おや…可愛いお客さんが来ましたね。どうぞこちらに、お茶を用意しましょう
…ええ、私の目は機能していません。でも大丈夫、あなたのことは尻尾の先までちゃんと"見えて"いますよ
ふふ、不思議そうですね。今日は私が見ている世界についてのお話をしましょう。恐らくあの御方もそれを望んで貴方を寄越したのでしょうから
…もう4000年以上前、世界が今の姿となる前の話です
その頃ヒトビトは大いなる恐怖に押され、若い私は皆を守る戦士の一人として戦い、後に師となる人物によって両目を失いました
絶望し、悲しむばかりだった私に師はもう一つの世界の見方を授けてくださりました
それは精霊の視点から見る世界です。その視点から見ると世界はまだ美しい"色"と精霊に満ち、今よりもずっと活気のある世界でした
…そうです、"色"というのは私たちの生命力、魂、魔力が重なり合ったものです。私にはあなたはとても瑞々しく輝いて見えます
世界を彩る様々な色は良い目的にも悪い目的にも使えます。だから我々も、敵も互いの優位に断つべくこの"色"を奪い合い、自身の色で塗りつぶし、後には何も残さずに戦いました
この争いの果てに私たちは恐怖を遠くに追いやりました。しかし無傷とはいかず、世界に取り返しのつかない傷を残すことになったのです
私たちは世界から、とりわけこの大陸から多くの色を奪いました。その結果"色"を失ったこの大地に生きる無数の形のある者と無い者の命が等しく急速に失われ、その断末魔の苦しみから、精霊たちは大地と気象を壊していきました
私たちはこの混沌をどうすることもできず、僅かに安定を残すことのできた土地に避難するしかありませんでした
…恐ろしい日々でした。必死になって育てた作物が夏なのに目の前で凍り付き、漁に出た船が返ってきたと思えば僅かな骨片のみ残し船員は皆無だったことも…
……ええ、大丈夫ですよ。もう3000以上前の話です。ところでお茶はおいしかったですか?…それは良かった、きっと皆喜びます。その茶葉を生き残らせるのに皆大変な苦労をしました…
話を続けましょう。それでも自然は力強いもので次第に空隙を埋めるように他所から精霊たちが流れ着き、2500年ほど前には表面上はかつてのように安定した世界を取り戻しました
ですがかつての大地ではありません、いまや世界の殆どの場所は色褪せ、北方では未だに断末魔が木霊し、東方の一部はアルデバランの民の凶行で色が全て奪われ暗闇に閉ざされています
多くの自然の精霊たちは辛うじて残る地脈や細々と残るこの大地の魔力を啜るように生きるので精一杯、力ある精霊たちは何らかの手法無しではその存在を溶出させてしまう大地になってしまいました。
水が高い所から低い所へと流れるように力有る者は力を周囲へと明け渡し霧散する、それが今のアルデバラン、そしてこれがこの世界を形作った背景です。
…もう夕方ですね。視力を失った事の苦しさはさほどありませんが…夕陽は今も昔も同じなのでしょうか…
…今日は長旅に長話とお疲れでしょう?他所の土地では精霊が定住を拒むこともありましょう、でも海を望むこの土地はまだ大丈夫、しばらく羽を休められると良いでしょう。私たちもまだ時至るまでここにいます。いつでも歓迎しますよ。
※貴方は"神話の聞き手(listener of mythology)"の称号を得た。
登場人物
【話し手】
主役。エルフの亜人と見られ、高齢ながらも見た目は若々しい。かつてヒトビトを守るために戦い、結果として両目を失明しているが世界を精霊の視点から見る方法を習得、日々の生活においては然程不便をしていないとのこと。ただし昼夜の別はこの視点からは分からないようだ。
【聞き手】
話し手の許を訪れた旅人、セリフ無し。尻尾がある事から亜人と思われる。話し手から精霊の定住を拒まれたとの推測もされているが…?
