、千年先の未来を左右する一助となることを願う。
あそこは通常の法則では到達が不可能な超事象域であり、非現実空間でもあるわ、
でもね?そこで得られるリソースは学園の……いや、新たな帝国の発展に強く寄与すると思うのよ
| 国歌 | 萌牙の深明脈 |
|---|---|
| 標語 | 超律と朝焼け |
| 公用語 | 淵明共導胎語 |
| 首都 | 永胎都市ヴァーギナスアムダ |
| 最大都市 | 動殻楼都ルミアル |
| 建国 | 不明 |
| 通貨 | 共導胎通貨/リーヴル |
| 民族 | 魔灰人種(アヌェオル人、ヴァルァギナ人、ギビードィ人) |
| 思想 | 導克超進主義 |
| 体制 | 絶対君主制 |
| 君主 | 女帝リヴィーナ・メディストラシエン・レムメリア |
| 面積 | 56,899,371㎢ |
| 人口 | 不明(一説には膨大、あるいは定義不能) |
| 識字率 | 不明(従来の文字概念が適用できないため) |
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-概要-
メディストラシエン楽園共通胎帝国連邦は、既知の物理宇宙の理から外れた場所に存在する、超高度魔導文明国家である。
その国土は、高密度なマナが飽和・結晶化して形成された大陸棚そのものが一つの概念として存在する「深郢大陸」、通称「魔大陸」である。この大陸への到達は、空間転移技術「ガルムラクトン転歪魔導軸」によって生成される転界領域を通過し、さらにそこから特殊な航法を用いる以外に手段はなく、外部世界からは完全に隔絶されている。
帝国は、ティアレステラ学園の理事長であるリヴィーナ・メディストラシエン・レムメリアが、唯一無二の女帝として君臨する絶対君主制国家である。
-国号と理念-
・共通胎
帝国の国号に冠される「共通胎」は、単なる比喩表現ではなく、国家の根幹を成す存在様式そのものを指す。帝国民である魔灰人種は、女帝リヴィーナを文字通り「母体」とする一つの巨大な生命体、あるいは一つの共有意識体として機能しているとされる。個人の自律性は認められているものの、その思考や目的の根源は常に女帝と、そして帝国全体と接続(シンク)している。
このため、帝国に「裏切り」や「内乱」といった概念は存在せず、国民全てが女帝の意思を寸分の狂いなく実行する、究極の統制社会を形成している。
・導克超進主義
帝国唯一の国家思想である「導克超進主義」は、女帝リヴィーナによってもたらされた「導き」に従い、森羅万象のあらゆる限界を「克服」し、無限の「超常的進化」を遂げることを至上命題とする、一種の科学的・魔導的宗教である。
この思想において、「停滞」は最大の罪であり、「未知」は克服すべき対象である。魔導、科学、そして物理法則を書き換える「超事象」の探求と融合を神聖視し、その実践こそが帝国と女帝への絶対的な奉仕であると定められている。
標語である「超律と朝焼け」とは、女帝が定めた絶対の秩序(超律)の下で、帝国が迎える永遠の黎明(朝焼け)を意味する。
-地理とアクセス-
帝国の版図である深郢大陸は、マナそのものが固体化した結晶質の台地であり、大地そのものが脈動し、都市や自然環境を自己生成・自己修復する特性を持つ。空には物理的な恒星は存在せず、大陸核から放たれる超高濃度のマナ光が大気を満たし、常に白夜のような光景が広がっている。
・永胎都市ヴァーギナスアムダ
帝国の首都。帝国の中枢神経とも言える場所に位置し、都市全体が女帝リヴィーナの精神と直結した巨大な生体器官である。都市の建造物やインフラは絶えず成長・変容を繰り返している。モノクロのロココ調建築物が都市全体を覆っている為に、「白夜の聖都」とも呼ばれる。
政務に関する機関が集中するこの都市ではアヌェオル人の人口比率が極めて高い。
・動殻楼都ルミアル
最大の都市であり、巨大な移動要塞。その名の通り、山脈のごとき動く殻の上に幾千もの楼閣が立ち並び、大陸を巡回しながら資源採掘や未踏領域の開拓、防衛を担う。
この大陸へのアクセスは、転界領域という時空の狭間を正確に航行し、帝国の発する特殊なマナ周波数に応答しなければならず、許可なくして帝国に辿り着いた者は歴史上存在しない。
-体制と社会-
女帝リヴィーナによる神格化された絶対君主制が敷かれている。彼女の言葉は法であり、物理法則であり、帝国の真理そのものである。議会や官僚機構といったものは存在するが、それらは全て女帝の意思を効率的に具現化するための「端末」に過ぎない。
-魔灰人種-
帝国の民は「魔灰人種」と総称され、その身体はマナと親和性の高い特殊な元素で構成されているため、肌や髪が灰白色を帯びている。主に三つの主要な種族に大別されるが、これは社会階級というよりは、共通胎における機能的役割分担に近い。
三つの種族は何れもマナ周波が中の値に位置する為に、魔導や超導力のコントロールに長けている。
・アヌェオル人
低身長で黒寄りの灰色の肌と、群青色に光る瞳が特長。
主に知識探求や魔導研究、国家運営の設計を担う。極めて高い知性を持ち、導克超進主義の理論的支柱を形成する。
・ヴァルァギナ人
屈強で豊満な肉体と灰白色の肌、緋色の瞳が特長。
軍事、防衛、大陸の制圧といった物理的実行力を担う。屈強な肉体と戦闘能力を持ち、女帝の「剣」として機能する。
非戦時下だと娼婦になる物が多い。
・ギビードィ人
平均的な体格と白い肌、金色の瞳が特長。
生産、建築、インフラ維持など、帝国の基盤を支える労働を担う。驚異的な創造力と忍耐力を持ち、帝国の「手足」として機能する。
工芸品職人や芸術家になる者も多い。
これら魔灰人種は、かつては原始的な魔導文明しか持たなかったが、突如として降臨したリヴィーナから「魔導」と「超導」の知識と「共通胎化」を与えられたことで、僅かな期間のうちに現在の超高度文明を築き上げたとされている。
-ティアレステラ学園との関係-
メディストラシエン楽園共通胎帝国連邦の絶対君主であるリヴィーナが、なぜ外部世界で「ティアレステラ学園の理事長」という仮の姿で活動しているのか、その真意は帝国最高機密であり、誰にも明かされていない。
一説には、停滞した外部宇宙の観測、新たな進化の可能性を秘めた才能(特に特異なマナ周波数を持つリンス人やアウラ人など)の収集、あるいは遥かなる未来に計画されている帝国の「次なる進化」のための布石であるなど、様々な憶測が囁かれているが、そのどれもが確証を得ていない。
彼女の存在そのものが、ティアレステラ学園が内包する最大の謎である。
この事を唯一知っているエシュリナは、「これらの世界のリソースをリフィール王国領内に持ち込む事は王国の権威に対する明らかな挑戦であり容認は出来ない。しかし、ここで得られるリソースが魅力的なのも事実であり、一概に否定する事も、停滞的で愚かな行為である。よってこの大陸での利権をある程度こちらに出しめれば学園の今後の行いには目を瞑るし、支援も約束しよう」
この要求に対してリヴィーナは静かに承諾した。
-アウロラシエン伯爵最大の秘宝-
大アウストラシア帝国州は、高次位相領域「深郢大陸(魔大陸)」に存在する、リフィール王国元第二国王エシュリナ一世、またの名をアウロラシエン伯爵が私的に所有する植民地国家である。