【師=あの御方】
聞き手に新たな世界の見方を教えた人物。少なくとも4000年以上生きており、現在も存命であることから定命の人間の理を外れた人物であり、亜人の可能性が高い。かつて話し手と敵対し失明させたという。
解説
【精霊界】
- 「話し手」は自身の見る世界をこのように形容している。別に「精霊のみの世界」もあるとされるが実態は現状不明。「話し手」の視点から見ると精霊界と実世界は殆ど重なり合った不可分の状態で存在しており、通常不可視の霊魂や魔力、生命力、精霊等が可視化されている。完全な異界との狭間にある「幽界」或いは「魔力界」と言う方が意味としては正しい。
- 通常は不可視の「精霊界」であるが「話し手」曰く訓練を積めば見ることができるという。全ての生命が実世界と精霊界に同時に存在しており、多くの亜人や魔法生物は精霊界に依存する比率が大きく、その影響を受けやすいとされいる。
- 人間や魔法に依らない動植物は精霊界の変化の影響を直接的には受けず、亜人でも元々頑強なことで知られるドワーフなどは例外とされる。
- 異界由来の精霊、聖霊、悪魔の場合召還時にはこの世界にしか依存できていないため、受肉や魔法のランプのように何らかの強固な殻を得られなければ短時間で消耗、消滅してしまうという。
- "黎明内乱"で召喚された力の精霊の行動もこうした事情による
- 魔術の行使にはこの世界への干渉が不可欠であり、個々のもつ魔力のポテンシャルはこの世界への依存度(共存度?)に依るとの説もあるが、元々依存度の低い人間の場合、極一部の例外を除けば魔術の使用には知識と理解の方が重要であるともされる。
- ただし依存度と言っても多様で、例えば精霊界との関与の深い「魔法的な才能のある」人間はノーモーションかつ理論的な知識なしに魔術を行使できるのに対し、「魔力的な才能のある」人間は最大出力による魔術の行使がより容易に行えるとされる。魔法的にも魔力的にも平凡でも理論的な理解と鍛錬を極めることで効率性を高め、訓練を積んでいない前者二者を圧倒する例もある。
- 通常は不可視の「精霊界」であるが「話し手」曰く訓練を積めば見ることができるという。全ての生命が実世界と精霊界に同時に存在しており、多くの亜人や魔法生物は精霊界に依存する比率が大きく、その影響を受けやすいとされいる。
- 「話し手」によるとかつては世界は魔力に満ち色鮮やかで輝いて見え、精霊も数多くいたが現在は色褪せ精霊も減り、一部の地域は暗闇に閉ざされているという。これは神話時代末の大異変によってこの世界とって破滅的な規模の魔力が消費され、その影響がアルデバランを中心に世界規模で広がったことを示唆しているためと言われており、北方の遺跡周辺にはその影響が未だ残っているともされているが話し手を含め関係者は未だ口を閉ざしている。
- ただし「東方の一部は…」の部分に関してはフルド王国の"火"使用の影響であると判明している。
コメント
- 諸事情により更新が滞ってしまいました…今回投下したものは以前補遺で割愛した魔法そのものへの考察がベースになっています。神話時代末に行われたことの結果も…まああくまで個人の視点からの解釈なので実際にはどうなっているのか分かりませんが考察の一助として。なお精霊界については「宵闇に浮かぶ月」が実世界と別に普段存在する世界がある場合にそれと極めて近いものとして想像しています-- 編者? 2019-10-12 (土) 03:37:11
- 光の無い「色」を視る、という着想が素敵だと思いました。想像力を刺激されます。 暗闇に見えるイメージだと赤外線ゴーグルとかサーモグラフィなんかをつい想像してしまいますが、これだとちょっと武骨ですね。 この世界の住人にはもっと幻想的なのが似合いますね。 それから世界が幾つかのレイヤーに分かれていて、把握できる範囲がレイヤーの住人ごとに違うという解釈も好きです。 見えないのに傍にいる、みたいな事象を表現しやすいので。 お話にでてくるお客さんはシェンリーさんかな?と思うのですが、語り手は誰なんでしょうか。異端と戦った亜人の戦士? 師匠はウェフダ? 師匠のせいで光を失った、とありますが、敵対していたわけではないのかな。 いろいろ想像して楽しませていただきました。 -- 管理人? 2019-10-14 (月) 21:19:52
- 登場人物紹介にミスがあったため修正。感想ありがとうございます。事情は伏せますが語り手と師は想像の通りで敵対した事があります。設定、資料のページの件に関しては申し訳ありませんお願いします -- 編者? 2019-10-15 (火) 22:38:41