体制としては、総督であるエシュリナ個人の強力な指導力によって国家の発展を推進する「開発独裁」を採用。深郢大陸のもう一つの大国、メディストラシエン楽園共通胎帝国とは全く異なる理念を掲げながらも、奇妙な共存関係を築いている、魔大陸における第三勢力である。
-成立と経緯-
帝国州の歴史は、その創設者たるエシュリナ一世の野心と行動力そのものである。西方開拓作戦の失敗とリフィール王国の王位を放棄し、一度は隠遁生活を送るも、第二国王への復位と更には国防大臣に就任し、再び政界に返り咲くが、政府内から煙たがられていた彼は軍内の意思決定に殆ど関与せず、持て余した時間を軍内所蔵の神話調査文書を読む事に費やした。その中でも、世界の既成概念の外側にある未知の領域、魔大陸の存在を確信し、その到達を生涯の目標とした。
その手段として彼が目を付けたのが、ティアレステラ学園が秘匿する超高等魔導「ガルムラクトン転歪魔導軸」であった。エシュリナは長年にわたり学園に密偵を潜入させ、断片的な情報を収集・解析。ついに独自の理論体系を再構築し、魔大陸への航法を確立するに至った。これは、女帝リヴィーナの許可なくして魔大陸に到達した、歴史上唯一の事例である。
彼が降り立ったのは、メディストラシエンの版図から外れた、広大な未開の地であった。そこで彼は、メディストラシエンの「共通胎」システムに組み込まれていない、原始的な生活を営む魔灰人種の部族と接触。彼らに文明と秩序をもたらし、人心を掌握することで、一代にしてこの巨大な植民地国家を築き上げた。
-統治と理念-
開発独裁と多様文化主義
エシュリナの統治は、絶対的な権力を持つ彼自身が、国民の生活水準向上と国家の急速な発展を牽引する「開発独裁」である。しかしその根底には、メディストラシエンの画一的な全体主義とは真逆の「多様文化主義」が存在する。
彼は、支配者として君臨するだけでなく、現地住民である魔灰人種の文化や価値観を深く尊重し、自身が率いてきたアウラ人の文化との積極的な交流を推進。お互いの言語、芸術、生活様式を学び、融合させることで、全く新しい独自の文化圏を創出することを目指している。この姿勢は、文明をもたらした「解放者」として、魔灰人種から絶大な支持と好意を得る要因となっている。
-アーシェル・アヌェエラ ― 共存の象徴-
エシュリナの理念を最も強く象徴するのが、アヌェオル人の女性アーシェル・アヌェエラとの親密な関係である。彼女は、エシュリナが最初に接触した部族の長であったとされ、現在は彼の最も信頼する側近であり、公然のパートナーである。
統治者(アウラ人)と被統治者(魔灰人種)という垣根を超えた二人の絆は、帝国州が掲げる多様文化主義の生きたシンボルとなっている。この個人的関係が、後に述べるメディストラシエンとの外交において、極めて重要な緩衝材の役割を果たしていると分析する者もいる。
-経済と資源-
-黒鋼樹と鈍色の大地-
帝国州の経済基盤は、国歌の名にもなっている「鈍色の大地」に広がる「黒鋼樹」の超巨大森林によって支えられている。
この樹木は、体内に高純度の金属を含有するという極めて特異な性質を持つ。
・燃料資源
伐採した黒鋼樹は、極めて高い燃焼効率を誇るバイオ燃料として利用される。
・金属資源
燃焼後には、不純物が燃え尽きた高品質な金属塊が残る。これは精錬の手間をほとんど必要とせず、そのまま工業製品や建築資材へと加工できる。
この無限に近いサイクルを持つ資源のおかげで、帝国州は驚異的な速度でインフラ整備と工業化を達成した。
-宝鉄樹-
宝鉄樹は、大アウストラシア帝国州の「鈍色の大地」に広がる黒鉄樹の森の中に、極めて稀に発見される巨大老木である。
黒鉄樹が数百年、あるいは千年以上の歳月と、深郢大陸特有の超高濃度マナを浴び続けることで、その生命活動の最終段階として変質した特殊個体を指す。その樹幹には、鉄やタングステンといった汎用金属が主である通常の黒鉄樹とは比較にならないほど、金や白金、さらには未知の超伝導性を持つ貴金属が凝縮されており、一本あたりの資源価値は文字通り天文学的な額に達する。
この樹木の存在こそが、帝国州の通貨「リーヴル」の価値を担保する根源であり、総督エシュリナが推し進める国家開発の最大の切り札とされている。
■生態と特徴
・老成変質
宝鉄樹は、独立した種ではなく、黒鉄樹が特定の条件を満たした際に起こる「老成変質」によって生まれる。そのプロセスは、現代の魔導科学でも完全には解明されていないが、以下の仮説が有力とされている。
・マナ飽和と内部錬金
黒鉄樹は、その生涯を通じて大地から金属元素とマナを吸収し続ける。樹齢が一定の閾値(推定800年以上)を超え、体内のマナ貯蔵量が臨界に達した個体は、生命維持のための代謝システムが変質。樹木そのものが、マナを触媒とする一種の生体錬金炉(バイオ・アルケミーリアクター)と化す。
・貴金属の生成
この状態に陥った黒鉄樹は、体内に蓄積した鉄などの卑金属を原子レベルで変換し、金、白金、ロジウム、イリジウムといったより安定し、より魔導親和性の高い貴金属へと「成長」させ始める。
この変質は不可逆であり、一度宝鉄樹となった個体は、その生涯を終えるまで貴金属を生成・蓄積し続ける。
・外見的特徴
宝鉄樹は、その多くが周囲の黒鉄樹を遥かに凌駕する巨木であり、森の中でも一際強い存在感を放つ。
・樹皮
通常の黒鉄樹の鈍い鋼色とは異なり、その表面には、まるで樹液が滲み出して固まったかのように、純度の高い白銀の筋が無数に走っている。月明かりやマナ光を浴びると、この銀の葉脈が淡く輝き、極めて幻想的な光景を創り出す。
・葉
葉にも微細な金の粒子が含まれており、光の角度によっては黄金色のかすかな光沢を放つ。
・木材
伐採後の木材は、断面に貴金属が美しい模様を描き出しており、建材や燃料としてだけでなく、最高級の工芸品や宝飾品の素材としても取引される。
・経済的・戦略的価値
宝鉄樹一本が持つ資産価値は、小国の国家予算を数十年分も上回るとされ、その発見は帝国州の経済を根底から揺るがす一大事として扱われる。
・国家による厳重管理
宝鉄樹の捜索、発見、伐採は、全て総督府の直轄事業であり、弁務官リシュャタ・アルヴュスが率いる特別部隊によって厳重に管理される。発見された宝鉄樹の位置情報は国家最高機密とされ、その存在を知る者はごく一握りに限られる。
・経済的基盤
宝鉄樹から得られる莫大な貴金属は、通貨「リーヴル」の絶対的な価値の裏付けとなっている。また、その売却益は、新たな都市の開発、軍備の増強、そして外部世界への諜報活動など、総督エシュリナのあらゆる政策の資金源となる。
・外交カード
宝鉄樹から精製された貴金属インゴットは、メディストラシエンに対する極めて有効な外交カードとしても機能する。女帝リヴィーナが統治する超高度文明にとっても、この純粋かつ高密度なマナ親和性を持つ貴金属は、無視できない価値を持つためである。
・文化的意義
魔灰人種、特に森と共に生きてきたギビードィ人の間では、永い時を生きた宝鉄樹は「大地の精霊が宿る神木」として畏敬の念を集めている。彼らは、宝鉄樹を「黒森の仙老」と呼び、その前では祈りを捧げ、みだりに近づくことを戒めてきた。
総督エシュリナは、多様文化主義の理念に基づき、この信仰を尊重している。そのため、宝鉄樹の伐採にあたっては、必ずギビードィ人の神官を招き、森への感謝と再生を祈る厳粛な儀式が執り行われる。これは、国家の発展という現実的な要請と、現地文化への敬意という理想を両立させようとする、エシュリナの統治哲学の象徴的な一場面である。
しかし、その天文学的な価値ゆえに、将来的に資源開発のペースが加速した場合、この文化的な配慮と経済的な要請との間で深刻な対立が生まれる可能性も、一部では懸念されている。
-黒燃樹-
黒燃樹は、大アウストラシア帝国州の北部一帯に広がる広大な森林、通称「黒き大森林(シュバルツヴァルト)」を形成する、極めて重要な針葉樹である。
その樹木全体が、高密度の炭化水素化合物を豊富に含有しており、深郢大陸における石油の代替となる、半永久的なエネルギー資源として帝国州の産業と文明を根底から支えている。その名の通り、燃焼させると黒い煤を伴いながら、凄まじい熱量の炎を上げるのが特徴である。
黒鉄樹が帝国州の「骨格(マテリアル)」であるならば、この黒燃樹は国家を発展させる「血液(エネルギー)」であり、総督エシュリナが進める開発独裁体制の物理的な原動力となっている。
■生態と分布
・分布域と北部の環境
黒燃樹の森は、帝国州の広大な北部領域に、他の植生を寄せ付けない圧倒的な規模で広がっている。この地域は、古代の有機物とマナが混ざり合い、長い年月をかけて変質した、黒く油分を帯びた特殊な土壌に覆われている。黒燃樹はこの「油母土壌(ゆぼどじょう)」に深く根を張り、大地に眠る炭化水素化合物を直接吸収し、体内でエネルギーとして再構成・貯蔵する唯一無二の生態を持つ。
その結果、森全体が常に石油やコールタールに似た、独特の匂いに満たされている。
・身体的特徴
形状: 外見は、外部世界のモミの木やトウヒによく似た、雄大な円錐形の樹形を持つ針葉樹である。樹皮は黒曜石のように黒く、ゴツゴツとしている。
・樹高
成長が非常に速く、平均樹高は40~50メートルに達する。森林の中心部には、樹齢を重ねた樹高80メートルを超える巨木も珍しくない。これらの巨木群は、その威容から「北の黒き尖塔群」とも呼ばれる。

黒燃樹のスケッチ
・無尽蔵の資源
北部の大半を覆うその圧倒的な個体数と、凄まじい成長速度により、資源が枯渇する心配は当面ないとされる。帝国州のエネルギー需要を、この森林だけで永続的に賄うことが可能と試算されている。
・資源としての利用
黒燃樹の最大の特長は、木材(固体燃料)と樹液(液体燃料)の双方が、極めて高いエネルギー還元率を誇る点にある。これにより、帝国州では用途に応じたきめ細やかなエネルギー供給が実現している。
・樹液:「黒油(こくゆ)」
樹皮に傷をつけると、粘性の高い黒い樹液が滲み出す。これは「黒油」と呼ばれ、非常に引火性の高い液体燃料として重宝される。
・特性
液体であるため、運搬や貯蔵、出力調整が容易。精製することで、様々な性質を持つ燃料へと分離することも可能。
・主な用途
内燃機関の燃料(装甲車両、貨物輸送車など)
小型魔導ジェネレーターの動力源
照明用のランプ燃料
魔導化学における触媒・溶剤
・木材:「黒燃石炭」
黒燃樹の木材は、乾燥・加工を経て、安定した高火力の固体燃料「黒燃石炭」として利用される。
・特性
一度火が着くと、長時間にわたって安定した高温を維持し続ける。単位体積あたりのエネルギー量は黒油に劣るものの、総熱量とコストパフォーマンスに優れる。
・主な用途
リーヴガイストの金属精錬炉(黒鉄樹の加工)
都市全体の電力を賄う大規模火力発電所
寒冷な北部地域における地域暖房
蒸気機関の燃料
・経済的・戦略的意義
黒燃樹の存在は、大アウストラシア帝国州に計り知れない恩恵をもたらしている。
完全なエネルギー自給
外部からのエネルギー供給を一切必要とせず、国家の産業と民生を維持・発展させることが可能。これは、他勢力からの経済的干渉を完全に排除できることを意味する。
・産業の原動力
最大都市リーヴガイストの工業地帯は、北部から輸送される黒燃石炭によって稼働している。黒鉄樹という優れた素材があっても、それを加工する莫大なエネルギーがなければ、帝国州の発展はあり得なかった。
・外交資源
この安価で質の高いエネルギー資源は、メディストラシエン帝国にとっても無視できない価値を持つ。技術体系が異なる帝国においても、純粋な熱量としてのエネルギーは常に需要があるため、黒燃樹は貴金属である宝鉄樹とは別の意味で、重要な交易品としての側面も持つ。
このように、黒燃樹は帝国州の独立と発展を保証する、文字通り「燃える礎」なのである。
-主要都市-
・ノイ・アウストラシエン
首都。「新しいアウストラシア」を意味するこの都市は、アウラ人の流線的な建築様式と、魔灰人種の質実剛健な様式が融合した、独特の景観を持つ。政治と文化の中心地。
・リーヴガイスト
最大都市。「リーヴル(通貨)の魂」を意味するこの都市は、黒鋼樹の伐採、燃焼、加工を一手に担う巨大な工業コンビナートである。都市の至る所から溶鉱炉の火が覗き、帝国州の心臓部として昼夜稼働し続けている。
-対外関係-
メディストラシエンとの奇妙な共存
本来、帝国の根幹技術を盗み、その大陸に無断で国家を築いたエシュリナは、女帝リヴィーナにとって排除すべき侵略者に他ならない。しかし、両国は表立った敵対関係にはなく、「半ば協力体制にある」という極めて不可解な状態にある。
この奇妙な共存関係については、複数の要因が推測される。
・イデオロギー的緩衝地帯
エシュリナの多様文化主義国家は、リヴィーナにとって、自身の「共通胎」システムを客観的に比較・分析するための格好の「対照実験」となっている可能性がある。
・経済的相互依存
帝国州が産出する高品質な金属資源は、メディストラシエンにとっても魅力的であり、共通通貨「リーヴル」を用いた限定的な交易が行われている。
・個人的関係の介在
アーシェル・アヌェエラを介したエシュリナと女帝の個人的なパイプが、全面衝突を避けるための安全弁として機能している。
とはいえ、このバランスは極めて脆弱であり、互いの目的と利害が一致している間だけの、一時的な蜜月関係に過ぎない。
「フン!政府官僚の連中は私を声が大きいだけの問題児と扱っている様だが、帝国州は私の求める物を与えてくれる、とても素晴らしいことだ!マイネやアリシアにも早くこの事を伝えなければな!きっと喜んでくれるはずだ!」 エシュリナ・アウロラシエン・サンフィルデン
王国議会はエシュリナ基アウロラシエン伯爵の行為に対して極めてリスクを考慮できていない危険行為だと断定し、爵位剝奪と追放を請求したが、アウロラシエン伯領では既に魔大陸の資源が使われた形跡が官民含めて数多く間確認出来た事と、彼の爵位剝奪と追放は伯爵派の諸侯や大陸軍の反発を招き、王国政治に極めて深刻な亀裂を生じさせ、最悪、内戦に陥る可能性を示唆した為に。魔大陸での資源持ち込みに関する条約がリフィール王国と大アウストラシア帝国州間で結ばれたが、これらの条約はアウロラシエン伯爵率いる大アウストラシア帝国州にとって有利になる様な物ばかりであった。
「西方開拓作戦の失敗と屈辱が、彼をここまでの怪物に引き上げたと言うのであれば、西方の荒れ地を得て、はしゃいで貰った方がまだ良かった」 シュレーナ・リフィール・エシュタルテン









